表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第三章 "冒険者ユーリ"を超えて編
95/97

4. 勝負


 内側に居るザンからは分からないだろうが、彼らが閉じ込められた空間は外部から誤魔化すための偽装が施されている。

 外から見たらそこには何も無い風景が広がっており、ザンたちが空間に捉えられる瞬間でも見えていない限り外部から気付かれることは無いだろう。

 こちらの世界に戻る直前にアーカイブから得た情報が無ければ、克洋たちもザンたちの元に辿り着けなかった筈だ。

 メリアの村の魔族が拵えたアイテムの効果は、空間の内部に居る者たちにのみ適応される。

 外部からは周囲の風景に溶け込む偽装だけであり、此処にあると分かっていれば外から内に跳ぶことは容易だった。


「いくぞ、ティル! 風刃裂波ウインドフォース!!」

「はい! 火炎裂波ファイアフォース!!」

「くっ!?」


 空間に飛び込んできた克洋とティルは、事前の打ち合わせ通りにそれぞれ事前に準備していた魔法を唱える。

 克洋たちの登場に一瞬硬直した那由多に対して、風と炎の波が押し寄せてきた。

 耐久面で言えば冒険者たちの中でも最低レベルである、回避特化型の那由多には中級魔法でも当たれば致命傷である。

 射程は狭いが効果範囲が広く面で持って制圧する波動系の魔法を前に、不意を突かれた那由多は後方に下がって回避する選択肢しか持ち得ない。

 それは那由多とザンとの距離が開くことでもあり、克洋たちの介入によってザンは初めてこの空間の中で自由を手に入れた。

 それは時間にすれば僅かな時であろうが、魔族であるザンがこの空間を脱出するためには十分な時でもあろう。


「…ほら、お望みの情報をこれにまとめておいたぞ。 俺の神の書と引き換えだ、どうせ持っているんだろう。

 此処は俺が何とかするからさっさと逃げろよ、クソ魔族が!!」

「…いいだろう。 後は任せたよ」


 克洋は"アーカイブから得た情報、"システム"が潜む場所についてまとめた封筒入りのメモを渡す。

 この情報を得るためにザンはわざわざ克洋を現実世界に戻したのであり、これはザンが喉から手が出る程欲しい物だった。

 これと引き換えに神の書を要求する克洋に対して、ザンは一瞬躊躇った後に大人しく懐に入れていた神の書を差し出した。

 こちらに帰ってきたということは少なくとも克洋たちが、"アーカイブに接触したことは確かであろう。

 この世界の未来を憂いている点は克洋とザンとで一致しており、この状況でザンにガセ情報を掴ませる程愚かでは無い筈だ。

 否、この状況で情報の成否を問い詰める余裕など無く、ザンは克洋を信じるしか無いのである。

 そしてメモと神の書の交換が済んだ次の瞬間、密かに逃走を封じるこの空間の術式を解除していたザンは一目散に姿を消していた。






 術式を解除した事が切欠となったのか、外部から隔離していたこの空間は自然崩壊していた。

 周囲の風景がザンがユーリたちを観察していた元の場所に戻るが、そんな周囲の変化などこの場に居る人間は気にもしていない。


「…よう、久しぶりだな、妹」

「ええ、お兄様こそ…」

「カツヒロさん、那由多…」


 久方ぶりに対峙する偽装兄妹、克洋と那由多はまるで日常会話のように気軽に声を掛け合う。

 しかし他愛無い会話と裏腹に、両者はどちらも戦闘態勢を崩していない。

 那由多は彼女に取っての必殺である居合の姿勢を崩さず、克洋の方もザンから取り返した神の書と抜身の刀を構える。

 その脇にはティルは敵対する二人の姿に対して、痛ましい物を見るかのような表情を浮かべていた。


「…何故、見逃した? お前なら俺の隙を付いて、ザンを狙えた筈だ」

「そこまでお兄様を過小評価しませんよ。 お兄様たちが全力で抵抗したら、どちらにしろ魔族は取り逃がしていました。

 余計な横槍が入らないために、このような場まで用意したのに…。 よくこの場所が分かりましたね?」

「悪いな。 俺には何でも教えてくれる便利な書庫があってな…」


 魔法によって牽制されたとは言え、那由多は動こうと思えばザンを斬りかかることは出来た筈だ。

 しかしわざわざザンを助けるためにこの場に現れた克洋たちがそれを見逃すとは思えず、克洋たちを排除しなければザンを斬ることは出来ないだろう。

 そして克洋を排除している間にザンが逃げる事となり、どちらにしろ結果が変わらないと那由多は判断したらしい。

