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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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7. 来訪者


 恐らく那由多と椿の戦いが終わったあと、ユーリたちと言う同年代の少年・少女たちの交流が行われた事だろう。

 しかし克洋はその交流の輪に混ざることなく、フリーダに手を引っ張られながら学校の学長室まで連行されていた。

 学内で許可なく真剣での決闘を行っていたのだ、保護者の立場である克洋は学園の責任者に文字とおりの責任を取らなければならない。

 学長室で恥も外聞もなく見事な土下座を見せたことと、那由多たちの特異性を学校側が把握していること。

 これらの要素もありとりあえず今回の一件は、ルーベルト学長の温情ということで軽度のペナルティで話が付いた。


「はぁ、良かった…」

「全く、来て早々に騒ぎを起こしよって…。 お前ら来訪者と言う輩はどいつもこいつも…」

「まあ、この話はこれくらいでいいだろう。 さて、克洋くん。 そろそろ本題に入ろうか…」


 克洋がルーベルト・フリーダと言う関係者の元に来た理由は、何も謝罪をするためだけでは無い。

 本題はこの一年の間に行った、神の武具探索を目指して動いていた克洋たちパーティーの活動結果の報告であった。

 大まかな情報は既に文章で伝わっているが、人伝に伝達される文章では報告できない類の話もある。

 特にこの世界の異物と言っていい、克洋の同類である"来訪者"たちの話は出来るだけ極秘にしなければならない。


「…予想通り、この世界には俺と同類と思われる変な連中が何人か現れたそうです。

 奴らはトラブルを引き起こすようで、各街の冒険者組合で話を聞いてみたら結構情報が出てきました」

「ふん、お前たちのような連中がまだまだ居るのか」

「実は椿の奴が仲間になったのも、その連中が思いっきり関係してまして…。 どうも椿のやつは、何人かの来訪者連中に絡まれて辟易していたらしくて…」


 克洋の居た現実世界から"冒険者ユーリ"の世界にやって来た人間は、一年前の時点で数人存在していた。

 この調子ではまだまだ来訪者が存在していると考えるのは当然であり、旅の間に探りを入れてみたらそれらしい情報はすぐに耳に入ったのだ。

 変な服を来た言葉の通じない奴、町中で攻撃魔法をぶちまかした奴、街のルールを無視して無断でマヨネーズと思われる物を売り始め奴。

 そして椿というユーリたちとまた違う特殊な立場なキャラクターに、来訪者が接触しようと思う気持ちは克洋にも嫌々いながら理解できた。


「ただし、その足取りはすぐに消えたらしいです。 ルーベルトさんからの通達で各町の冒険者組合がそれとなく監視していたらしいのですが、ある日を境にそいつらは消えてしまったって…。

