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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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20. 一方その頃


 克洋とティルが現実世界で悪戦苦闘している頃、あちらの世界に居るユーリたちに新展開が訪れていた。

 あの卒業試験での一件の後始末も終わり、とりあえずユーリたちは冒険者学校を卒業して名実ともにブレッシンの冒険者へとなっていた。

 そんな新米冒険者たちの最初の仕事、それは卒業試験会場を襲撃したザンの追跡である。

 ブレッシンとホルムの大陸の二大国家に喧嘩を売った、憎き魔族を各国首脳が見逃すわけもない。

 原作と違ってホルムの首脳陣を裏で操っていないザンは、文字通り明確な人類の敵となったのだ。

 あの襲撃の後でまんまと会場から逃げおおせたザンの追跡を命じられた人間は少なくなく、その中にユーリたちの名前も入っているのである。


「…ザンめ、絶対に捕まえてやるからな」

「ユーリ、あんまり張り詰めないで…」


 ユーリ、レジィ、ローラと言うティルを除いた原作メンバーに、原作に居ないイレギュラーであるアンナを加えたパーティーが街道を進む。

 まだ卒業試験での事件から日が経っておらず、彼らはザンに対する敵意を隠せずに居た。

 あの合同卒業試験で行われたザンの襲撃、そこでユーリたちは大切な人たちを失ったのだ。

 冒険者学校の学友であるティル、先達の冒険者として度々ユーリたちの危機を救ってくれた克洋。

 彼らはザンの手によって生死も定かでない状態に陥っており、ユーリがその下手人に対して怒りを見せるのは当然の事であった。






 ザンが作り出した黒い穴に克洋とティルが入った光景は、彼らから少し離れた場所に居た数人の冒険者によって目撃されていた。

 あの異様な黒い穴の出現は非常に目立ったようで、少し離れた場所でキマイラと戦っていた彼らはそれで克洋たちとザンの事に気づいたらしい。

 目撃者たちの話によると黒い穴に吸い込まれた克洋と、それを追うように空から落ちてきたティルは次の瞬間に影も形も見えなくなったと言う。

 状況的に克洋とティルの生存は絶望的のようにも思えたが、ユーリたちは克洋たちの生存を信じていた。


「フリーダ様の話だと、ティルと克洋さんはまだ生きている可能性が高いんでしょう? きっとまた会えるわよ」

「たつおって名付けられたあのドラゴンとのパスが生きてるんだ。 少なくとも飼い主の那由多の兄ちゃんは無事だ、それなら一緒に消えたティルも…」


 克洋とパスを結んでいる自然種のドラゴン、たつおは克洋たちが消えた後で果敢にも魔族に戦いを挑んだらしい。

 事実上の親代わりであった克洋が消えたことに余程怒りを覚えたのか、たつおの怒りと悲しみの入り混じった咆哮は現場へと急いでいたユーリたちの耳にも届いていた。

 残念ながらたつおの怒りはザンには届くことは無く、ユーリたちがザンの元にたどり着いた時にはドラゴンは傷つき倒れていた。

 今は冒険者学校でメアリの看病の元で傷を療養しているたつおをフリーダが調べた所、克洋とのパスがまだ生きている事が判明したのだ。

 しかしそのパスは辛うじて繋がっている状況であり、フリーダが言うには一人と一匹の距離が余程離れない限りはこのような状態にはならないらしい。


「フリーダ様は別の世界にでも飛ばされたんじゃ無いかって、冗談みたいな事を言ってたよな? まあ、魔族がやったことだし、暗黒大陸の奥地にでも飛ばされたって所が妥当か…」

