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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第二章 システムとアーカイブ編
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4. 課題


 神の武具は神話の時代、システムと同時期に古代人の手によって作り出された物であることが"冒険者ユーリ"の作中に示唆されていた。

 システムと神の武具は性能や用途の差異はあれど、同レベルの技術によって作られた存在なのである。

 原作では神の武具は現代において全て失われているとあった、しかし現実に此処に神の剣と神の書が揃っている。

 それならば残りの武具も現存している可能性は否定出来ず、仮にこれを揃えられれば非常に大きな戦力になるだろう。

 しかし幾ら戦力をかき集めたとしても、システムとの最終決戦に関して一つの大きな問題が残っていた。


「…そこまで考えているなら、システムの本拠地はもう分かったのか? 仮に神の武具が揃えられても、今のままだと消耗戦にしかならないんじゃ…」

「そこがもう一つの懸念事項だ。 君の言う原作とやらと同じように、延々と雑魚の相手をしていては世界が大きく疲弊してしまう」


 システムと呼ばれる存在は、大きく二種類存在する。

 一つは端末、システムの手足となって働く存在であり、これが幾ら破壊されてもシステム本体が傷つくことは無い。

 一つはマザー、システムの頭脳であり、この存在を破壊しなければシステムを滅ぼしたと言えないだろう。

 原作の終盤、魔族による人類の間引きを諦めたシステムは、自身の端末を世界中にばらまいて自ら間引きを初めた。

 それらの端末に対して人類と魔族が協力して対抗し、必死に襲い来る端末に抗ったのだ。

 ちなみに端末の外見は神器と同等の、ファンタジー世界に喧嘩を売っているような金属の体を持つロボット軍団だ。

 この事からも巨大ロボットを呼び出せる神の武具とシステムが、同時代に作り出された存在である事が察せられるだろう。


「人類と魔族の予想外の抵抗に業を煮やしたシステムのマザーが、満を持して表舞台に上がってきた。

 その大ボスを倒して一応原作はエンディングを迎えたが、既にその時点で世界はシステムの端末によってボロボロになっていたからな…」

「残念ながらシステムの本体の居場所については、原作とやらには明記されていないようだからね。 世界へのダメージを最小限にするには、こちらからシステムの本体を襲撃しなければ話にならない」


