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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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19. 中の人


 やはり"冒険者ユーリ"と言う名の作品を世に送り出した作者こそが、一連の出来事の全ての始まりだろう。

 "山神(やまがみ) (そら)"、恐らくペンネームと思われるが、これが克洋たちが追い求める作者の名である。

 しかし現実世界においては無力に等しいオタクたちの集まりでは、この作者に辿り着く伝手は無かった。


「くっそー、上手くいかないな。 俺たちがこっちで呑気にしている間に、ザンの奴が何をやっているか…」

「ユーリ、アンナ…。 ミンナ、シンパイデス…」


 克洋があちらの世界で数年過ごしている間に、現実世界でも同じ月日が流れていた。

 時間の流れはこちらとあちらで同じなのは間違いなく、克洋たちが現実世界に来てから既に幾日も経っているのだ。

 あの卒業試験会場での戦いはどうなったのか、克洋から神の書を奪ったザンがあの後にどのような行動に出たのか。

 ユーリたちが居るあちらとの連絡手段が全く無い克洋とティルには、ユーリたちの無事を祈ることしか出来ないでいた。


「…少なくとも君たちの仲間、言うなればネームドキャラクターは無事だと思うよ」

「何だと?」

「ザンの最終目的はシステム撃破による、魔族の開放だ。 システムとの決戦のことを考えれば、戦力を削るような愚は冒さない」

「それは確かに…」


 ユーリたちの事を気に病む克洋たちに声を掛けたのは、またしてもあの設定厨の男であった。

 彼は元来訪者たちの情報からザンの行動を分析したのか、ユーリたちが無事であると断言して見せる。

 確かにザンは大筋は原作に近い行動を取っているが、大なり小なり原作とは異なる誘導も行っていた。

 一番大きな変更点は、ブレッシンとホルムの全面戦争を回避したことだろうか。

 確かに原作と同様に世界全土を巻き込むシステムとの最終決戦が行われるならば、わざわざ人間サイドの戦力を減らすわけにはいかない。


「戦争が起こらないことによって、原作で真実のレンズを求めて世界各地を巡った冒険編を行う必要が無くなった。 しかし原作の冒険編はユーリたちを強化する、成長イベントが目白押しだ。

 恐らくザンは自分自身を餌にして、ユーリたちに冒険編と同等の経験値を与えるために動くはずだ。 システムの戦いに備えて、ユーリたちをより成長させるためにね…」

「ああ…」


 ザンの最終目的を考えるならば、対システム戦での鍵となるユーリたちの成長は必須である。

 設定厨が言う通りザンはユーリたちを強くする必要があり、それには原作の冒険編での経験は避けられない。

 しかし真実のレンズは既に克洋が確保しており、そもそもホルムとの戦争が発生していない現状のあちらの状況ではユーリたちが冒険に出る理由は無い。

 ユーリたちを原作と同様に冒険させるには他の理由が必要であり、その理由をザンが作り出すという設定厨の仮説には頷ける物があった。


「ふーん、それならユーリたちは冒険編に突入しているのか。 原作だと確か、半年くらいは冒険してたよな」

「冒険編か…、うわっ、懐かしい!! 俺、まだ中学生の頃だったよな…。

 確かその半年の話を描くために、現実では数年掛けて雑誌連載してたっけ…。」

「そんなの、連載漫画あるあるだろうが」

「多分、ザンは原作のように冒険編をだらだらと全部はやらないだろう。 必要最低限のイベントのみを起こして、効率よくユーリたちをレベルアップさせる筈さ」

「…」


 設定厨の説が正しければあちらのユーリたちは、原作での冒険編というルートに誘導させられているのだろう。

 ユーリたちは自分の知らない間に原作に沿って行動させられる事となり、原作通りに成長を促される。

 そして原作に沿って動いている限りは、ユーリたちの無事は保証されているとも言えた。

 現実世界に居る克洋たちにはユーリたちの現状を知る術は無く、これはあくまで設定厨の仮説でしか無い。

 しかし設定厨はこれをあやふやな仮説などでは無く、確定した未来であるかのように語っている。

 まるでザンの先の行動を読めているかのような設定厨の話しぶりに、克洋の中である懸念が生まれていた。


「…おい、お前。 何でそこまでザンの行動を断言できるんだ?」

「…どうしたんだ、突然?」

「…いいから答えろ、それにもう一つ聞かせてくれ。 お前も来訪者何だよな? ならお前は、どんな形であっちに来訪したんだ?」


 この場に居るということは、この設定厨も克洋と同じ来訪者であることは間違いない。

 しかし克洋はあちらでこの男を見た覚えは無く、この設定厨がどのような形であちらに関わったかを知らなかった。

 そして来訪者の中に確実に一人、ザンの行動をある程度は予測できる者が居ると思われる

 恐らくアーダンの中に入った来訪者と同じ方法で、ザンの体を乗っ取ろうとした来訪者が居た筈なのだ。

 あちらのザンの様子からその来訪者の意識があの魔族の中に残っているとは思えず、十中八九アーダンと同様に元来訪者としてこちらに戻ってきているだろう。


「…ふっ、中々勘が良いね。 流石はあちらで主人公サイドの中で生き抜いて来た猛者だけはあるか」

「お前、まさか…」

「自己紹介が遅れたね、僕の名前は春夫(はるお)

