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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第一章 冒険者学校一年目編
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30. 残された者たち


 ツインテールをしたそばかす少女アンナ、小柄な身長に反する豊満な胸を持つ金髪の少女ティル、髪をゆるい三つ編みにまとめている浅黒い肌の少女メリア。

 これに黒髪に着物姿の少女那由多を加えた四名が、今回の進級試験のパーティーメンバーである。

 来年度から冒険者学校二年目に編入する予定のメリアが、飛び入りで試験に参加すると言う思わぬ展開もあった。

 しかしアンナが事前にこの周辺の地理に頭に叩き込むなどの準備が功を奏し、試験の方は特にトラブルも無く順調に進んでいたのだ。

 旅慣れている那由多に山育ちであるメリアやアンナが、余り山道に慣れていないティルをフォローする事でこのパーティーは淀み無く目的地まで向かっていた。

 つい数十分ほど少し前までは…


「那由多、帰ってこないね…」

「ねぇ、僕達だけで先に行った方が良くない?」

「駄目よ、私達が動いたら完全に那由多と逸れるわよ!!」


 しかし現在、どういう訳かこのパーティーは何もない山の中で足を止めていた。

 樹齢百年は言っているであろう大木の近く寄りかかりながら、この急造パーティーは何やら揉めている様子だ。

 よく見れば大木の近くに居るのは三人だけであり、四人パーティーの内一人がかけているでは無いか。

 実は先程このパーティーの一員であった那由多がつい先程、他のメンバーを置いて何処かへと走り去ってしまったのだ。

 那由多が消える直前に何かが爆発したような音が聞こえてきており、どうやら彼女はその方角に向かったらしい。

 去り際に一時間経っても戻らなければ下山しろと言い残し、那由多はアンナたちの声を振り切って姿を消してしまう。

 そして残されたパーティーは仕方なく那由多と別れた地点に残り、仲間の帰りを舞っている状態なのだ。


「ねぇ、そろそろ下山した方が良くない? 多分、さっきの声って魔物の物だよね?」

「結構な数の魔物が同時に吠えたみたいだけど、僕達が居る場所の近くからも聞こえてきたよね。

 ティルの言うとおり、此処に残っていたらあの声の主が来ちゃうかも…」

「…もう少し待ちましょう。 まだ一時間は経ってないわ…」

「アンナ…」


 先程このパーティーの耳に、魔物が出したと思われる恐ろしい咆哮が聞こえてきた。

 あの何処からか聞こえてきた爆発音といい、この近くで何か良からぬことが起きているのは明白だった。

 ティルの言う通り見の安全を確保するならば、一刻も早くこの場を離れるために下山するのが一番だろう。

 しかし仮にこれがただの杞憂であり、進級試験が平常通りに行われてしまったらどうなるか。

 最悪、下山したアンナたちは試験を放棄したとみなされ、冒険者学校二年目への進級を許されないかもしれない。

 規格外の魔力を持つティル、ルーベルトと互角に渡り合った那由多、魔法拳と言う無二の技を持つメリア。

 彼女たちのような才ある人間であれば、例えどんな事があろうとも進級できない事は無いだろう。

 しかし何の才も無いアンナは自分が進級出来るかどうかのギリギリのラインに居ると認識しており、此処で試験を放棄する選択を取ることが出来なかったのだ

 アンナは那由多の去り際の言葉を盾に危険な状況を見て見ぬふりをして、試験を放棄する選択を先延ばしにしていた。











 那由多がパーティーを離れてから暫く経ち、仲間の帰りを待っているアンナたちは何かがこちらに近付いてくる気配に気付いた。

 草木を踏み潰して近付いてくるそれを、このパーティーは素直に那由多の帰ってきたと考える。

