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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第一章 冒険者学校一年目編
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18. 対抗試合・準決勝第二試合(1)


 冒険者学校の一大イベント、対抗試合も佳境を迎えていた。

 トーナメントが進み人数が絞れたことで、準決勝以降は一試合毎に進行が進んでいた。

 先ほど準決勝第一試合が終わり、圧倒的な力で決勝進出を決めた那由多。

 その興奮が収まらないまま準決勝第二試合、ユーリ対ローラの戦いが間近に迫っていた。

 既に敗退した生徒たちは一観客として、対抗試合の様子を固唾を飲んで見守っている。

 観客席の中にはわざわざ足を運んできた学外の人間もちらほら見られ、冒険者の卵たちの素質を見定めているようだ。

 そしてユーリの友人であり一回戦で早々に敗北したレジィもまた、その観客たちの中に混じっていた。


「まさかユーリの奴が此処まで勝ち上がるとはな…。 くそっ、大穴も良いところだぜ!?

 惜しいな、上手く行けば大勝ち出来たのに…」

「レジィ…、その口振りは真逆、あなた賭け事に手を染めていないわよね?」

「えっ、賭け事!?」


 ユーリと言う共通の友人のある事から、アンナやティルとそれなりに交友の有るレジィは二人の少女と共に試合の見物をしていた。

 レジィはユーリの予想外の活躍ぶりに心底驚いているらしく、何やら後悔をしている様子すらあった。

 そのレジィの反応を見たアンナは、この対抗試合に纏わるある噂を思い出していた。

 曰く、冒険者学校の生徒たちの間で毎年、この対抗試合の結果に関する賭け事が行われているとの話であった。

 生徒同士が金銭を出し合って行われるギャンブルには結構な金額が動くらしく、一夜で大金を手にした生徒も中には居るらしい。

 そして今のレジィの雰囲気や口振りは、アンナの村の大人たちが賭け事に興じている時のそれと良く似ていたのだ。


「はははは、何を言っているんですか、アンナさん! 僕達は単に試合の結果を予想しているだけで…」

「全く…、あんたたちは…」


 アンナの問いかけにレジィは言葉でこそ否定をして見せたが、その反応からこの対抗試合で賭け事が行われている事は明白だった。

 その解りやすい反応から全てを察したアンナは、呆れたように溜息を吐いた。

 本来なら対抗試合と言う生徒たちが真剣に凌ぎ合う場において、賭け事を行うのは言語道断であろう。

 しかし此処でレジィ一人を絞り上げても意味が無い事はアンナも解っており、これ以上の追求を諦めたようだ。

 観客席でアンナたちが雑談に興じている中、フードで顔を隠した黒いローブ姿の女が近づいてきた。

 アンナたちの背後までやって来たローブの女は闘技場の方に目をやり、丁度舞台に上がろうとしているユーリとローラの姿を視界に収めているようだ。


「ほうっ、次はあの子の試合か。 どうやら丁度いい所に来たようだな」

「…その声!? フリーダさん、来てくれたんですか…」

「えっ、フリーダ!? あの伝説の魔法使いが何で…」


 背後に現れたローブの女から発せられた聞き覚えるの有る声に、その正体に気付いたアンナとティルは驚きの表情を浮かべる。

 フリーダ、勇者ヨハンのパーティーであった伝説の魔法使いであり、ティルの保護者とも言える人物であった。

 フリーダはそのままアンナたち背後の空いた観客席に腰掛けた、どうやら此処で試合を見物する腹積りらしい。

 突然現れた伝説の魔法使いの登場に驚くアンナたちだが、フリーダが立てた人差し指を口に当てたのを見て慌てて口を噤む。

 世間的に有名人であるフリーダが、その素性を隠すためにフードで顔を隠しているのは明白である。

 此処でアンナたちが騒ぎ出してしまったら、折角のフリーダの偽装が台無しになってしまうのだ。


「何、どうにか時間を作れたのでな…、本当は最初から見物をしたかったんだが…」

「あの…、フリーダさん。 もしかして此処に…」

「否、残念だがあいつは来ないよ。 …と言うより此処暫く、克洋の奴とは音信不通でな。

 一体何処で何をやっているのやら…」

「えっ、カツヒロさんが…!? だ、大丈夫なんですか?」

「心配要らんだろう、あれは生き残る事に特化した力がある。 放っておいても死にはせんだろう…」


 アンナたちの察しの良い反応に気を良くしたフリーダは、僅かに笑みを浮かべながらこの場に現れた理由を語り始める。

 そんな中、どういう訳かティルは周囲に見回しながら誰かを探しているようだった。

 どうやらティルはフリーダと共に、自分の想い人である克洋が来ているのでは無いかと期待したらしい。

 しかしティルの思いと裏腹に、克洋はこの場には居ないらしい。

 それどこから克洋の現在の居場所すらフリーダにも解っていないと知り、ティルは胸中に不安が募る。

 ティルとは対象的にフリーダの方は、克洋の事を全く心配していないようだ。

