第六話 異種族パーティ結成?
あの女二人との出会いから1週間が経とうとしていた。
俺は現在、再び角を捕食している。だが、今日はいつもと違い調子が良くない。
スライムの体がいつもの青い色から少し黒みがかっている。それに、全体的に体がだるいのである。
角を捕食し終わった後、俺はステータスを確認してみる。
SP多用による弊害だろうか?それとも進化目前の前兆とかか?
ちなみに、後8本で条件が達成となるがまだである。そして、確認してみると名前の横に追加されている文字があった。
【名前】不動 影道 *『毒LV01』状態
毒だと?このけだるさは毒によるものか?
だが、なぜそんなことになっている。最近は目新しい物を食ってもいないし、毒矢などの攻撃を受けた覚えもない。なぜ、毒状態になっている。
そして、俺は仕舞い込んでいたアイテム・食料をチェックしていく。
そして、気づいた。一角ラットの角の説明に本当に小さく但し書きがなされていることを。
『注意:角には微量ながらも毒性があるが、適量を守れば害はないので安心。体内で蓄積すると毒状態になるので注意してね((笑))』
何ともむかつく注意書きだ。しかも、まるで詐欺でよくあるような説明文の隅に通常文字の10分の1ほどの大きさで書かれているというものだった。
「おい!この情報こそ大文字なり色文字で表記しておけよ!」
地団駄を踏んだが、体がだるいので疲れるのも早い。
幸いなことは、このLVの毒なら半日もすれば自然に解毒できるらしい。
狩りをとりあえず切り上げ、今日は一日休むことにした。
体内に蓄積された毒を完全に除去したいし、何より今まで獲得したアイテムを整理しておくのもいいだろう。俺はそう考えて最近寝床になっている川をめざして体を引きずる。
そこにカサっと草が擦れる音が聞こえた。
モンスターだろうか?
それとも人か?
どちらにしても現状はあまりよくないので急いで体を平べったくして水たまりに偽装する。
現れたのはゴブリンのようだった。ただ、俺の知るゴブリンよりも幼い。それに、ゴブリンは体が黒く耳もとがっている。何よりも顔が醜悪である。
だが、このゴブリンは少し違う。顔は醜悪だが肌の色は人間と同じなのだ。それに、ゴブリンは単独行動をめったにとらない。
案の定、複数のゴブリンがその後について出てきた。
だが、仲間というわけではないらしい。肌が普通のゴブリンだし、色違いのゴブリンを集団で甚振り始めたのだ。
「や、やめてくれよ。俺が何したっていうんだ!」
「オレノ、獲物トッタ。オマエシカイナイ。」
「ハーフシカコンナ事、シナイ!」
「ソウダ!ソウダ!!」
そのような会話が聞こえてきた。さらに驚きなのが人間と変わらずに言葉を発している。どうやら、発声器官なども人間よりのようだなと俺は分析しながら様子をうかがう。
それを見る限りでは、殴られている方は無実の罪を着せられて一方的に攻められているようだ。そして、様子から見て嘘は言ってないようだ。だが、周りはそれを信じようとしないようで暴行の手を緩めない。
「虐めか?いや、差別だろうか。異世界でもやっぱりあるんだな。」
俺はそう思ったが、見ていて気分がいいものではない。
向こうの世界では俺も虐められた。小・中学校と長い間言葉と暴力を見えないところで受け続けた。
その経験があるからか相手の気持ちが手に取るようにわかるのだ。
正直、頭にくる。奇しくも、彼らはまだ偽装している俺に気づいてない。
今ならば奇襲できる絶好のタイミングだった。体の調子は良くないが、ゴブリンなら何とかなるだろう。
オークやオーガ等なら無理だったが。
俺は即座に偽装を解除し、殴りかかっている一匹に覆いかぶさる。
相手も気づいたようだが、遅い。まだ、経験不足の個体だったようだ。これなら今まで狩ってきた個体連中に比べて楽に始末できる。
「ナ、ナンダ。ウウッ!?」