「断定は出来ない。 やはり下手人であるザンと言う名の魔族から聞き出すしか無いだろうな」

「解っているよ。 一刻も早くザンを捕まえて、兄ちゃんたちの居場所を吐かせないと…。 もう兄ちゃんには頼れない、ザンの神の斧の相手は俺がしないと…」

「頼りにしているぜ、他の奴にあんなデカブツの相手をするのは無理だからな」


 決意の表情を浮かべながらザンは、あの卒業試験の会場で手に入れた神の剣の柄にそっと触れた。

 神の武具、所有者の魔法効果を限界まで増幅し、神器と言う強大な切り札を備えた神話級の伝説のアイテムである。

 あの卒業試験の日、ユーリたちはザンが神の斧によって召喚した神器の強大な力を目の当たりにしていた。

 かつて克洋が召喚した軽量な風の神器とは対象的な、重厚な装甲に覆われた大地の力を秘めたもう一柱の神の器。

 一目でかつて古代龍(エンシェントドラゴン)とやり合った克洋の風の神器と同等の存在である事を察したレジィは、あの瞬間に死を覚悟した程であった。


「あの時こいつをもっと上手く使えれば、こんな苦労はしなかったんだけどな…」

「仕方ないでしょう。 あんな代物を初見で使えただけでも、ユーリは立派だったわよ」


 ユーリがその日初めて触る筈の神の剣から奇跡的に神器を召喚出来なければ、この場に居るパーティーメンバーはあの時に全滅していただろう。

 これぞ主人公と褒めるべき所であるが、流石に神器を使いこなせるまでは行かなかった。

 ユーリの火の神器はザンの地の神器に圧倒されてしまい、数合のやり取りの後にザンが撤退しなければ彼らの結末は変わっていたかもしれない。

 状況的に仕方ないとは言え、ユーリはあそこでザンを取り逃したことを悔いているようであった。






 かつて克洋と彼が持つ神の書の力によって、ユーリたちはどれだけ助けられたろうか。

 しかし前述の通り克洋は行方不明となっており、彼の所持していた神の書もまたザンに奪われてしまった。

 ユーリたちの手元にある神の武具は一つ、ザンたちが所持している神の武具は二つ。

 客観的に見てユーリたちとザンの戦力差は絶望的のように見えるが、ユーリたちにはまだ希望が残されていた。


「神の武具を使える所有者は一人だけ。 克洋兄ちゃんが生きている時点で、神の書を他の奴が使えることが出来ないんだ。

 あいつが神の書を使えない内に、早くザンの元にたどり着かないと…」

「…奇妙なことではあるが、あの魔族は未だに克洋殿を生かしている。 克洋殿を殺せない理由でもあるのか?」

「奴の事情はどうでもいい! 克洋兄ちゃんが生きている内に、ザンを捕まえなければ俺たちに勝ち目は無いんだ」

「さてさて…、報告があった魔族の目撃情報は正しい事を祈るかな」


 克洋の生存していると言うことは、ザンが奪った神の書の所有者はまだ克洋が握っている事になる。

 使用できる神の武具の数が同じである内にザンと接触しなければ、ユーリたちに勝ち目は無いだろう。

 神の武具を所持するザンたちと正面からぶつかれる冒険者は、同じく神の武具を所持するユーリたちしか居ない。

 自然と同じくザンを追う他の人間たちは情報収集などのサポートに徹しており、その情報を元にユーリたちはザンの追跡を行う。

 ザンの目撃情報があった街を目指して、ユーリたち一行の冒険は続いていく。











 ユーリたちがザン追跡に向かっている頃、ブレッシン冒険者学校の一室に二人の女声の姿が見えた。

 一人は部屋の主はフリーダ、ユーリたちの面倒を見るために臨時で講師を努めた伝説の魔王討伐メンバーである。

 フリーダは各地から集められたザンの目撃情報をまとめた資料を目に通り、疲れたように溜息を漏らしていた。


「…やはり誘導されているな。 ザンの目撃された場所は、克洋から聞いた原作とやらでユーリたちが旅した場所と一致している」

「ふん、度し難いですね。 此処までやっておいて、まだユーリ様たちを盤上から開放しませんか…。 やはり無理を言って、ユーリ様の誘いを断ったのは正解でしたね」


 フリーダと話をするもう一人の女性、那由多は未だに原作の道筋通りに話を進めようとしているザンのやり口に怒りを隠せずにいた。

 やはり一度はザンの中に居た設定厨春夫の推測は正しかったらしく、ザンは自らを餌にユーリたちを原作で言う冒険編の流れに誘導しているらしい。

 ザンの行動に違和感を覚えた那由多は、あえてユーリたちの誘いに乗らずにフリーダの元で様子を伺う選択をしていた。

 その選択はどうやら正しかったようで、克洋から齎されてた原作情報によって彼女たちはほぼ正確にザンの目的を看破したようだ。


「…お前の最終的な目的はザンの首だろう。 少なくとも奴の誘導に乗れば、ザンとやり合う機会は出てくる筈だが…」

「多分、暫くは神器同士の対決になる筈ですよ、ユーリ様の経験を積むためにね。 残念ながら人斬りの出番は無さそうですから…。

 あの魔族たちの追跡はユーリ様にお任せして、私は別方面からアプローチをしてみる事にしますわ」


 対人に特化した剣を使う那由多に取って、神器に乗り込むザンを相手にやれる事は殆ど無い。

 そしてわざわざ間抜けな来訪者を経由して神の剣をユーリたちに提供したザンが、神の剣の慣熟戦闘以外を行うとは思えない。

 何か思惑のあるらしい那由多は、このままユーリたちとは別行動を取るつもりらしい。

 相変わらず笑顔という仮面によって、那由多の真意は殆ど読み取れない。

 しかしその穏やかな表情とは不釣り合いな、射るよう鋭い瞳からザンに対する殺意は毛ほどにも衰えていない事は察せられた。


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