 そしてある町で聞いた話では、その街でザンらしき少年の姿を目撃したって話も…」

「あの魔族の少年か、確か前の試験の時もその魔族はお前のお仲間を利用していたなからな…」

「多分、俺たちのような奇妙な力を持つ連中に勝手に動かれるのは、ザンたちに取っても問題なのでしょう。

 その来訪者が利用できそうなら利用する、出来なければ盤面から排除する。 有り得そうな話だと思います」

「ふむ、伝えきくザンという魔族の動きを見れば、信憑性が高い推測だね…」


 推測という形で話しているが、克洋はザンが他の邪魔な来訪者を排除していることを確信していた。

 あの宿屋での邂逅でザンの最終目的が原作と同じ対システムに有ることを知り、ザンはシステムを倒すためには何でもするだろう。

 自分で言うのも何だが幾ら力があろうとも、遊び半分でこの世界に来ている連中がザンの役に立つとは思えない。

 そして役に立たずに邪魔される前に始末を付けることを、あの覚悟を決めている魔族の少年が躊躇うことは無い。

 ユーリたちの周辺だけでなく世界の各所でザンの影が見えた克洋は、改めてあれば原作で人間の世界を手球に取っていた魔族であることを理解して背筋が寒くなるのだった。











 来訪者、克洋のように現実世界より"冒険者ユーリ"の世界にやって来た異物と言うべき存在。

 その殆どは何らかの理由で死亡しており、確認できている中で生き残っている来訪者は克洋を除けば一人しか居ない。

 アーダン、原作におけるユーリの冒険者学校編でのライバルキャラであり、この世界は克洋と同郷らしい人間が彼の体に憑依していると言う。

 一年前に克洋はアーダンと接触して、恩を着せる意味を込めて彼とユーリとの仲を取り持ってやったのだ。

 その借りを返す意味を込めて克洋は、原作を知るアーダンと言う使い勝手の良さそうな駒を使い倒そうと考えていた。

 しかし来訪者の話題の延長でアーダンの近況を聞いた克洋は、自分の予定が大きく狂わされた事を知る。


「へっ、アーダンの奴が自主退学? 何でそんなことに…」

「端的に言えばアーダンと言う生徒は精神崩壊を起こした。 今では以前にあの汚染されたテイマーが入れられた、例の医療施設で面倒を診て貰っているよ」


 克洋の仲介によってユーリと関係を持てるようになったアーダンは、積極的にユーリたちに絡んでいくようになった

 能力的には冒険者学校の同期の中でトップクラスであり、克洋と同じく原作知識を持つアーダンは非常に活躍したそうだ。

 ユーリたちの輪に入ると言うアーダンの中の人が望んでいた夢、しかしそれはある日呆気なく終わりを迎えることになる。


「一体アーダンの奴に何があったんですか?」

「別段、特別なことはしていない。 帰省、奴は自分の家に帰った事で心が病んだらしい」


 全てが変わったのは冒険者学校のスケジュールにおいて、数回発生する長期休暇の時であった。

 長期休暇の時期は一年のカリキュラムの真ん中あたりに設けられる中休み、一年目のカリキュラムが終わって二年目が開始するまでの末休みだ。

 つまり二年制の冒険者学校に入学してから学生たちは、二回の中休みと一回の末休みを取ることなる。

 大半の生徒はこの長期休暇を利用して実家の方に帰省をしており、アーダンもその流れに乗って自分の家に帰ったらしい。


「心が病んだ!? 何で実家に帰っただけで、そんな事が…」

「自己の崩壊。 自分はアーダンなのか、アーダンの体を使っているだけの別人なのか。 それが解らなくなったと言う。

 確かにあれの外見はアーダンという少年の物で間違えない、しかしそれは外見だけの話だ。

 趣味・嗜好・癖・喋り方、ありとあらゆる要素が、彼の家族や使用人から見てアーダンという少年とは異なっていたらしい」


 原作での設定通りアーダンの家は非常に金持ちであり、彼は幼い頃から家族と多数の使用人に囲まれて暮らしてた。

 アーダンの事を幼い頃から知っている者たちは断言した、あれはアーダンの皮を被った別物であると…。

 涙を飲んで冒険者学校に一人送り出した大事な息子が別人になって帰ってくるなど、彼の家の人間に取っては悪夢のような話であろう。

 しかし中身は兎も角としてその姿形は完全にアーダンのそれであるため、その家の人間は表立って今のアーダンを追求でき無かった。

 そんな周囲の余所余所しい態度に当の本人が気付かない筈も無く、やがて彼は自分がアーダンでは無いと思われている事を知った。





 確かにこのアーダンの中身は克洋の同郷の現実世界からやってきた来訪者であり、彼の家の人間たちの認識は間違っていない。

 しかしアーダンは今の自分になってからずっとこの家で過ごして来たのだ、どうして今になって自分が偽物であると周囲が感じるのか。

 アーダンが今のアーダンとしてこの世界で生まれ変わり、物心付いた頃からこの家で家族や使用人と過ごしてきた記憶が確かに存在する。

 その記憶とそぐわない余所余所しい家族や使用人たちの態度に、やがてアーダンは自分自身の存在について疑い始めた。

 一体自分は何者なのか、本当に過去の記憶が偽物であるならば、アーダンになる前の現実世界での記憶でさえも偽りでは無いのか。

 仮に此処でアーダンが身の危険を感じて早々と家から離れていたら話が変わっていただろうが、愚かにもこの男は崩れ始めた自己の記憶に縋って家に残る選択をした。

 そして後に自室で発狂しているアーダンが発見されて、彼はそのまま例の医療施設へと運ばれたらしい。


「ユーリたちにはアーダンは実家の都合で退校したと伝えている。 勘のいい奴は気付いているだろうが、少なくともユーリはこの話を完全に信じているぞ」

「…他人の体に勝手に入り込んで、勝手に自滅したら世話ないですよね。 けど何で今なんですか? あいつは子供の時からずっとアーダンとして過ごしていた筈だ。 あそこは今のあいつの家である筈なのに…」

「否、彼の家の関係者から聞いた話を総合すると、その話は間違っている。 私達の知る今のアーダンと、彼の家の人間が知るアーダンは確かに全く別人と行ってい。 少なくともあれがああなったのは、冒険者学校に足を踏み入れてからだな…」

「…つまり、あいつはこの世界で生まれ変わったと思い込まされていただけだと? 実際にあいつがあいつになったのは、冒険者学校に入った頃から…」

「全く、来訪者と言うのは何なんだろうな…」


 幸か不幸か今のアーダンは冒険者学校に入ってから、二年目の中休みまで実家に帰る事が無かった。

 一年目の中休みは冒険者学校に残ったユーリたちと仲良くなる機会を伺うため、アーダンも学校に残ったものの結局は上手く行かなかったそうだ。

 末休みは例のザン一派襲撃の余波で休みなど吹っ飛んでしまい、学校に残らざるを得なかった。

 そして念願のユーリと関係を結んだことで落ち着けたアーダンは、二年目の中休みの時期に漸く実家に帰る気になる。

 自分が生まれ育った我が家に、否、そう思い込まされているだけの死地へと向かい、そしてアーダンは壊れてしまう。

 怒りや呆れなどの様々な感情が含まれていそうな、フリーダの来訪者と言う存在に対する疑問は克洋に取っての疑問でもあった。

 来訪者、"冒険者ユーリ"の世界にやって来た異物、自分たちは一体何のためにこの世界へ寄越されたのか。

 克洋は自分自身の存在を確かめるかのように、痛いほど強く拳を握りしめていた。



ちゃんと二年目編を書いていたらユーリたちと一緒に冒険するアーダンの話もあったのですが、

二年目編の話を省略した関係で描写無くアーダンが退場です…。

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