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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第一章 冒険者学校一年目編
27/97

1. パーティー


 冒険者たちが仕事を受ける方法大きく分けて二つ存在する。

 一つは直接依頼を受ける方法。

 依頼主が知り合いの冒険者や名を知られた冒険者に直接声を掛けて、魔物討伐などの仕事を依頼するのである。

 しかし冒険者として直接仕事を貰うには何らかの伝手や名声・実績が必要な事が多く、ある一定上の冒険者で無ければ仕事が直接来ることは少ないだろう。

 そのため大半の冒険者達は、もう一つの方法で仕事を得ていた。

 冒険者組合、冒険者達の管理を行う国直属の公営組織を仲介する方法である。

 この国に住まう国民は魔物関係などの冒険者が必要になるトラブルが会った場合、真っ先に冒険者組合に通報を行う。

 そして冒険者組合が適切な冒険者たちに仕事を割り振り、トラブルの解決に尽力するのである。

 冒険者組合の施設はこの国のある一定上の都市には必ず存在しており、必然的に冒険者組合がある都市には冒険者達が集まっている。

 そして此処、ヴァルニルと言う名の街にも冒険者組合が存在していた。











 そこはヴァルニルで一番大きな酒場であった。

 冒険者たちの溜まり場となっているその酒場には昼間から酒を豪快に飲む者や、酒場の軽食で腹を満たす者など、様々な人間が英気を養っていた。

 冒険者組合が設置されたこの街には多数の冒険者達が生活をしており、金払いのいい冒険者達は酒場に取っては良客であった。

 可愛らしい衣装を着たウェイトレスたちは、営業スマイルを浮かべながら足早にテーブルの周りを回っている。

 酒場のとあるテーブル席、そこに三人の冒険者達の姿があった。

 一人は見るからに逞しい体をした金髪の男で、ハリウッド映画に出てきそうな濃ゆい顔立ちをしていた。

 一人は少しクセ毛気味の髪を伸ばしており、これまた洋物映画に出てきそうなブロンド女性である。

 どうやらこの金髪の男女は一定以上の関係らしく、席を意図的に近づけてほぼ密着した状態となっていた。

 二人は公共の場で堂々と互いの体をボディタッチしながら、二人の愛を確かめ合っているようだ。

 そして二人のカップルの真向かいに陣取った最後の一人、一見男性に見紛うほどに凛々しい短髪の女性の姿があった。

 その女性はご機嫌な様子のカップルたちと対象的に、しかめっ面をしながら苛立たしげにジョッキを持ち上げて喉を潤している。


「本当にそんな素性の解らない人間をパーティーに入れるの? ララ」

「あら、素性は確かよ。 以前に私がお世話になった方から紹介された人なの。

 あなたもフリーダ様の名前は聞いた事が有るでしょう?」

「だから心配なのよ。 お偉いさんの口利きで来る人間なんて、きっとろくな奴じゃ無いわ。

 そんな奴に命を預けるなんて私は御免よ…」

「まあまあ落ち着けよ、ルリス。 誰だって最初はビギナーなんだ、それを指導してやるのも先達の仕事だろう?

 それにあのフリーダ様の紹介した奴だぜ、きっと金の卵って奴に違いないぜ」


 ルリスと言う名の短髪の女性は、ララと言う名の金髪の女性に対して不満をぶつけていた。

 話を聞く限りどうやらこの三人は冒険者のパーティーを組んでおり、そこに新たなメンバーを加えようとしているらしい。

 しかしルリスは新規メンバーの加入に反対らしく、仲間たち翻意を促そうとしていた。

 その新たなメンバーと言うのは、ある有名人がララに紹介した人材のようである。

 かつて勇者のパーティーで有り、世界最高峰の魔法使いと言えるフリーダの名前はルリスも知っていた。

 しかし肝心のフリーダが紹介したと言う人物は、どんな人間であるか解った物では無いのだ。

 冒険者のパーティーと言うのは、互いに命を預け合う戦闘集団である。

 魔物という強大な敵を相手を前にして、足を引っ張る者がパーティーに居たら下手をすればパーティー全体に危機が及ぶ。

 ルリスは実力も定かではないその人物を、いきなりパーティーに入れることは反対であった。

 しかしフリーダから直接その人物を紹介されたララと、彼女の恋人であるアルフォンスはその人物の加入に好意的らしい。

 確かに実力は未知数であるが、フリーダの紹介する者であればそれなりの人材であると考えたのだろう。

 それだけ世界最高峰の魔法使い、フリーダのネームバリューは強力だと言うことだ。


「…すいません、あなたがララさんでしょうか」

「そうでーす。 あなたがフリーダ様から連絡があった克洋くんね、ようこそ、私達のパーティーに」

「はっはっは、びしばし鍛えてやるからな! よろしく頼むぜ、俺の名前はアルフォンスだ!!

