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「冒険者ユーリ」の世界にやって来ました  作者: yamaki
第零章 原作開始前編
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22. 再戦


 村に現れたドラゴンたちは既に殆ど討伐され、村の周りに無残な躯を晒していた。

 フリーダの魔法によって丸焦げになった物、全身が凍りついた物、雷によって中から焼かれた物もの。

 そして那由多の刀によって首を断たれた物も何体か見え、さながらドラゴンの墓場と言った様相だ。

 運良く生き残ったドラゴンは彼我の力の差が理解出来たのか、フリーダたちに怯えたような素振りすら見せていた。

 そんなドラゴンに対してフリーダは容赦することは無く、杖から新たな魔法を放つ。

 しかし何体ものドラゴンを倒してきたフリーダの魔法は、今回に限ってドラゴンに届くことは無かった。

 ドラゴンに向かって一直線に飛んでいた魔法の球が突然、空中で爆発してしまったのである。


「なっ、迎撃された!?」

「この気配…、ようやく本命の登場ですか?」


 フリーダは見た、ドラゴンに当たる直前に自分の魔法を撃ち落とした魔力弾の軌跡を。

 巨体であるドラゴンは魔法を迎撃するような細かな真似ができる筈も無く、あれを成した物はドラゴン以外の何かであった。

 そしてその何かに心当たりのあった那由多は、歓喜した表情を浮かべながら刀を何もない空間に向かって突き付ける。

 すると那由多の刀が示す空間から、突如声が聞こえてきたでは無いか。


「やれやれ、随分と違う展開になった物だね…」

「お前は…、魔族!?」

「お久しぶりですね、あれからお変りなく?」


 声と共にその空間が歪み、そこから一人の少年が姿を見せる。

 少年は軍服風の衣装に身を纏っており、外見だけ見れば那由多と同年齢と思われた。

 しかし少年の普通の人間と明らかに異なる尖った耳から、少年の年齢が見かけ通りでないことを教えていた。

 魔族の少年ザン、今回の襲撃の首謀者の登場にフリーダたちの緊張が高まった。






 何もない空間から現れたザンは、そのまま宙に浮かびながらフリーダたちの姿を睥睨していた。

 因縁の相手を前に我慢が効かなくなった那由多は、壮絶な笑みを浮かべながらザンに向かって飛びかかろうとする。

 しかし那由多の行動は直前に止められた、今にも飛び出しそうになっている那由多の肩にフリーダが手を伸ばして制止したのだ。

 那由多を止めたフリーダはそのまま、宙空に居る魔族の少年に向かって話掛けた。


「お前の事情は克洋から一通り聞いている。 その上であえて聞く、何故このような馬鹿な真似をした?」

「克洋、それがあなたがこの場にいる理由ですか…。 やはりこの世界にはイレギュラーが何人も居るらしい…。

 ああ、すいません、今日の襲撃の動機についてでしたね。 まあ強いて言うならば、これば僕の役割だからですよ」

「何っ?」

「事情は聞いているんでしょう? 今日の襲撃を持って物語の幕は開ける…。

 仮にも僕はメインキャストの一人としては、序盤くらいは原作通りに行動した方がいいと思いましてね」


 ザンの口ぶりは明らかに冒険者ユーリという作品について言及した物であった。

 少なくともこの魔族の少年は、克洋と同じように原作知識とやらを把握しているらしい。

 そしてこの魔族はその原作とやらを再現するために、このような凶行を起こしたと言い放つ。

 内心で頭上の魔族に対して強い怒りを覚えながら、フリーダはザンからもっと情報を聞き出すために会話を続けようと考えていた。

 しかしフリーダと那由多との会談は、彼女の背後から飛んできた光の槍によって中断されてしまう。

 光の槍は一直線にザンに向かって飛んでいき、ザンが常時張っている障壁魔法と衝突した。

 光の槍と障壁が激しくぶつかり合い、光の火花を散らしている。

 そして暫くして光の槍は、あえなく障壁に弾かれて消滅してしまった。

 やはり魔族の障壁は硬いらしく、あの光の槍では貫くことが出来無かったようだ。


「おっと…、危ない危ない」

「デリック!! お前…」

「ふざけるな、そんな理由でこの平和な村を襲っただと!!」


 あの光の魔法に見覚えのあったフリーダは、慌てた様子で後ろを振り向く。

 そこには先ほどまで障壁魔法を展開していた筈のデリックが、怒りの形相を浮かべているでは無いか。

 原作の展開を再現するという世迷い言のような理由によって、愛する村を襲われたデリックの怒りは凄まじかった。