 仲間の帰還に残ったパーティーメンバーは互いに顔をみやり、彼女たちは自然と久しぶりの笑みを作っていた。

 那由多を出迎えるために近付いてくる気配の方に目を向けるが、そこで彼女たちはある違和感に気付き再び表情を曇らせてしまう。

 もしこの場に那由多が戻ってくるのならば、彼女は自分たちに詫びの一つでも口に出しながら現れるに違いない。

 少なくとも那由多が無言で近付いてくる事はしない筈だ、しかしそれは一言も発する事無くこちらに近付いてくる。

 それが那由多で無いと察したアンナたちは、直ちに警戒体制を取りそれを待ち構えた。

 そして木々を掻い潜って現れたそれは、彼女たちの予想通り那由多とは全く異なる怪物だったのだ。


「嘘っ、何よあれ…」

「…魔物なんだよね?」

「うげっ、気持ち悪い!?」

「グラァァァッ!!」


 複数の魔物を組み合わせて作られた人造の魔物、キマイラ。

 ザンがこの進級試験の会場に放った内の一体が、偶然このパーティーの元に姿を表したらしい。

 魔物のパーツを継ぎ接ぎした異様な姿に、この場に居る少女たちは皆嫌悪感を示す。

 そんな少女たちの前に現れたキマイラは、先ほどと同じ咆哮を少女たちに向けて放った。






 明らかに敵意を持った魔物が現れ、那由多の帰還を待っている彼女たちはこの場を離れる選択を取ることは出来ない。

 加えて圧倒的に経験値が少ないこのパーティーは、中堅レベルの冒険者すら食い物にするキマイラの実力を見抜けなかった。

 そのためこのパーティーのメンバーは、身の危険を守るために魔物を排除する方向に動き始めた。

 先手を取ったのはメリア、魔力による肉体強化を行った彼女がキマイラに向かって突貫する。

 そしてメリアをサポートするためにアンナが、キマイラに向かって攻撃魔法を発動しようと構えた。


「メリア、合わせて! 魔法弾(マジックショット)!!」

「グルッ?」

「へへへ、隙ありっと!!」


 咄嗟に放ったアンナの攻撃魔法は精神集中が不十分だった事もあり、威力自体は殆ど無い物だった。

 しかし幾ら豆鉄砲とは言え、自分の顔に向かって魔力弾が飛び込んできたら自然とそちらに意識を集中してしまう。

 そしてキマイラがアンナの魔力弾に意識を向けている隙に、木々を掻い潜ってメリアが右方が迫っていた。

 後衛型の冒険者がサポートし、そのサポートを受けながら前衛型の冒険者が魔物に近寄る。

 冒険者のパーティーが取る基本的な戦法にまんまと嵌ったキマイラは、迂闊にもメリアの接近を許してしまう。

 キマイラまで近寄ったメリアはそのまま、彼女の得意技である魔法拳をキマイラに向けて繰り出した。


「うわっ、固いっ!? 何だよ、この魔物は…」

「メリア、逃げて!?」

「えっ、うわぁぁぁぁっ!? 何だよ、この尻尾は…」


 肉体強化された打撃、それと同時に拳から放たれる攻撃魔法の一撃。

 ティルの障壁魔法を一撃で砕いたメリアの魔法拳は、並の魔物であればとても耐えられないだろう。

 しかし残念ながら今メリアが相手にしている魔物は、幾多の魔物の長所を備えるキマイラと言う名の怪物。

 キマイラの皮膚は強固なドラゴンの皮膚がしようされており、並大抵な攻撃ではびくともしないだ。

 メリアは魔法拳を放った感触から、自分の攻撃が相手に全く効いていない事に困惑して一瞬棒立ちになってしまう。

 そしてメリアが見せた油断をキマイラは見逃すことはせず、次の瞬間に触手状になっているその尾をメリアに向けたのだ。

 哀れにもメリアは何時かのルリスのように、触手状の尾に拘束されて身動きを封じられてしまう。


「メリア、今助けに…」

「駄目、あれは…」

「グラァァァァ!!」

「いやぁっ!?」


 仲間が魔物が拘束された事を受けて、残ったパーティーメンバーは直ちにメリアを救おうとする。

 しかしアンナたちがキマイラに何かする前に、キマイラがアンナたち向かって行動する方が早かった。

