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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第一章 冒険者学校一年目編
33/97

7. 魔力パス


 冒険者として彼我の実力を見極めるのも重量な事であった。

 敵を見誤って死んでしまっては元も子も無い、戦略的撤退は決して非難される事では無いのだ。

 翻って今のアルフォンスたちが置かれた状況、キマイラという格上のモンスターを前にした彼らが取るべき最も良い選択は逃走であった。

 状況的に見てこの森で起きていた失踪事件の犯人は、この奇妙なモンスターである事は間違いない。

 そして此処でアルフォンスたちがやられてしまったら、この事実を知る人間が誰も居なくなってしまう。

 アルフォンス達は生きてこの窮地を脱して、冒険者組合にこのキマイラの情報を持ち帰るべきなのだ。

 しかしその最良の選択は、彼らの大事な仲間であるルリスを見捨てる事と同義であった。


「ハニー、あれを使うぞ。 俺に力を貸してくれ!!」

「ええ、私の全てはあなたのものよ!!」

「克洋、俺があの化物を抑える! その隙にあの化物をお前の刀でぶった切ってやれ!!」

「り、了解!!」


 彼らは非常な冒険者に成り切れなかった。

 ルリスを見捨てるという選択肢を初めから外していたこのパーティーの取る道は、あのキマイラを倒す以外に無い。

 そのためにアルフォンスは、取っておきの切り札を見せることを決めた。

 アルフォンスたちの様子を伺っていたキマイラは、彼らの動きに気づいたのだろう。

 キマイラは先ほどと同じように大地を蹴り、凄まじい速度でアルフォンスたちに向かって飛び掛ってきた。

 キマイラを前にアルフォンスもまた先ほどの焼き増しのように、ララたちを守るために一歩前に出てキマイラに立ちふさがる。

 しかし前回と異なり、アルフォンスの手には斧が無かった。

 無手となったアルフォンスにはキマイラの爪を防ぎようが無く、このまま細切れの肉塊にされてしまうだろう。

 絶体絶命の状況の中、アルフォンスは怯えるどころか不敵な笑みさえ見せていた。

 そしてアルフォンスは再び、キマイラと真正面からぶつかり合った。


「…はっ、漸く捕まえたぜ、化物野郎!!」

「グルっ!?」


 キマイラの猛禽類の如き爪は、アルフォンスの体を切り裂く事は無かった。

 何とアルフォンスはその両腕で、真剣白刃取りのようにキマイラの爪を前足ごと受け止めたのである。

 幾らアルフォンスが恵まれた体を持ち、その上で魔力を持って身体能力を強化しても限度がある。

 複数の魔物の長所を組み合わせたキマイラの腕力は人間レベルを遥かに越えており、どう考えても人間一人が受け止められる代物では無いのだ。

 実際にアルフォンスは先ほどキマイラに完全に力負けをしてしまい、無様に洞窟の壁まで吹き飛ばされたでは無いか。

 では何故アルフォンスは今回に限って、不可能を可能とすることが出来たのだろう。

 その答えはアルフォンスの体を覆う、淡い魔力の光にあった。


「ダーリン、頑張って!」

「ハニーの愛の力があれば、俺は無敵だぁぁっ!!」


 魔力パス、それはとある術式で他者とパスを繋げることによって魔力を共有するための術式である。

 今アルフォンスはパスを通じてララからの魔力を融通してもらい、彼は二人分の魔力でもって身体能力を強化しているのだ。

 これがララとアルフォンスの切り札であり、ララの魔力に包まれたアルフォンスはキマイラと互角のパワーを手に入れていた。

 他者から魔力を供給して貰うことで実力以上の力を出すことが出来る魔力パス、これだけ聞けば非常に便利そうに思えるが実際にこの術式を使っている冒険者は極少数であった。

 実は魔力パスには幾つかの大きなデメリットが存在していたのだ。

 まず魔力パスを通じて魔力を相手に供給する場合、供給元となる人間は魔力を他に使用することが出来なってしまう。

 冒険者に取って魔力が使えなくなる状態は無防備になるに等しく、非常に危険が伴われるだろう。

 加えてパスを繋げることによって精神的に距離が近づく事により、パスを繋げた者同士は漠然ではあるが相手の感情を読み取ることが出来てしまうのだ。

 相手の感情が解ると言うことは余り気持ちがいい物では無く、それは魔力を共有すると言うメリットを多く上回るデメリットであった。

 結果、この世界において魔力パスと言う技法は、ララやアルフォンスのような互いの感情をオープンにしても問題無い者達の専用技術になったと言っていい。

 原作においても魔力パスは一度しか話題に上がることは無く、実際にユーリたちがその技術を使うことは無かった。

 そもそもユーリやティルなどの原作キャラクターは才能豊かで有り、他人から魔力を必要する事は無かったのだ。






 魔力パスを結ぶほどの深い絆で結ばれたララとアルフォンスであるが、二人の馴れ初めには特別なドラマは存在しなかった。

 克洋が聞いた話によると、このバカップルは冒険者学校時代に互いに一目会った瞬間から今の関係になったらしい。

