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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第一章 冒険者学校一年目編
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20. 対抗試合・決勝


 公平を期すために決勝の開始まで休憩時間が設けられており、観客たち次の試合を今か今かと待ち構えていた。

 今年の対抗試合を間近で見た者は運が良いだろう。

 伝説のパーティーの血を受け継ぐユーリやローラ、そしてこの両者を上回る技量を持つ那由多の戦いぶりを間近で見られたのだから。

 冒険者学校で毎年行われるこの対抗試合は、冒険者の卵たちの実力を把握する重要な場である。

 恐らく冒険者たちの間でユーリ・ローラ・那由多の名は注目株として冒険者界隈で広まることだろう。

 そんな風に冒険者関係者から熱い視線を注がれている事に全く気付く事無く、敗北したユーリは顔見知りであるアンナたちが居る観客席へと来ていた。

 体にあちこちに試合で受けた傷の治療跡が有るもの、ユーリ自体は先ほど模造刀で殴り倒されたと思えないほど元気そうであった。


「くそっ、もうちょっとだったのにな…」

「悔しがること無いよ。 今日のユーリくん、凄かった…」

「ええ、凄いわ、ユーリ。 冒険者学校に来てから、あなたはどんどん成長していく…」


 ローラに敗北したことを真剣に悔しがるユーリには、アンナとティルが慰めの声も効果は無いようだ。

 何時もは幼馴染に対する複雑な心境から素直になれなアンナも、今日は純粋にユーリのことを褒めていた。

 先ほど見せたユーリの戦いぶりは明らかに自分を含む凡百の冒険者候補たちとの差を見せつける物であり、アンナはまたしても幼馴染との距離を感じているようだった。

 寂しそうに自分を褒めるアンナの様子に、鈍感なユーリは全く気付くこと無かった


「でも負けは負けだよ。 あーあ、決勝に行きたかったなー」

「いや、お前はよくやった! あれだけローラを追い詰めるとは思いもしなかったぜ!!」


 確かにユーリはローラに負けたが、あれほどローラと戦う事が出来たのはユーリだけである。

 レジィは男らしく遠慮なしにユーリの肩を叩きながら、満面の笑みで友人の健闘を喜んだ。

 まるで我が事のようにユーリの活躍を喜ぶレジィであるが、その好意には裏が存在していた。


「見ろよ、インターバルで少しは回復したようだが、ローラの消耗は激しいぞ!

 一方、那由多の方は此処まで瞬殺してきたから殆ど消耗は無い! 

 この対抗試合は那由多の優勝で決まりだぜ、いやー、お前に那由多のことを聞いておいて正解だったよ!!

