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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第一章 冒険者学校一年目編
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16. 対抗試合・一回戦(1)


 冒険者学校の中央に存在する大広間、学校内の関係者が一堂に会することが出来る巨大な空間はこの日熱気に包まれていた。

 広間の中心に石畳の闘技場が複数設置され、周囲には観客スペースが設けられている。

 今日、この場所は冒険者学校一年目の生徒たちが己の力量を証明するための舞台、生徒同士の対抗試合が行われるのだ。

 選手であり観客である生徒たちは一同に大広間に集まっており、それぞれ刃を潰した模造刀を手に持っている。

 やる気に満ち溢れている者、怯えた表情を浮かべている者、普段と変わらない様子の者、対抗試合を控えた生徒たちの振る舞いは千差万別であった。

 広間の中には冒険者学校外の人物、将来のライバルの力量を見定めるためにわざわざ足を運んだ冒険者関係の人間の姿もあった。

 この対抗試合で活躍した者の名は冒険者たちの間で知られるようになり、後に冒険者として活躍する時に有利となるのだ。

 そのため今日の試合に、冒険者としての将来を掛けている者も居た。






 トーナメント形式で行われる対抗試合、試合当日に公開されたトーナメント表を元に試合は進められていく。

 百人弱居る冒険者学校の生徒たちの試合を一試合一試合ちんたらとやっている訳にはいかず、会場に複数設置された闘技場で試合は同時進行している。

 今はユーリの友人であるレジィと、見るかに体格のいい前衛型の冒険者志望の生徒が闘技場の一つで向かいあっていた。


「一回戦は楽勝だな…」

「ふんっ、言ってろ!