 例え魔族が作り出した外部と隔離する特性の空間とは言え、相手は神の武具を持つ同じ魔族なのだ。

 僅かでも隙を見せれば此処から脱出されることが目に見えており、それ故に那由多はあの空間に対して外部からの偽装も依頼していた。

 "アーカイブ"の情報という反則が無ければ那由多の思惑通り、誰の横槍無くザンを斬れたのだろうが現実は非常である。


「勝負だ、妹。 俺たちが勝ったらザンを暫くの間…、"システム"とのラスボス戦が終わるまで見逃してくれ。 その後なら煮るなり焼くなり好きにしていいから…。

 お前が勝ったら…、俺の首をくれてやる。 それとも俺の首は、勝負の掛け金に出来るほど無価値か?」

「あら、思い切りましたね。 言っておきますが、私は本気でやりますよ?」

「知っているよ、俺だったこんなアホな勝負はしたくないわ!? けれどもお前はこのくらいやらないと止まらないんだから、仕方ないだろう」


 腐っても東の国の武芸者である那由多が、命を賭けた勝負の結果によって交わされる約束を違えることは無い。

 逆を言えば人斬りを極めようとした一族の末裔である那由多が、ターゲットとして定めた獲物を見逃させるためにその位しなければならないのだ。

 この事は"アーカイブ"の未来予測からのお墨付きもあり、克洋が那由多を止めるにはこれ以外に方法は皆無である。


「…しかし"俺たち"という事は、勝負はティル様も参加するという事でしょうか。 か弱い少女相手に二人がかりとは、些か卑怯ではありません?」

「うっ、それは…」


 自らをか弱い少女と称する戯言はさておき、那由多の鋭い指摘が克洋を襲う。

 克洋はどさくさ紛れて勝負にティルを巻き込もうと企てたのだが、やはり勢いで誤魔化すことは難しかったらしい。

 確かに普通に考えれば那由多一人に対して挑む勝負の相手が、克洋とティルの二人であるのは人数面で不公平である。

 しかしどう考えても那由多を相手に克洋一人で勝てる筈も無く、克洋が勝利を得るためにはティルと共闘するしか無い。

 事前に用意してきた対那由多用の作戦は前提としてティルの存在が必要な物であり、克洋が勝機を得るためにはどうにか那由多を言いくるめるしか無い。

 "アーカイブ"に言い訳の案も聞いておけば良かった内心で公開しながら、克洋は那由多への反論を思考し始める。


「いや、この勝負は…」

「わ、私とカツヒロさんは一心同体です!! だから勝負も一緒にやるんです!!」

「おい、ティル!?」

「あらあら、もしかして二人で何処に行っている間に、そのような事になったのですか? それは目出度いですねー。

 もしかして今後は、ティル様のことをお義姉さまとお呼びした方がいいのでしょうか?」


 しかし克洋が苦しい言い訳を口に出す前に、ティルがとんでもない発言を被せてきた。

 聞きようによっては克洋とティルがそういう関係になったと捉えかねない爆弾発言は、結果として予想以上に那由多を食いつかせた。

 やはり那由多も年頃の女子らしく、他人の恋バナは嫌いでは無いらしい。

 先程より笑みを深めながら那由多は、本気か冗談かティルを義理の姉と呼ぶか悩み始めてしまう。


「じ、じゃあ勝負は俺とティルは一心同体って事で、勝負は二人一緒ででいいな!!」

「構いませんよ。 では、早速始めますかね」

「カツヒロさん! 私との関係を認めてくれるんですね!! ああ、美子さんやお義母様に報告しないと…」


 那由多の反応を見て勝機を見た克洋は、畳み掛けるように二人がかりでの勝負について同意を取る。

 克洋の確認にあっさり追随する那由多は、その反応から見てどうやら人数差についてはそれ程気にしていないらしい。

 それは例え二人がかりでも自分は負けないという自信に他ならず、実際に"アーカイブ"の未来予測によればまともなやり方で殺人姫に勝てる確率は皆無であった。

 つまりまともでないやり方をするしか選択肢が無い克洋は、隣で一人盛り上がるティルを気にしない振りをしながら覚悟を決めるのだった。


またしても投下が滞ってすいません、最近のくそ暑さにやる気が削られてしまって…。

部屋にクーラーでがんがん冷やしながら、どうにか続きを書きました。


一気に話を進められたので、明日も投下できそうです。

そして明日の投下が最終回になる筈です…。


では

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