エピローグ
当初の予定通りに那由多に斬られて、速攻で現実世界に舞い戻ってきた克洋は空虚な日々を過ごしていた。
ティルが自分ごと那由多に魔法を放つシーンまでは記憶に残っているので、恐らくあの勝負は自分たちの勝利で終わった筈だ。
しかしあの勝負の結果、そしてその後のあちらの世界の動向を調べる手段は最早無い。
"アーカイブ"によって作られた体を持たない今の克洋では、もう自らの意思で"アーカイブ"に接触することは出来ないからだ。
克洋を含む来訪者たちや"冒険者ユーリ"の作者が"アーカイブ"に接触できた理由は、あくまであちらからの呼びかけがあったからである。
どうやら来訪者たちは那由多という最後の問題を排除したことによって役目を終えたらしく、もう用済みとばかりに"アーカイブ"は接触を断ってしまった。
「くっそー、アフターフォローくらいしろよなー。 あっちの古代文明の遺産は、どれもポンコツだよなー」
あちらの世界での体を失ったことにより、克洋は実家で寝かされていた元の体の中で目覚める事になった。
数年掛けて鍛え上げた体から元の弛んだ体に切り替わったことへの違和感もあり、無職暇人である克洋のマイブームは筋トレとなっている。
その一環として定期的に例のあの山に登っているのだが、克洋は一度たりとも"アーカイブ"に接触出来てずに居た。
どうやら他の来訪者たちも強制的に克洋と同時に強制的に戻されたらしく、もうあちらの世界に来訪者は存在しないらしい。
新しい情報が現実世界に齎されることはなくなり、例のサイトは元来訪者たちの愚痴が蔓延する負の空間と成り果てている。
一応やることは全てやったと思うのだがその結果が分からないことに対して、克洋の胸にぽっかりと穴が空いたような気分で日々を過ごしていた。
ティルと共に再びあちらの世界に赴く際、克洋は自分が自爆することを分かっていたので家族に対してすぐに戻る旨は伝えていた。
しかしそうは言っても本当に帰ってこれるとは断言出来ず、特に母は非常に不安な思いで克洋たちを見送った筈だ。
そんな事もあって克洋が本当の意味で自分の体に戻ってきた当初、彼の家族はまるで客人を持て成すかのように克洋の面倒を見てくれた。
しかしそれが一ヶ月、二ヶ月と月日が過ぎていくと、大学を退学済みの無職ニートとなっていた克洋の地位は日に日に落ちていくのは当然の流れだ。
「はぁ、そろそろバイトを探すかなー。 とりあえず職歴を埋めないと、今後どうなることやら…」
客観的に見れば克洋の履歴書は大学中退後、一回も職に付かずに数年の空白がある典型的な駄目人間のそれである。
あちらの世界での数年間は現実世界の就職には全く活かせず、今の克洋に出来ることは精々バイト程度だろう。
徐々に邪魔者扱いされ始めてきた空気を感じ取った克洋は、今後の生活のためにバイト探しを検討し始めていた。
「兄貴ー、そろそろご飯よ。 ああ、今日は兄貴のお客さんが居るから、ちゃんとした服装で降りてきてよね」
「へっ、客!? 春夫の奴でも来たのかよ?」
「違うわよ。 とにかく、早く居間まで来て!!」
そんな風に自室で自分の人生について悶々と悩んでいた克洋に対して、妹の美子が夕食の時間を告げてきた。
しかし夕食の呼びかけはいつものことであるが、今日は自分の客が来ているという言う。
あちらの世界で数年過ごしたこともあり、人間関係がほぼリセットされている克洋を尋ねる人物は非常に限られている。
一体誰がわざわざ家までやってきたのか疑問に思いながら、克洋はこちらを急かす美子の声に渋々従って重い腰を上げた。
自室で手早く下着同然の部屋着から着替えた克洋は、客の正体について考えを巡らしながら居間へと向かう。
