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第四話 狩られる危機

昨日、俺が30匹目の角を食しているところに音声メッセージが届いていた。

しかもご丁寧に何度も聞き返せるようになっている。俺は今、確認もかねてそれをポイントし、今一度内容を聴きかえしている。


『諸君、第二の人生を謳歌しているだろうか?それとも、理不尽だと嘆いているだろうか?そんなみんなにBIGチャンスだ!これから指定する相手を無力化した者にこちらから素敵な報酬を与える用意がある。え?ふざけるな!と考えている人は感心しないな。これは他人ごとではない。君たちの生命にもかかわることだ。』


その前置きと共に、その人物がこの世界でかなり危険な思考の持ち主で同郷・異郷にかかわらず無差別に人を襲っていることが説明されている。


『このように、かなり危険な存在だ!君たちのためにも彼を討ってくれたまえ。なお、無力化に成功したらこのメッセージに付随しておいた返信用ボタンを押してくれたら確認後に回収に行く。それでは、君たちの第二の人生がより良きたらんことを!』


改めて確認すると本当に厄介な内容である。

なぜ、そんな危険人物を一緒に転生などさせたのだ。勘弁してほしい。

あ、でも俺スライムだからしばらくは関わりないかもしれない。

とは思いつつ、一応はその相手の詳細を確認する。

説明された相手の特徴を書き出して今一度見てみると次のようなものだった。




【名前】シェイド・ハンディー

【年齢】30歳

【種族】人間とエルフのハーフ

【称号】歩く災害、悪夢を纏う者

【現状LV】LV15

【基本能力 攻撃力:40(69)

      防御力:49(68)

      素早さ:45(60)

      MP:30

      SP:50

【保有ポイント】0 P

【スキル】簒奪(LV3)、高速移動(LV2)、炎熱魔法(LV3)、吸血、狂化(LV3)

【装備】呪詛の剣、カラリアの軽鎧、ネフリムのブーツ

【所持品】血の入った小瓶×10、呪詛の服×5、怨念の指輪×3、呪われたドレス×2


これを見たとき、俺は顔を青くしたものだ。

スキルの量、ステータスの高さは現時点の転生者中では恐らく最強クラスであると思う。

俺の上がり幅からの想像なので不確かな点も多いが、恐らく間違いないはずである。

そして、何より心理的に恐怖を抱いたのはその所持品だ。

かなりいびつだと思ったのだ。『血の入った小瓶』はおそらく『吸血』というスキルに関連していると推測できる。だが、他の3点についてはそうではないはずだ。

推測の域であるが、恐らく命を奪ったものからの『記念品』なのではないだろうか。

転生前に見た海外ドラマなどでトチ狂った人間が『自分だけの証』とか、『記憶を振り返るため』に行っている行為だったと思う。


(正直、理解に苦しむし歪すぎる。少なくともしばらくは関わりたくない。)


俺はそう思っているが、いつ巻き込まれるかわからないのも事実だ。

だからこそ、俺は自分を強化して万一の時に備えなくてはならない。俺はまだ弱いのだ。

しかも、スライムであるから不可抗力で他の者から狙われることもありうる。

だからこそ、俺は条件クリアのために一角ラットの角集めを継続している。

50個を集めたあたりから採集率が落ちてきて俺はイライラしている。獲物を窒息させるのだから確実に手に入ると思うだろう。だが、そうでもない。

どうやら角にも特定の数値鮮度が設定されているのか、獲得した物の中には『破損した角』としてドロップすることもあるのだ。いや、最近ではそちらの割合の方が高くなってきている。