 前述の通り、幾ら端末を破壊してもシステムの本体は無傷であり、マザーは決して表に姿を見せることない。

 "冒険者ユーリ"の原作では最終的にマザーが自分から出てきてくれたが、仮にマザーが引き篭もりを続けていたらユーリたちの世界は滅んでいただろう。

 否、システムの存在理由からして、滅びる一歩手前で止められると考えるのが妥当か。

 原作のビターエンドを超えるハッピーエンドを目指すならば、世界中に現れるシステムの端末たちとの総力戦なんて絶対に回避しなければならない。


「…この話は暗黒大陸の勇者様と魔王様には伝えたのか?」

「悪いけど姉さんたちには囮になって貰った方が都合がいいからね、システムの目を欺くための戦いだ。 決して無駄では無いさ…」


 システムの大本、マザーと呼ばれる存在は世界の何処かに引き篭もっている状況である。

 それならば現在、暗黒大陸でユーリの両親を含む者たちが戦っている物は何だと言うのか。

 その正体はシステムのダミー、本体であるマザーを隠すためにシステムが作り出した偽装本体である。

 魔族たちは人類間引きを命じるシステムの指示をこの偽装本体から受けており、それがシステムの本体そのものであると誤認していた。

 そのため勇者と魔王はこの偽装本体に決戦を挑んでおり、原作では後にユーリと合流して親子の力を合わせてそれを撃破して見せた。

 リアルタイムで"冒険者ユーリ"の原作を追っていた読者は、ラスボスだと思ったら実は偽物でしたという展開に大きなショックを受けたことだろう。

 確かにシステムからこちらの目を逸らすには、ユーリの両親たちと偽装本体との戦いを続けて貰った方が無難だとは思う。

 事実、克洋を通して同等の情報を知るフリーダたちも、同じ判断を下して勇者たちにこの情報を伝えていない。

 しかし実の姉を騙している事は気が引けるのか、何処か苦い顔を浮かべるザンの姿に克洋は何も言うことは出来なかった。





 ザンとの話を通して、この魔族の少年が克洋と同じく"冒険者ユーリ"の原作情報を元に動いていることは分かった。

 実際、ザンの行動は克洋自身が対システムために考えていた道筋と近い物がある。

 しかし克洋には一つの懸念が有り、これを確認しないでザンと協力を結ぶことが出来なかった。


「…キマイラの件はどうした? 神の武具さえ揃えられれば、あんな物に頼らなくても…」

「戦力は幾らでも必要だろう? あれを揃えられれば、システムの雑魚程度の相手には十分に使える」

「メリアの村の住人を使う気か?」

「安心したまえ、それは最後の手段だよ。 僕も同族を犠牲にすることは避けたい…」


 原作でのザンの暗躍の一つ、人造魔物キマイラの製造。

 ザンは対システム用の戦力としてキマイラの研究を支援していたが、それはこの世界においても変わらないらしい。

 原作と異なる動きをしたとは言え、あくまでザンの最終目的はシステムの打倒であることは変わらない。

 恐らくそのためにはどんな手段も厭わないだろうし、実際に原作のザンは実際にそのようにした。

 同族である魔族が住むメリアの村を人に襲わせるように仕向け、その上でその住人たちをキマイラの材料にするという卑劣な行為を…。

 魔族を材料にした新型のキマイラは確かに凄まじい性能を発揮してユーリたちを追い詰めたが、幾らなんでもそんな外道な真似を見逃せる筈も無い。

 一応はメリアの村の住民は巻き込む気がなさそうなので、克洋は渋々とキマイラの一件に関して納得を見せる。


「…俺に何をさせたいんだ? 神の書が目的なら、問答無用で俺を殺せば済む筈だからな」

「僕の当面の目的は残りの神の武具、神の斧と神の弓の回収にある。 しかし僕は色々と多忙な身だ、流石に宝探しに掛かり切りになれない。 並行してシステムの本体を探す必要もあるしね…」

「…俺にも神の武具探しをやれって言うのかよ?」

「期限は一年、来年の冒険者学校卒業試験の日だ。 その時までに神の武具が全て揃えば、僕も今のような小細工をする必要はなくなる。

 しかし神の武具が揃わなかった場合は…、次善策に出るしか無いかな」

「っ!?」


 次善策、神の武具を使わずにシステムを倒す手段など、ユーリの魔人化という原作ルートに進むしかない。

 どうやらザンが原作の大筋を変えることなく動いている理由は、セカンドプラントして原作に沿った道に方向転換出来るようするつもりらしい。

 現在のユーリは原作の覚醒イベントを殆ど消化していなく、あくまで人間の冒険者としての範疇を超えていない。

 しかし原作のようにユーリを意図的に追い込めば、荒療治であろうが原作のように人と魔の力に覚醒させることは可能だろう。


「それでは僕は失礼するよ、次に会うのは一年後かな…。 良い成果を期待するよ」

「待て、おい…。 消えた…、くそっ!!」


 そして克洋に対して好き勝手話した後、ザンは返事を聞くことなく一方的に姿を消してしまった。

 慌ててザンの居た場所に手を伸ばして見ても空を切るだけで、そこに既にあの魔族の少年の姿は見つからない。

 もしかしたら初めからザンは此処に居らず、魔法の力で自身の映し身を投影していただけかもしれない。

 一人宿屋の一室に残された克洋は、苛立ちの余りに部屋の中に置かれたベッドに全力で八つ当たりをするのだった。











 元々、ユーリたちが冒険者学校の二年目の生活を進めている間、克洋は一年目の時のように別行動をするつもりではあった。

 そして別行動中に何をするかについて、選択肢の中には神の書以外の神の武具の探索も候補に上がっていた。

 ザンとの密会し、その思惑を知った克洋が神の武具探索をする以外に道は無いだろう。

 そして克洋はフリーダを通して接触した考古学者シャンと共に神の武具探索に明け暮れ、結果的に伝説の存在でしか無かった風の神殿の攻略に成功したのである。


「…確かに俺は失敗した、神の武具が二振りだけではシステム相手に足りないかもしれない。

 それでも俺は、ユーリを犠牲にする方法は…」


 一方的に突きつけられた要求であるが、それはユーリを犠牲を回避出来る克洋が求めていた方法でもあった。

 しかし幾ら悔いても克洋が神の武具探索に失敗したことは事実であり、それを知ったザンがどのような手段に出るか分かった物では無い。

 克洋は自らの失敗が生み出すであろう結果を、ザン一派との三度目の直接対決と言う未来を予期するのだった。


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