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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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6. 東の国



 冒険者学校で二人の少女剣客が刃を交える。

 美しい軌道を描いて振られる刀の剣閃がぶつかり合い、まるで金属楽器を叩いているかのように甲高い音を立てる。

 日光に煌めく刀を振りながら動き回るその姿は、まるで二人の少女が舞っているようであった。

 本気に近い那由多とそれを真正面から受け止めている椿、克洋は二人の少女の舞に目を奪われてしまっていた。


「うわっ、はえぇ!? 凄いな、あいつ。 那由多とまともにやりあっているぜ」

「…えっ、ユーリ!? いつの間に?」

「久しぶり、兄ちゃん。 近くでこんな派手に戦っていたら、嫌でも気付くよ」


 二人の戦いに夢中になっていた克洋は、何時の間にか自分の周りに人が増えていることに気付いた。

 まだ同年代の男子と比べて小柄ではあるが、一年の成長がはっきりと見て取れたこの世界の主人公ユーリ。

 そしてユーリの周囲にはレジィ、ローラ、アンナ、などのメンバーが克洋の近くに来ているでは無いか。

 学園の敷地内で堂々と戦っていたのだ、よく考えてみれば学内の人間に見付からない方がおかしい。

 何処からこの真っ昼間の決闘の気配を察知して駆けつけたユーリたちは、同世代が繰り広げる高レベルな戦いを見逃すまいと眼の前の戦いに集中していた。


「お、お久しぶりです、カツヒロさん。 元気でしたか、怪我とかしてないですよね!!」

「お兄さん、来てたんだー! ねぇ、たつおも来ているのかな? あいつも大きくなったかなー」

「ティルにメリアか? あ、ああ、元気だ元気。 大丈夫だから、ティルも少し落ち着けって…。

 たつおは厩舎に預けているよ、後で会いに行ってやれ」


 ユーリに付いてきたティルとメリアは、那由多たちの戦いを素通りして克洋に話しかけてきた。

 何処か緊張した表情で話しかけてきたティル、それとは対象的に昨日も会っていたかのような気軽な感じを見せるメリア。

 特に未だに魔力パスが繋がっているティルからは、二人の距離が近づいた事で少女の感情が克洋へダイレクトに伝わってしまう。

 自分と久しぶりに再開したことへの喜びと不安が入り混じった思いなど感じてもどうしようも無く、克洋はティルの感情の揺れを収めようと試みた。

 しかし想い人と再開した恋する乙女の心臓は高鳴りを増すばかりで、それを嫌でも感じててしまう克洋は一種の拷問を受けているようであった。


「…那由多と戦っているのは、報告にあった東の国の剣士か?

