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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第一章 冒険者学校一年目編
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2. 決闘


 ルリスと克洋の決闘の話は一瞬の内に酒場の中に広まり、あれよあれよと言う間に酒場の外で決闘の舞台が整えられてしまった。

 冒険者同士の決闘と言う物はそう珍しい事では無い。

 魔物討伐と言う荒事を生業とする冒険者と言う人種は血の気が多いものが多く、喧嘩などは日常茶飯事なのである。

 外野に取っては決闘騒ぎは良い娯楽でしか無く、酒場に居た冒険者たちは誰も克洋たちを止めようとはせずに逆に囃し立てる始末であった。

 そして関係者であるララやアルフォンスについても、克洋とルリスの決闘を止めるつもりは無いようだ。

 恐らく彼らも内心でこれからパーティーに加わる克洋の実力が気になっており、それを確かめるいい機会だと考えたのだろう。

 当事者であるルリスは既に獲物である剣を構えてやる気満々の様子であり、どう考えてもこの状況では決闘を止めるのは無理だろう。

 覚悟を決めた克洋は腰の刀に手を伸ばして、徐に正眼に刀を構える。

 克洋とルリスが戦闘態勢に入った所でアルフォンスが一歩前に出てきた、どうやら彼はこの決闘の審判役をしてくれるらしい。


「殺しはご法度。 勝負が付いたと判断したら、無理矢理にでも止めるからな」

「問題無いわ」

「お手柔らかにお願いします…」

「よしっ…、始め!!」


 アルフォンスの声とともに、克洋とルリスの決闘が幕を開けた。

 先手を取ったのはルリスだった、彼女は冒険者に相応しい身体能力で一瞬の内に克洋との距離を詰め、手に持った両刃の剣を上段から克洋の体目掛けて振り下ろした。

 言葉にしてみれば単純な動作であるが、その速度は何の訓練を受けていない人間では捉えられない速度で行われている。

 もし克洋がただの素人であれば、あっさりとルリスの剣をその体に受けていただろう。

 しかしルリスの剣は克洋に届くことは無かった、克洋の刀が見事にその剣戟を受け流したのだ。

 小手調べの一撃とは言え自分の攻撃を捌いたことにルリスは内心で感心した、今のやり取りだけで克洋が一定以上の訓練を受けた事は把握できた。

 しかしこの程度ならば冒険者学校で基礎を学んだ学生にでも出来る、ルリスは克洋の実力を引き出すためにそのまま攻勢に入っていく。

 ルリスは華麗な剣捌きで二撃目、三撃目と繰り出していく。

 上段の剣戟を受け流された事で下段に位置していた剣を逆袈裟に斬り上げ、それが避けられたら意表を付くために点による刺突を試みる。

 ルリスの持つ両刃の剣は一般的な剣より一回り小さな物で、一撃の威力より取り回しを重視した物になっていた。

 その無駄のない動きと合わせて、ルリスの連続攻撃は中々の速度であろう。


「くっ…」

「ふんっ、防戦一方だな…」


 克洋は苦しげな表情を浮かべながらも、ルリスの連撃に耐え続ける。

 下段からの逆袈裟を半歩後ろに下がって体をひねることで剣の軌道から回避し、胴を狙った突きは刀をルリスの剣に当てる事で軌道をずらす。

 克洋から反撃する余裕は無く、ルリスの剣に防戦一方の有様である。

 その動きは傍から見ても拙く危なかっしい物で有り、観客である冒険者達も克洋の敗北を予想していた。

 しかし決闘が始まってから何十合と剣を交わしながら、未だに克洋は両の足で大地に立っていた。

 剣を振りはじめてから一年にも満たない克洋と、冒険者として何年も剣を降ってきたルリスの実力差は隔絶している。

 それにも関わらず克洋は、ルリスの攻撃を捌き続けていた。


「このっ!? 何故落ちない…」


 克洋が此処まで生き残っている理由を一言で説明するならば、これまで那由多と訓練を続けていた経験の賜物であろう。

 克洋は那由多相手に真剣を使った稽古を毎日のように行い、そして那由多の剣によって殺されていった。

 即死攻撃を自動回避する転移魔法(テレポート)のお陰で命だけは助かった物の、本来なら死んでいた筈の死の剣閃に幾度も無く晒されていたのだ。

 この無茶な訓練によって死に敏感になった克洋は、殺気を読むなどと言う漫画のような技術を会得していた。

 克洋はこの技術によってルリスの剣を的確に読み、どうにか捌き続ける事が出来ていた。

 技量差故に反撃に転ずる事は難しいが、克洋は確実にルリスの剣を捌いていた。

 今もルリスが上段を狙う動作を行い、途中で胴への横薙ぎに移るフェイントを混ぜた攻勢に出る。

