お正月スペシャル 混沌格付けチェック2013 ~お前らホントは何流だ?~ 第2章
前回でもう二チームが落ちたか。
綾人「これぞ格付けだな。さて、今度はどんな事になるやら。」
前回のあらすじ、なんと新年にふさわしく、一流芸能人が8人もいました。
・・・って、そんなわけないだろ!なんだよ、4人も落ちやがって!お前ら今年も普通決定な!
第一チェック終了時
千夜・澪次:一流芸能人
龍星・白姫:一流芸能人
エレノア・イリア:一流芸能人→普通芸能人
深紅・つぐみ:一流芸能人
秀久・一麻:一流芸能人→普通芸能人
万里・大沢:一流芸能人
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「はい、それでは次のチェックはこちら!」
指し棒でまたまた背後のモニターを指差すと、でかでかと文字が表示される。その文字は・・・音感。
「第二チェックは音感。今回もヴァイオリンの三重奏を聴き分けていただきます。」
「げ・・・またなん!?」
「おいおい、やめてくれよ!三重奏とかほんとワケ分からないんだよ!」
「大丈夫大丈夫!一流なみなさんなら楽勝ですから!まぁ・・・」
俺はため息を吐き、ゆっくり薄太郎君へ近づきながら指し棒を振り回す。
「普通は知らないけど。な、薄太郎くん。」
「なんでまず俺に噛みつくの!?いや、そもそもまた名前が違ってるだろ!今度は順番的に一麻が頑張るから!」
「うん、当ててもらわないとな。じゃないと」
指し棒の先にあるチョコ色の物体を、チョコンと秀久の頭頂部へ乗せてみる。
「2人揃って頭がチョコクリームヘアーになるから。」
「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
秀久が指し棒を振り払い、立ち上がって睨みつけてくるので、改めてチョコ色の物体を載せてみた。
「それで今回使わせていただいく楽器の合計金額は・・・39億円!以前のあれをちょっと越えている感じだ。」
「39億!?」
「まぁエレノア殿達には耳タコだろうが、一応説明しておく。楽器は芸術品としても扱われており、だからこそこんな金額になる。それと比べるのは初心者用のヴァイオリンで、総額30万となっている。」
「・・・それも結構高いような。」
「だが音にははっきりとした差がある。そこを聞き分けられるかどうかが鍵だな。」
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チェックその2――三重奏。今回の楽器は、39億円と超豪華。
まずはストラディバリウス・アールスペンサー――15億円。故ダイアナ妃の父親が所有していた一品。
優雅で貴族的かつ、奥行きの深い音色が特徴。
次は同じくストラディバリウス・レッドダイアモンド――12億円。
ストラディバリウスはニスの色調を変える事により、他のヴァイオリンとの違いを生み出しました。
そんな彼が作った600本しか存在しないヴァイオリン達は、そのどれもが世界文化遺産クラスの価値があります。
最後はグァルネリ・デル・ジェス……12億円。そう、ストラディバリウスと並び称される、あのグァルネリです。
これは世界に60本しかない貴重なヴァイオリンで、バランスのとれた力強い響きが特徴。
それではスタンバイルームへ移動していただき、順番にチェック開始です。
当然皆様にはおもてなしが待っております。一流芸能人の方はショートケーキと豆から挽いたコーヒー。
普通な人達には板チョコとインスタントコーヒーをどうぞ。
現在収録時間は三時間越え。時刻はまだ15時ですが、頑張っていきましょう。
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「・・・来たわね。これが格差か・・・」
まぁ・・・チロルチョコなのはまだいいわ。
でも、これにコーヒーってなに!?ちょっと無理してる感じがして悲しいんだけど!
それでもちびちびとチョコを食べ、コーヒーを飲んでしまう自分が悲しい。
まぁ、まずくはないのよ。美味しいとは思うのよ?
でも・・・ショートケーキとコーヒーには負けてる。
「うん・・・実に良い香りやな。嗅いでいるだけで意識が安らぐわ。」
深紅ちゃんは余裕あるわね!?なに、一流キープだから!
くそ、間違えてしまえばいいのに!そっくりさんになってしまえばいいのに!
「このショートケーキも極上品ですよ!ふわふわしてて、それでいて甘さがしっかりしてて!」
「ん・・・やっぱ一流ゆえにバッチリって感じなんだろうな。」
「まぁアレだ。普通も頑張れよ?俺達一流だけどな。」
「うるせぇよ!てか、お前(大沢)に普通とか言われるの屈辱なんだよ!言っておくが、この問題は確実に正解するからな!秀久と同じと思うなよ!」
「一麻君、それ駄目だから!というか、それフラグ!私から見ても思いっきりフラグだから!」
あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!この子駄目だ!なんか泥沼にハマっているっぽい!
