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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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12. ユーリたちの防衛戦


 克洋の期待通り、冒険者学校の生活で逞しく成長したユーリたちは立派に働いていた。

 学校の仲間たちを逃がすためにユーリの仲間たちは率先して前に出て、彼らが逃げる時間を稼いでいたのだ。

 ルリスの所と同じく国軍と護衛の冒険者たちが撃ち漏らした四足キマイラたちは、一塊の軍勢となってユーリたちの前に姿を見せた。

 幾多の魔物の特徴を掛け合わせて作り出されたキマイラが徒党を組んでいるのだ、並の冒険者であれば絶望的な未来しか待っていないだろう。

 しかし相手は一年前の時点で四足キマイラを倒すことが出来ていた主人公ユーリたちである、絶望を味合うのはどちらかは明白であった。


「俺の魔力をくれてやる、火炎付与(ファイアエンチャント)!!」

「グラッ!?」


 何時かの克洋を真似ているのか、ユーリは聞き覚えのある台詞を叫びながら炎の剣を振り回していく。

 本人的には属性も風で合わせたかったようだが、残念ながらユーリは風系統より火系統に適正があったらしい。

 伝説の武具を使わずとも本人の資質だけで作り出した、克洋のそれに迫る強力な剣は四足キマイラの体を切り裂いていく。


「一年前とは違う所を見せてやろう! はぁぁぁっ!!」

「グ、グラッ…」


 それに続いてローラも勇ましく、キマイラたちの軍勢に切り込んでいく。

 ユーリ程の派手さは無いが彼女の肉体強化の精度もまた、一年前と比べて飛躍的に向上している。

 同世代のライバルであるユーリ・那由多に負けじと鍛え上げたローラの剣は、堅実に一体ずつキマイラを貫いていく。


「あら、意外に切応えがありませんね。 これでは予行演習にもなりません」

「…ッ!?」


 そして一年前の時点で既にキマイラに通じていた那由多が、今更この程度の相手に遅れを取るはずも無い。

 ドラゴン相当の防御力では対魔族用に研鑽を積んだ那由多の刃は、淡々とキマイラたちの首を落としていく。

 その鮮やか首切りによって、キマイラは断末魔を上げること無く躯を晒すことになる。

 前衛役を担うユーリとローラと那由多が縦横無尽に駆け回り、キマイラの軍勢は見事にかき回されていた。






 接近戦では分が悪いと判断した四足キマイラたちは、歩みを止めて距離を取り次々にブレス攻撃を吐いていく。

 遠距離からの攻撃で一気に押し潰そうという試みは、普通に考えれば悪くない選択と言えるだろう。

 しかしその当たり前の展開をユーリたちが想定していない筈も無く、彼らは事前に対策を行っていた。


「ブレスは通しません! 魔力要塞(フォートレス)!!」

「ユーリ、あんまり出過ぎないでよ!! 幻惑魔法(イリュージョン)

「悪い、アンナ、ティル!」


 後衛型の冒険者、その中で障壁などの僧侶系の魔法を特異とするアンナとティルがユーリたちのサポートに入る。

 ティルの膨大な魔力で作らだした最大級の障壁は、キマイラのブレス攻撃程度ではびくともしない。

 駄目押しでアンナが作り出した幻影によってキマイラが相手を誤認し、キマイラたちに同士討ちを誘発させる。

 ユーリやティル程の膨大な魔力量も特異な才もないアンナであるが、幼馴染の少年と歩むことを諦めること無く自分が出来ることを磨き上げた成果がそこにあった。


「此処までお膳立てされて、外すわけにはいかないぜ! 火炎爆裂波(ファイアストーム)

「たつおも合わせてね。 行くぞぉぉぉ!! 大地爆裂波(グランドストーム)