 普段の温厚な神父の顔をはそこには無く、鬼のような表情でザンを睨みつける。

 しかし視線だけで人を射殺せそうなデリックの形相を前にしながらも、ザンは何ら動揺する素振りを見せなかった。

 先ほどデリックが放った聖属性の攻撃魔法を己の障壁魔法で捌いたザンは、興味深そうに神父の姿を見下ろす。


「僧侶デリック、元勇者のパーティー。 怪我で冒険者を引退したと聞いていましたが、まだまだ現役でも行けるのでは?」

「…あら、余所見をしている暇はあるのですか?」

「那由多!!」


 フリーダがデリックに気を取られてしまっている間に、何時の間にかフリーダの手を振り払った那由多がザンに向かって駆け出していた。

 ザンは近づいてくる那由多に対して、何の行動を起こす事無くただ笑みを浮かべる。

 すぐにその笑みを凍りつかせてやる、以前に洗脳されかけた時の屈辱が蘇っていた那由多の頭の中にはザンを斬ることしか無かった。

 刀を鞘に収めた那由多はそのまま跳躍し、ザンの真向かいの位置にまで辿り着く。

 空中ということもあり地面を踏み込む事は出来ないが、それでもドラゴンを切り裂く程度の居合は放つことが出来る。

 手を伸ばせば相手に届くほどの距離である、例え相手が遅まきながらに反撃をしようとしても此方の居合の方が早いだろう。

 那由多は左手で鞘を固定し、少し前かがみになりながら右腕で刀の柄を持って居合の構えを取る。

 そして微塵の躊躇いも見せず、神速と見紛う一振りを放った。






 硬い物がぶつかり合う嫌な音と共に、月光で煌めく金属の塊が夜空を舞った。

 那由多の剣戟がザンの障壁を破ること無く、逆に力負けした刀が真っ二つに折れたのである。

 重力よって地上に着地した那由多は呆然と言った表情で、自分の手の先に有る折れた刀を見やる。

 最初に障壁に辿り着いた刀身の中間部分を起点に断たれた刀は、最早脇差しと言っていい短さになっていた。

 残念ながら那由多の刀は、またしてもザンの障壁を超える事が出来無かったのだ。


「なっ…」

「仮にも僕は魔族、魔物を統べる人類の天敵だ。 僕の障壁がドラゴン程度と同等の硬さだと本当に思っていたのか?」


 那由多の敗因は簡単である、ザンの障壁の防御力を低く見積もり過ぎたのだ。

 確かにこの半年の成果によって、那由多の刀はドラゴンの皮膚すら断つことが出来るようになった。

 しかしそれは魔族の障壁までも断てるようなったかと言えば、残念ながらそうでは無かった。


「やっぱり君は僕の仲間になった方が良かったんだよ? 君の剣は人間相手になら非常に役に立つだろう」

「貴様ぁぁぁっ!!」


 原作において那由多はザンの仲間となり、ユーリたちの前に何度も立ち塞がった。

 必然的に那由多が相手をする相手は人間となり、対人に特化した那由多に取っては打って付けの戦場であったろう。

 那由多の剣では魔族には届かない、暗にそう語るザンの言葉に那由多は激高する。

 物心付いた時から剣を振ってきた那由多に取って、ザンの言葉は自分の生涯を否定する物であった。

 何時もの落ち着いた態度をかなぐり捨てた那由多は、半分になってしまった刀を持って再びザンに襲いかかろうとする。

 しかし那由多の特攻を諌めるかのように、ザンに向かって魔法が放たれた。

 魔法に巻き込まれないために、那由多は不本意ながらザンから距離を取る。

 そしてフリーダの放った巨大な火球はザンに到達した物の、またもや強力な魔族の障壁によって弾かれてしまう。


「フリーダ様!!」

「頭を冷やせ、那由多! ちぃ、上級魔法でも歯が立たないか…」

「あれだけ強固な障壁を張る魔族は一人しか知りません。 魔王の血縁、あの少年の話は満更嘘では無いようですね…」


 かつて勇者のパーティーの一員とであったフリーダとデリックは、魔王討伐のために冒険の旅を行っていた。

 その度の最中に幾度と無い魔族との交戦経験があったが、その歴戦の勇士である彼らから見てもザンの障壁は強大であった。

 あれと同程度の障壁を作り出せる魔族は、彼らが知る限り一人しか思い至らなかった。

 魔王、人類の天敵である魔の一族を収める最強の魔族である。

 その障壁から目の前の魔族の少年の力を理解した歴戦の戦士たちは、心胆を寒からしながら警戒を強める。


「おやおや、僕ばかりに構ってばかりでいいのですか?」

「何っ…」

「グァァァァァ!!」

「しまった、ドラゴンが…」


 ザンという強大な魔物の存在に気を取られて、デリックは村を守る障壁魔法を解除してしまっていた。