 克洋はまんまとフェイントに引っかかり、明らかに上段に対処するために刀を構えたのだ。

 しかしルリスが胴への変化をする直前、克洋は何かに気付いたように慌てて刀を胴への防御に移してしまう。

 結局、刀と剣がぶつかり合う甲高い金属音が響き、ルリスの胴狙いの一撃はまたしても克洋によって防がれてしまった。

 剣の腕ならば自分の方が確実に上である、しかし現実にルリスは克洋を倒すことが出来ない。

 この理不尽な現実を前にして、ルリスの表情に明らかな焦りが出ていた。






 このまま斬り合っても克洋に勝てるイメージが沸かなかったルリスは、一旦攻勢を止めて数歩下がり克洋から距離を取った。

 どうやら相手は防御だけはやたら上手いらしく、悔しいあのまま押し切ることは難しいだろう。

 しかし冒険者としてのルリスの手札は剣術だけでは無い、彼女にはまだまだ奥の手があった。

 克洋相手にどの手札を切るのが一番適切か考えるために、ルリスは攻勢を止めたらしい。

 互いに距離を取ったことで一息付けたのは、何もルリスだけでは無い。

 ルリスの攻撃を捌くのに全力を出さざるを得なかった克洋にも余裕が出来たのである。

 そして一瞬の間を置いて先に動いたのはルリスでは無く克洋、この決闘において初めて克洋が攻勢に出たのである。


風刃波ウインドウェーブ!!」

「魔法!? しかしこの程度の魔法で…」


 ルリスが距離を取ってくれた事で精神集中する時間が出来た克洋は、ルリス目掛けて魔法を放ったのだ。

 使ったのは風の初級魔法、射程距離は無いが放射状に広がるこの攻撃魔法は複数を相手するときに有効な魔法である。

 いきなりの魔法発動に面を食らったルリスであったが、克洋から放たれた弱々しい風の刃を見てこれはただの虚仮威しであると悟る。

 熟練した魔法使いで有れば本来必要な手順である一定の精神集中を省き、ノータイムで普段と変わらない威力の魔法を放つ事が出来る。

 しかしそうで無い者が精神集中無しに魔法を発動したら、その魔法の威力は大きく落ちてしまう。

 今の克洋が放った風の初級魔法はまさにそれで有り、あんなそよ風のような魔法ではルリスを倒すことは出来ないだろう。

 


「なっ、視界が…」


 結論として克洋の魔法はルリスに傷一つ付けることは出来無かった、そもそも克洋が放った魔法はルリスを狙った物では無かったのである。

 弱々しい風の刃はルリスの足元に到達し、その土の地面を抉ったのだ。

 その衝撃でルリスの足元の土は巻き上げられ、彼女の視界は一瞬の内に茶色の次の粉塵に奪われる。

 克洋の真意が目潰しにあると諭したルリスは、慌てて前方の警戒を厳とした。

 魔法によって巻き上がったこの土埃は、一定時間経てばすぐに収まる。

 此処で下手にこの場から逃れようとすればその隙を突かれる事も考えられるため、ルリスはその場に留まる選択をしたのだ。

 ルリスは克洋が来るであろう正面方向に集中していた、どの方向から奇襲を掛けようとも自分なら対処できる。

 ルリスの自身はこれまで冒険者として活動してきた経験を元にした確かな物であった。

 そして次の瞬間、ルリスは首筋に感じる冷たい金属の感覚を覚える。

 何時の間にか背後に現れた人の気配に気付き、目だけを動かして確認してみればそこには先程まで前方に居た筈の克洋が居るでは無いか。


「後ろ!? 何時の間に…」

「…これで勝ちでいいかな?」

転移魔法(テレポート)か! そんな物を使えるのか、お前!!」


 審判役をやっていたアルフォンスは、克洋がやったことを理解できた。

 風の魔法で相手の目を潰し、自身の体を隠した所で転移魔法(テレポート)を発動してルリスの背後に回ったのである。

 視界が良好な時に克洋の体が消えたら、ルリスも警戒してそう簡単に背後を取らせなかったであろう。

 しかし目潰しで克洋を見失ったルリスには、背後からの奇襲を読む術が無かったのだ。

 視界を潰したとしても他の五感が生きているルリスは、聴覚などを頼りに克洋の動きを伺っていた。

 もし克洋の移動する足音などが聞こえていならばルリスは後方にも注意を払っただろうが、転移魔法(テレポート)によって音も無く背後に回る事など初見で見破れる筈も無い。

 首元に刀を置かれた自分の敗北は明らかである、ルリスは悔しげな表情を浮かべながら手に持つ剣を手放した。

 克洋の華麗な逆転劇を目撃した野次馬たちは、口々に克洋の勝利を囃し立てる。

 こうして転移魔法(テレポート)と言う反則技を持って、両者の決闘は克洋の勝利と言う形で幕を下ろした。

 


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