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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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8. 疑惑


 来訪者関係の話は一通り済んだ後、克洋たちは次のイベントと言える卒業試験の話を始めていた。

 冒険者学校卒業試験、それは"冒険者ユーリ"の原作におけるユーリとザンとの三度目の戦いの舞台であった。

 ユーリたちの住まうブレッシン、その隣国であるホルムとの二国合同で行われる冒険者の卵たちの卒業試験。

 そこでザンは何と隣国ホルム側の人間として、ホルム王と共にユーリたちの前に姿を見せるのだ。

 勇者ヨハンの存在によって冒険者の国としての地位を確固としたブレッシンに対して、隣国のホルムは密かに危機感を抱いていた。

 ブレッシンの後追いで近年に冒険者学校を設立したが、冒険者の質は未だにブレッシンの方が上を行っている。

 冒険者の質が国家の戦力として考えられるこの世界において、ホルムはブレッシンと比べて明らかに力が劣っているのだ。


「その現状の不安を付いたザンは、人に化けてホルムの中枢に接近した。 そして事実上、ホルムはザンの手駒となってしまった」

「足りない戦力をキマイラで補ったホルムは、ザンに操られるままにブレッシンへ攻め入ろうとする。

 戦争を引き起こすことで人類側の戦力を減らすというのがザンの作戦、そしてそれを止めることが冒険者となったユーリたちの仕事になるか…」


 確かにホルムはブレッシンとの差を悩んでいたが、決して隣国を滅ぼしたかった訳では無い。

 しかしザンに目を付けられたのが命取り、何時の間にかホルムは対ブレッシンのために動き出すことになった。

 魔族という人類の外敵が存在する状況で、人間対人間の戦いなど無益な物でしか無い。

 その戦争が魔族の手によって引き起こされるとなれば、絶対に止めなければならないだろう。

 魔族の力によって完璧に人間と化けているザンの正体を暴くのは難しく、敵国ブレッシンの人間であるユーリたちの言葉をホルムが信じる理由は無い。

 そのため原作でユーリたちは人類同士の愚か戦争を止めるため、ザンが人類の天敵である事を白日の下に出来るアイテムを探すために冒険へと出るのである。


「もうユーリたちの仕事は無いですけどね。 フリーダさん、"真実のレンズ"です。 無事に東の国で回収してきました…」

「何、本当に手に入れたのか!? これが…、"真実のレンズ"」


 "真実のレンズ"、このレンズを通して見れらた者は全ての幻術や変身魔法が無効化されるという伝説のアイテムだ。

 原作でユーリたちはこれを探すために考古学者シャンと共に世界を回り、最終的に東の国でこれを見付けることとなる。

 そして原作知識によってこれの在り処を把握していた克洋は、神の武具を探索するついでに"真実のレンズ"も回収していたのである。

 ただし原作でのキーアイテムというべき存在をなるべく知られないため、これはシャンたちに頼ること無く克洋が単独で入手をしたしていた。

 シャンが神の神殿の当たりを付けるため研究室に引き篭もっている頃に、こっそり東の国に赴いて手に入れてきたのである。

 そして来訪者の話と同じくこの件を書類で知らせるわけにも行かず、フリーダにすら"真実のレンズ"の存在は隠していた。

 "真実のレンズ"は直径30センチ程度の丸いレンズに取手が付けられており、見た目だけなら少し大きめな虫眼鏡と言った代物だ。

 これを見付けるために原作では単行分何冊にも渡る長い冒険があったのだが、克洋の原作知識はそれを全て飛ばしてしまったようだ。


「これの性能は確かです。 実は神の神殿の場所を探すときに、こっそりこれを使ってみたんですよ。

 そしたらあの馬鹿みたいに掛けれたていた偽装が、こいつを覗いてみたら全て丸見えでした…」

「…奴らは何を考えている。 何故、神の剣を入手したときに、これも回収しなかったのか?」

「今までの彼らの行動から見て、彼らがこれの存在を知らない筈は無い。 ならばどうして…」

「…」


 既にザンに奪われている神の剣と真実のレンズは、両方とも東の国のとある場所に眠っていた。

 ザンに取ってはどちらも自身の計画に取っては邪魔なアイテムであることは間違い無く、本来であれば真実のレンズも既に回収されていなければおかしいだろう。

 しかし実際に真実のレンズは克洋の知る場所にそのままになっており、こうして克洋の手を通してフリーダの下へと届けられた。

 原作を展開をなぞりながら、その実そこから外れるような動きを見せているザンの行動をフリーダたちは訝しんでいるようだ。

 密かにザンと接触している克洋のみが、あの謎に満ちた魔族の少年の真意を察するのだった。











 とりあえず真実のレンズが手元にある時点で、例え原作通りにザンがホルムに居てもすぐに真実を暴き出せる。

 現状のザンの動向が分からない今の状況では後は戦力を備えておく事しか出来ず、最終的には出た所勝負という事になるだろう。

 そんな作戦とは絶対に言えない大雑把な方針が決まった所で、学長室に新たな登場人物が姿を見せたのだ。


「…失礼いたします。 やはり此処に居ましたか、お兄様」

「…那由多か? ユーリたちは…」

「撒いてきました、ユーリ様たちには聞かせられない話になりそうですので…。 椿様という新しいおもちゃも居ますので、暫くは放っておいても大丈夫でしょう。

 さて、先程はろくに話も出来ませんでしたので、私もお兄様とお話をさせて貰えますか」


