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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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5. 剣客少女


 この世界での一般的な移動方法は徒歩、もしくは現実世界で馬に相当する生物を使用した馬車などになる。

 ファンタジー世界らしく空を飛ぶ魔物による移動方法もあるにはあるが、それらは非常に高額で一部の金持ちしか利用できない代物である。

 空を飛ぶ魔物は数あれども人を載せて飛べるほどの力を持つ魔物は希少であり、必然的にその価値は高くなってしまうのだ。

 しかし克洋にはたつおと言う希少な移動手段が手元にあり、財布を気にすることなく自由に空の旅を行うことが出来た。

 普通なら1~2周間は掛かる距離も、たつおに乗れば僅か数日足らずで到着することになる。


「すいません、こいつをお願いします…」

「はっはっは、任せておけよ。 これがあのチビ助だったドラゴンから、大きくなったなー」

「ギャウ!!」


 冒険者学校の入り口までやってきた克洋は、学校内に設置された厩舎へとたつおを預けていた。

 克洋が両腕で持ち上げられた一年前のサイズならまだしも、流石に馬相当のサイズになったたつおを施設内に入れるわけにはいかないのだ。

 厩舎には生徒たちが持ち込んだ動物が魔物たちが集められており、外来の客も此処に連れてきた動物や魔物を預けることになる。

 厩舎の管理人は一年前に克洋が連れてきた小さい頃のたつおを覚えており、立派に成長したドラゴンの姿に笑みを浮かべていた。

 たつおと別れた克洋は此処に赴任している筈のフリーダのところに顔を出すため、広大な敷地を持つ学内を歩いていく。

 しかしその道中の事である、学内の建物とへと続いている舗装された広い道を歩いていた克洋は何かに気付く、

 それは何やら覚えの有る物騒な気配であり、次の瞬間に克洋は自らの意思で転移魔法(テレポート)を発動させていた。


「…なっ!? 危ねぇ!?」

「…あら、少し反応が良くなりましたね」


 先程立っていた場所から数メートル離れた場所に跳んだ克洋、そして先程まで居た空間を切り裂く剣閃が走る。

 克洋の視線の先、そこには一年前と比べて余り成長を感じさせない着物姿の少女があるでは無いか。

 那由多(なゆた)、この世界に来た克洋が初めて出会った人斬りであり、何故か彼の妹という事になっている少女だ。

 恐らく那由多は挨拶代わりに克洋をワンキルして、克洋の持つ即死攻撃を自動で回避する能力を発動させたかったのだろう。

 その反応から克洋がいち早く自分の奇襲を察知して、自分で回避を選んだことを知った那由多は不思議そうに一年ぶりに再開する自称兄の顔を見やる。


「お前、何で俺が来ることを…」

「虫の知らせという奴ですよ。 折角ですから、お兄様の成長を見定めようと思いまして…。

 では、久し振り稽古といきましょうか」


 電話などの便利な物の無いファンタジーの世界で日時を正確に指定した待ち合わせなど不可能に近く、精々この辺りの日に着くなどと言う大雑把な約束が精々である。

 一応は通信魔法と言う代物によって重要な情報ならば一瞬で広まるが、逆にそれ以外の情報に関してはお察しという所だ。

 そのため克洋がこの日・この時間に来ることを知らない筈なのに、この底知れぬ妹様はまるで分かっていたかのように克洋を待ち構えていたらしい。

 那由多は以前にフリーダの住処の時のように稽古と称して、無造作に真剣を振るってくるでは無いか。

 それに対して克洋は慌てて魔族の村で入手した刀を抜き、この世界において対人最強クラスの危険な少女と向かい合う。


「うわっ!? くっ、くっ…」

「ふむ、先程の反応といい、予想していたより上達していますね。 ま、今日の所はこのくらいにしておきましょう」

「うわっ!?」


 下手に転移魔法(テレポート)で逃げたら後で何をされるか分からないので、克洋は若干涙目になりながら那由多の剣舞を凌いでいく。

 毎日目の前の少女に何回も殺され掛けた経験から、相変わらず殺気を読むことに関しては卓越している克洋は次々と襲いかかる那由多の剣を辛うじて凌いでいた。

 別に天才でも何でもない克洋が僅か一年で那由多に追いつける筈も無く、その剣裁きは達人から見れば拙い物であろう。

 しかし一年前と比べたらそれなりに成長の後が見え、克洋がこの一年遊んでいた訳では無いことは察せされた。

