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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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16. オフ会


 克洋が現実世界に帰還してから一週間の月日が流れたが、残念ながら状況は全く変わっていなかった。

 あの卒業試験での戦いが来訪者を巻き込んだ最後の戦いだったらしく、その後で残機を無くした来訪者は残念ながら居ないらしい。

 そのためまとめサイトの方に新たな情報が上がることも無く、ネット上でくだらない妄想や煽り合戦が行われているだけであった。

 克洋の考える今後の目標は、今の所は二つ程あげられる。

 一つは折角現実世界に帰還したのに親不孝かもしれないが、色々とやり残しがある冒険者ユーリの世界へ戻る方法を見つける事。

 一つは克洋たちがこちらに送られる時にザンに指示された、"アーカイブ"とやらを見つける事。

 しかしそのどちらの目標も達成するための具体的な手段が分からず、克洋は実家で停滞を強いられていた。


「…こうしてユーリがザンの神器を倒して、ザンとの戦いに決着が着いたんだ」

「…ユーリノマジンカ、スゴイデス! デモ、スゴクツラソウ…」

「うん、やっぱり原作の方を見ても、リスクが有る戦法だよな…。 リアルなユーリを知っているから、余計痛々しい…」


 自分の実家で暇を持て余していた克洋は、とりあえず復習も兼ねて"冒険者ユーリ"の原作を読み込んでいた。

 日本語の練習も兼ねてティルと一緒に広げた漫画単行本を覗き込み、まだ文字が読めないティルのため漫画の内容を語って聞かせてる。

 特にティルの方は自分が漫画に出てくる事には流石に面を食らった様子だが、すぐに順応して見せて興味深そうにユーリたちのもう一つの冒険を追っていた。


「兄貴ー、いちゃついている所悪いけど、母さんがティルちゃんを呼んでいるわよ。

 ちょっと台所仕事を手伝って欲しいって…」

「ハイ、ワタシイキマス!」


 漫画の世界で夢中になっていた克洋たちを、現れた美子が現実に戻してくる。

 どうやら克洋の母の指示でティルを呼びに来たらしく、それを聞いたティルは元気よく立ち上がり台所の方へと向かっていた。


「いやー、偉いよね、ティルちゃん。 母さんも熱心に家事を教えるているし、まるで花嫁修行って感じよね」

「本当、頭が下がるよ…。 あいつに取ってこの世界こそ、全然違う異世界だろうに…」


 克洋の部屋に残された兄と妹は、いそいそと母の元へと向かったティルについての感想を述べていた。

 この家で居候の状況であるティルは、その恩返しとばかりに積極的に母の家事を手伝ってくれている。

 その熱心な姿勢に母も心打たれたのか、今では実の子供である美子以上にティルを可愛がっている状況だ。

 典型的な剣と魔法の世界である"冒険者ユーリ"の世界から、この科学万能の現実世界では何をするにも違う筈だ。

 しかしティルは予想以上の順応性を見せており、僅か一週間足らずで今の環境である程度はやって行けていた。


「やっぱり好きな人と一緒に居るってのが強いんじゃ無い。 あれは所謂、覚悟完了している系よ、女は強しってね…。

 前に兄貴の話を聞いたら、凄くノロケられたし…。 いやー、少なくともあっちでの兄貴は、ティルちゃんに取っての理想の主人公だったらしいよ」

「おい、お前!? 何を勝手なことを…」


 美子の見立てでは、仮にティルが一人だけであれば此処までの順応性を見せなかったろう。

 克洋と言う彼女の救い主でありヒーローである人物が側に居るからこそ、少女は今の環境に適合して見せたのだ。

 村の遺跡で隔離された少女を救い出し、要所要所で颯爽と現れて少女の危機を救ってくれた憧れの男性。

 そんな男性と四六時中一緒に入られる状況であれば、そこがどんな地獄であっても少女に取っては天国と言えた。


「…あの子を泣かしたら、この家の敷地を二度と踏めないと思ったほうが良いわよ、兄貴」

「いきなりマジトーンで迫るなよ。 分かっているよ、そんな事…。

 けど、戸籍とか全く無い、見た目外人のあいつを何時までも置いておけないしな…。 少なくともあいつをあっちに戻す方法を見付けないと…」


 同じ女性として健気なティルの状況に思う所があるのか、克洋家の女性陣はすっかりティルの味方となっていた。

 此処で克洋が下手な対応をしてティルを泣かせでもしたら、彼女たちは全面的にティル側に立ってこちらを糾弾することだろう。