「グラァァァッ!!」


 そして頼りになる前衛と剣と盾に庇われていた後衛たち、レジィとメアリの大砲の準備は完了していた。

 生粋の後衛型の魔法使いであるレジィ、魔族を育て親にしたことで前衛・後衛に関わらずオールマイティーなメアリ。

 それに加えて観客席にペットを持ち込めない関係で、ユーリたちの護衛についてた克洋の愛ドラゴン、たつおも最大級のドラゴンブレスを放つ用意は出来ている。

 前衛のユーリたち気を取られていたキマイラたちに、この大砲から逃れる機会が訪れる筈も無い。

 二重に放たれた上級呪文とドラゴンブレスは、ユーリたちに散々に切り崩されたキマイラたちに引導を渡すのだった。











 ブレッシン冒険者学校の方に寄越されたキマイラたちは、ユーリたちの活躍によって一掃された。

 まだ遠くで戦闘音が聞こえてくる事から全ての戦いは終わっていないが、とりあえず冒険者学校の仲間を逃がす時間稼ぎは出来ただろう。

 かつてはキマイラ一体に全滅寸前まで追い詰められた自分たちが、これだけのキマイラを倒すことが出来たのだ。

 一仕事を終えた充実感と勝利の余韻からか、ユーリたちは自然と笑みを浮かべていた。

 しかしそんなユーリたちの清々しい気分は、その危険な男の登場によって容易く終わりを迎えてしまう。


「…誰か来た? どうしたんだ、俺達になにか…」

「…」


 此処が戦場では無く平和な町中であるかのように、その男は平然とした歩みでユーリたちの元に近づいてきた。

 見た目はユーリたちと同年代、恐らく現実世界で言うならば中~高校生くらいの若者である。

 黒髪黒目の姿は何処か克洋を思わせるが、その容姿は平凡な克洋とはかけ離れたまるで芸術作品のように完璧に整っていた。

 無言でこちらに近づいてく男はユーリの問いかけに答えることなく、二人の手の届く距離にまで歩みを進めていく。


「…あら、危ないですよ」

「…はははは、流石は主人公様の一行だ。 この程度の挨拶では壊れないか…」

「な、何だよ、お前!? 危ないじゃ無いか!!」


 不敵な笑みを浮かべながら近付てきた男は、いきなりに手に持った剣でユーリに斬りかかってきたのだ。

 相手が人間であったこともあり、まるで挨拶でもするかのように何気なく振られた剣に寸前までユーリは気付くことが無かった。

 気が付いた時には目の前に交差する西洋剣と刀が奏でる耳障りな金属音が、ユーリの耳朶を打っていた。

 仮に那由多がその剣を防いでくれなかったら、下手をすれば彼の人生は此処で潰えていたかもしれない。

 刃を交わしながら共に笑顔で声を交わす那由多と男のやり取りを見て、遅まきながら自分の命の危機に気付いたユーリが慌てた様子を見せる。 


「この気配、貴方様はお兄様のご同輩ですね。 お兄様のお仲間は、あの魔族が全て排除したと聞きましたが…」

「ははは、俺をそんな雑魚どもと一緒にするな! 俺はザンの御眼鏡に適ってスカウトされたんだ、言うなれば俺はザンの切り札って奴だよ」

「切り札ねぇ…。 その剣を持っている所を見ると、ただの捨て駒では無いようですが…」


 神の剣、神に等しき力を持った古代文明が作り出した神の武具と呼ばれる存在。

 かつて己の剣を防いだその忌まわしき剣を、他ならぬ那由多が見紛うはずもは無い。

 眼の前の来訪者は観察する限りでは正気を保っており、ザンお得意の精神操作などが施されている様子は無い。

 この様子から見てこの来訪者は言葉通り、自らの意思であの魔族に協力しているということだ。

 そして対人相手に慣れていないユーリは兎も角、あの憎き魔族の仲間を殺すことを那由多は躊躇わない。


「…残念ながら、あてが外れたようですね。 とりあえず邪魔ですので、消えてくれませんか?」

「はっ、上等だよ。 俺様の力を見せてやるさ!」

「お、おい!? 那由多!!」


 今回の一件が十中八九ザンが首謀者であり、この戦場にあの魔族が来ている可能性が高い。

 そこで那由多はザンが原作とやらに沿ってユーリと接触すると考えて、今までユーリたちと行動を共にしていたのだ。

 しかし彼女の予想は外れ、対ユーリ用に派遣されたのはこの新顔の来訪者である。

 ザンが現れる可能性が限りなく低くなったこの場に居る理由は無くなり、那由多はザンを追うために目の前の邪魔者へと斬りかかった。






 一応は対人の訓練も行われているが、基本的に冒険者の役割は対魔物となる。

 訓練ならば兎も角、人間相手に本気で殺し合いをした経験などはユーリたちには存在しない。

 そのため突然切り合いを始めた那由多と謎の男の戦いを、ユーリたちは呆然とした表情で見ているしか無かった。


「な、なんだ、あの男!? 那由多と互角に戦っている。 否、あれは那由多よりも…」

「おい、見物している暇があったら、こっちを手伝えよ! また新手の魔物が出たぞ!!」

「何だって!? くそっ、那由多! そっちは任せたぞ!」


 周囲を無視して切り合いを始めた那由多と来訪者であるが、ユーリたちがそれに加勢することは出来なかった。

 この周囲に居たキマイラを全て討伐した筈だったのに、何時の間にか新手のキマイラが現れていたのだ。

 キマイラの援軍たちは恐らくザンの仲間と思われる、那由多と戦闘中の新手の来訪者が連れてきたのだろう。

 前述の通りユーリたちは避難中の他の冒険者学校の仲間たちを守るための最後の盾であり、このキマイラたちを見逃すわけにはいかない。

 後ろ髪を引かれながらもユーリは那由多に来訪者の相手を任せて、仲間たちとと共にキマイラ退治に向かった。



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