「ゴブシュウ!ナンダ、コイツハ?!」
「コノ野郎、ゴブ?!」
「ギャベッ?!」
叫び声と罵声を浴びせてくるグループ連中には窒息と触手による攻撃をくらわせてやった。
ちょろいものである。もはやゴブリンであれば小隊クラスも十分対応可能だ。
いき揚々と連中を食そうとして、虐められていたゴブリンが怯えて震えているのが目に入った。
俺は今非常に気分がいいので、そいつに警告をしてやることにした。
「俺は今気分がいいから死にたくないなら早く逃げるなり身を守る準備なりをしろ。」
「あ、やっぱり言葉は通じるんだ。その、僕は食わないの?」
「もう3人も獲物が転がっている。十分すぎるし、不要だな。食われたいのか?」
色違いのゴブリンはものすごい勢いで顔を左右に振る。
しかし、変わっている。今俺に捕食されている連中がさっき、ハーフとか言っていたが。
「お前は一応、こいつらの仲間になるのか?」
「集団のメンバーだよ。僕はその中で一番下っ端なんだ。・・ハーフだから。人間との。」
正直、驚いた。聞いた話では、人間の女をゴブリンが繁殖用にさらって子どもをつくるのはこの世界では当たりまえらしい。だが、大抵はゴブリンの血が濃いので人間の女から鵜生まれるのはゴブリンになるのだ。
「集団の長によれば僕は『忌子』らしいんだ。100年に一度生まれる失敗作。力も成長も遅い役立たずだって。」
「そんなにいやなら逃げればいいだろうに。親ももういないのだろう?」
そう言った俺の言葉にハーフゴブリンは静かに首を縦に振った。
恐らく、最初の頃は母親がいたからそのおこぼれで生きていいられたのだろう。
言葉もおそらく母親が教えたと考えると説明がつく。だが、親が死んでそのおこぼれも既になくなり今や下っ端として働くことでしか生存を許されない立場に追いやられているようだ。
「で、でも、僕一人ではこの森で」
「調度よかった。最近、狩りの効率を上げたいと思っていたんだが、一人では限界を感じていた。一人増えるだけでも全然違うのだが、お前はどうする。来るか?来ないか?」
そのハーフゴブリンは最初こそ悩んでいたが、直ぐに覚悟を決めたようだ。
目に光が宿るように決意が見えてくる。さっきまでの落ちこぼれの目より数段よくなった。
「お、お願いします。僕も連れて行ってください!」
「ああ、かまわない。だが、来る以上はお前も強くなってもらう。そして、お前をバカにした連中にいつか目にものを見せてやれ。」
「ああ。僕はもっと強くなってみせるよ。」
「ところで、肝心なことを忘れていた。俺はフドウと呼べ。お前は?」
そう言われたハーフゴブリンはまるで決意表明でもするように直立不動になると俺にこう返した。
「ヘレシーって言います。母さんが付けてくれた名前。そう呼んでください。」
かくして、森のハーフゴブリンであるヘレシーとスライムであるこの俺、不動が行動を共にすることになった。本来は種族も違い天敵同士であるはずの異様なパーティーであった。
その頃、そのゴブリン達が所属していたグループでは帰りが遅い連中を心配して仲間の探索を行っていた。正直に言えば、ハーフなどはどうでもいいのだがそれを虐めている若い奴らはそれなりに有用である。だからこその行動であったが、見つかったのはその連中が携帯していた槍と弓だけであった。後は、微量ながら血が残っている。
「ナニカアッタカ。」
「急イデ探索範囲ヲ広ゲヨウ長!」
「ソウデス。ハーフノ野郎ニ寝首ヲ欠カレタノカモシレナイ。」
周りがまくしたてるが、長は冷静に判断していた。
今はもう夜の時間に入ろうとしている。この時間は凶暴なモンスターも食事を求め始める時間だ。事実と対策はとりあえずネグラに帰ったからの方がいいだろうと長は判断した。
即座に探索グループを引き揚げさせて夜明けを待つことにした。
それを見つめている凶悪な目に気づくゴブリンはこの中にはいなかった。