第三話 希望と影
転生から3日が経過しようとしていた。
俺はいまだに森で狩りをしている。野宿生活にも慣れてきた。
え、スライムだから寝込みを狙われないかって?寝るときは小川の底で偽装している。
いやー、本当に驚いた。水中でもおぼれないことが解ったのだ。
液体生命の特権か?はたまた原種というのが作用しているのかは不明だが安全地帯を確保できたのが俺を少しだけ安堵させた。
そんな俺だが、今はかなり落ち込んでいる。なぜかと言えばLVと能力上昇についてだ。
あれから俺はさらにLVを3ほど上昇させた。その結果、以下のステータスとなっている。
【名前】不動 影道
【年齢】20歳
【種族】スライム((笑))
【現状LV】LV04
【基本能力】攻撃力:14
防御力:14
素早さ:6
MP:0
SP:9
【保有ポイント】15 P
【スキル】進化(条件未発生)
【装備】なし
【所持品】一角ラットの角(小)×10、ゴブリンの帽子×3
本当にこの体は能力の伸びが悪い。
保有ポイントを使って能力上昇を図ってみたのだが、それぞれ『1』しか伸びなかった。
さすがにこれには地団駄を踏んだ。さらにMPに関しては上昇すらしなかった。
怒りを通り越して絶望し、凹んだ瞬間である。ポイントの無駄にしかならなかったのだ。
「一応、能力は低いが攻撃方法が確立されてきたのは少ない成果の一つだろうな」
俺は落ち込みそうな自分を誤魔化すようにそう呟いた。
今日まで俺はそれなりの数の獲物を倒してきた。まずは一角ラットを10匹。
さらに、ゴブリンを4人である。え、ゴブリンも匹とカウントすべき?
いいのです。一応、人型のモンスターだから。
・・それはともかくとして。俺は現在、3つの方法で獲物を狩るようになった。
①触手を鞭のようにして攻撃し、体力の衰弱をまってゆっくり捕食。
②体を水中で偽装させ、のどを潤しに来た獲物を引きずりこんで窒息に追い込む。
③スライムボディープレスを頭上から見舞う。後は②に同じ。
ただ、どれもかなりえげつない。①に関してはサディスト的な方法だ。
もっとも、②、③もさほど変わり映えないが。
そう考えつつ、俺は今11匹目の一角ラットを口に放り込んでいる。
もはや手馴れた作業となりつつあった。そろそろ、上位種の『一角ラビット』を狙うべきかとも考えている。そんな時だ、またあのファンファーレの効果音が聞こえたのは。
≪ぱらららっ、ぱっららー!!≫
最初は、LVアップかと思ったがそれは無いと気づいた。
ついさっきの獲物で上がったばかりなのだ。それはあり得ない。
ならば、何かと確認する。そして、メッセージだと気づいた。
『称号【ラットキラー】を習得しました。称号欄が追加されます。』
『スキル【進化】の解放条件を一つ満たしました。』
俺はすぐに自身のステータス画面を覗き見た。
【名前】不動 影道
【年齢】20歳
【種族】スライム((笑))
【称号】ラットキラー
【現状LV】LV04
【基本能力】攻撃力:14
防御力:14
素早さ:6(10)
MP:0
SP:9
【保有ポイント】15 P
【スキル】進化(一角ラットの角『0/100』)
【装備】なし
【所持品】一角ラットの角(小)×11、ゴブリンの帽子×3
*補足
『ラットキラー』は選択していると一角ラットとの遭遇率上昇と常時【素早さ】に対して、補正小の恩恵がある。
追加された称号の項目とその称号による恩恵はうれしかったが、問題なのは【進化】に表示された条件だ。『0/100』ということは獲得数を意味すると俺は考えている。
だが、俺は所持しているのにカウントされていない。何か別の条件が左右しているのだろうか?