「抜き足、差し足、忍び足。そして、触手でブスッとな!!」


俺はそう言いながら触手をラットめがけて刺す。

最近、レベル自体はまだ上がっていないのだがこの体の使い方を理解してきたと思う。

その成果がこの刺すという行為だ。

当初は、鞭で打ちつけるしかなかったがあれこれと体を変化させたり、地面に前世文字を落書きしたりする過程でできるようになっていった。

今では標的を串刺しにすることもある。もっとも殺傷率が高い反面、まだ即死性が低いし対象に気づかれると回避されることも多いので練習は継続であるが。


そんなことを繰り返し、そろそろ川の底にでも行こうと考えていた時だ。

突然、体が焼けるような暑さを感じた。正確には本当に燃えていた。火が俺の体の端を燃やしている。


「うわ!なんだ?!魔法!!」


狼狽えながらもあたりを見渡し、聞き耳をたて、より多くの情報を集める。

すると、直ぐ近くの茂みから声が聞こえてきた。


≪我、魔を払う炎をもって我が敵を浄化せん。フレイ!!≫


その詠唱らしき言葉と同時に火球が3つ、俺に向かってくる。

俺は触手を鞭のようにしてそれを何とか弾くが、触手の一部が焼け焦げる。

火傷による痛みだろうか?ものすごく痛い。

だが、それどころではないので俺は痛みを思考の隅に追いやる。それを見て取った襲撃者が茂みから姿を見せてきた。


「あらあら、スライム風情で私の魔法をしのぎましたわ。どう思うバルティナ?」

「スティアお嬢様。早く仕留めてしまいましょう。ギルド入会のための『証』採取が目的です。むやみに獲物をいたぶるのは趣味がいいとは言えません。」

「あなた、私にたてつくほどいい身分だったのかしら?あなたは私の何?」

「・・すいませんでした。お嬢様。」


そう会話を交わしながら森から出てきたのは二人組。

貴族然とした服装、髪をカールさせた女性。おそらく貴族の令嬢かなんかだ。

そして、もう一人はしっかりとした服装だが言葉や態度からおそらく従者だろう。それでも若い方だ。双方共に10代後半だと思う。それが、なぜ俺を狙うのか?


「スライムには何の恨みもないですが、さっさと倒れなさい。≪我、光をもって闇を穿つ槍を放たん。レイ!!≫。」


その言葉と同時に、今度は光輝く細い矢が俺を突き刺す。体の一部が蒸発し、体が欠損したのが解る。


(痛い!死にたくない!殺されるくらいなら、俺が!!)


燃えるような、どす黒い思考が俺の頭を埋め尽くす。

そして、俺は初めての対人間戦へと突入する。殺さないと逆に狩られてしまう。

こんなことはしたくないが、命がかかっているのだ。仕方がない。

俺は、触手を伸ばして鞭のようにしならせてスティアとか呼ばれている女性を狙う。彼女は本来後衛の魔術師タイプだろう。ならば、直接打撃には弱いはずと踏んだのだ。

だが、その攻撃はナイフによって弾かれた。もう一人、バルティナと呼ばれた女性はどうやら近接型のようである。


「お嬢様!後方からの攻撃をお願い致します。」

「わ、私に指図しないで。スライムくらい私だけで」

「いえ、どうも普通のスライムと違うようです。慎重に行きますので魔法を!」


二人はそう話ながらも俺を追い詰めようとしている。だが、その都度、俺は牽制しながら間合いを維持することで逃れる。なぜ、俺が何とか戦えているのか?

俺は弱い。しかも、この二人のような魔法も熟練した技能もないのだ。本来であれば既にケリがついているはずだ。では、なぜ俺は生きているのか?

それは二人のコンビネーションが微妙にチグハグだからに他ならない。


(どうもこの二人。戦闘スタイルはバランスいいんだけどスティアとかいう女がそれをたびたび崩すことがある。貴族故の慢心・奢りか、それともバルティナへの個人的な感情かはわからない。でも)


俺は、即座に思いついた策を実行に移す。

触手を伸ばす俺に対して、二人はまた鞭と思ったようだ。即座に身構える。

だが、俺は突きを放った。それも連突きだ。

狩りの時にはできなかったが、やはり命がかかると成功率が違う。

バルティナは驚いたせいか、突きを防御するも反動で後方にのけ反ってしまった。それを見たスティアは、ふがいないと思ったのか前に出てきた。


「役立たず!何をこの程度の攻撃にのけ反ってんのよ。」


その口調はやはり傲慢だ。俺は考えている策に嵌ると確信して、繁みの中に逃げ込む。

逃げる俺の背中からは追ってくるスティアの声が聞こえるので予想通りだ。


「待ちなさい。私に潔く討たれなさい!」

「お、お嬢様!お待ちください。」


追ってくる二人はこの後、自分達がどうなるのか。

想像できなかった。



スティアはこの近辺で幅を利かせる討伐ギルド『渡りの園』への登録を済ませるための最終条件クリアに奔走していた。条件は『スライムの核を3つ採取し、ギルドに提出すること』である。

本来は、ギルドにそんな条件は無い。だが、彼女の特殊な立場が一時的に条件を追記させた。


『ガルフィニア』にある大小さまざま国の中で絶大な影響力を持つ国家、『リュクシュラント帝国』。そこの貴族であるガルマニア侯爵の愛娘、『スティアレシャル・フォン・ガルマニア』。通称『スティア』と呼ばれる少女に付随する身分である。

だが、彼女は家が嫌いだった。宝石のように自分を家に閉じ込める父も、それを当たり前のように考えている癖に自分は外に愛人を作ってほとんど家にいない母も。

そして、何よりも不快な気分にさせたのが付従ってきている後ろの護衛兼メイドであるバルティナであった。


(同い年のくせに偉そうに私に指図する。あれが毎度気に食わない!)


確かに優秀だし、同い年の人間なのは家中で彼女のみだ。追い出せないというのも事実である。

だが、それと感情は別である。だからこそ、彼女はこう考えてしまったのだ。

『この普通でないスライムを私一人で討てば少しは態度が変わるかも』と。そう期待しながら飛び込んだ繁みで彼女は何かが頭上から落ちてきた感覚がした。

それが何であるか意識を失った時には、ついにわからなかった。



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