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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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11. 人型キマイラ


 久しぶりにルリスと再開した克洋であるが、ろくに話もすることもなく彼らは再び分かれることとなった。

 大半のキマイラが足止めされている今の状況で、克洋たち全員が生徒の避難を手伝う必要は無い。

 ルリスの手伝いとしてララとアルフォンスを残し、克洋たちは今一番の修羅場となっている人型キマイラと戦う最前線へと向かったのだ。


「"シネ、シネシネシネシネシネシネッ!!"」

「うわぁぁぁっ!?」

「駄目だ、もう持たない!!」


 戦場に出てきた克洋たちが目にしたのは、背後から幾本もの剣を投射する人型キマイラの姿であった。

 それは先程ルリスが作り出した光の剣のようであり、恐らく何らかの魔法によって生み出された物なのだろう。

 文字通りの魔法剣の弾幕の威力は凄まじく、絶えること無く放たれる剣群に冒険者たちは防戦一方の様子だ。

 人型と言うだけあってその姿は旧世代の四足と違い、二足歩行をしている所から人に近づいているのは事実だろう。

 しかし異なる魔物の目を移植されているらしい異形のオッドアイ、四足と同じドラゴンの鱗に近い硬質な皮膚、人外の膂力を実現する肥大化した体躯。

 その姿はもはや元となった人間の面影は無く、人型キマイラの姿は十分に人からかけ離れている異形であった。

 何より克洋が人型キマイラに驚かされたのは、その人口の異形が口に出した言葉である。

 狂ったように同じ言葉を繰り返す姿は原作の人型キマイラと同じであるが、少なくとも冒険者ユーリの作中で"日本語"を口にするキマイラは居なかった筈だ。


「…背後に跳ぶぞ! 一撃で仕留めろよ!!」

「任されよ!!」


 動揺を抑えながら克洋は冷静に状況を判断し、自らがするべき行動を選択する。

 幸運なことに相手は目の前の冒険者たちの相手に夢中であり、まだ克洋たちに気がついた様子は無い。

 そして正面に向かって魔法剣を放っている人型キマイラの背後は無防備であり、あそこに回り込めば一方的に相手を倒すことが出来るだろう。

 そして克洋には相手に気付かれることなく、一瞬で相手の背後に回り込むチートを身に着けていた。

 恐らくこの一年で幾度も今のようなやり取りをしていたのだろう、克洋の言葉少ない指示を椿は瞬時に理解して刀を構える。

 そして椿の腕を掴んだ克洋は次の瞬間、克洋たちの姿はその場から消えてしまうのだった。






 それはまさに一撃だった。

 正面から戦って言えば無尽蔵に放たれる魔法剣に苦労させられただろうが、背後からの辻斬りはその苦労を一瞬で無にしたのだ。

 克洋の転移魔法(テレポート)によって無防備な相手の背後に跳んだ椿は、突然の移動に動揺することなく無言で剣を振るった。

 対魔族、先祖の怨念を晴らすために今日まで鍛えられた椿の剣は、一振りで人型キマイラの首を断ち切る。

 恐らく人型キマイラの皮膚は四足キマイラと同等かそれ以上の硬度であろうが、流石に魔族に生み出す障壁程の硬さは無いだろう。

 キマイラでは対魔族用の椿の剣を受け止めることは到底出来ず、椿が自由に剣を振るう機会を得た時点でこの結果は当然の物だった。


「す、凄い、あの化物を一瞬で…」

「あいつ、知っているぞ! あれはフリーダ様のお弟子様だ!!」

「あの神の神殿を攻略した奴か!?」


 先程まで苦戦していた人型キマイラを一瞬で片付けた克洋たちは、死にかけていた冒険者たちの注目を嫌でも集めた。

 特にこの一年の間でそれなりに冒険者として活動していた克洋は、冒険者たちの間でそこそこの知名度が生まれていたらしい。

 克洋が克洋であると気付いた冒険者たちは口々に称賛の声を上げており、もし当の本人が周囲の声に耳を傾ける余裕があれば赤面していたかもしれない。

 しかし今の克洋には周りに構っている暇はなく、地面に転がる首と胴が絶たれた人型キマイラの遺体を観察する。


「…? 死体が消えるでござる、面妖な…」

「くそっ、やっぱりか!? そういうことかよ、あの糞魔族が…」


 そして克洋の最悪の予想は的中してしまった。

 人型キマイラの死体はそれから数分と立たずに、光に包まれてしまい何の痕跡も残さずに消えてしまったのだ。

 奇妙な魔法、日本語、そしてこの死体の消え方、この人型キマイラが何をベースにしているかは明白である。

 来訪者、克洋と同じく現実世界よりやって来た者が行方不明になる原因がこの人型キマイラだったらしい。











 原作の流れを把握している今のザンに取って、何をしでかすか分からない来訪者たちを盤面に残すことは悪手である。

 しかしその能力だけ見れば、克洋の転移魔法(テレポート)のような特典を持つ来訪者たちの戦力は後の最終決戦の役に立つことだろう。

 来訪者自身は不要であるが来訪者の力が欲しい、この2つの難問を解決したのがこの人型キマイラであった。

