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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第一章 冒険者学校一年目編
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17. 対抗試合・一回戦(2)


 対抗試合一回戦、ユーリの幼馴染であるアンナの試合は残念な結果に終わっていた。

 後衛向けの冒険者の適正があるアンナには厳しかったのか、全く見せ場を作ること無く瞬殺されてしまったのだ。

 模造刀を取り落として無様に闘技場に蹲るアンナ、そんな敗者の姿に勝者は嘲りの表情を隠そうとしなかった。


「ふんっ、やっぱり大したこと無いわ、あんた。 よくそれでユーリくんに付き纏えるわねー」

「くっ…」


 試合後に対戦相手が放った心のない言葉は、アンナの心を深く傷つけていた。

 先にも触れたが冒険者学校においてユーリは、期待株として学内の女子たちの間で密かに人気を得ていた。

 そしてユーリが注目されたことにより、必然的にユーリに何時もついて回る幼馴染の存在も目立つようになったのだ。

 どうやらアンナの対戦相手であった名も無き冒険者候補の少女は、同郷と言うだけでユーリと何時も一緒に居るアンナが気に食わなかったらしい。

 嫉妬心丸出しの捨て台詞であったが、それはアンナが密かに抱いていた幼馴染の少年に対しての劣等感を刺激した。

 自分はこの冒険者学校に居てもいいのだろうか、アンナの脳裏に最近幾度も脳裏に過ぎる疑問がまたしても浮かび上がっていた。






 アンナ、"冒険者ユーリ"の原作においてザンの襲撃時に殺されていた筈の少女。

 克洋などの介入によって生き延びることが出来た少女は、幼馴染の少年を追い掛けて冒険者学校へと足を踏み入れていた。

 アンナが冒険者学校への入学を決めた一番の動機は、幼い頃から一緒だった幼馴染の少年と離れたくないと言う思いであろう。

 例え村を離れようとも、ユーリと一緒に居られれば今までと同じ関係を続けられると考えたのだ。

 しかし冒険者学校に入学した事により、ユーリとアンナの関係は一変した。

 勇者ヨハンから受け継いだ才を開花させたユーリは周囲から一目置かれるようになり、アンナは成績が余り芳しくない一生徒でしか無かった。


「ユーリ、私を置いてかないで…」


 自分とユーリとの明確な差に絶望を覚えたアンナは、自分が冒険者学校に居るのが相応しくないとすら思い始めていた。

 冒険者学校に入学出来たのはデリックやフリーダと言う有名人からの口利きがあったからで有り、ただの村の少女が此処に居るのはおかしいのでは無いかと…。

 アンナの想像とは異なり、この少女は冒険者学校への入学を認められるだけの才はあった。

 決して成績優秀と言えない物の平均を僅かに下回る程度の成果を収めているこの少女は、将来的には並の冒険者程度であれば十分に務まるだろう。

 デリックやフリーダと言う実力者たちが、何の才も無い少女を冒険者学校に押し込める筈も無い。

 アンナが冒険者学校への入学を希望した時点で村の神父だったデリックは、少女の冒険者としての素質の有無を見定めた上で送り出したのだ。

 アンナに取って不幸な事は、彼女の比較対象が規格外の連中ばかりであった事だろう。

 勇者ヨハンの息子であり原作主人公のユーリ、最大級の魔力量を持つ原作メインキャラクターのティル。

 これらと比較してしまえば、並の冒険者程度の才しか無いアンナが霞んで見えても仕方ない。

 闘技場から観客席に戻る際に呟かれたアンナの悲鳴のような言葉は、対抗試合の熱気に湧く観客の歓声に埋もれていった。











 対抗試合一回戦最後のカード、那由多の出番がやって来た。

 他の生徒達が三つ首の龍が胸に刻み込まれた冒険者学校の制服を身に纏っている中、東の国の民族衣装である着物を着た那由多の姿は闘技場の上では非常に目立っていた。

 那由多は己の獲物である刀型の模造刀を携えて、相変わら楚々とした佇まいを見せている。

 その姿は無骨な闘技場とは似合わず、違和感を覚えた観客たちは奇妙は表情を浮かべていた。

 那由多と対するのは金髪の少年であった。

 ユーリより一回り大きい恵まれた体格をした少年は、何処か固い表情を浮かべながら那由多と対峙していた。


「お手柔らかにお願いいたします」

「あ、ああ…」


 この少年の名はアーダン。

 ユーリやレジィとルームメイトで有り、学生寮での共同生活を拒否して親の金で学外に住居を用意した金持ちの息子である。

 幼いころから英才教育を受けていたアーダンは冒険者学校においてトップクラスの成績を誇り、あのローラ相手に数度では有るが模擬戦で勝利を納めた事もある実力者であった。

 それにも関わらずアーダンは目の前の着物の少女、一度も近接戦闘の授業に出ておらず実力が未知数である那由多を前に戸惑っている様子だった。