 最後に少し本気を出した那由多が克洋の首元に剣を通し、本日一回目の自動回避を発動させたことで本日の稽古は終了となるのだった。











 時間にしたら僅か数分足らずのやり取りであろうが、数分とは言え那由多と相手をするのは非常に消耗させられる。

 最初の頃のように数合も持たずに殺されていた頃と比べて、ある程度は反応できるようになった事が逆に疲れる原因なのだろう。

 克洋は地面に寝そべりたい誘惑を堪えながら、漸くまともに妹となっている少女と言葉を交わし始める。


「くっ、きつい…。 お前は相変わらずだな、妹よ…」

「…お兄様の方も、その様子なら問題なさそうですね。 どうやら私が居ない間も、随分と精進したようですが…」

「ああ、丁度いい稽古相手が居てな。 この一年、毎日あいつに扱かれた結果さ…」

「…もしかしてそれは、そこで隠れている人の事ですか?」

「ふっ、気付いていたか…、流石は噂に聞く殺人姫でござるな…」

「へっ? お、お前は…、椿!?」


 克洋の予想外の成長、その影には那由多の代わりに彼の剣を鍛えていた人物が居た事にあった。

 そしてその人物とは何を隠そう、数日前に神の神殿で克洋に置いてかれたあの東の国出身の武芸者である。

 先程までの克洋と那由多の稽古を伺うことが出来る木の陰から、本来は居るはずも無い人物が出てきた事に克洋は驚愕の声を上げた。

 那由多の言葉が事実であればどうやら椿は、先程までの克洋と那由多のやり取りを密かに伺っていたらしい。

 前述の通り、神の神殿がある場所からこの冒険者学校までは普通であれば1週間以上は掛かる距離が存在していた。

 克洋に置いてかれた後に追ったとしても、椿がこのタイミングで此処に到着する筈は無いのだ。


「お前、何で此処に…。 数日前までは、アルフォンスたちと一緒に神の神殿に居た筈なのに…」

「空の旅がお主の専売特許という訳では無い。 あれからすぐに近くの街に赴き、飛竜を手配したまでの事」

「おいおい、本気かよ!? 飛竜を飛ばすのにどれだけ掛かるか知っているのか、よくそんな金があったな…」

「金なら以前にお主から支払われた、報奨金とやらがあったでござる。 お蔭で一文無しになったが、別に問題なし!!」

「問題おおありだっ!? それって神の神殿を発見した時、パーティーメンバーに配ったクエスト成功の報奨金の事だろう?

 相変わらず金に頓着しないな、この武芸者様は…」


 普通の方法であれば間に合わない、そのために椿は普通では無い方法で克洋に追いついたらしい。

 これまた前述の通り、この世界の移動手段には予算さえあれば空の旅という選択肢もあった。

 どうやらこの東の国の武芸者は手持ちの金を全て費やしてまでして、克洋に追いついてきたと言う。

 まだ子供であるたつおと、それを専門としている飛竜とでは移動速度に差が出るのは当然である。

 近くの街まの移動時間という時間ロスを飛竜の速度が帳消ししたことで、椿は無事に克洋に追いつくことに成功したようだ。


「お兄様、この御方は…」

「椿、一応は俺のパーティーのメンバーだよ」

「そして貴様の兄の師でも有る! 殺人姫…、否、那由多でござるな。

 東の国で名高いお主の腕に興味がある、拙者とも稽古を付けてくれぬか?」


 そもそもこの武芸者の少女が克洋のパーティーに加わった最大の理由は、克洋の妹と言う事になっている那由多の存在にあった。

 自らの剣の腕を鍛えるために旅を続ける椿に取って、強敵との手合わせは最大の喜びである。

 それ故にふとした偶然から克洋と出会い、彼から那由多の存在を知った椿はこの瞬間を待ち望んでいた。

 金はその日の食事が取れる程度あれば十分であり、周囲の雑音などはこれまで気にしたことすらない。

 ただ強くありたい、金も名誉も興味がない武芸者の唯一求めるものは最強足る自分の姿だけであった。


「ふふふ、私は嬉しいですよ、お兄様。 まさかこんなご馳走を持ってきてくれるなんて…」

「うん、多分君たちは、凄く話が合うと思ったんだ…。 じゃ、じゃあ後はご自由に…」


 そして強者との死闘を求めて、ボタンが食い違っていれば人類の天敵である魔族と組むことも有りえた人斬りの少女。

 眼の前で剣を構える武芸者は自分と同類の存在であり、そんな彼女の事を那由多が気に入らない筈もない。

 稽古と口に出しながらも絶対に稽古で終わらない事を察しながら、自分の身の可愛さに克洋はいそいそと二人の少女から距離を取る。

 二人の呼吸があった瞬間、東の国からやって来た少女剣客たちの剣が冒険者学校の敷地で交差した。



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