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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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9. 卒業試験


 ブレッシンとホルムと言う大陸の二大国家がそれぞれ運営する冒険者学校が合同で行う、冒険者学校卒業試験。

 卒業試験という名目であるが既にこの時点で選別は済んでおり、この試験に参加している時点で冒険者足る実力を持ち合わせた人材であると見なされている。

 余程の事が無ければこの卒業試験で落とされることは無く、実質この場は各国の首脳陣たちに未来の戦力の実力をお披露目する場であった。

 会場は二国が毎年持ち回りで用意することになっており、今回はホルム側の領土に作られた特設会場。

 そこで若き冒険者学校の卵たちは、この二年間の間に学んだ成果を対抗試合という形でぶつけ合うのである。


「よしっ、いよいよ本番の模擬戦闘だな! ホルムの冒険者学校の実力を見てやるぞ!!」

「あんまり期待しない方がいいって。 さっきの集団戦闘であっちの実力は大体分かっただろうに…」


 ブレッシンとホルムの対抗試合と言えども、流石に全ての生徒をタイマン形式で戦わていたら試験が何日も掛かってしまう。

 そのためこの最終試験で一対一の形式の模擬戦闘を行うのは、各校の戦闘に優れた選抜生徒のみである。

 大半の生徒は大型の魔物との戦闘を想定したパーティ単位の集団戦闘と言う、演習形式の試験のみで卒業試験は終了なのだ。

 その集団戦闘も予定通りに終わり、休憩を挟んだ後でいよいよ選抜生徒による対抗戦が始まることになる。

 当然のように選抜メンバーに入っているユーリは気合を入れるが、既に自分の仕事が終わったレジィがお気楽な様子で水を差してしまう。


「い、いや!? もしかして実力を隠してるって事も…」

「ないない。 ま、少しくらい手を抜いてやるのが、相手のためになると思うぞ。 流石に国のお偉いさんの前で、恥をかかせるのもまずいしな…」

「えっ、手加減? なんでそんなことを…」


 本来であれば手加減などは相手に対する最大の侮辱になるだろうが、問題はこの卒業試験の観客達にある。

 常に魔物の脅威に怯える国にとって、対魔物用に鍛えられた冒険者たちは貴重な戦力であろう。

 その貴重な戦力のお披露目でも卒業試験に、ブレッシンとホルムの首脳陣たちが観戦に来てしまっているのだ。

 世慣れたレジィはある程度は相手にも花を持たせた方がいいと察するが、それに対して主人公らしい単純さを持つユーリはその辺の機微は察せられないらしい。

 そして残念ながら卒業試験の展開は、レジィの予想した通りの一方的な展開となってしまう。


「おらぁぁぁっ!!」

「あぁぁっ!?」


 肉体強化と魔法の併用、前衛型と後衛型の両方の特徴を持つ勇者の息子の変幻自在の戦いに付いていける者は限られる。

 レジィの忠告など頭から抜けていたユーリは最初から全力でぶつかり、一分も掛からずにホルムの若き冒険者を粉砕して見せた。

 この世界の主人公は実に主人公らしく、人と魔の血を受け継ぐ自らの力に一端を世界に示したのだ。


「…はい、終わり」

「っ!?」


 そもそも実力的に冒険者学校に居る時点で詐欺というべき人斬りの少女が、冒険者学校の卵相手に負ける事など有り得ない。

 やる気無く振るわれた刀は相手の目に写ることすらなく、次の瞬間に相手は一言も漏らさずに崩れ落ちてしまった。


「くそっ、くそっ!? なんて硬い障壁だ!? 」

「今です、魔力裂波マジックフォース

「っ!? でかっ…、あぁぁ!!」


 最高峰の魔力を持つティル、原作と違って防御・回復系統を首とした僧侶寄りの後衛型となった彼女の障壁を敗れる者がどれだけ居るのか。

 その尽きることの無い魔力によって展開された障壁は決して途切れることは無く、逆に隙を見せた相手に容赦なく攻撃的魔力の衝撃波が襲いかかった。

 他の試合でもブレッシン側がホルム側に圧倒する光景がよく見られ、国の威信が掛かった対抗試合は一方的な展開が続いていた。











 ブレッシンとホルムの対抗試合であるが、その結果ははっきりと明暗が分けられていた。

 原作的に考えたら今年のブレッシン側の人材は、ユーリ・ローラ・レジィ・ティルに加えて那由多・メリアというイレギュラーも加わったネームドキャラが揃っている。

 それに対してホルム側でその後に原作に出てきた人材は皆無、はっきり言えばホルム側の参加者はモブという名の雑魚ばかりと言っていい。

 話によれば今年ほど極端な結果では無いが、卒業試験での成績は毎年ブレッシンの方に軍配が上がるそうだ。

 昔から冒険者の育成に力を入れているブレッシンに、後追いで冒険者を育成し始めたホルムとではまだまだ差が有るという事である。

 この冒険者の質の差、戦力の決定的な差に焦りを覚えたホルム側が、原作であの魔族の少年の甘言に乗った理由も分からなくは無いだろう。