 実はこのアーダンの正体は、克洋たちと同じ現実世界出身の人間であった。

 しかしこのアーダンは克洋たちと同じように、肉体ごと"冒険者ユーリ"の世界にやって来た訳では無い。

 精神のみが原作キャラクターであるアーダンの体に憑依し、アーダンとして第二の人生を歩んでいる人物であった。

 アーダンの中にはアーダンとして歩んできた十数年の記憶と、現実世界で過ごしてきた頃の記憶が残っていた。

 その記憶の中には当然のように"冒険者ユーリ"の原作の知識も有り、アーダンは目の前の着物の少女の正体に気付いたのだ。

 那由多、原作でユーリたちと敵対する魔族サイドに居た危険人物。

 一体どのような経由でこの少女が冒険者学校に入学し、敵対する筈のユーリと仲良くしているかは解らない。

 しかし一つだけはっきりしている事があった。

 原作の描写を見る限りでは、今の自分の実力ではこの少女には決して勝てないと言う事が…。


「いや、頑張るんだ、俺! 此処で良い所を見せてユーリたちと…」

「…少し気に入りませんね」


 このアーダンと言うキャラクターは原作において、常にユーリを田舎者と蔑む嫌な奴であった。

 実力は有るがその高慢な性格で敵が多く、日頃の行い悪いせいか此処一番で何時も酷い目にあう。

 冒険者学校をユーリが卒業した後にはモブキャラに格下げされ、以後は殆ど出番が無くなる微妙な存在であった。

 一体何の意図があって現実世界出身のこの男が、アーダンと言うキャラクターに憑依しようと思ったかは解らない。

 少なくともユーリたちと交流を持ちたいらしいアーダンは、この試合でユーリたちと関わる切っ掛けを作ろうと考えているらしい。

 自業自得な事にこのアーダンと言う少年は、ユーリたちに余り良い印象を持たれていない。

 学生寮でユーリたちと共同生活を拒否して別の住居を用意すると言う暴挙に出れば、ユーリたちの印象が悪くなるのは当然であろう。

 実は学生寮を出るという行動は、原作でのアーダンが行った物であった。

 最初は原作通りに振る舞った方がいいと考えたアーダンの中の人が、原作をなぞって行動したのだがこれが大きな失敗だったのだ。

 学生寮による共同生活を拒否したアーダンと仲良くなろうと思う筈も無く、ユーリたちはアーダンと距離を置くようになった。

 そしてこの距離を埋めるほど対人関係が得意では無かったアーダンの中の人は、今日までユーリたちと言う原作キャラクターとろくに関われなかったのだ。

 原作のように事あるごとにユーリを小馬鹿にする言動を口にしていないため、ユーリたちから見るアーダンの人物評価は決して低くない筈だ。

 後は切っ掛けさえあれば、自分もユーリたちの仲間になれるに違いない。

 そのために今は那由多との試合で良い所を見せなければならず、アーダンは自分で自分に気合を入れていた。

 そんな風に自分の事で頭が一杯になっていたアーダンは、目の前の着物の少女が不快げに眉を顰めていることについぞ気付くことは無かった。

 密かにアーダンからあの因縁の魔族と似た匂いを感じ取った那由多は、鬱憤晴らしも兼ねたある悪戯を実行することを決める。


「では…、参ります」

「へっ……、ひぃぃっ!?」

「はい、隙有りっと…」


 ユーリたちの仲間になりたいと言うアーダンの不純な動機から出ていたやる気は、那由多から放たれた殺気によって一瞬で萎えた。

 幾人もの人間を切り倒してきた那由多が放つそれは、アーダンに問答無用で死の恐怖を与える。

 那由多は実戦経験の皆無である冒険者学校の生徒たち相手に、殺気による気当ては有効である事は解っていた。

 流石に反則技のように思えるので試合で使うつもりは無かったが、何となくザンを思い起こさせる雰囲気のこの相手ならば話は別である。

 平和な現実世界での記憶、金持ちの息子としてこの世界で温々と過ごしてきた記憶、どちらの記憶からも那由多の殺気に抗う術を見い出せない。

 まるで金縛りにあったかのように棒立ちとなり、恐慌状態とアーダンには隙だらけである。

 まるで散歩でもするかのようにアーダンまで近づいた那由多は、軽く剣を降ってアーダンの頭を殴り飛ばす。

 アーダンが地面に崩れ落ちて、那由多の勝利が決まった。


「嘘だろう、アーダンが負けた!?」

「何者だよ、あの女!!」

「すげぇ、アーダンを瞬殺しやがったよ、あの着物女。 ははは、ユーリの話を信じて大穴に賭けておいて正解だったな…」

「流石は那由多だな、俺も負けてられないぜ!!」


 那由多の実力を知らない殆どの生徒たちは、実力であるアーダンを下した着物の少女の姿にざわめいていた。

 事前に那由多の情報を聞いていたレジィは一人ほくそ笑み、ユーリは修行相手の活躍を見て発奮している様子だ。

 ダークホースである那由多の出現によってさらなる波乱を予感させる対抗試合は、二回戦と進んでいくのだった。



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