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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第三章 "冒険者ユーリ"を超えて編
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1. ラスボス


 アーカイブ、あちらの世界で神話とされている古代文明によって作り出された勤勉な記録装置。

 この瞬間の歴史をも絶えず記録しているアーカイブを通せば、あちらの世界の現在の状況を確認することは容易である。

 あの設定厨の予想通り、ザンはユーリたちのレベル上げに専念するために"冒険者ユーリ"で出てきたイベントを再現しているようだ。

 暗黒大陸でのユーリの両親である勇者と魔王とシステムの偽装本体との戦いも、極めて劣勢であるがもう少し持たせることが出来そうだ。

 身内である暗黒大陸の家族や仲間の魔族を危険に晒してでも、最終決戦での勝率を上げるためにユーリたちを鍛える時間を取ったザンの苦渋の決断である。

 ザンが貴重な戦力であるユーリたちに下手な真似をするとは思えず、逆に後の事を考えればユーリたちのレベル上げは適切な行動と言えた。

 このタイミングで克洋たちが帰還したらユーリたちがザンを追う理由が薄れてしまうため、こちらとしても後の事を考えれば出待ちをした方がいいかもしれない。


「ザンとユーリたちだけを考えたら、それでいいんだよ…。 問題はあの妹様だよ…」

「那由多か、此処で彼女が障害となるとはな…。 やはり彼女を」

「その入れ知恵のせいで、あいつはザンをターゲッティングしたんだぞ!? あいつは確実やる、例えそれで世界が滅ぶとしてもあいつはザンを斬る気だ!!」


 アーカイブとの接触を終えた克洋たちは、今後の方針を決めるために■■山を下山して帰宅していた。

 家には克洋の実の妹の美子と設定厨こと春夫が待機しており、アーカイブから齎された情報は既に共有済みである。

 克洋の母に呼ばれて夕飯の手伝いに行ったティルと美子の姿は無く、克洋は自室で春音と現在の状況について頭を抱えていた。

 あちらの世界で克洋の妹を自称していた殺人姫、那由多のぶれない行動が克洋たちの前に大きく立ちふさがっていた。











 システム打倒を目的に暗躍するザンの行動は色々と思う所はあるが、"冒険者ユーリ"の結末を変えるという目的については克洋と一致している。

 あの魔族の目的を知る克洋からすれば、世界を救うために最適解に近い行動をしているザンを止める理由は存在しないのだ。

 逆にこの状況でザンに死なれでもしたら、あちらの世界の未来が暗雲に覆われることは間違いない。

 そして那由多と言う人斬りの少女は全てを承知の上で、全てを捨ててザンを斬ることのみに邁進している。

 アーカイブから現在の那由多の動きも把握した克洋は、その今までの流れをぶち壊しかねない彼女の行動に危機感を抱いていた。


「今までは対人に特化した那由多との相性の良さもあって、ザンは上手いことあの人斬り娘を凌いできた」

「最後の方は危険を感じたのか、那由多と直接会わずに済むように立ち回っているのが見えるからな…」

「既にあいつには魔族を斬る力を持っている。 後は横槍無しにザンと戦える状況を作ればいいんだ」


 冒険者学校での二年間で那由多は自分に足りなかった物を吸収し、対魔族に備えた剣を磨き上げた。

 しかし幾ら剣を鍛えても、それを振るう機会が無ければ意味が無い。

 恐らくザンの手のひらで踊っているユーリたちと一緒では、その機会は永遠に訪れないと考えたのだろう。

 那由多はユーリたちと共にザンを追うのを諦めて、別のやり方で目的を達成する道を選んだようだ。


「魔族のことは魔族に聞けばいい…。 まさかメリアの村の魔族たちに協力を求めているとは思いもよらなかった」

「ああ、こんなことならあの村の魔族たちと、しっかり情報共有しておくべきだったぁぁぁ!

