プロローグ 「始まりってなんかカッコつけちゃうよね!」
私の話をしよう、もう何年も前の話。
けれど今でも思い出す、あの夏のことを、きっともう二度と無い、夢のような日のことを。
これは私の物語。
今でも鮮明に覚えている、十三年前の夏休み。両親の仕事の都合で私は一人で祖父母の家に一ヶ月滞在することになった。
あの日、「あらあらよく来たねぇ...!」と嬉しそうに私を迎える祖母に笑顔を返しつつ私は内心穏やかでなかった。
一ヶ月もここに居なくちゃいけないなんて!!退屈で死んじゃうに決まってる!!そう叫ぶのをよく我慢したと今でも思う。
何せ祖父母の家がある場所は『ど』が付くほどの田舎なのだ。コンビニなんて物はないし、お年寄りばかりで友達もいない、周りは山に囲まれていて、なにより虫が沢山出るのだ!何度も母に家で一人で留守番する!と駄々をこねたが、当時中学一年生の私に両親がそれを認めてくれるはずもなく、私は一人祖母の家に置いていかれたのだ。
「それじゃあ、お母さんあとはよろしく」なんていって立ち去ろうとする母の姿に悪魔の影を重ねつつ、「じゃあまたね」とふてくされながら呟いた。母はそれに小さく手を振って返すとさっさと車に乗り込み、仕事に向かっていった。
家に入ると「汐留涼架!!!」と鼓膜が破れるんじゃないかというくらいの大声で名前を呼ばれ、驚いて振り向くと祖父が立っていた。祖父は農家をしており、当時七十歳をこえていたが、とてもそうは見えないほどパワフルな人だった。
嬉しいとき人をフルネームで呼ぶ癖があるので昔から祖母に可笑しな人!とからかわれていたらしいが、私はそんな祖父が好きだった。
「おじいちゃん!久しぶり!!」と祖父に抱きつく。「元気があって良し!!待ってたぞー!」かっかと笑う祖父を見て私も思わず笑みがこぼれた。今回のお泊まり、おじいちゃんが居なかったら絶対嫌だったんだから!と心の中で叫ぶ。もちろん祖母のことだって嫌いではなかったが、行くと毎回不思議な話をしてくれる祖父が私は家族の誰よりも好きだった。
簡単に言えば、ただのおじいちゃんっ子というやつだ。
「ねぇおじいちゃん!今日はどんな話をしてくれるの!?」「そうさなぁ......おじいちゃんが昔会った河童の話でもしようか。」真剣な顔で言う祖父に「あんまり変なこと教えないでくださいよ!」と牽制する祖母、毎回こんなやりとりがあり私は笑いを堪えるのに必死だった。
「でも涼架ちゃん、この話は夕飯の時にしよう。まずは荷物を片してきな。」「えー!」「ほら!おじいちゃんの話が聞きたいならぱっと動く!!」
こうなるともう言うことを聞くしかない。「はぁーい」私は渋々、二階に荷物を置きに行った。階段を上っていつも使う部屋を開ける。と、見慣れた部屋に、見慣れない何かが、居た。
「........え?」145cmの私と同じくらいの背丈で、やたら頭部は大きく、巨大な目は真っ黒で、細い腕や指を持つ、そこに居たものの姿は......まるで.....「う、宇宙人...!?」ここでやっと私の存在に気づいた『それ』がこちらを向いた、と、同時に私は気を失ったのであった。