 克洋の方でもティルの思いはヒシヒシと感じているが、このままこの家で彼女と一緒に暮らすのは難しい事も分かっていた。

 戸籍やら何やらで国民一人一人が管理されている状況で、何のしがらみなく降って湧いたティルは異端の存在である。

 この現実世界でティルを置いておくことは難しく、彼女ためを思うなら本来の世界に戻してやるのがベストなのだ。


「ああ、その事で一つ、兄貴にいい話が出来そうよ。 例のまとめサイトの住人、自称来訪者様たちとオフ会をセッティング出来そうなの」

「本当かっ!? ありがとう、美子!!」


 そんな悩める克洋に対して、美子が新たな朗報を齎してくれた。

 克洋が"冒険者ユーリ"の世界で右往左往している頃に美子は、兄らしき人物の情報を探るために例のまとめサイトの住人となっていた。

 彼女がその伝手を利用して、まとめサイトで活躍する元来訪者たちにコンタクトを取ってくれたらしい。

 元来訪者たちの集うオフ会、克洋の同類たちから何か現状を打破する有益な情報を集められるかもしれない。

 兄は新た道筋を作ってくれた妹に素直に礼を述べて、それを受けた妹は薄い胸を誇らしげに逸らすのだった。











 美子がセッティングしたオフ会の当日、克洋たちは事前に予約した貸し会議室へと向かっていた。

 ただ雑談するだけならば適当な飲食店でもいいが、今回は話題が話題である。

 冒険者ユーリの世界などという荒唐無稽な会話を本気にする輩が居るとも思えないが、念のために外部の目は遮断した方が無難という事だ。

 ちなみに今日の会議室を借りる手続きなどは全て美子の仕事である、どうやら異世界で遊んでいる間に現実世界での生活能力はすっかり妹に抜かされたようだ。


「…ふっふっふ、久しぶりだな!? 克洋だったな、前は世話になったな」

「お前は…、古代龍(エンシェントドラゴン)に乗っていたあのゴブリンもどき!?」

健児(けんじ)だ!? ああ、そう言えば名乗ってもいなかったか…」


 借り主である美子と共に早めに会場へと入った克洋は、そこで懐かしい顔を対面していた。

 健児(けんじ)、あのゴブリンの使役に失敗してゴブリンもどきとなったあの来訪者が現れたのだ。

 二回ほど克洋たちの敵として現れて、それなりに苦労させられた来訪者の顔は流石に印象に残っている。

 ただし一回目はゴブリンもどきとなっており、二回目はザンに操られてろくに意思疎通が出来なかったので名前を聞くのは今回が初めてである。


「ふっふっふ、かつての敵が後に味方になる王道パターン。 過去のことは水に流して、俺がお前たちの力となろう!!」

「いや、それは助かるけど……」

「おっと、そういう話なら、俺も忘れて貰ったら困るな!!」

「お前は!? …あの魔人化した奴!?」

勇人(ゆうと)だ! 俺が託した神の書を上手く使ってくれたようだな、我がライバルよ!!」


 そろそろ集合時間という事もあり、健児を皮切りに続々と元来訪者が会場に現れ始めていた。

 まずは何やら自分の都合よく記憶を捏造し、克洋に神の章を託したキーキャラクターを自称する例の魔人化野郎


「よう、お前もこっちに来たんだな!!」

「えっ、誰? まじで分からないんだけど…」

「ああ、この姿だと判るわけ無いか。 俺はアーダンの中の人だよ」

「えっ、結局お前も死んだのかよ…」


 見覚えのない顔が話しかけてきたと思ったら、それはアーダンの体を乗っ取っていた例の来訪者であった。

 あっちの世界のアーダンの体を使っているという差異はあるが、あっちで死んだらこちらの世界の体に戻ってくるという仕組みは変わりなかったらしい。


「おお、本当にティルが居るぞ!!」

「リアルティル来たーっ!? うわっ、本当に可愛いぞ、これ!

 くっそー、もう少し生き残っていれば、生那由多とかも色々拝めたのにぃぃぃっ!?」

「エッ、アノ…」


 そして中には克洋たちに出会う前にザンやら何やらにやられて、こちらに戻ってきた有象無象の元来訪者たちも居た。

 彼らは克洋が連れてきたティルの存在を目敏く見付けて、まるでアイドルに群がるファンのようにティルを囲っていた。

 流石に直接手を出す馬鹿は居ないようだが、自分に纏わりつく元来訪者たちにティルは困惑している様子だ。

 多数の元来訪者たちが現れたオフ会の会場である会議室は、混沌とした様相を示していた。




GW中はだらけていて、全然書き溜めが出来ませんでした。

今後もしばらく更新速度は最低週一、調子が良ければ週二くらいでだらだら進むと思います…。


では。

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