 保護者としての監督責任不行き届きだな、克洋」

「フリーダさんまで…。 俺にあいつらの手綱を握るのは無理ですよ…」

「片方はお前の妹、片方はお前のパーティーのメンバーだ、どちらもお前に責任はあるさ。

 だから暫くしても終わらないようなら、お前が責任を持って止めろよ」

「そ、そんな…」


 幸か不幸かティルから流れ込む感情はフリーダからの無茶振りによって、そんな事を気にしてられない状況になってしまう。

 確かに実情は兎も角、対外的には那由多と椿はどちらも克洋の監督下にある立場であった。

 神の武具を探索するために結成したパーティーのリーダーは、一応は克洋ということで冒険者組合に報告している。

 そして兄妹であるという事になっているため、兄として妹の面倒を見るのは至極当然な事だろう。

 しかしだからと言って楽しそうに剣を交えている二人の戦いを止めよう物ならば、下手をすれば邪魔とばかりに切り捨てられるかもしれない。

 克洋は自分の介入が発生しないためにも、さっさとどちらかが負けてくれることを心底願うのだった。











 基本的に"冒険者ユーリ"の世界での武術という奴は、対魔物を想定した代物になっている。

 魔物、特にシステムによって対人間用に調整された新製種が身近か存在である人類に取って、対魔物の取り組みは不可欠だった。

 そして一部の例外を除けば、魔物は強大になればなるほどにその体格が大きくなる物だ。

 人の魔力を取り込んで成長するになっている新製種なので、取り込んだ魔力の量によって体が肥大化するのだろう。

 巨大で強大な魔物をも打ち倒すため、この世界での技というものはどうしても威力を重視した大雑把な代物になってしまう。

 しかし東の国、現実世界での過去の日本を思わせる独自の文化を持つ島国ではこの法則に当てはまらなかった。


「東の国、私達の居る大陸から遥か東にある列島国家。 この地域には私たちの住む大陸とは大きな違いがあるの。

 ユーリ、東の国は私達の住む大陸と違って、大きい魔物が殆ど出ないのよ」

「えっ、なんでだよ?」

「理由は分かってない。 家の大陸が魔物を大きくしやすい地形なのか、あっちの島国が逆に魔物が育ちにくい環境なのか…

 兎に角、東の国ではデカブツの魔物が殆ど居ない、だから俺達のように対魔物に特化した戦い方を身につける必要が無かった」

「もう、ユーリ。 この話は少し前の授業でやったでしょうに…」

「けれども魔物と戦わなくていいなら、強くなる必要は無いじゃないか。 それならなんで東の国の人間が、あの那由多と互角にやり合っているんだ?」


 冒険者学校のカリキュラムの一環として、この世界での歴史についての授業も行っていたらしい。

 そのキャラクター通り座学が苦手らしいユーリは覚えてないようだが、優等生のアンナたちはしっかりと学習していた。

 魔物の脅威度が低い東の国は、ユーリたちの大陸とは異なり対魔物に特化した武術を磨く必要は無かった。

 しかしだからと言ってかの国は武器を持たない平和主義者たちの集まりなどでは無く、その逆の修羅の国と称する方が正しい危ない国なのである。


「…東の国は、大昔に魔族に襲われて壊滅寸前になったんだ。 それ以来、あの国の人間は過去の借りを返そうと、対魔族に特化した技を磨いたのさ」

「魔族、俺の村を襲ったあいつらと戦うための技…?」

「魔族、強大な力を持ちながらその体格はあくまで人相応の異形。 それに対する剣が通じて、対人に優れた技となったのだな」


 人類を定期的に間引くことで文明の停滞、引いては世界の存続を望むシステムに取って東の国は優先度の低い場所であった。

 やはり土地が大きい所に人が集まるものであり、この世界の人口の8割はユーリたちの居るこの大陸に集中している。

 それ故に人口を減らすためにはこの大陸で暴れ回るのが一番効率がよく、人間の魔族との戦いにおいて東の国が主戦場から外れることが多かった。

 しかしシステムの魔の手から逃れ続けたことで人口が増加すれば、それを完治したシステムは容赦なく魔族を向かわせる。

 そして魔族の強大な力の前に為す術がなく敗れ去り、人口が半分になるほどに深い傷を負った東の国は魔族に対する復讐を誓った。

 二度と彼奴らに故国を荒らされないために、かの国では総力を上げて対魔族に特化した武術を身につけて行った。

 ある意味で原作を外れてザンと敵対する道を行った今の那由多は、東の国の人間としては正しい道を選んだと言っていい。






 大陸での主流な剣術、対魔物に特化した剣を収めたローラと対人に特化した那由多の相性は最悪と言っていい。

 それに対して東の国で主流の剣術、人形の魔物とも言える対魔族に特化した剣を収める椿が那由多と噛み合うのは当然の事であろう。

 その中身が人間とは別次元のスペックを持つ存在とは言え、人の形をした存在である魔族に対する剣が人間相手にも確かに通用する。

 しかし椿のそれはあくまで人間相手でもある程度は応用出来る程度の物であり、決して対人間に特化している訳では無い。

 実際に椿の振るう剣は魔族の障壁を破る事を目的としており、人間相手ではオーバーキルと言える非常に強力な物であった。

 人を切ることを主眼におくことで過剰な力を捨てた限りに、その代わりに精密さと効率を重視した那由多の剣と比べればどうしても一手遅れてしまう。


「決着、か…。 やっぱり予想通りの結果になったなー。

 対魔族、確かに椿の剣は東の国のまっとうなそれだ…。 けれども那由多のそれは…」

「…方向性の違いか。 両者が完全に同じ土俵で戦えれば、もう少し勝負は分からなかったんだがな…」


 克洋の決死の介入は行われることなく、東の国から来た二人の剣客少女の戦いは予想外に早く決着を迎えた。

 一人は獲物である刀を弾き飛ばされてしまい、一人は無手となった相手の喉元に刀を突きつけている。

 無手となった男物の着物を纏う少女、未だに剣を手に持つ艶やかな女物の着物を着る少女、勝敗は誰の目から見てもはっきりしていた。

 互いに真剣を使う戦いで互いに無傷のまま勝負を付けたのだ、互角のようで有りながらの両者の差は明らかだろう。

 対魔族に特化した東の国の理念から外れ、対人という邪道へと進んでいった東の国でも異端の流派。

 その流派の最後の使い手であり、一族の人間を全て斬り殺したことによって"殺人姫"の異名を持った少女、那由多。

 彼女を相手に人として正面から斬り合い、それを上回ることは今の椿では荷が重かったらしい。

 あれに勝つには原作でローラがやったように、如何に人対人という戦いの構図から離れるかに掛かっている。

 魔族に対する術理を捨てたが故に那由多は、魔族であるザンや最終的に魔族相当の障壁を身に着けた原作のローラに破れたのだから…。



次は来週の土日になります。

更新停止中に脳内で話を捏ねくり回していたんで、今のところは調子よく書けててますね。


では。

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