 克洋の持つ反則まがいの能力、あの転移魔法(テレポート)があれば死ぬことは無いと高を括っているのだろう。






 フリーダが丁度現れたその頃、闘技場の舞台に一組の少年・少女が向かい合っていた。

 一人は同年代に比べて少し背が低めである金髪の少年、ユーリはこれから楽しい遊びが始まるかのように無邪気な笑みを浮かべている。

 一人は目の前の少年より一回り大きい茶髪の少女、ローラはユーリとは対象的な真剣その物と言った表情を浮かべている。


「…ユーリか、まさか此処まで上がってくるとはな」

「負けないぜ、ローラ! 俺は決勝で那由多と戦うんだ!!」

「それはこちらの台詞だ! こんな所で足踏みは出来ない、あの女に勝つためには…」


 顔には出さない物のローラは内心では、ユーリが此処まで勝ち上がって来たことに心底驚いていた。

 数日前までは近接型の必須技能である魔力による肉体強化の技術を身に付けていなかった少年が、この対抗試合で勝ち残ると予想できる筈も無いのだ。

 しかし相手がどうであれ、ローラは負けるわけにはいかなかった。

 この少年を倒した先には、自分を完膚なきまでに負かした那由多が居るのだ。

 この対抗試合と言う場で那由多に勝つこと目標としているローラに取って、この戦いは決して負けられない試合である。

 そして闘技場外に居る審判役の学校講師の声と共に、準決勝第二試合が開始された。






 準決勝第二試合、序盤にペースを掴んだのはローラであった。

 勇者ヨハンから受け継いだ才を持ち、肉体強化の技術を身に着けたユーリは此処まで怒涛の快進撃を見せてきた。

 これが格の違うと言うように、ユーリは勢いのままに対戦相手を下している。

 しかし今回は相手が悪かった。

 伝説の戦士ルーベルトの一人娘であるローラ、恐らくその才はユーリと同等の物である。

 そして才が同じで有れば後は、積み上げきた物が重要になる。

 幼い頃から父の元で英才教育を受けてきたローラが、昨年までただの村の少年であったユーリに遅れを取る訳が無い。

 果敢に剣を振るうユーリだが、その剣は一度たりとも有効打とならない。

 ユーリの単調な剣はまるで吸い込まれるようにローラの剣に弾かれ、ユーリは訓練で那由多に遊ばれている時と同じような感覚を味わっていた。


「くっ、強い!!」

「確かお前は強くなった、しかしまだ私には及ばん!!」


 我武者羅に剣を降るだけでは相手に勝てないと察したユーリは、間を作るために一端距離を取った。

 恐らくユーリが手を緩めたこの瞬間は、ローラにとって反撃に移るチャンスだったろう。

 しかしローラは見に徹する気らしく、自分からユーリに攻め掛かるつもりは無いようだ。

 そもそも先ほどの攻防でもローラは、やろうと思えばユーリを返り討ちにする事も出来た。

 それをせずに受け身に徹した理由は一つ、勇者ヨハンの息子であるユーリの力を見定めたかったからだ。

 伝説の戦士ルーベルトの娘であるローラは、伝説の勇者ヨハンの息子であるユーリに興味を抱き始めていた。

 今日ユーリが見せた対抗試合での戦いぶりは、ローラに少年の中に秘められた才を垣間見させた。

 ユーリにはまだ秘められた力が有ると、ローラの戦士としての直感が告げている。

 ローラはその力を確かめるために、わざわざ戦いを引き伸ばしているらしい。


「剣だけでは勝てないか…。 それなら…、うぉぉぉぉっ!!」

「性懲りも無く…」


 剣を下段に構えながらローラに向かって突撃するユーリ、その姿は先ほどと何ら変わりない姿であった。

 ユーリの考えなしの行動にローラは僅かに落胆し、迎え撃つために剣を構える。

 最早ローラには様子見をする気は無く、このままではユーリはあえなく倒されてしまうだろう。

 今のローラに剣だけでは勝てない、それはユーリも十分に理解していた。

 それ故にユーリはこの土壇場で、剣以外の手段に打って出たのだ。


魔力弾マジックショット

「なっ!?」

「隙あり!!」


 ローラの元に迫る直前、ユーリは両手で握っていた剣を片手に持ち替えて左手を開ける。

 そしてフリーになった左手をローラに向けて伸ばし、あろうことからそこから魔法の弾丸を飛ばしたのだ。

 魔力弾マジックショット、魔力によって作られた弾丸を飛ばす初級攻撃魔法である。

 属性の付与も行っておらず、恐らく魔法を発動する上で必要な精神集中も不十分だったのだろう。

 ユーリから放たれた魔力弾は、まさに豆鉄砲と言うべき貧弱な物であった。

 しかし魔法の威力が重要では無い。

 今のユーリが…、近接戦闘を行うために魔力による肉体強化を継続して行っている状態のユーリが、それと同時に魔法を発動させたのである。

 その事実はローラを驚愕させるに十分な物であり、それはローラが戦いの中で一瞬戦いを忘れてしまう程の衝撃であった。

 自分の放った魔力弾にローラが面を喰らったと判断したユーリは、再び両手で剣を握り直しながらローラへと迫った。



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