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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第一章 冒険者学校一年目編
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19. 対抗試合・準決勝第二試合(2)


 前衛型の冒険者が得意とする魔力による肉体強化、それは魔力を自分の内に回して発動する技術である。

 そして後衛型の冒険者が得意とする魔法とは、魔力を用いて外の世界に干渉する事で発動する技術である。

 この両者の技術は全く別の性質の物であり、それ故に殆どの冒険者は片方の技術に特化する道を選ぶのだ。

 ただし冒険者の中にはサブウェポンとして、もう一方の技術を身に着ける者も居るには居る。

 例えばかつて克洋のパーティーメンバーであった前衛型の冒険者であるルリス、彼女は魔力付与(エンチャント)と言う魔法を行使していた。

 しかしルリスの例で言うならば、彼女は決して二つの技術を同時に使用している訳では無い。

 実戦において彼女は最初に自分の剣に魔力付与(エンチャント)と言う魔法を掛けた後、魔力による肉体強化を駆使して近接戦闘を行っている。

 彼女はそれぞれの技術を順番に使っているだけであり、今のユーリのように同時に使っている訳では無かった。

 肉体強化と魔法、この二つの技術を同時に使用すると言うことは、例えるなら右手と左手で全く別の動作やるに等しい曲芸だ。

 長年の訓練の末に肉体強化中に魔法を発動できるようになった冒険者も僅かに存在するが、それも体に覚え込ませた一つの魔法を使えるようになるのが精々だ。

 肉体強化と魔法、その二つの技術を完璧にこなせた冒険者は過去に一人しか居ない。

 勇者ユーリ、前衛向けと後衛向けの冒険者の技術を同時にマスターした鬼才である。

 そして此処に勇者ヨハンと同じ芸当と見せる少年が現れたのだ。


魔力盾(シールド)