 キマイラはアンナたちの方に顔を向け、鋭い牙を生やしたその口を開いてみせる。

 そのキマイラの動きを見たアンナは、それが竜種が見せるある行動の予備動作であることを察した。

 次にキマイラの行う行動が読めたアンナは、メリアを助けようとキマイラの方へ向かおうとするティルの手を掴んだ。

 そしてティルと共にその場から横っ飛びをした瞬間、先程自分たちが居た地点へ巨大な火球が飛んできたでは無いか。

 間一髪でキマイラのドラゴンブレスを避けられたアンナたちは、此処で漸くキマイラの実力を思い知ったのだろう。

 強力な魔物を相対した恐怖に、アンナとティルは共に絶望を感じていた。






 キマイラの尾に拘束されているメリアは、身動きの取れないまま地面に転がされていた。

 勿論メリアが大人しく捕まり続けているわ訳も無く、体の自由を取り戻そうと必死に藻掻いていた。

 しかし手足と体を尾で縛られているメリアに出来ることと言えば、体全体を芋虫のように揺らすだけである。

 そんな事でキマイラの尾が外れるわけも無く、逆にメリアの行動は自分の首を締める結果になった。

 その無駄な行動によってキマイラはドラゴンブレスの威力に呆然とするアンナたちから、メリアへと興味を移してしまったのだ。


「くっそー、離せよ!!」

「グルゥ!?」

「うわっ、来るなぁぁぁ!!」


 どうやらキマイラは戦意喪失したアンナたちより先に、一先ず五月蝿い獲物を始末しようと考えたらしい。

 器用に複数ある触手状の尾を操作して、キマイラはメリアの体を自分の前へと持ってくる。

 メリアは唯一自由になっている口で悲鳴を上げるが、当然のようにキマイラがその言葉を無視した。

 先のドラゴンブレスのショックが抜けていないアンナたちの助けは期待出来ず、この場にメリアを助けてくれる存在は居ない。

 このままではメリアは哀れにも、キマイラの鋭い爪や牙の餌食になってしまうだろう。


「ァァッ!!」

「グラッ!?」


 しかしメリアの前に救いの手が現れた、否、正確に言うならば救いの前足というべきだろうか。

 キマイラとメリアを繋ぐ触手状の尾に向けて、何処から風の弾丸が飛んできたのだ。

 それは先程キマイラが放ったそれとは、二回りは小さな小規模なドラゴンブレスであるが、ドラゴンの鱗に覆われていない尾を千切るには十分な威力を持っていた。

 風の弾丸にキマイラの尾は無残にも切り裂かれ、自由の取り戻したメリアは慌ててキマイラの側から離れる。

 キマイラの方は尾を千切られた痛みを感じてるのか、何やら苦痛を思わせる声をあげておりメリアを追う余裕が無いようだ。


「えっ、何が…。 おお、たつお! 来てくれたんだ!!」

「ギャッ!!」


 自由を取り戻したメリアの前に、白い鱗を持つ小さなドラゴンが姿を表わす。

 メリアは自分を救った相手が、かつて自分が可愛がったドラゴンである事を知り嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 その笑顔を前にたつおは、誇らしげに胸を張りながら自慢げな様子を見せていた。

 どうやらこの小さなドラゴンは野生の勘でも働いたのか、メリアたちの敏感に察して此処までやってきたらしい。

 今は子犬ほどの大きさしか無いたつおだが、これは魔物の中で最強クラスの強さを持つドラゴンの幼体である。

 親元から離れた時点でたつおは今のように小規模ながらもドラゴンブレスを吐く力を既に持っており、並の魔物ではたつおに手を出すことは出来ないのだ。

 ずる賢い人間の手によって一度は不覚を取ったが、本来のドラゴンとしての力を見せればこの程度は造作も無い。

 そしてたつおはメリアを庇うように、堂々とキマイラの前に立ちはだかった。



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