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彼女。

 駅の改札を抜けロータリーに出ると、やっぱり彼女はまたそこに居た。いつも通りロータリー中央の花壇に腰掛けている。彼女は僕に気付いて怪訝な表情になる。

「何ニヤニヤしてるの?」

 足取り軽く近づいてきた僕に、彼女はこれでもかって程の冷たい視線を向け尋ねてきた。

「そりゃあ君に会えたからね。万が一居なかったらどうしようかと不安だったんだ」

「当然のように隣に座らないでよ」

 彼女は怒りながらも僕を押しのけようとはしない。当然だ。僕を押そうとしたところで彼女の腕はすり抜けてしまう。

 彼女は幽霊なのだから。

「この前の忠告を聞いていなかったようね。これ以上私に関わったら本当に呪い殺すわよ」

「呪縛霊ってやつなのかな?この場所に未練があるの?」

「聞いてるの?」

 何にせよこの場合においてこれは嬉しい事実だ。彼女はこの場所から居なくなったりしない。いつでも会いにこれる。

 彼女がいらいらしながらも立ち去ろうとはしないのが何よりの証拠だ。

 さて、けれどもしかし困った事実でもある。僕は彼女とどこかに遊びに行く事が出来ない。ここから動けないのであれば食事にも誘えないし、遊園地や水族館だって行けないのである。

 試しに聞いてみる事にした。

「どこかにご飯でも食べに行かない?」

「嫌よ」

 可能不可能ではなく、拒絶されてしまった。

「あなた以前、自分は軽い男ではないとか言ってたけど、私にはとても軽く見えるわ。そしてそのせいか、あなたの発言は全て信じられない」

「そもそも君って食事とかって出来るの?」

「いいかげん話を聞きなさい」

 幽霊はどうなんだろう。考えた事も無いからよくわからない。

 彼女は額に手を当ててひどく落胆しているようだった。それとも考えてくれているのだろうか。

 それにしても画になる容姿をしてる。美人だ。透き通るような長い髪も一つ一つ繊細で芸術品のようだ。博物館に並んでいたら大金を払ってでも買い取っていただろう。そんな経済力があるかはまた別の話だ。

 そういえば近くにクレープ屋さんがあった気がする。それを2人で食べるのも悪くない。カップルみたいだ。

「もうどこかに行ってくれないかしら。鬱陶しいのよ」

 でも彼女はクレープを持てるのだろうか。するっと落ちてしまうイメージだが。触感や味を楽しむ事が出来ないなら、空腹も満腹も無いのか。

 彼女ではなく幽霊という存在から理解しないといけないのかもしれない。

 僕らの間にある壁の高さはまだまだ未知なのだ。

「ちょっと行ってくる」

 かと言って行動に移さないほど僕は愚かではない。何事も挑戦だ。

 もしかしたら彼女はクレープを掴めるかもしれない。そうしたらその瞬間に、つまり幽霊にも空腹や満腹という概念が存在するという飛躍的解釈に発展するのだ。

「あら、今日は素直ね」

「?」

「……?」

 彼女の発言の意味がわからずポカンとした僕を見て、彼女もポカンとしてる。

 あぁ、なんだかわからないけど、気が合いそうだなぁ。

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