「くっ、障壁魔法まで!?」


 ユーリの見せた肉体強化中の魔法の行使と言う曲芸を前にしたローラは、明らかに動揺している様子だった。

 既にローラには手心を加える余裕は無く、全力でユーリを打ちのめそうとしている。

 しかしユーリは要所要所で魔法を発動させながら、ローラの猛攻を躱していた。

 魔力弾(マジックショット)で牽制をし、照明魔法(ライトニング)で目潰しを敢行し、魔力拘束マジックバインドで動きを止めようと試みる。

 そしてユーリの剣による防御を潜り抜けたローラの剣を、寸前に発動させた魔力盾(シールド)で防いで見せた。

 己の剣を止めた魔力によって作られた半透明の障壁を前に、ローラは苦々しげに呟く。


「ユーリの奴…、肉体強化をしながら魔法を使ってやがる。 嘘だろう…」

「ユーリ…」

「ふっ、あいつの息子だな…」


 観客たちはユーリのとんでも無い所業に戸惑っている様子であった。

 殆どが初級魔法では有る物の、今のユーリは不可能とされてきた肉体強化と魔法の同時行使を行っていだ。

 冒険者の卵である冒険者学校の生徒たちが、この有り得ない光景を前に驚かない訳が無い。

 それはユーリと言う少年たちと関わりを持つ、アンナたちも同じであった。

 レジィは友人のとんでも無い行動に空いた口が塞がらない様子であり、アンナは幼馴染の少年との距離がまた遠くなった事を感じた。

 勇者ヨハンのパーティーであったフリーダは、父親譲りのユーリの姿に笑みを深めていた。

 勇者ヨハンをよく知る彼女に取っては、今のユーリの姿は決して珍しい物では無いのだろう。






 試合の形勢は明らかにユーリに傾いていた。

 肉体強化を使用した近接戦闘と魔法の同時使用、伝説として語り継がれている勇者ヨハンと同じ戦闘スタイルは猛威を奮っている。

 魔法に意識を向ければ剣が、剣に意識を向ければ魔法が襲ってくるのだ。

 その両方に注意を払いながら戦わなければならないローラは堪ったものではない。

 一般的に魔法の発動に掛かる魔力は、肉体強化に要する魔力より多くなる。

 そのため前衛型と後衛型の冒険者について持久戦と言う点から比較した場合、燃費の良い前衛型の冒険者に天秤が傾く。

 この理論に当てはめるならば、魔法を連発しているユーリはその内ガス欠となりローラに勝機が出てくるように思える。

 しかし残念ながらユーリには学年二位の強大な魔力を秘めており、加えてこの戦いで少年が行使している魔法は威力はさておき燃費だけは優れた初級魔法ばかりだ。

 魔力の事だけ考えれば、ユーリは今の戦い方を何時間でも行っていられるだろう。

 セオリーにならった持久戦は不可能であり、ローラは正面からユーリを打ち倒すしか勝機は無かった。


魔力波(マジックウェーブ)!!」

「くっ…、はぁぁぁ!!」


 ローラと鍔迫り合いをしていたユーリは、軽いバックステップを踏みながら僅かに距離を空けた。

 そして同時に剣を持たない左手を振るい、効果範囲が広い波動系の魔法を解き放つ。

 近距離から放たれた魔力によって生み出された衝撃波が、ローラの視界一面にが映し出された。

 数メートル先から放たれた魔法の波を回避する余裕はローラには無い、そのためローラは魔法を迎撃する選択をした。

 ユーリの行使する魔法はまだまだ未熟であり、威力自体はローラが剣を振るうだけで簡単に打ち消せるレベルなのである。

 一撃で魔力の波を打ち消したローラは、追撃を警戒して先ほどまでユーリが居た地点に視線を向ける。

 しかしそこには既に少年の姿は無く、ローラは度肝を抜かれることになった。


「なっ、ユーリが居ない!? しまっ…」

「これで止めだ!!」


 あの近距離から放たれた波動系の魔法、その真意はローラの視界を塞ぐための物であった。

 ユーリは魔法を放つと同時に密かに右方向に回り込み、機会を伺っていたのだ。

 波動系の魔法を目潰しとして利用した戦法は、以前から克洋が良く使っていた戦法である。

 転移魔法(テレポート)の有無と言う違いはあるが、どうやらユーリは憧れの冒険者の戦い方を真似たらしい。

 その策略は予想以上に上手く嵌まり、ローラは予想外の方向から突貫してきたユーリへの反応が遅れた。

 このタイミングでは防御は間に合わない、ユーリは勝利を確信して剣を振るう。

 しかしユーリの剣戟は、ローラの正面に突如現れた半透明の障壁によって防がれたのだ。


「何っ、お前も」

「魔法が使えるのはお前だけだと思うな!!」

「くそぅ!?」


 ユーリはローラが何をやったのか一目で理解した。

 魔力盾(シールド)、あろうことかローラはユーリと同じように肉体強化を使用している状態で魔法を行使したのだ。

 完全に嵌ったと思った策が予想外の手で破られ、ユーリは明らかに焦った表情を浮かべていた。

 ローラが使用した魔力盾(シールド)、それはユーリが対ローラ用に考えていた戦法の大前提を覆す物だった。

 今のユーリの立場は、先ほどまでのローラと同じ立ち位置であろう。

 剣のみに警戒すれば良かった相手が魔法を行使した事で、剣と魔法の両方に意識を割かなければならない。

 ローラが使えるのは魔力盾(シールド)だけなのか、自分と同じように攻撃魔法も使えるのだろうか。

 疑心暗鬼に陥ったユーリの動きは明らかに鈍くなり、再び形勢がローラへと傾いてった。










 仮にユーリが伝説の戦士ルーベルトの事をより詳しく知っていたならば、此処までローラに警戒することは無かったろう。

 ルーベルトの娘であるローラが使える魔法は、障壁魔法のみであると予想が付いたからだ。

 準決勝第一試合の勝者である那由多は、決勝の相手を見定めるために一人試合の観戦を行っていた。

 那由多の視線の先では、障壁魔法という手札を解禁したローラがこれまでのお返しとばかりにユーリを攻め立てていた。

 先ほどまで効果を発揮していたユーリの小煩い魔法は、ローラの障壁魔法で全て防がれている。

 魔法による横槍が無くなり、再び剣と剣の戦いとなったこの戦いの決着は近いだろう。


「ルーベルト、剣士であり障壁魔法の使いであった伝説の戦士。

 勇者ヨハンの剣であり盾であった戦士の娘もまた、同じ業を使いますか…」


 先ほど触れた通り前衛型の冒険者の中には、サブウェポンとして魔法を行使する者も存在する。

 そして勇者ヨハンがパーティーの一人、戦士ルーベルトは障壁魔法を得意としていたと伝えられていた。

 ルーベルトは常にパーティーの正面に立っていた。

 その卓越した剣で敵を屠り、その障壁魔法で自分の後ろへは決して敵の攻撃を通さなかったらしい。

 その娘であるローラもまた、父と同じように障壁魔法を身に着けていた。

 恐らくあの障壁魔法はローラの切り札だったのだろう。

 あの土壇場になるまで出さなかった所を見ると、恐らくあれは決勝での那由多戦に披露する腹積りだったようだ。

 克洋経由の情報で那由多はローラが父と同じ障壁魔法の使い手であると既に知っていたので、彼女の努力は残念ながら無駄骨だったのだが…。

 此処はローラの切り札を出させるまで追い込んだユーリの奮闘を褒めるべきだろう、流石は勇者ヨハンの息子と言う所である。

 しかし残念ながらユーリの快進撃は此処で終わりを迎えそうだ。

 やがて奮闘むなしく闘技場でユーリが崩れ落ち、息切れをする程に消耗したローラの勝利が高らかと宣言された。



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