 裏の事情とか知らなかったら、今のザンは原作と同じ人類に敵対する魔王の代役ポジションだもんなぁぁぁっ!!」


 那由多が目を付けたのは、克洋が原作に逆らって冒険者学校へと送り込んだ魔族の村の住人メリアである。

 原作云々の事情を話していないメリアから見れば、彼女に取って大事な人間である克洋とティルに手を掛けたザンは紛うことなき敵だ。

 そのザンを倒すための協力を惜しむはずも無く、メリアは喜んで育て親である魔族たちを那由多に紹介しただろう。

 かつて克洋がメリアの村を訪れた時、魔族の村人たちに"冒険者ユーリ"の原作の情報は一応は伝えていた。

 しかし克洋から得た原作情報、そしてメリアたちから聞かされる今のザンの表面的な情報だけで村人たちはザンの真意を読み取ることは不可能だ。

 メリアから事情を聞いた村の魔族たちがザンを危険視して、魔族の動きを封じる術を伝えるのも自然な流れと言える。

 ザンを斬る力と逃走を防ぐ手段を手に入れた殺人姫が、次に取る行動をは目に見えていた。

 まさか自分の起こした原作改変の影響で自分の首が閉まるとは、克洋は自業自得という言葉の重みを実感していた。


「あいつは俺から原作の情報を知っている。 ユーリたちの現状が分かれば、そこから次のイベントが起こる場所も想像が付くだろう」

「そこでザンと那由多がかち合えば、ゲームオーバーか…」


 "冒険者ユーリ"、アーカイブの未来予測の情報は、あちらに居るザンの基本的な行動指針である。

 既に当の本人の手によって原作の流れはほぼ途絶えたが、それでも条件さえ揃えれば個々のイベントは現状でも再現可能だ。

 ザンとしてもある程度は筋書きが読めた展開のほうがやりやすいのか、今も原作に沿った動きを見せている。

 勿論、克洋のような原作知識を持つ来訪者もあり、原作に沿ったイベントに対する介入者が出てくることも想定している筈だ。

 それこそ何処かのタイミングでまた那由多辺りが突っかかる可能性も、ザンの頭の片隅には入っているだろう。

 しかしそこに魔族仕込みの秘策まであるとまでは、流石のザンも予想が付かないに違いない。


「正直、神の武具が揃った時点で対システムの準備は整ったと言える。 適当なタイミングであっちに帰って、残った神の武具とシステム本体の居場所を伝えればエンディングは目の前なんだ。

 那由多がザンを殺って無ければな…」

「まさか実質のラスボスが那由多になるとは夢にも思わなかったね。 ふっ、やはり現実は計算通りに上手くいかないか…。

 仮に僕がザンとして動いていたとしても、彼女に斬られていたかもしれないな」


 春夫の言う通り克洋たちにとって最大の障害は巨大な力を持つシステムでは無く、あろうことか二十にも満たない少女となっていた。

 このままでは那由多がザンを斬り殺してしまい、これまでの対システムの備えが台無しになってしまう。

 克洋としてはどうにかして那由多を止める必要があるのだが、あの殺人姫をどうやって止めると言うのだ。

 全てを承知で動いている那由多に説得などが通じる筈も無く、文字通りの実力行使しか手段が残っていない。


「現時点の実力だと、ユーリやローラが那由多を止めるのは無理だ。 そもそも原作でローラが那由多に勝ったのは、あいつがローラの障壁を破れなかったからだしな…」

「対魔族用の剣、魔族の障壁を破る手段を身に着けた那由多が相手ではキツイな。 それと同じ理由で、ルーベルトも下手をすれば返り討ちにあうかも…」


 "冒険者ユーリ"の原作において、ザンの下で動いていた那由多は最終的にローラの手によって敗れる。

 しかしその敗因はあくまで対人の技術しか持っていなかった那由多が、ローラの障壁を超えられなかったからに過ぎない。

 あの時のローラは彼女の父親、伝説の剣士ルーベルトに匹敵するまでに成長していると原作において明言されていた。

 その時点でのローラでも剣の技術は明らかに那由多の方が上回っており、障壁というアドバンテージが無ければ勝利は得られなかっただろう。

 原作の描写と魔族の障壁を敗れるようになた今の那由多を鑑みて、ローラやルーベルトでは彼女を止めることは敵わない。


「椿も駄目だ、もう格付けは済んでいる。 東の国の武芸者を全て当たれば見つかるかもしれないが、そんな伝手も時間も無いからな…」

「もういっその事、神器で押し潰すのが手っ取り早いんじゃ…」

「流石にオーバーキル過ぎるだろう!? それに神器はでかすぎる、流石に負けることは無いだろうが、取り逃がす可能性が高いと思うぞ。

 ああもう、何なんだよ、あいつはぁぁぁぁっ!?」


 考えれば考えるほど今の那由多は、原作のそれと違って明らかに面倒な存在となっていた。

 対人に特化している故に人外に対して非力であるという弱点もなくなり、今の那由多を止められる存在は最早神器と言う反則技しか思いつかない。

 ある意味で今の那由多を産み出したのは克洋の介入であり、これもまた自業自得という奴なのだろうか。

 結局、那由多を止める術が思いつかなかった克洋は、夕飯が出来たと呼びに来たティルが現れるまで頭を抱えたままで居た。



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