 そうとも、君の想像通りだ! 実は僕はザンの中の人だったんだよ!!」

「「な、なんだってぇぇぇぇっ!!」」


 克洋の嫌な予感は的中した。

 設定厨、春夫(はるお)と名乗った色白の男は、自らがザンの体を奪おうとした来訪者であると告白したのだ。

 それは恐らくこの場で最も"冒険者ユーリ"という作品に詳しい男の知識を、あちらのザンが有しているという事である。

 この話は他のオフ会メンバーも知らなかったようで、春夫の告白にオフ会メンバーはお約束とも言える反応を見せるのだった。











 自らの正体をカミングアウトした春夫の発言によって、オフ会は一時的に荒れてしまった。

 あちらの世界のザンは来訪者に取って天敵と言うべき存在であり、はっきり言えばこの場の元来訪者の大半はあの魔族に殺された者たちと言っていい。

 よりにもよって怨敵であるザンに"冒険者ユーリ"の原作知識をまんまと与えてしまった間抜けに対して、ザン被害者の会とも言える彼らが何もしない筈は無い。

 業を煮やしたまとめ役の美子の一喝もヒートアップした彼らの耳には届かず、克洋たちが場を収めるまでにそれなりの時間と労力を弄してしまった。


「と、とりあえず落ち着いたな…。 面倒を掛けやがって…」

「や、やっぱりこうなったか…。 全く、乱暴な連中だ…」

「分かっているなら、わざわざ言うなよ…」

「ふふふ、この方が僕の話の説得力が増すだろう」


 まとめサイトにはザン個人に対するアンチスレッドがある程に、元来訪者たちに取ってザンは憎まれ役と言えた。

 期待に胸を膨らませて"冒険者ユーリ"の世界に来たと思ったら、ザン一派に早々に捕まってキマイラの素体にされた可哀想な元来訪者も居るのだ。

 あの魔族さえ居なければと考えるのは自然な流れであり、そんな連中が集まる場所で自分がザンの中の人だったと言えばこうなる事は目に見えていた。

 一応は自らがザンの情報源であると示すことが、自らの仮説の信憑性を高めるためにあえてカミングアウトしたというのが本人の談である。

 しかし克洋は春夫は別の思惑があって、自らがザンであると明かしたとしか思えなかった。


「…本当は自分がザンだって自慢したかっただけじゃ無いのか?」

「く、くだらない想像を押し付けないでくれたまえ」


 ネットの世界ではよくある話であるが、自己顕示欲を満たすためにSNSで時には犯罪と呼べるような行動を暴露する人間は少なからず居る。

 春主も頭の中では自らがザンであった事を明かすリスクは分かっていただろうが、それをオフ会メンバーに誇示する欲求に耐えられなかったに違いない。

 何故なら本当に自らの仮説を補強したいだけならば、オフ会メンバー全員では無く克洋にのみ事実を耳打ちしていれば済んだからだ。

 克洋の鋭い指摘はそう的が外れた物で無いことは、焦ったように視線を反らす春夫の様子から読み取れた。


「ちょっと待ってくれ!? 今のは一体…」

「それって魔法だよな!? こっちでも魔法が使えるのか!!」

「ア、アノ…」

「こらこら、可愛い女の子に詰め寄らないの! 犯罪よ!!」


 そしてオフ会メンバーの注目は既に元ザンだった来訪者から消えており、あちらからやってきた異世界の少女へと集まっていた。

 ティルは春音と他のメンバーとの間に光の壁を作り出すことで、先程の騒ぎを力尽くで収めたのだ。

 魔法、"冒険者ユーリ"の世界では珍しくもない初級の障壁魔法をティルはこの会議室内で使って見せた。

 しかし此処はあちらの世界では無く、魔法の魔の字すら無い現実世界である。

 現実世界であちらの魔法を行使してみせたティルに、オフ会メンバーが集まるのが当然であろう。


「…あれが君たちが、あちらの世界の存在を確信するもう一つの理由かい?」

「あっちみたいに自由に使える訳じゃ無い。 使えて初級が限度、しかも効果は激減している。 感覚的に言えばアンテナ一本で、回線が殆ど届いていない感じかな…」


 あちらの世界と現実世界は確かに繋がっている、それを克洋とティルは自らが学んだあちらの魔法の力によって実感していた。

 ただしその繋がりはか細い物であり、あちらでは巨大な障壁を展開できたティルも今ではあの程度の代物しか作り出せないのだ。

 出来れば隠し札としておきたかったが、あの混乱の中で咄嗟に慣れ親しんだ魔法の力に頼ったあの少女を責めることは出来ないだろう。

 魔法の力について問い質すオフ会メンバーの姿に、また面倒なことになったと克洋は静かに溜息をつくのだった。



説明会が続いてすいません…

とりあえずオフ会の話は今回で終わり、次回からまた話を動かす予定です。


では。

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