しかし結果として居間で克洋を待ち構えていた客たちは、選択肢すら上がらなかった予想外の者たちだったのだ。
「"へー、此処が兄ちゃんの家かー"」
「"ユーリ、あんまりキョロキョロしないの"」
「"もう一つの世界、興味深いわね…"」
「"うわっ、何だよこれ!? なんで箱の中に人が居るんだ"」
「"あー、本当に生きてた!!"」
そこに居たは黒髪・黒目がスタンダートとなる日本ではあり得ない、派手な髪色と目をした少年・少女の集団だった。
剣や鎧などの武装こそしてないが、いかにも中世風な作りの服装もこれまた現実世界では違和感を覚えることだろう。
ユーリ、アンナ、ローラ、レジィ、メリア、あちらの世界に居る筈の"冒険者ユーリ"の御一行が何故か克洋家の居間で寛いでいたのだ。
数年間あちらの世界の言葉を使っていたこともあり、異世界語という就職活動には使えないスキルを身につけていた克洋は彼らの他愛ない会話をどうにか理解することが出来ていた。
「"あ、本当だ! 兄ちゃん、久しぶりー。 元気そうで良かったよ"」
「"ティルから話は聞いたよ! 本当に心配したんだよ、たつおも凄く悲しんだし…"」
居間に克洋が現れたことに気付いた彼らの中で、特に克洋と縁があったユーリとメリアが詰め寄ってくる。
次々の言葉を投げかけてくるユーリたちの話を聞く限り、どうやらこちらの世界のことをティルに聞いて来たらしい。
しかし居間にはその肝心のティルの姿は無く、一体あの少女は何処にいるのか。
「ごめんなさい、お友達と一緒に来たのに、お料理を手伝って貰っちゃて…。 みんな、ご飯が出来たわよ…」
「ダイジョウブデス…。 オカアサマトノリョウリ、タノシイデス…」
ユーリたちの相手をしている間に、料理を持った母と美子とティルが台所から居間へと現れた。
よく見れば時間的に食事の時間であり、ティルは以前のように母の食事の支度の手伝いをしていたらしい。
悪戯に成功したと言わんばかりの美子の笑みは、これが彼女が準備したサプライズであることを暗に告げていた。
「ティル…」
「カツヒロサン、オヒサシブリデス。 カツヒロサンノオカゲデ、ゼンブウマクイキマシタ!!」
居間で棒立ちとなっている克洋の姿に気付いたティルは、花のような笑顔を浮かべながら克洋に礼を述べる。
ユーリたちが無事な姿でこちらに来ている時点で薄々気付いていたが、どうやら来訪者としての克洋の果たした役割は無駄な物では無かったらしい。
ザンとの最後の戦い、暗黒大陸でのユーリの両親である勇者と魔王との合流、"システム"との決戦、ザンの死亡と那由多の失踪、あちらから"アーカイブ"に接触するための冒険。
話の種は幾らでも有り、克洋とティルたちとの楽しい食事会は何時までも続いていた。
そこには"冒険者ユーリ"に描かれていた、世界の命運を背負って戦い傷ついた少年の姿は何処にもない。
仲間と共に無邪気に笑う年相応の少年の姿に、克洋は自らの空虚を満たす満足感という名の報酬を得るのだった。
色々と駆け足となりましたが、冒険者ユーリの話はこれで終わりとなります。
再開時にも語りましたがこの話を真面目に書いていたら私の更新速度では恐らく年単位の連載となり、絶対にモチベーションが続かないと分かっていたので、完結を優先して最低限やりたかった事以外はカットしました…。
最近ファンタジーが流行っているから自分も書いてみようと軽い気持ちで始めた拙い話でしたが、読者様の暇つぶしになったのなら幸いです。
これで連載している作品がなくなったので、今後をどうするか暫く考えてみます。
まだ書いてみたいネタは幾つかあるので、多分暫くしたらまた新しい連載が始まると思うのでよろしく。
では。