 後衛型の意地を見せてやるよ! 行くぜ、身体強化(ブースト)!!」


 冒険者学校の生徒同士と言う事も有り、レジィが後衛型の冒険者志望である事を知っている対戦者は余裕の笑みを浮かべていた。

 普通に考えれば障害物の何もないこの二十メートル四方のフィールドで、前衛型が後衛型に負ける筈も無いのだ。

 一方、運悪く一回戦から前衛型と当たってしまったレジィであるが、その瞳に諦めの感情は見られない。

 ユーリ相手に前衛型には勝ち目が無いと言っていたレジィだが、本音の所は別にあったのだろう。

 そしてレジィは試合開始と同時に、この対抗試合のために密かに修得していたある魔法を発動させた。

 身体強化(ブースト)、この呪文は前衛型が使う技術である、魔力による肉体強化方法を魔法で再現した物だった。

 この魔法は本職である前衛型ほどの効果も望めず、魔力の消費量も本職のそれと比較して多く消耗するデメリットがある。

 しかし魔法と言うシステムに落とし込んだことで、常人なら数年を掛けてやっと身につけられる技術を一瞬で再現出来るのだ。

 淡い光がレジィの全身を包み込み、魔法の恩恵によって前衛型に近い動きをもたらす。

 これが前衛型の肉体強化に対抗するために、密かにレジィが考えていた秘密兵器である。

 湧き上がる力を感じたレジィは、勢いよく模造刀を振りかざしながら対戦相手に向かって突っ込んで行く。


「馬鹿めそんな付け焼き刃が利くかよ!!」

「有れぇぇ!?」


 しかし健闘むなしくレジィの対抗試合は一回戦で幕を閉じた。

 敗因はただ一つ、レジィが身体強化(ブースト)で強化された自分の体の動かし方に慣れていなかった事だろう。

 幾ら身体能力が高くなろうとも、それを使いこなせなければ意味は無い。

 レジィは身体強化(ブースト)で強化された自分の体を持て余してしまい、一挙手一投足が大振りな動きになっていた。

 そんな状態で近接型の冒険者志望である対戦者に勝てるはずも無く、レジィの戦いは此処で終わってしまった。






 試合は粛々と進んでいた。

 複数設置されたフィールド内で試合は同時進行しており、一回戦となる試合は徐々に消化されていく。

 この対抗試合では基本的に冒険者学校一年目の内、近接戦闘の授業を受けている全ての生徒が参加することになっている。

 そのため参加者の中には、模造刀を使用した近接戦闘に不得手な生徒も当然居た。


「くそっ、固い!! 何時まで障壁を張っているんだ!!」

「ひぃぃぃん、カツヒロさーん!!」


 近接戦闘が不得手な生徒の筆頭とも言える少女、ティルの試合はそれは酷い物であった。

 早々に剣での戦いを放棄した彼女は、その有り余る魔力で己の全方位に障壁魔法を展開して引きこもってしまったのだ。

 これに困ったのは対戦相手である。

 ティルの分厚い障壁は模造刀を幾ら叩きつけても破壊できず、規格外の魔力を持つティル相手では魔力切れを待つのも難しい。

 トーナメント形式で行われる対抗試合は、試合進行をスムーズに行うため試合時間が定められていた。

 結局、時間一杯まで障壁の中に閉じこもっていたティルは判定負けとなり、対戦相手は二回戦へ駒を進めることになった。






 そしていよいよ原作主人公の出番である。

 対戦相手は近接型の冒険者志望の生徒で有り、ユーリが近接戦闘の授業で一度も勝てなかった相手である。

 対戦相手は後衛型のカモが相手であることが嬉しいのか、嫌らしい笑みを浮かべていた。

 それに対してユーリは子供っぽい無邪気な笑みを浮かべながら、やる気満々と言った様子で模造刀を構えていた。

 この対抗試合を心待ちにしていた少年は、まるで遠足当日の子供のように試合の雰囲気を楽しんでいるようだ。

 対抗試合の審判役である近接戦闘を教える講師の掛け声の元、ユーリの一回戦の試合が幕を開ける。

 そしてユーリを見下していた対戦相手の少年は、試合が始まった途端にその表情を凍りつかせることになった。


「よしっ、まずは一勝!!」

「馬鹿な、何故お前がその力を…」


 結果だけ言えばユーリは試合に勝った。

 剣を高らかに翳しながら勝鬨を上げるユーリ、信じられない者を見たかのような呆然とした表情を浮かべる対戦相手。

 勝者と敗者の差がはっきりと解る光景であった。

 対戦者が驚いている理由、それはユーリが試合で見せた動きであった。

 それは普通の人間では決して出来ない領域の物であり、近接型の冒険者のみが許された世界の筈だった。

 レジィのように身体強化(ブースト)を使用した訳ではない、ユーリは実際に近接型の冒険者の必須技能である魔力による肉体強化を使ってみせたのだ。

 少し前までのユーリは確実にこの技術を持っていなかった、しかし今のユーリには使うことが出来る。

 この少年はこの短期間で魔力による肉体強化を身に付けた事を察した対戦相手は、まるで化物を見るかのように勝利に浮かれるユーリを見ていた。


「馬鹿な、この短期間で魔力による肉体強化を身に着けた!?」

「ははは、流石はあいつの息子だ。 あいつもビックリ箱のような奴だったな…。

 あれは強くなるぞ、ローラは同年代のライバルに恵まれて幸せだ」


 ユーリが魔力による肉体強化を身に付けた事実は、対戦相手だけで無くその試合を見ていた観客たちにも衝撃を与えていた。

 那由多の事しか頭に無かったローラは、勇者ヨハンの息子である少年の才能の片鱗を目の前にして初めてユーリを視界に入れたらしい。

 戦士ルーベルトもまたユーリの試合から若い頃の勇者ヨハンの姿を思い出していたらしく、顎に手をやりながら面白いものを見たとばかりに笑みを深めていた。

 ユーリに那由多、一流の冒険者となれる資質を持った者たちが、自分の娘の同年代に居る事は幸運と言ってよかった。

 自分が勇者ヨハンと切磋琢磨に腕を磨き上げてきたように、ローラも彼らと共に一流の冒険者への道を歩むだろう。


「お見事ですよ、ユーリ様。

 これもお兄様の言う所の、原作通りと言う奴ですかね…」


 今日まで稽古相手を務めてきた那由多としても、ユーリの成長振りは喜ばしい物であった。

 逃げる事以外はろくに上達しなかった克洋の時とは違い、日に日に成長していくユーリの面倒を見るのは意外に面白かった。

 そして稽古の成果がしっかりと現れたのであれば、師匠役としては嬉しくない訳が無い。

 原作においてもユーリはこの対抗試合の場で初めて魔力による肉体強化を披露し、ユーリを後衛型であると断じていた周囲を驚かせて見せた。

 原作ではローラがユーリの指導役であった事に対して、此処では那由多がローラの代役をしたと言う差異は有る。

 しかし概ねは克洋から事前に聞いている、原作通りに事が進んでいると言っていいだろう。

 しかしこの対抗試合には原作とやらと比較して、明らかに異なる点があった。

 那由多と言う原作ではこの時点で影も形も存在しない筈のイレギュラーが、この対抗試合に名を連ねているのだ。

 "冒険者ユーリ"における序盤の一大イベント、冒険者学校対抗試合の結末が原作からどのように変化するのか。

 それは現時点では誰も予想し得ない事であった。



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