ただ、俺は一角ラビットへの獲物移行を少し遅らせてでもラット狩りを続けることにした。
何にせよ、一角ラットの角がより多く必要となる事は確かだ。
そろえておくことは間違ってないはずである。
その後、俺はいやというほど一角ラットを刈り取った。だが、やはり数値が変わることはない。
いい加減、どうすればいいのかヒントくらい欲しくなる状態である。
そう考えていて、フと気になる事が脳裏をかすめた。先ほど条件を確認しながら何気なくラットの角を持っていた時に腹の虫が鳴り出したことを。
その時は、節操のないこの体はと自身の体に悪態をついたものだが今考えるともしやとも思える。
そこで、俺は仕舞っておいたラットの角を口に放り込んでみた。
すると案の定、数値が『1/100』と変化したのである。
「まさか角の捕食数だったとは思わなかった。いや、モンスターである今ならあり得なくはなかったことだが。人間の頃の思考がまだ残っていた故のミスと喜ぶべきかな?」
俺はポジティブに事実を受け止める。ただでさえ、最近はネガティブなことが続いているのだ。そうとでも思わないと俺の心が砕けかねない。俺はグラスハートだと自称しているのだから。
え、自称するなと。自慢にならないと。
・・うん、わかってます。でも、皆も同じような状態に置かれたら多分ほとんどの人間が心に何らかの負担を負っているはずだ。絶対そうであるはずだ。
とにかく、俺は残っていた角を全部口に放り込んで咀嚼する。
「うん、ポテトフライのような触感だ。それでいて独特の歯ごたえだな」
そう評価しながら、総計で20個に達していた角を食べたことで数値が『20/100』と変化していた。
目標まではまだ80個あるが、ほんの少し希望が見えた。
この弱い肉体であったが、スキルの獲得条件を発生させることには成功したのだ。
『進化』のスキルは基本的に損はないと記載もされていたのだから期待は抱いていてもいいはずである。俺は俄然、このヌメッタ体を引きずりながら待ち伏せし、捕食し、敵に鞭を打ち、を繰り返して角集めに集中していくのであった。
不動が弱い己を必死に強化している時、『天界?』ではある人物についての雑談が持たれていた。
その人物は、転生前からかなり異質な人間であったが、その性格から転生後にはおとなしくなるだろうと思われていた。
しかし、蓋を開けてみれば転生前より深刻な状態になっている。
名前は、『シェイド・ハンディー』という元アメリカ人で、従軍経験もある30歳の男だ。
転生前にテロリスト鎮圧戦で戦功をあげたが、人を撃ったショックから立ち直れず家に引き籠っていた。そんな時、ガス漏れ事故によって部屋ごと吹き飛ばされ世を去った。
ありきたりだ。従軍経験を除けばほぼ引き籠りでしかない。
故に問題ないと踏んで転生させた。だが。
「僕の監視対象がかなり危険です。スキルを悪い意味で悪用して能力を伸ばしている。これは非常に問題です!」
「他の転生者の中には転生後、運悪く彼と鉢合わせして死んだ人間が出てきている。しかも、向こうの世界の住人に対しても容赦がない。本当に元引き籠りか?とすら思える。」
そのような雑談と同時に、彼らのTV画面には、問題の『シェイド』が映っている。
炎を背にし、他の誰かを片手で持ち上げている。否、既に人だったモノという方が正しい。
しかも、さらに怖いのが彼の表情だ。目をつむりながら口を歪めニンマリと微笑んでいる。
罪悪感など抱いていないことは見る限り明らかだ。
「放置はできませんよ。」
「だが、我々は『追跡』はできても『干渉』はできないのが決まりだ。」
「ですが、彼のスキルは悪質ですしこのままでは手が付けられなくなりますよ!」
確かに問題行動が多い人間であるが、それだけでは神官たちも動かない。だが、今回は彼の持つスキルが問題となっていた。
放置すればするほど強く、悪質になる類のスキルなのだ。故の話し合いである。
「転生した者たちに始末をさせよう。今や彼らも向こうの世界の住人だ。それなら干渉にはならない。」
「ですが、ただでは彼らも動かないでしょう」
「当たり前だ。『彼』を止めたもとい仕留めたものにはそれ相応の報酬を出すとメッセージを飛ばせ。勿論、彼には飛ばすなよ!」
神官たちはそうやって世界のバランスを取るための行動をとる。正確には余計な手間を他者に押し付けるための仕事にかかる。
『転生者同士での戦いがこれから常識化するのではないか?』と多くの者がこの時のメッセージを見て考えることになるのだが、神官たちはそれに気づきもしなかった。