 一目惚れと言う奴で魔力パスを結ぶほどの濃厚な関係になるとは、彼女いない歴イコール年齢である克洋には理解出来ない世界であった。

 まさに魔力パスと言う一種の愛の力でキマイラの攻撃を真正面から防いだアルフォンスであるが、そこまでが彼の限界であった。

 キマイラの前足を受け止めている現在の状態がアルフォンスの最大パワーであり、此処からキマイラを押し返すことは難しいだろう。

 そしてアルフォンスに魔力を供給している関係で、ララも魔法の発動を行うことが出来ない状態であった。

 このままではアルフォンスの体力が尽きてしまい、キマイラにやられてしまうのは明白だった。

 もしかしたら原作でララたちは今と同じような展開となり、キマイラに力及ばず敗れてしまったかもしれない。

 しかし原作の展開と違ってこの場には後一人、自由に動ける冒険者が居たのだ。

 克洋は先ほどのアルフォンスからの指示通りに動いていた。

 転移魔法(テレポート)を使って瞬時にキマイラの背後に周り、アルフォンスに掛かりきりになっていたキマイラは克洋に反応することが出来なかった。

 そして克洋はキマイラの無防備な背中目掛けて、勢い良く刀を突き出したのだ。

 オーク相手にやっていた転移魔法(テレポート)を使用した背後からの奇襲戦法、武士道精神の欠片もない卑怯な手であるがこの状況では贅沢は言ってられないだろう。

 既に刀には魔力付与(エンチャント)を付与して切れ味を増している、これならばキマイラに少なくないダメージを与えられる筈だ。

 しかしキマイラの力は、克洋の予想を遥かに上回った物であった。


「なっ、硬っ!?」

「ぐらぁぁっ!!」

「うわっ!?」


 それは完璧な奇襲であったが、残念ながらキマイラにダメージを与えることは出来無かった。

 どうやらキマイラの鱗に覆われた奇妙な皮膚はオークのそれを上回っているらしく、魔力付与(エンチャント)を付与した克洋の刀すら全く通さなかったのだ。

 刀が弾かれた事に呆然すると克洋に対して、キマイラの反撃は容赦無かった。

 キマイラの背中方向に移動した克洋にたいして、キマイラは尻尾を使って克洋の体を払いのけたのだ。

 尻尾だけとは言えそのパワーは凄まじく、克洋の体は意図も容易く吹き飛ばされてしまう。

 一瞬宙に浮いた感覚を味わった後、地面に落着した克洋は激しい痛みとともに少なくないダメージを受ける。


「おらぁぁぁっ!!」

「ぐるっ!?」


 しかし克洋の奇襲は全くの無駄では無かった。

 克洋の方に意識を裂いたことでアルフォンスへの集中が途切れたらしく、前足に掛かる力が僅かに緩んだのである。

 その隙を逃さずアルフォンスは力を振り絞ってキマイラの前足を跳ね除け、自由を取り戻すことが出来た。

 キマイラはアルフォンスに前足を外された衝撃で少しだけよろめいたようだがすぐに元の体制に戻り、自分の爪からから逃げ延びた獲物を殺気を込めた瞳で睨みつけた。










 キマイラの尻尾に払いのけられた克洋は、キマイラとアルフォンスたちが対峙する場所から少し離れた場所に飛ばされていた。

 広間の入口付近に位置取る克洋たちと、その反対側に位置取るキマイラ。

 そのキマイラの背中付近に居た所に尻尾によって払いのけられたので、克洋が飛ばされたのはキマイラの背後にあった広間の奥の部分であった。

 先ほどばらまいた照明の明かりは、今克洋が居る位置にまで届いている。

 克洋は地面に叩きつけられた痛みに耐えながら体を起こし、辺りを状況を見回した。


「っ!? ルリス!」


 そして克洋は広間の奥の方で、地面の上に寝かされていた女の姿を発見する。

 それは先ほどキマイラに攫われた、克洋たちの仲間であるルリスだった。

 地面に横になっているルリスは身動き一つせず、入口付近から聞こえてくるキマイラとアルフォンスたちの戦闘音にも全く反応しない。

 一体ルリスの身に何があったのだろうか。

 最悪の想像をした克洋は体の痛みも忘れて、慌ててルリスの方へと駆け出していった。


「…照明魔法(ライトニング)! よしっ、とりあえず死んでないな…。

 おい、起きろよ!! …くそっ、目を覚まさない、薬で使われたのか?」


 ルリスの元まで辿り着いた克洋は、魔法の照明を付けて彼女の様子を確認する。

 すぐにルリスの胸が定期的に動いており、まだ息をしている事を確認できた克洋はほっとひと安心する。

 先ほどまで森の中でキマイラに引き摺られていた事もあり、体の各所にある程度の傷は出来ている様子だが、すぐに死ぬような物では無いだろう。

 しかしルリスは克洋が幾ら声を掛けても目を覚ます様子は無く、明らかに人為的な手段によって眠らされている様子だった。

 此処にはキマイラという凶悪な魔物が居り、このままルリスを無防備な状態で眠らせているのは危険だろう。

 克洋はルリスの意識を復活させるために、懐から緑色の液体が入った小瓶を取り出すのだった。





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