私がなだめても一麻君はただただ唸るばかりで、必死にチョコをかみ砕いていた。
・・・もう追い詰められてるわね、このチーム。
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それでは最初のチェックに参りたいと思います。
なお今回は時間の関係で、二組同時に演奏を聴いていただきます。
もちろんチェック部屋への移動は一人ずつで、隣の相手と相談するのも原則禁止。
ここは演奏者の集中力などの問題からなので、みなさんマナーを守ってチェックに挑みましょう。
それでは最初の挑戦者は夜瀬澪次様と大沢剛也様。
前回同様後ろで演奏いたしますので、耳のみで判断してください。
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「大沢様、前回は万里様が見事に外したわけですけど」
『らしいな。ま、所詮あんなクズが正解できるわけがないんだよ!』
「なぜ万里は今回大沢なんかと出場したんだ?」
「鋼箸様からの進言だ。まぁ、鋼箸様なりに考えての事だろう。」
「次に澪次様、三重奏などは?」
『いや、教養程度にちらっと聴いたりはしたけど、さすがに・・・まずい、僕もこれ普通かも。』
大沢はわからんが、澪次は自信がない感じか。
もちろんヴァイオリンはクラシックではメジャーだけど、そもそもクラシックに触れる機会が無いからなぁ。
BGMとかで聴くならともかく、本格的にとなると一歩踏み込む必要がある。
とにかく演奏スタート。曲目は威風堂々――ふむ、音が高めかな。というか、伸びがある。
それを聴いて二人は……というか、はやてはほうほうって感じで頷いていく。
続いてはBの三重奏。こっちはやや落ち着いた感じだね、それが逆にまとまっているようにも思える。
余裕顔の大沢と、うんうんと頷きっぱなしな澪次との対比が面白い。
そうしていい余韻を残しつつ、チェック終了。まずは澪次が立ち上がり、チェック部屋へ移動。
ドアの前へ立ち、どっちに行くか決める事になっている。通路を進みながら、澪次はやけににこやか。
「綾人、もしや澪次は・・・ばっちりか?」
「どうだろうな。けど、分かっても不思議はないけど。」
『いやぁ、聴いてみたんですけど』
その澪次はドアの前へ到着し、軽く頭をかいた。
『さっぱり分かりませんでした。』
「・・・って、おい!」
「分からないから逆に笑ったのか。神経図太いな。」
『ただ・・・うーん、僕はAかなって思うんですよ。』
それでもちゃんと答えを出せる辺りが、なかなかに凄い。
迷いはあるようだけど、澪次的にはなにか掴んでいるみたい。
『Aのはちょっと上の音がこう、甲高いかと思うんですよ。でもそれだけじゃなくて、音全体が耳・・・いや、骨に響くんです。いい楽器っというのは、それだけでホールの最後部まで届くって聞いた事があるんで・・・Aかなと。』
「やっぱり専門外だからか、不安そうだな。」
『それでも澪次様、意を決してAの部屋へ。・・・続いては大沢様が到着です。』
大沢はここへ来るまで、澪次と同じく余裕の表情。
それはドアの前に立っても同じだった。
『ふん。うるさいだけで何がいいのやら。』
「こいつ、最初から真面目に答える気無いな。」
「まぁ、予想はしてたけどな。だって大沢だし。」
『確か前回はBが正解だったようだな。なら今回は、Aが正解だろどうせ。だからAだ。』
「おい綾人、なんか出題傾向から答えを探ったぞ。」
「大丈夫だ。こいつが真面目に取り組むなんて誰も思ってないから。」
『これで外れたら新年早々クズが逆立ちするだけだ。』
「なに自分は痛みを払わない方向で話進めてる!?万里とんだとばっちりじゃねぇか!」
「最悪だなコイツ。」
『本当にこんな人が一流でいいのか。皆に疑問を抱かせつつも、Aの部屋へ。』
大沢がAの部屋へ入ると、澪次は明らかに嫌そうな顔をしてしっしと追い払う。
『・・・消えてもらえます?』
『何でだよ!言っとくが俺は一流だぞ!?あんあそっくりのクズと一緒にするんじゃねぇ!』
『やかましい!あなただってワカメのそっくりさんでしょ!』
『それこそ勘違いじゃねぇか!』
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それが勘違いかどうかはともかく、次のチェックへいきましょう。
次はイリア・キサラギくんと神崎深紅様――前回は同じチームのつぐみ様が見事当てられただけに、深紅様にも期待がかかります。
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「深紅様、前回はチームメイトのつぐみ様がこのチェックをクリアなさいましたが」
『そうなんよな。今回はわっちに出番がまわったから、ここは当てんといかんわ。』
「だが、なんだかんだで前回のお試しの時でも正解していたようだし・・・今回もいけるだろ。」
『そう言ってプレッシャーかけるのやめてくれへん!テレビ的にはわっちが堕落した方が面白いから、プレッシャーかけてるやろ!』
「よく分かったな。別作品とはいえ、さすがは私のライバル深紅だな。」
『少しは否定をしろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
「それでイリアくんは・・・どうだ?」
それに対し現在イリアくんは、深紅様とはまた別の不安に苛まれていた。
軽く震えながら視線を動かし、何度も『大丈夫?』って呟き続けていた。
『や、やばい。ほんと自信ない。前回エレノアさんがあれだったから、教育という名目で一緒にヴァイオリンのCDとか聴くようにしたの。だけどその、やっぱり曲はともかく楽器の違いってよく分からなくて。』
「イリア殿、それなら生で聴く事をお勧めする。そういうのは生じゃないと分かりにくいものだ。特に初心者はな。」
『そうなんですか!?』
『不安しか残らないイリアくん、その隣でやっぱり不安を隠しきれていない深紅様。年も経歴も違う二人ですが、不安だけはシンクロさせてチェックに挑みます。』
AとBの曲を聴いている最中、二人ともとても真剣。
そんな切り詰めた空気が漂う中チェック終了。
まずは深紅様から部屋へ移動し、ドアの前でおもむろに立ち止まる。
「確か深紅様、前回はお試しの方とはいえ見事に当ててるのだろ。」
「つぐみが正解してるからプレッシャーは相当だろ。まぁ、深紅自体の耳は確かみたいだけど。」
『――いや、不安に思ってたんやが・・・これはAやね。』
「お、即答だ。」
「さっきまでとは別人だな。つぐみ同様に後光差してるぞ?」
確かに深紅様、なんか誇らしげだ。なんか胸張っちゃっている。
今の深紅様は輝き、黒姫も見直した様子を浮かべる。
『やはり楽器ごとに特徴はあるもんやね。まず前回聴かせてもらった、グァルネリの音がすぐ捉えられたで。』
「「「おぉっ!?」」」
え、マジか!いや、確かに同じ人が作ったものだkら、特徴は出ると思うけど!?