「レジィ、あんたって奴は…」


 先ほどアンナたちが想像した通り、このレジィと言う少年は生徒同士が密かに行っている対抗試合の勝敗を予想する賭け事に参加していた。

 そしてレジィは事前にユーリから聞いた那由多の前情報を信じて、対抗試合開始前には大穴も言いところだった那由多に一点買いをしていたのだ。

 余り金銭に余裕のない生徒同士の賭け事であるが、数が集まればそれなりの金額になる。

 そして自分以外に那由多に掛けている者が居る筈も無く、このまま那由多が優勝すればレジィは思わぬ大金を手に入れることになるのだ。

 ユーリの準決勝での戦いぶりは、那由多の決勝の相手であるローラを消耗させた。

 休憩時間を挟んだことで息を整えることは出来ただろうが、あれだけ派手に戦ったローラが簡単に回復するとは思えない。

 それは那由多の勝率をより高める好材料であり、引いてはレジィが大勝ちする確率が高まったと言える。

 すっかり大金に目をくらんだらしいレジィは、友人の奮闘に心から感謝をしていた。

 そのレジィの解りやすい様子を前に、アンナが呆れた表情を浮かべていた


「まあ今日の所は及第点と言った所か…。 お前はもう少し魔法のバリエーションを増やせ、それだけで爆発的に手札が増える」

「あれ、何でフリー」

「馬鹿、そんな大声で喋るな! 顔を隠している理由を察せないの、馬鹿ユーリ!!」

「ああ、そうか…。 悪い、アンナ」


 その聞き覚えのある声がアンナたちの背後に陣取っているフードを被った人物の正体に気付き、思わずユーリは大声でその人物の名を出そうとしてしまう。

 しかし間一髪で幼馴染のうっかりに感づいたアンナが慌ててユーリの口を塞ぎ、どうにかフリーダの正体に隠すことは成功する。

 アンナは幼馴染の考えなしの行動を叱りつけ、ユーリは素直にお叱りの言葉を受け入れた。

 その姿は先ほどまで闘技場で戦いを繰り広げていた者にはとても見えず、何処にでも居そうなただの悪ガキのようである。

 村に居た頃を思い出させるこのやり取りは、密かに幼馴染との劣等感に苦しみアンナの心を僅かに慰めた。










 休憩時間が終わり、闘技場に決勝前で勝ち残った二人の少女が上がる。

 一人は東の国の民族衣装である着物を纏う、東の国出身の特徴である黒髪黒目をした少女。

 たおやかな笑みを浮かべる少女は、無骨な闘技場の上で酷く場違いな存在に見えた。

 仮に少女が東の国の代表的な武器である刀を模した模造刀携えていなければ、その衣装と相まって何処ぞの良いところのお嬢様にしか見えないだろう。

 一人はオーソドックスに三つ首の龍が刻み込まれた冒険者学校の制服を纏う、茶髪の少女であった。

 目の前に居る着物の少女とは対象的に、この少女の常在戦場を地で行くような佇まいは闘技場に似つかわしい物である。

 手には冒険者らしい対魔物用の大振りな両刃剣を模した模造刀を携え、笑み一つ浮かべること無く対峙する着物の少女を見つめていた。

 那由多とローラ、決勝の舞台に勝ち上がった両者が闘技場で対峙していた。


「…ユーリ様にしてやられましたね、ローラ様」

「この程度の疲労など何でもない! 那由多、私は必ず貴様に勝つ!!」


 先ほどのレジィの予想通り、ローラのコンディションは完璧とは程遠い物であった。

 ユーリとの準決勝での戦いは確実にローラの体力を削っており、それは休憩時間程度ではとても回復しないだろう。

 体力だけではない、あの戦いでローラはユーリの魔法を防ぐために障壁魔法を連発していた。

 この学校に入学した直後に行った魔力量の測定において、ローラの魔力量は決して多くは無かった事を那由多は記憶している。

 あの魔力量であれだけの障壁魔法を発動したならば、もうローラの残存魔力はそれほど多くないだろう。

 体力、魔力共に全開とは程遠い状況であるが、ローラの闘志は衰えた様子は無い。

 流石は伝説の戦士ルーベルトの一人娘、この程度の苦境で諦めるほど柔では無いらしい。


「良い闘志です。 これは楽しい試合になりそうですね、…と言いたい所ですが此処で下手に遊んで消耗したく有りません。

 この後で本命の試合が御座いますので…」

「貴様がお父様と戦う事は無い! 私が此処で倒すと言っているだろう!!」


 此処でローラと存分に試合を楽しむのも一興であるが、那由多には残念ながら本命の相手が居た。

 戦士ルーベルト、この対抗試合での優勝を条件に、那由多との真剣による戦いを了承した極上の獲物。

 最早那由多の視界にはローラの姿は映っておらず、その先に居る彼女の偉大な父親の姿しか見えていないのだろう。

 自分を路傍の石のように扱う那由多の言葉にローラは激高し、今にも剣で斬りかかってきそうな雰囲気を見せる。

 そんなローラを前に那由多はあくまで平然とした様子で、徐ろに中腰の姿勢を取った。

 そして左腕で模造刀の鞘を固定し、右腕で鞘に納められた模造刀の柄を持つ。


「…居合?」

「今から放つ一撃、これに耐えられたならば私は敗北を認めましょう。

 しかし断言します、これはローラ様の自慢の障壁魔法では決して防げない」

「何を…」


 所謂、居合と呼ばれている構えを取った那由多は、その体勢のままローラにある勝負を持ちかけた。

 この居合を防げたらローラの勝ち、防げなければ那由多の勝ちと言うシンプルなルールだ。

 これはローラに取って有利な勝負だった。

 来ると分かっている一撃であれば障壁魔法で簡単に防ぐことが可能であり、後は居合を放った直後の無防備になった那由多を倒すだけでいい。

 しかし那由多はこの不利な勝負をわざわざ自分から持ちかけた。

 それは自分がローラの障壁魔法を確実にぶち抜けると言う自信の現れであり、ローラのプライドを侮辱する物であった。

 どうやらローラは那由多との勝負に乗る気になったらしく、無言で剣を下段に構えながら那由多の居合を誘う。

 その立ち振る舞からローラに居合を剣で受けたり避けたりする気は毛頭なく、あくまで障壁魔法で受け止める気である事は明白であった。

 勝負に乗ったローラの潔さに那由多は笑みを深め、対象的にローラは目で相手を殺さんとばかりに那由多を睨みつけていた。

 両者の雰囲気に飲まれたのか、何時の間にか対抗試合の会場は静寂に包まれていた。

 そして一瞬の間の後、審判役の学校講師の声と共に決勝戦が開始された。






 伝説の戦士ルーベルト、その障壁魔法は勇者ヨハンのパーティーを守る盾であった。

 自分の後ろには仲間を信じて無防備な状態を晒ながら魔法を唱える後衛型の仲間たちが居り、彼らを守るルーベルトの障壁魔法は決して破られる訳にはいかなかった。

 そしてルーベルトは見事にパーティーを守りきり、勇者ヨハンのパーティーは脱落者ゼロのまま魔王討伐と言う快挙を成し遂げた。

 ローラは偉大な父親を尊敬しており、父親に近づくために日夜努力してきた。

 彼女の使う障壁魔法は父ルーベルト直伝の技であり、ルーベルトの象徴とも言うべき物である。

 自分の障壁魔法が破られると言う事は、偉大な父の名を汚すことに等しいだろう。

 父から受け継いだ障壁魔法がこのような女に破られる筈が無い、那由多の居合の軌道上に障壁魔法を展開したローラは自らの勝利を確信していた。

 那由多の居合とローラの障壁魔法が相対した。


「なっ…」


 ローラの敗因を言ってしまえば、相手が悪かったと言うより他は無い。

 確かに現在のローラの操る障壁魔法は、ルーベルトの現役時代の物に比べたら明らかに劣る物ではある。

 それでもローラの障壁魔法は、学生レベルでは破ることが不可能なほど強固な物に仕上がっていた。

 しかしローラの障壁が魔物の中で最も強固な皮膚を持つドラゴン以上かと言えば、そこまでの領域に達してはいなかった。

 対魔族用に鍛え上げた那由多の剣、ドラゴンの皮膚すら両断できるようになったそれ受け止めるには荷が重かったのだ。

 那由多から放たれた居合は音を置き去りにし、邪魔な障壁魔法をあっさりと破壊してローラの体へと達する。

 刃を潰された模造刀はローラの体を切り裂く事は無く、その肋骨を粉砕した。

 障壁魔法を砕かれた事へのショックと、体に受けたダメージがローラをその場に崩れ落ちさせた。

 そして一瞬の静寂の後、観客たちの声援と共に那由多の勝利が高らかと宣言された。




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