「は、はい!! 俺は克洋です、よろしくおねがいします」


 揉めているルリスたちの元に、一人の男が姿を表した。

 その男は恐る恐ると言った様子でララに声を掛けた事で、ララはすぐにその男の正体を察することになる。

 彼が今日自分たちと合流することになっている、フリーダの紹介した人間であるに違いない。

 それは見た所、あのフリーダが紹介したとは思えないほど平凡な男であった。

 克洋と名乗った男はどうやら東の国の出身らしく、黒い髪に東の国特有の刀を腰に指していた。

 冒険者を名乗るだけあって少しは鍛えているようだが、アルフォンスの鍛えられた体を比較するとどうしても頼りないように見える。

 克洋はアルフォンスやララに促されながら、彼らの囲っているテーブルに置かれていた空き椅子に座らせる。

 緊張しているのか硬い笑みを浮かべながら、克洋はララたちと言葉を交した。

 アルフォンスは体育系部活の先輩のように克洋の背中を叩きながら陽気な笑みを浮かべ、ララも同じように克洋に好意的な態度で克洋を受け入れる。

 ただ一人、仏頂面を浮かべながら無言で克洋を観察するルリスを除いて…。











 ユーリが冒険者学校に入学する際、克洋は一つの選択に迫れていた。

 冒険者学校にユーリが在籍している間、自分は何をすればいいのかと言う選択である。

 流石にユーリが冒険者学校を卒業するまで遊んでいる訳も行かず、克洋は自分に出来ることを探すために原作の内容を必死に思い返した。

 しかし冒険者ユーリはあくまで主人公をユーリに置いて描かれた作品であり、必然的に原作での描写はユーリの周辺の話なってしまう。

 そのためユーリが冒険者学校で活動をする二年間、冒険者学校の外で何が起きていたかは殆ど原作には描かれていないのだ。

 記憶の糸を辿っていった克洋は、やがてある一つの可能性に思い至った。

 冒険者ララ、それは"冒険者ユーリ"の原作で出てきたキャラクターの一人である。

 彼女が原作に出てきたのは今から二年後、ユーリが冒険者学校を卒業して冒険者として活動し始めた頃である。

 このララが登場するエピソードにおいて、彼女の口からある悲劇が語られた。

 二年前にララはとある事件に巻き込まれて、彼女の恋人であったアルフォンスを失ったと言う悲しい過去を…。

 フリーダに調べて貰った結果、現時点ではアルフォンスはまだ存命している事は判明した。

 そして原作の記述からララたちがアルフォンスが死亡してしまう事件に巻き込まれるのは、少なくとも今から一年以内に発生するだろう。

 この時に起こる事件は後々に発生する大事件の切っ掛けのような物であり、この事件に介入する事でそれを未然に防げるかもしれない。

 そのため大和はフリーダの名前を利用して、ララたちのパーティーに合流を果たしたのだ。

 後は暫くララたちと共に冒険者として活動を行い、彼女たちが巻き込まれる事件が起きるまで待てばいい。

 加えて冒険者として活動することは、那由多と言うスパルタ教師と離れ離れになった克洋にはいい修行になるだろう。

 しかし克洋は早々に、予想もしなかったトラブルに遭遇することになる。


「来い、貴様の力を試してやろう!」

「何でこうなるんだよ…」


 ララたちの出会いから数十分後、克洋は酒場の前の大通りに立っていた。

 克洋から十メートルほど離れた先には、ララのパーティーの一人であるルリスが居る。

 ルリスはその手に細身の西洋剣を構えており、その強い意思が込められた瞳は克洋を捉えて離さなかった。

 相対する克洋たちの周囲には先程まで酒場にいた冒険者達が集まっており、酒を片手に克洋たちを囃し立てる。

 その中にはララやアルフォンスの姿も有り、興味深そうな表情で克洋立ちの様子を眺めていた。

 酒場の正面はこれから行われる見世物、克洋とルリスの決闘に期待する野次馬たちの熱狂の渦に包まれていた。







 この決闘騒ぎの発端は克洋のパーティーに加入に反対していたルリスだった。

 克洋の実力に懐疑的であったルリスは、克洋の素性やこれまでの冒険者としてこなしてきたクエストの内容について問いただした。

 しかし素性については克洋は言葉を濁し、クエストに関してもゴブリンを倒しただけと言う体たらくを聞いてルリスの苛つきは高まっていく。

 そして克洋が冒険者学校を卒業していないと言う話を聞いた事で、彼女の不信感がピークに達してしまったのだ。


「何っ、お前は冒険者学校出身では無いのか?」

「はぁ…、俺は特化型の枠で冒険者の資格を手に入れたんで…」

「何、だと…」


 殆どの冒険者は冒険者学校で基礎を学び、冒険者として世界に羽ばたいてく。

 ルリスだけで無くララやアルフォンスも勿論、数年前に冒険者学校を卒業して冒険者になった者たちである。

 ルリスは身を持って冒険者学校の厳しい訓練を知っていた。

 もし克洋がルリスと同じように冒険者学校を卒業して冒険者になっていたら、彼女も克洋が冒険者としての最低限の実力は有ると渋々納得していただろう。

 しかし克洋は冒険者学校を経由せずに冒険者となったと言うのだ、その話を聞いたルリスの脳裏には有る嫌な噂が呼び起こされていた。

 曰く、金持ちのボンボンなどが泊を付けるために賄賂を送ることで、相応しい実力を持たずに冒険者としての資格を手に入れていると言う話である。

 もし克洋がこの噂のような方法で冒険者としての資格を手に入れていたのならば、自分たちは全くの素人をパーティーに加えることになる。


「克洋と言ったな…、今から私と決闘しろ!

 お前が本当に私達のパーティーに相応しいから確かめてやる!!」

「えっ…、えぇぇぇぇっ!!」


 こんな実力が不確かな人間と一緒に冒険者として活動できない、そう考えたルリスはある行動に出たのだ。

 相手の力を試すには実際に戦って見るのが一番と言う脳筋発想から、あろうことかルリスは克洋に決闘を申し込んだのである。

 予想外の申し出の前に、克洋の素っ頓狂な絶叫が酒場の中に響き渡った。




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