でもそれを聴き取れるって・・・やばい、深紅の奴マジで耳がいい!
『その後にストラディバリウスやろ。こっちは聴いた事ないけど、知識的にはざっくりとやけど知ってるでぇ。ストラディバリウスは響くところが違うそうや。耳やなく、骨振動に近い事が起こるとか。』
「あれ、これは澪次も言ってたな。」
「まぁそれくらい音の響きがいいって話だよ。」
『深紅様、やっぱり耳も一流だった。もうただただ感心しつつAの部屋へ』
Aの部屋に深紅様が入ると、先に入っていた澪次はスタンディングオベーション。
まるでハリウッド俳優でも出迎えるかのように、拍手をしまくっていた。
『ようこそ!』
『大げさな奴だ。』
『いや、ありがとう! 澪次、本当にありがとう!』
それで深紅様は、謙虚に頭を下げつつ澪次と固い握手。
自分でも確信があるためか、大沢の存在に関しては初めからガン無視だ。
『もうね、あれは間違いないで。もし間違いやったら・・・あれや、わっちは名前を山田幸子に変えてもえぇ。』
『おぉ、それは心強い!』
「ぶははははははははっ!お前はどんだけ自信を持ってるのだ!」
「とりあえず全国の山田さんに謝ろうか。なぁ、コイツ一流から落ちないかなーという気持ちと、深紅には落ちてほしくないと言う気持ちがせめぎあってるんだが・・・」
「それは貴様が深紅殿に弱いだけだろ綾人。それはともかく山田幸子になったところを激写して、街にばらまいてやりたいな。」
とか言っている間に、一流どころか普通すらも危ういイリアくんがドアの前へやってきた。
まぁ当然のようにうーうー唸っているわけで、モニター越しから駄目オーラが感じ取れた。
「イリアさん、花嫁修業とかしてるはずなのに。」
「それでもクラシックは専門的な要素が強いから。もう、正直イリア隊長は間違えてもしょうがないとは思う。」
『・・・ふふふ』
あれ、なんか不敵に笑い出したぞ。それで思いっきりガッツポーズ取ってきたし。
『もう大丈夫よ!あのね、答えはBだから!』
「おいおい、即答したぞ!しかも思いっきり胸張ってるぞ!」
「これは驚きだ。」
この人、なんでこんな自信持ってるの?なんで急に張り切り出すの?
全く意味が分からなくて、俺達はこの様子を見て首を傾げるしかなかった。
『あのね・・・価格とか音色とか考えるからあれなのよ。ようはこう、確か低音が凄いんでしょ?つまりよ、劣化とかしてて、音が低くなるのよ。だからBだわ。Aはもう、駄目ね。なんか高い音ばっかり出てるから、安物だってすぐに分かったわ。もしかしたら腕の問題もあるかもだけどね。』
「毒吐き入りましたー!てーか馬鹿でしょ、この人も!」
「前回で低音どうこうの話が出たから、それでって事か。だがイリア殿、甘いな。」
「二人とも、どういう事だ? 理屈としては分かるが。」
『その答えはすぐに判明します。というわけで普通の隊長、Bの部屋へ。』
ものすごい自信を持って部屋に入ったイリアさんは・・・誰もいない事に愕然し、何度もAのドアとBの部屋を見比べる。
本気で大丈夫と思っていたらしい毒吐き隊長は、バツが悪そうに入っていた。
それでまだ部屋をキョロキョロ・・・誰も隠れてないから!そこにいるのはおのれだけだから!