 新たに学長室に入ってきた人物、それは東の国の民族衣装である着物を纏った美しい少女であった。

 どうやら例の強制稽古でろくに話をする暇が那由多が、改めて克洋と情報共有をするために現れたようだ。

 そもそも話が出来なかった原因は、その前に那由多が自分から克洋へ斬りかかって来た結果のような気がしないでも無い。

 しかし克洋はこの怖い妹様にそのような正論を口に出す勇気は無く、渋い顔をしながら無言を貫いていた。






 那由多が加わった所でおさらいも兼ねて、先程までの話をざっくりとまとめて伝える。

 新たに現れては人知れず消えていく来訪者たち、何故か東の国に放置されていた放置されていた真実のレンズ。

 それらの話を那由多は何時ものように楚々とした笑みを崩すこと無く聞いており、その反応の無さに克洋は若干の不安を覚えてしまう。

 そのため話題を変えるように克洋は無理やり笑みを浮かべながら、今度はそちらの番とばかりに那由多たちの冒険者学校での話を聞く。

 今日まで克洋の方に連絡が無かった所を見ると、冒険者学校の方では特に問題は無かったろう事は予想が着く。

 しかし念のために一応は確認を取っておいた方がいいだろうと言う建前の下で、克洋は那由多からこの一年の話を語って貰った。


「…とまあ、このような所ですね。 細かな差異は有りましたが、大凡お兄様から聞いていた原作とやらと同じ流れでしたね。 ああ、ティルさんの暴走関係以外はですが…」

「そっちの方で、ザンたちの横槍は無かったか…。 やっぱり次に奴らとぶつかるのは卒業試験の時か、ザンたちはあくまで原作通りに動く気なんだな」


 那由多やアンナと言う原作に無い異物、そして原作とは違い精神的に安定しているティル。

 これらの外部要因によって"冒険者ユーリ"の原作とは一部異なる展開もあったらしいが、冒険者学校での動きは概ね予定通りだったらしい。

 個人的には漫画で描かれていたユーリたちの学戦生活を実際に見てみたかったが、こればかりは仕方ないと言った所だろう。

 事前にザンが言っていた通り、彼らが次の動くのは原作と同様に冒険者学校卒業試験という事になりそうだ。


「…原作とやらに乗りたいならば、奴らに動きが無いのは逆に不自然ですよ」

「え、どういうことだ?」

「…現時点でユーリ様はお兄様の言う覚醒とやらを全く行っていません、今の彼は単なる優秀な人間の冒険者でしか無い。

 奴らが原作とやらの流れに沿って動くならば、ユーリ様に眠る魔族の血の覚醒は必須なのでは?」

「そ、そのために動かないのがおかしいって言うのか? それは…」

「それは私も疑問に思っていた事だ。 原作とやらに固執するつもりなら、奴らの動きが無さ過ぎると…」


 克洋はザンの現状のプランは、滅亡エンドに近い原作の流れを変えるためにユーリでは無く神器に頼ることを知っていた。

 そのため克洋から見れば未覚醒のユーリを放置しているザンの動きは自然なのだが、その裏情報を知らない那由多から見れば不自然でしか無い。

 仮に帳尻を合わせるためにはユーリたちに接触し、仲間の一人でも殺して覚醒の第一歩を進めて置かなければ原作のユーリの状態にはならないだろう。

 那由多はザンたちがユーリの状態を原作に合わせるため、ザンたちが冒険者学校に現れる可能性があると考えて密かに待ち構えていたらしい。

 しかし結果は完全に空振り、この学園にザンは全く関与する事無くユーリたちは存分に学生生活を楽しんだようだ。


「た、多分奴らは次の卒業試験のイベントで、その帳尻を合わせる気なんだよ。 そうだ、そうに違いない…」

「…お兄様、もしかして私に何か隠している事が有りませんか? この一年の間、まるで私を避けるように此処に一度も現れなかったのも不自然ですし…」

「うっ!?」

「もう一度問います、あの魔族について何か隠していることは有りませんか?」


 これも人斬りの勘とでも言うのか、那由多は克洋の不審な態度を感じ取ったようだ。

 流石に隠し事の内容までは分からないだろうが、さり気なく腰の刀に手を伸ばしながら義理の妹は義理の兄に問う。

 こちらを射抜くよう見つめる人斬りの少女の姿、それはこの世界で最初に那由多と出会った時を思い出させる物であった。

 二人の問答から克洋に不信な態度を見出したのか、何時の間にかフリーダとルーベルトもこちらの様子を伺い始めている。

 このまま押し問答を続けていたら、那由多たちのプレッシャーに負けてザンとの密約のことをばらしていたかもしれない。

 しかし幸運なことに、二人の問答を邪魔するかのようにこの場に新たな登場人物が現れたのだ。


「…ああ、ずるいぞ、那由多! 一人だけ兄ちゃんの所に行って!!」

「カツヒロさん!!」

「こらっ、ユーリ!? 勝手に学長室に入っちゃ駄目でしょう…。 す、すいません、大事なお話中に邪魔しちゃって…」


 ユーリとティルを先頭にして、冒険者学校の面々が次々と学長室に乱入して来て克洋たちの前に姿を見せる。

 どうやら一人姿を消した那由多を探した所、学長室で密談を行っていた克洋たちの存在に気付いたらしい。

 流石にユーリたちの前でこれ以上の問答を続ける気は無いらしく、先程までのプレッシャーは何時の間にか消えていた。

 とりあえず危機は去った事を察した克洋は、内申で胸を撫で下ろしながらユーリたちに向けて笑顔を向ける。


「…この話はまた後日に、お兄様」

「お手柔らかに頼むよ、妹よ」


 しかしこちらの内心などお見通しばかりに那由多が小声で、これで話が終わった訳では無いと念押しして来る。

 克洋の笑みはすぐに苦笑いへと代わり、小声で同じように那由多に対して手心を懇願するのだった。


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