 この一年の間にザンは単に来訪者の排除していただけでは無く、自陣営の強化をも両立させていたのだ。


「あの糞魔族め!? よくこんな悪魔的な発想が出来るな…。 それなら今回の襲撃はこいつらの…」

「確かに今回の件は、僕たちの新しいおもちゃの性能テストも兼ねているよ。 

 あとは主人公たちの経験値の提供、人間サイドの危機感を煽るちょっとした演習、って所かな」

「…なっ!?」


 自然と口に出ていた克洋の独り言を、何処からともなく現れた魔族の少年が答える。

 ザン、今回の一件の黒幕である魔族の少年が、一年前の約束通りに克洋の前に姿を表したのだ。

 人間と違って成長の遅い魔族であるため、ザンの姿は記憶にある一年前の姿とは全く変わっていない。

 しかし一つ違う所があるとすれば、少年の体躯には不釣り合いな大振りな両刃の斧であろうか。


「やぁ、久しぶりだね? その様子だとそちらは、お宝を見付けられなかったようだ」

「…その手に持っている物はもしかして?」

「神の斧。 前に使っていた神の剣に負けない業物だよ」

「うわっ!? やっぱりぃぃッ!!」


 以前に神の武具の気配を感じられると行っていたザンは、克洋たちが持つ神の武具は1年前と同じであることを察したようだ。

 まるで自慢の玩具を見せつけるかのように、ザンは克洋が手に入れられなかった新たな神の武具を見せつける。

 これが嘘・はったりで無いことは分かっている、何しろ眼の前の斧から感じるそれは克洋の懐に収まる本と同質の物だからだ。


「こちらは神の武具が二振り、そちらは一振り、戦力の差は歴然だと思うが…」

「一体何処でそれを見付けた!? こっちは一年掛けてあらゆる文献をあたったが、全滅だったんだぞ!!」

「魔族は人間と比べて寿命が長くてね、こちら側の情報から辿らせて貰った」

「ああ、魔族側の伝承を辿ったのかよ!? くっそ、その手があったかっ! メリアの村に行く選択肢を思いつくべきだったぁぁぁぁっ!!」


 確かに人より長いスパンで生きている魔族であれば、神の武具に関する記述もより正確に残っていることだろう。

 加えるならば人間サイドの大陸は幾度もなく魔族に責められており、その戦火によって貴重な資料がどれだけ喪失したか分からない。

 それに対して勇者ヨハン以前にまともに人が入ったことの無い暗黒大陸の方が、古代の情報を集めるのには適切に違いない。

 一応克洋にもメアリの村の魔族という伝手があるので、考えが及んでいたら魔族側の情報もある程度は掴めていたのだ。

 自らの失敗に気付いた克洋はこの一年の無駄な苦労がフラッシュバックし、思わず頭を抱えてしまう。


「おい、克洋? 一体どうしたでござるか、突然口パクをしながら百面相を浮かべるなど…」

「大丈夫かよ、あれ?」

「何処か別次元と交信しているんじゃ無いか? ほら、何とかは紙一重って…」


 そんな風にザンと会話をしていた克洋に対して、椿が何やら深刻そうな表情でこちらの様子を伺ってくる。

 椿の声掛けで正気に戻った克洋はそこで、椿を含む周囲の冒険者たちが何やらヒソヒソ話をしている事に気付いた。

 まるで克洋を狂人のように扱う椿たちであるが、克洋から見れば逆に周囲の反応がおかしかった。

 この場に人類の天敵が居るにも関わらず、何故か椿たちは全く警戒をしていないのだ。


「…おい、これって?」

「ああ、気を利かせて僕の存在と、この会話は周囲からシャットアウトしておいたよ」

「おい、それだと俺が端から見たらただの狂人じゃねぇか!! いいから戻せ、戻して俺の誤解を解いてくれよ!!」

「もう少し落ち着いて話をしたかったんだけど。 仕方ないな…」


 確かにザンとの会話は必然的に原作知識を絡む物であり、世界の真実を知る者以外には聞かせない方がいい。

 しかし秘密を守る代償として自分が狂人になることなど、克洋が認められる訳も無い。

 まる泣きつくかのように克洋は必死にザンに対して偽装をとき、周囲の誤解を解くように乞い願う。

 そんな真摯な克洋の思いが胸を打ったかは分からないが、ザンは言われるがままに偽装を解いてくれる。


「…うわっ、何か出たぞ!?」

「逃げ遅れた餓鬼か? いや、あの姿は…」

「その姿形は!? 魔族ぅぅぅぅっ!!」

「おっと、危ない危ない。 一応、警戒しておいてよかったよ。

 全く、東の国の連中は何時もこうだ。 だから話が終わるまでは隠れておきたかったのに…」

「まあ、そっちが東の国の人間的に普通の反応なんだろうな…」


 偽装が説かれてザンが姿を表した次の瞬間、魔族絶許国である東の国の椿が襲いかかった。

 恐らく椿の行動を予想していたらしいザンは、地面から迫り上がった巨大な土壁によって防ぐ。

 大地の属性を持つ神の斧の力が瞬時に壁を作り出すことなど朝飯前らしく、椿は悔しそうな表情で邪魔な土壁を睨みつける。

 克洋は原作で東の国の天敵である魔族と組んだ那由多が特異な例であり、椿の反応が一般的な東の国の者であろう。

 こう考えて見ればザンを付け狙う現在の那由多は東の国の人間らしさを取り戻したと言えると、克洋は場違いな感想を思い浮かべるのだった。


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