『イリアさん・・・あれはないわ。演奏者の人達に腹パン入れられるレベルやで。』
『全くだ。お前、そんなんで俺達と接見できると思ってんのか。』
「黙れよワカメ!お前は傾向からメタ張っただけだろうが!」
『いやいや、だったらその伝説も今日で終わりだから。だってほら、低音が素晴らしいし。』
『・・・低音だけに注目するのは違うんですよ?大事なのは音域だと思いますから。』
澪次がそう言っても、イリアさんは軽く首を傾げるばかり。
あぁ、やっぱり分かってなかったか。ほんとこの毒吐き隊長は。
「綾人、どういう事だ?」
「ヴァイオリンは年数を重ねるごとに、高い音が出やすくなると言われている。ようは低い音も高い音も得意になるって考えればいい。」
「劣化するどころかよくなる・・・なんだか不思議だ、まるで生きもののようだな。」
「だからこそ億単位の音がつくんだ。」
価格だけで全部は語れないけど、込められている技術と熱意に対する評価が必要な時もある。
なのであのストラディバリウス達には、それだけの価値がある。
既に製作者が亡くなっていて、なくなれば二度と再現不可能かもしれない儚いもの。
そうだね、まさに生きものなんだ。そう考えればあのぶっ飛びな価格も、少しは納得してもらえるかも。
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毒吐き隊長はよく分かっていないようなので、正解を発表しましょう。
第二チェックの正解は――Aである。専門家によると何千人と入るホールだろうと、きらびやかな音が届くのが特徴である。
もちろんこのチェックも、事前に司会者三人に受けていただいた。さてはて、結果はどうだろうか。
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「あ・・・全員Aか。」
そろそろ割れるかなという予想に反して、全員がびしっとAを挙げた。それに少し驚いてしまう。
「いや、これは分かるだろ。あの音の伸びは、間違いなくストラディバリウスだ。」
「最初ちょっと歪んでるかなと思ったんだけど、高音自体は別に嫌な感じがしない。えぇ、間違いなくこれはA。・・・さぁ、笑え!」
「「ダジャレ!?」」
新年早々黒姫が張り切ってから、いきなり俺の左腕へ抱きついてくる。
それですりすり・・・やめてください、ホント。
あなた、去年誕生したばかりで大変じゃないですか。いや、もう怒られそうなんでやめて。
とにかく答えは・・・・・・
『えぇ、Aです!』
「「おっしゃあぁぁぁぁぁ!てーかカトラスも返してきた!?」」
「・・・よし。」
だから力いっぱい抱きつくなよ!その行動の意味がさっぱり分からない!
「でも綾人、さっきのチェックもそうだが・・・今回はかなり簡単だな。」
「だよな。」
『今回は新年という事もあって、参加者に気持ちよく帰ってもらおうかと。』
「あぁ、それで。だったら正解しないと駄目だ。」
「だよな。確かに前回はレフェル様チーム一組だけ一流芸能人で、少し寂しかったしな。こう、全員一流でおめでたい感じにしようと。」
『正解です。』
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さて、視点は再びスタジオへ移動。
スタジオで座って待機している残された方々は、モニターに移る格付け芸能人達の様子を見守っている。
「・・・あ、なんかイリアさんダメっぽい?」
「イリア隊長ぅぅぅぅぅぅぅ!それアカン!ウチと同じ轍踏んでますぅぅぅぅぅぅぅ!」
モニターに移る胸張ったイリア君を見たつぐみ様の指摘に、絶望した顔でエレノア様が叫ぶ。
そんなエレノア君の為に、俺はトドメという名の朗報を流す。
「それではスタジオの皆さんには正解をお教えしましょう。」
それを聞いた瞬間、スタジオメンバーに緊張が走る。
今回のスタジオの試しでみんなが出した解答は、エレノア君を除いた全員がAを選んだ。
『正解は・・・A。レフェルプロ、メタルチョップスティックコーポレーション、ワンナイトミュージアムの3チームはおめでとうございます!そして楽しんでます聖騎士団は残念でした。』
「ありがとう深紅!」
「正解した事は別にして、大沢の奴、俺を生贄にしようとしたな。帰ってきたらどうなるかわかってるんだろうな。」
「よくやったわ澪次。」
ナレーターの言葉につぐみ様は歓喜し、万里様はとばっちりを喰らう羽目になりかけたのでさすがにキレていて、千夜様は表情には出さないが喜んでいるようだ。
それとは別に、エレノアはプルプルと体を震わせている。
「・・・あかん、今回もウチら消えるん・・・」
それに関しては自業自得なので、それでは恒例のアレといきますか。
「それでは間違えた人達の席とプレートは即時交換。スタッフのみなさん、またお願いします。」
俺の号令と共に、慌しく番組スタッフがスタジオを走り回る。
そして手際よく普通芸能人だったイリアとエレノアの座っていた椅子とプレートを撤収。
丸椅子とボロボロスリッパに紙の看板へと果てる。
「またこれかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「お兄様、シロは信じていますの!」
「一麻、俺だけはさすがに嫌だからな!」
エレノアは再び絶叫。
その光景を見た白姫様と秀久君はすがる思いで祈り始める。
さて、どういう結果になるやら・・・
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それでは第二チェック最後のお二人へ入っていただこう。
前回3流まで落ちた榊龍星様と、普通芸能人の千原一麻くんチェックとなった。
刺客として送られたのに、初回でフラグ満載だった秀久くんのせいで普通になった。
ここでしっかり一麻君は正解して、ジャニケルファウンデーションの威厳を示したいところ
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「えー、二人とも今回は外せないよな。特に龍星、おのれ前回嫁が間違えてるし。」
『なんだよなぁ。あははは・・・・だから今、すげぇ緊張してる。』
だろうなぁ。ちょっと足が震えてるもの。
多分それは、刺客である一麻もそうらしいけど。
『まぁ、今回ばかりは外すわけにはいかないな。秀久には悪いが、ここはいっちょ俺の実力の見せ所だな。』
「おぉ、一麻くんは強気ですね。そんなにチョコクリームヘアーにはなりたくないですか。」
『当たり前だろ!なりたい人がいたら逆に会ってみたいぞ!』
「いやいや、でもほら・・・あんまそういう事言わない方がいいぞ。間違えた時に恥かくのは、先程の秀久を見て分かっただろ?」
『だから間違えるわけにはいかないって言ってるだろ!?もし、これで間違ったら逆立ちで町内一周してもいいぞ!』
あっさり挑発に乗ったので、驚きながらも大笑い。
しかもめっちゃ自信満々に言うのが凄い。いやー、一麻は面白いなぁ。
「じゃあこうしましょ。間違えたら混沌楽園で登場した回で、幼馴染の里穂とは子作りエッチしてお付き合いしてるって事で。」
『いいだろう!間違えるわけがないし、むしろこれで気合い入って正解確率上がるぜ!』
『一麻、駄目だ!それ乗せられてるから!もうフラグからな!』
『はいはい、参加者同士でお話はやめてください。それではフラグも成立したところで、チェックスタートです。』
これでストラディバリウス達も聞き納めと思うと寂しくなったので、俺達も目を閉じてじっくり演奏を味わう。
いやぁ、やっぱりいい音色だなぁ。演奏者のお姉さん達もいい腕してるから、実に安心して聞ける。
そう思っていたんだけど、高音のところで妙な跳ねを感じた。これは・・・あー、トチったか。
でもその跳ねも一瞬だけで、あとは問題なく演奏終了。いや、本当にいいものを聴かせていただきました。
次はBの演奏に入る。Bの方もそれには負けるものの、悪くはない感じだ。
でも、音の響きではやっぱりAだよな。
そうして演奏が終了し、まず一麻がドアの前へ移動。フラグ満載な状態だけど、どうなるか。
『これは考えるまでもないな、Bだ。』
「「ぶはははははははははははははははははは!」」
「考えないから間違うって、誰か教えてあげないか。」
「一麻ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
しかもさっきの秀久同様すっごいドヤ顔だし!自分を追い込んでこれって、一麻はどんだけ慢心王やってるんだよ!
『もう、一発だ。Aはちょっと音が変だったところがあった・・・というか歪か?高音でおかしいところがあった。でもBは全体的に落ち着いていて、無理のない音が出ていた。』
「ひずみ・・・あー、そっか。勘違いしたか。」
俺が感じた不自然な音の跳ね、あれを一麻はヴァイオリンのひずみと勘違いしたようだ。
でも一麻、耳は確かなんだな。あれに気づくのはなかなか難しいはずだし。
『というか、なんだろう。この胸の震えは――Bの三重奏には歴史が存在していた。目を閉じると今でも俺は、雄大な時の旅に飛び立っていく。もう、間違えようがない。ヴァイオリンに刻まれた歴史が、俺を導いてくれた。』
「「「はははははははははははははっ! はーあははははははははははっ!」」」
「そんなキャラじゃないだろお前!あははははははははははっ!」
俺達司会者や、スタジオの万里達に素晴らしい笑いを提供してくれた一麻は、堂々とBの部屋へ入る。
が・・・イリアさん一人しかいない事実に、ややこめかみを引きつらせた。
『ま・・・・・・まぁしょうがないな。こう、歴史を受け止める感受性が、俺達にはあったってだけだ。』
まるで自分で言い聞かせるかのように呟き、イリアさんの隣へ座る。
『君はなんというか・・・・・・尽くフラグを踏んでいくな。あれかな、台本とか渡されているとか?』
『渡されてねぇよ!いや、本当に自信あるからな!?これで間違ったら混沌楽園に出た時、里穂の彼氏として毎回エロ展開してもいいくらいだし!』