「そして予想通り、あいつの姿は何処にも無いか…」

「何をしているでござるか、克洋? 退屈な試合ばかりだが、余所見をするのは失礼であろう」


 卒業試験の会場には一般人用の観客席と、二国の首脳とその関係者が使うVIP席が設けられている。

 克洋のパーティーメンバーは当然のように一般用の観客席に陣取り、彼らの後輩と言うべき冒険者の卵たちの戦いを観戦していた。

 しかし克洋は試合を見ること無くVIP席や他の観客席の方ばかりに視線を飛ばし、その手に持った虫メガネのような物を通して観察を行っていた。

 真実のレンズ、あらゆる偽装や変身魔法を見通す伝説のアイテム、克洋はこれを利用してザン一派が何処かに潜んでいないか探っているのだ。

 原作であれば人に返信したザンがホルム側の関係者としてVIP席に居る筈がその姿は見えず、辺りにザンやその仲間の姿は見付からない。

 やはり真実のレンズが残されている事からも見て、今回のザンはホルム側に接近するという原作の手段は取らないつもりのようだ。

 

「あら、見てみなさい。 あなたと繋がっている愛しい人が、こっちの方を見ているわ。 きっとあなたのために頑張っているのね…。

 いいわー、若いって…」

「いやいや、別に俺とティルはそんなんじゃ…」

「はっはっは、魔力パスを結んでおいてそれは無いだろう。 お前も覚悟を決めろよ、克洋よ」


 椿と違って通常のルートで冒険者学校に辿り着いた、ララとアルフォンスのペアも当然のようにこの場に居た。

 彼らは自分たちと同じように魔力パスを結んでいる克洋とティルの事を気にしており、事あるごとに二人の仲を取り持とうとお節介をしてくれるのだ。

 このネタで弄られるのが嫌で克洋はなるべくこのバカップルから距離を置いていたが、今の状況でパーティーを離脱する訳にもいかず今は苦行に耐えるしか無い。

 別にティルとの事は嫌いでは無いが、現代世界の常識に縛られる克洋から見てティルはまだ恋愛対象と見るには幼い。

 しかしファンタジー世界らしくこの世界ではティルくらいの年でも結婚する者が居るようで、バカップルたちから見たら克洋の反応は歯がゆいのだろう。

 訳知り顔に良い笑顔を向けるアルフォンスに殺意を抱きながら克洋は、不利な状況から脱するために話題を変えようと試みる。


「い、今は試合に集中するんだろう。 ほら、またブレッシン側が優勢だな」

「確かにブレッシンの冒険者たちは噂通りに中々の粒揃いでござるが…」

「ホルムの方は全然よね…、多分ホルム出身のルリスが見たら嘆くわよ…」

「冒険者としての歴史が違うからな、所詮は付け焼き刃って事だろう」


 椿たちの会話の通り、ホルム側の冒険者学校の歴史はまだ非常に浅い。

 そもそも以前に克洋たちのパーティーに居たホルム出身のルリスが語っていた通り、少し前のホルムには冒険者の育成機関は無く冒険者と言える存在は居なかったのである。

 それまでのホルムは自国の国軍が冒険者としての役割を果たしていたが、フットワークの軽い冒険者と違って対応が一手二手遅れることが多かった。

 ホルムに住まう人たちは魔物と言う身近な脅威に対して腰の重い軍では無く、素早い対応が可能となる冒険者を望んでいた。

 そして勇者ヨハンを筆頭としたブレッシンの冒険者たちの活躍に危機感を感じた事もあり、ホルム側は近年になって慌てて冒険者学校を設立したのだ。

 仮にホルム側がもう少し早くに冒険者学校を作っていれば、ルリスはブレッシンに留学することなくホルムの冒険者学校を卒業して冒険者となっていた事だろう。


「ふむ、積み上げられた冒険者の歴史の差が、今の結果に繋がっているで御座るか。 長年武術を鍛え続けている、拙者たちの国と通じるものがある…。

 しかし流石に那由多殿クラスの実力者は居らぬようでござるな…」

「あんなバグキャラが他に居るかよ…。 おい、もしかしてお前、強いやつが居たら那由多の時にみたいに手合わせするつもりだったのか?」

「…」

「そこで無言になるな!? いいか、一応はお前は俺が雇っていることになるんだ、また俺はトイレ掃除をするのは嫌だからな!!」


 対魔族のために国を上げて長い年月を掛けて武術を磨いている修羅たちの住まう場所、東の国からやってきた椿。

 彼女から見たら同じく冒険者としての歴史を積み上げたブレッシンが優勢であることは、非常に納得が出来る理由なのだろう。

 ただし幾ら何でも冒険者の卵たちの中に那由多クラスの実力者が他に居る筈も無く、椿の興味を唆るような人材は居ないようだ。

 冒険者としての資格を持たない東の国出身の椿は、立場上は冒険者の克洋に雇われた用心棒と言える存在であった。

 そのために克洋の監督下に置かれている彼女がまた何か騒ぎを起こせば、必然的に克洋の責任問題へとなってしまう。

 また公衆の面前で決闘など起こそうものならば、今度はトイレ掃除という軽いペナルティでは終わらない可能性もあるだろう。

 そんな悲痛な克洋の念押しに対して、何故か椿は微妙に目線を逸しながら無言を貫くばかりであった。



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