 そしてザンと言う強大な存在に気を取られてしまったフリーダたちは、この場にはザン以外にの脅威を見逃してしまう。

 こちらを小馬鹿にしたかのようなザンの言葉によって、遅まきながらそれに気付いた時にはもう遅かった。

 辛うじてフリーダたちの手から生き残っていたドラゴンは、隙を突いて村の内へと飛び込んでしまっていたのだ。

 デリックの障壁は既に無く、ドラゴンを阻む壁は何処にも存在しなかった。

 これも実戦から離れていた弊害だろうか、現役の頃には絶対行わなかったような失敗を犯してしまった。

 此処であのドラゴンを見逃してしまったら、この村やユーリに危険が及んでしまうだろう。

 胸の内で後悔が渦巻くデリックだったが、すぐに頭を切り替えてドラゴンを追跡しようとした。


「おっと、君たちは僕の相手をして貰うよ」

「くっ…」


 しかしドラゴンを追おうとするデリックの前に、あの魔族の少年が立ち塞がった。

 華麗な空中移動でデリックの正面まで移動したザンは、初めて自分から攻撃を繰り出した。

 ザンの両の指から放たれた十の魔力弾は不規則な軌道を描きながら、デリックの元に向かっていく。

 デリックだけでは無い、魔力弾の一部は那由多やフリーダの元にも飛んできていた。

 一目で魔力弾の威力を察したデリックたちは、生き残るためにそれぞれの獲物を構えた。

 己の愚かさと目の前の魔族に対する殺意が入り混じり、デリックは衝動を抑えるために歯を食い縛りながら生き残るために魔力弾を迎撃しようとする。











 デリックたちが魔族と死闘を繰り広げていた頃、克洋たちは逃げ遅れたトム爺さんの家へと向かおうとしていた。

 村の住人であるユーリとアンナの先導の元、克洋はティルを小脇に抱えながら村の中を駆けていく。

 トム爺さんを迎えに行くに辺り克洋は当初、案内人であるユーリのみを連れて行こうと考えていた。

 しかし克洋の思惑とは異なり、あれよあれよ言う間に人数は増えていったのだ。

 一人目はユーリの幼馴染であるアンナ、幼馴染の少年を心配した彼女は克洋に同行する事を強く望んだ。

 そして二人目はティル、見知らぬ人間たちの元に取り残されることを拒んだ彼女は克洋からしがみついて離れようとしなかったのだ。

 結局、克洋はこの少年少女たちを連れて行くことを決断する。

 自分の能力の事を考えたら、一緒に居たほうが安全だと判断したらしい。


「もう少しでトム爺様の家につきます!」

「ほら、あの赤い屋根の家!!」


 ユーリたちが示した先には、確かに赤い屋根のこじんまりとした家があった。

 後はあの家に居る筈の爺さんを回収して、避難場所に戻るだけである。

 行きはあの赤い屋根の家の場所が解らなかったために此処まで走るしか無かったが、帰りは転移魔法(テレポート)を使ってすぐにあの広場まで戻ることが出来るだろう。

 村一番の脚力は伊達でなく、ユーリは全速力でトム爺さんの家へと向かっていく。

 ユーリから少し遅れてアンナ、そして村の子どもたちからやや離れた位置に克洋とティルが続いていた。

 しかし次の瞬間、克洋たちの目的地であった赤い屋根の家が一瞬の内に火に包まれた。

 その場に足を止めて唖然とする克洋たちの目の前に、炎に包まれた家の後方からドラゴンが悠然と姿を表した。

 それはフリーダたちの手から辛くも生き残ったドラゴンたちであり、仲間たちの復讐に燃えるドラゴンの嘶きが克洋たちの耳朶を叩いた。


「グァァァァァ!!」

「なっ…」


 突然の事態に硬直する克洋たちを相手に、ドラゴンは容赦しなかった。

 先ほど赤い屋根を吹き飛ばした火炎のブレスを、今度は克洋たちに向けて放とうと構える。

 ドラゴンは克洋たちを点と考えたら、その点を繋げた直線上に位置取っていた。

 この状態でドラゴンがブレスを吐けば、一息で克洋たちは全滅すること間違い無いだろう。

 息を大きく吸うドラゴンの様子を前に正気を取り戻した克洋は、自分とユーリたちの位置関係を見て失敗を悟った。

 転移魔法(テレポート)を使えば、自分と自分が抱えているティルは助かるだろう。

 しかしこのままでは前方に居るユーリたちは、確実にブレス攻撃の餌食になってしまう。

 悪いことにユーリとアンナが居る位置には少ない距離が有り、一度に二人同時に救出することは不可能だ。

 既にドラゴンのブレスは発射寸前になっており、時間的に助けられるのはどちらか片方のみだろう。

 ユーリとアンナ、究極の二者択一を突き付けられた克洋の顔面は蒼白した。




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