『いや、本当にやめような!?わっちは見ていて心配になるで!あんた、どんどん奈落の底へ自分から飛び込んでいってるで!』
『まずは三流という奈落へ落ちた一麻・・・ご愁傷様です。さて、龍星様はどうでしょうか。』
龍星様は深紅様が必死に一麻を説得している間に、ドアの前へ移動終了。
それでうーんと唸りながら、二つのドアを見比べた。
『うーん、本当に分からない。やっぱり生の演奏とか聴いた方がいいのかぁ?』
「あー、聴いた方がいいな。我等が分かるのもそういう場数ゆえだからな。綾人に至っては自分で演奏できるしな。」
『えっと、前回の正解はBだし・・・よし、Bにする!』
「お兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「考える事を放棄した!?龍星様、それはないって!メタ張るのはいいけど、適当過ぎるうえに大沢と同類だって!」
「本人もそれは分かってるだろう?心底困り果てている顔だぞアレは。」
『俺と芹香、普通みたいな顔してる夫婦だろ?というわけで、前回外した嫁同様に普通芸能人の龍星くんはBの部屋へ。これも三流達の巻き添えか。』
龍星くんは苦笑いしながらBの部屋を開け、中にいる二人を見て固まった。
一麻は知り合いが来た事で嬉しそうに立ち上がるけど、それに対し龍星は無言でドアを閉じる。
『・・・すみません!今のカットで頼む!俺、Aで!Aが正解だと思う!』
「平然と答え変えにきやがったよ、この中二病!」
「駄目に決まってるだろうが!馬鹿だろコイツ!?」
『こら!』
『龍星ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』
そこでBの部屋が開き、龍星を中の二人が羽交い絞め。そのまま遠慮なく連行していく。
当然龍星はバタバタと暴れ抵抗するけど、それじゃあイリアさん辺りは止められない。
てか、体格差が結構あるのによくもまぁ2人がかりとはいえ龍星を引きずり込めたなぁ。
『私や一麻君を見て答え変えてるんじゃないわよ!』
『その通りだ!お前、別作品で一緒にやってきた仲間が信じられないっていうのか!?』
『信じられるわけないじゃないだろ!一麻みたいなフラグバキバキ踏むような無用心!もう仲間とかじゃないからな!フラグ踏む人だぞ!仲間だなんて思いたくねぇよ!』
『はっきり言い切られた!』
そりゃあ三流二人にそんな事言われたら、一流としてはそう言うしかないだろ。
いやー、新年早々ハートフルな人間関係が築かれていくねぇ。きっとLAN武カンパニーのみんなも喜んでいるだろうと思い、俺達は拍手を送った。
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それではみなさん、お疲れ様でした。これで第二チェックは終了となります。
例によって支配人達の入った部屋が正解となりますので、少しお待ちください。
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部屋の前へ移動し、両手をドアノブにかける。さて、フェイントとかどうしようかなぁとか考えるけど・・・ここはストレートでいこう。
俺はAの部屋を開け、ガブル達を伴ってパパっと入っていく。
「おめでとうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
『やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
そのまま全員とハイタッチし、深紅は黒姫と全力でハグ。ガブルは澪次と腕をぶつけあう。
いやー、やっぱ全員一流だと気分がいいねー。せっかくの新年だから、こういきたいものだ。
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今か今かと三人で綾人達の入室を待っていたのに、歓声があがったのは向こうの部屋。
俺達はそれが信じられず、ただただ顔を見合わせるしかなかった。いや、だってトチり・・・なぁ?
「あの、これはアレだ。歴史感じたし、俺。悠久の風が胸に吹き抜けて・・・ちょっと、どうして二人とも目を逸らす!?」
「あの、二人ともちょっと近づかないでもらえないか?」
龍星はそこですっと立ち上がり、俺達に対して冷たい視線をぶつけてくる。
ていうか・・・閣下の目をしていた。
「いや、三流になりたくないし。」
「こら!友達に対してなんて事言うんだよ!それに、何でお前が芹閣下のような目になってるんだよ!?」
「三流の友達なんているわけないだろ!というか一麻、お前逆立ちで町内一周するだろ!」
「はぁ!? そんなわけ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
し、しまった・・・しかも里穂とエッチして恋人になるとも言った!
どうする・・・いや、フラグなんて信じない!そんなのあってたまるか!
これはその、なにかの陰謀だ!俺は今日のために、実はかなり勉強してきたんだからな!
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
なんだよなんだよ、新年早々辛気臭ぇなぁ。あと一麻、童貞卒業おめでとう。
自分から三流ですらなくなろうとするって、ほんと凄いわ。もうマジ尊敬するわ。
第二チェック終了時
千夜・澪次:一流芸能人
龍星・白姫:一流芸能人→普通芸能人
エレノア・イリア:普通芸能人→三流芸能人
深紅・つぐみ:一流芸能人
秀久・一麻:普通芸能人→三流芸能人
万里・大沢:一流芸能人
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「えー、みなさんお疲れ様でした。それでまぁ、残念ながら一流じゃない人がいますが」
みんながスタジオに戻ってきたので、恒例のいじりタイム。
黒姫がとてもいい笑顔でそう言うと、龍星が苦笑しながら左手で頭をかく。
「ご、ごめんなさい。」
「でもね、それはいいんですよ。問題は新年早々、きったない連中がいる事ですよ!」
さて、三流の扱いについて振り返っておこう。まずスリッパはボロボロの汚いものへ変更。
椅子も病院にあるような丸椅子となり、名前を書いた看板もうすい紙となる。
現在そこに座っている四人は一体誰の事を言われているか・・・よく分かっているようである。
「あー、分かる分かる。なんかこう、こっちにまで漂ってくるんだよ。三流の匂いがよ。」
「ちょっと、その幻○殺しっぽい名前の奴と毒吐き騎士団は腐ってるんじゃないの?悪い事は言わないから、ゴミ出し行ってきて。」
「またイジメ始まった!?しかも千夜ちゃんがすごいドSだし!?いやいや、それ大沢くんに言われたくないし!あなた、全然分かってなかったわよね!」
「うるせぇよ!過程を抜いて答えを見抜くのも一流ゆえなんだよ!それもできねぇ三流は黙ってろ!新年早々チョコクリーム頭に載せるぞ!」
「屈辱・・・屈辱だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「それでは・・・まず大沢様。」
一麻が頭を抱える中、黒姫がいい笑顔で総評を開始。最初に触れられた大沢様がふんぞり返る。
「確かにその通りですね、結果を見抜く目も一流たるゆえです。まぁ過程も見抜くともっとカッコいいですが、ワカメな大沢様には無理な話ですね。」
「なんで早速ディスりにきてんだよ!無理って決め付けんなよ!」
「いや、黒姫の言う通りだろ。てか、お前よくも俺を生贄にしようとしたな。」
「澪次様、よく分からないとか嘘でしょう。私にはあの時の澪次様が専門家に見えました。」
「まさか髪で判断してないよね!金髪って理由で判断してないよね!?」
「澪次君すごい♪千夜も喜んでいるよ。」
「そして深紅様!」
いつの間に千夜から一夜に人格が変わってたり、澪次が髪をさわさわする中、黒姫はなんだかんだでMVPになりそうな深紅へ、驚愕の表情を向ける。
「あなたはどこまで私達を困らせれば済むんですか!ここまで完璧だと、無意味に褒めたたえるしかありません!本当にパーフェクトレディーに向けて、日々精進していたのですね!私、ただただ感服するばかりです!」
「いや、まぁ・・・そんな目的はないんやけど、わっち自身、まだまだ精進が足りないと思ってる。」
「あ、それは私もだね。」
「御二人とも素晴らしい心構えです!全員、拍手!」
黒姫がぱちぱちと拍手し始めたので、俺達もそれに倣う。
レフェルチームの2人は拍手を受け、やや照れた笑いを浮かべた。
「龍星くん、今回は一流でのリベンジ残念でしたね。傾向から読むのも大事ですが、やはり感覚を研ぎ澄ますのみではないでしょうか。まぁ研ぎ澄ましても駄目な奴がいると思うので、そんな人には頼らず母親の美桜様とかに相談してみましょう。」
「・・・・そうだな。このまままじゃマジで前と同じ結果かそれ以下で終わっちまう。まぁ映す価値なしは避けられたからいいけど。」
「わきゅ、普通に落ちましたの。」
「ちょっとっ!?なんかさらっと俺に攻撃されてると思うんだけど!なんだそれ!」
「――おい一麻」
不満そうだった一麻は、黒姫の声がまた1トーン下がった事でビクッと震える。
黒姫はそれに構わず、ため息混じりで頬杖をついた。
「お前のせいで里穂のアイドル人生・・・終わったな!もう引退だ、引退!今も頑張ってアイドルの仕事している本人の意思ガン無視でな!桜花星春学園の人達も見てるから、ちょっと言ってみようか!本日を持って里穂はアイドル引退させますって!理由は確か出来ちゃった結婚だったか!しかしこの場でいきなり姫初めと脱童貞宣言って、ちょっと大胆過ぎないか!」
「い、いやそれは・・・ものの弾みというか」
「そうそう、時の旅ってどんな感じだ!よければ私に教えてもらえないか!?ちなみにBのヴァイオリンは、作られて5年程度だそうだ!もしかしてオリンピック見ちゃった!?だから歴史を感じたのか!? 答えろ、一麻!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!こんなはずじゃなかったのにぃぃぃぃぃぃ!」
「こんのドアホォォォォォォォォォォ!」
オリンピックを見た男、一麻・・・また崩れ落ちて『こんなはずじゃ』とつぶやき続け、薄太郎も叫んだ後に崩れ落ちる。
人が落ちていくというのは、こういう事なんだと改めて実感した。
「次にイリア、お前隊長なのに駄目だな!まさか39億と演奏者の人達にも毒吐くとは思ってなかったぞ!お前達聖騎士団の毒吐き総額、いくらか知ってるか!?約80億だ!億万長者にでもなりたいのかな!100億超えたら、なにかおごってくれよ!」
「どんな億万長者!?い、いや・・・・やっぱり生演奏聞きに行くー!」
「イリア隊長、ウチもお供します!」
「そうそう、それと演奏者の人達がお前らに話を聞きたいそうだ!どのあたりが駄目だったか詳しく説明してあげて差し上げろ!エレノアは前回消えて説明してないからその分もあるからな!」
「「え・・・しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
頭を抱えても後の祭り。イリアさんとエレノアさん、そのまま苦しんで笑いの種になってね。
しかし・・・・・・まだ落ちていくか。
ここまで落ちると、今度はイリアさんの上司の人も叱られるかな。
上司として、そういう事をなにも教えてないって問題みたいだしなぁ。
とんだとばっちりですねホント。
「えー、実はここで・・・中継が繋がっております。」
「は・・・?おいおい、まさかまだハートフルエピソード作るつもりかよ!」
「いや、当然でしょ。今回このチェックのテーマは」
俺は指し棒をすっと挙げ、チョコレートクリームっぽいなにかで幾つかの文字を書く。
「絆・2013ですから。」
「そんなどっかのテレビみたいな事しなくていいんだよ!お前らなんだ!ハートフルボッコと書いて愛とでも呼んでるのか!?」
「お、万里様よく分かりましたね。えー、実はですね・・・そこの腐った童貞と空気。」
「な、なんだよ。」
「腐った空気って何だ!?」
「さっき蒼さんがみんなで見てるって言っただろ。あれ・・・一部は嘘なんだよ。」
チョコクリーム棒で背後の画面をびしっと差すと、そこに笑顔のサクヤ姫と日菜、芹香が映し出された。
「実は現在ここを目指して絶賛マラソン中な人がいます。そう、サクヤ姫です!あとはついでに日菜と芹香にも、一緒に走ってもらっています!」
「はぁ!?なんでや!なんでサクヤ姫が出てるねん!」
「おいおい、お前日菜をなんで呼んでるんだよ!やめてくれよ、俺までハートフルボッコかよ!」
「というわけで、電話の前に中継を繋いでみましょう。・・・中継車ー!」
すると、俺達の前に大きめの空間モニターが展開し、緑な晴れ着姿なフェリオが映し出された。
フェリオは現在ワゴン車に乗っていて、その奥――窓の向こうで必死に走っている三人の姿を見つけた。
薄暗い闇の中、三人は真剣な表情でただただ前を見ていた。まるでその先に行かなければ、死んでしまうと言いたげな顔で。
『――はいっ! 中継車のフェリオ・キサラギです!』
「フェリオー、元旦早々悪いなー。で、今はどんな調子だー?」
『えっと、サクヤ姫は現在そちらを目指して走りだしたばかりです!でも凄いペースだよ!今のペースを保てるなら、多分終わる頃には到着すると思います!』
「ちょ、あの子達、着の身着のままじゃないのよ!どういう事!?一体どういう事!?」
「しかもサクヤ姫、思いっきり涙目なんだけど!鼻水ちょっと垂れてるんだけど!お姫様の顔じゃないよ!」
そこで日菜や芹香に触れないのは、優しさだろう。
だって・・・二人とも、目が血走ってるもの。
一体どうしてこうなるのかと混乱している関係者二人は気にせず、フェリオに一つお願いをさせてもらう。
「あー、でも倒れないようにしっかりフォローしてあげてね?そのために呼んだんだから。あれだ、温かいおしるこ用意してるから頑張れ。」
『え、本当に!?ありがとうございます!あ・・・姉さん。』
「え・・・な、なに?」
『まぁその、クラシックコンサートとか行こうね。あとね、もうちょっとそういうのに興味持った方がいいと思うんだ。』
「あ、ありが・・・と。善処、するわ。」
『うん、一緒にがんばろうね。・・・それじゃあフェリオ・キサラギでした!なにかあり次第、報道していきますので!』
「ありがとー。」
晴れ着姿なフェリオへ手を振りながら、中継は終了。
俺達司会三人は温かい気持ちに包まれながら、思いっきり拍手。
「いやー、またまたハートフルエピソードですね。」
「だな。」
「いやいや、意味分からないわよ!なんであの子達走ってるの!?なんで姫はアマテラスから飛び出してるの!?」
「なんで?・・・そんなの、みなの応援をするために決まってるだろう!」
「というわけで、こちらの映像をご覧ください。特にそこの毒吐き騎士共は、ちゃんと見ていろよ?」
再び大きな空間モニターが展開し、自身の部屋のソファーへ座るサクヤ姫が映し出された。
まぁさっきと服装が違うけど、それは気のせいだ。
『サクヤ姫――言わずと知れた、大和王朝の元姫君。今回彼女がこの過酷なチャレンジに挑戦するに至った訳を聞いてみた。こうしてインタビューをする精神的な余裕すらない彼女が、なぜ・・・今走るのか。』
「え、なにこれ!思いっきりアレなんだけど!名前を出すとヤバイ番組なんだけど!」
『――前回、紅姫が映す価値なしになりましたよね?あれ、艦内でもネタにされてるんです。ただ紅姫はその雪辱を晴らそうと勉強をいっぱいしてたし・・・それで、思ったんです。えっと、この続きは・・・そうそう。今回はついでにイリア隊長も出るという事ですので、紅姫のために自分はなにかできないかなと』
「ちょっと!私を容赦なくついで扱いしてるんですけど!その上で理由からハブってきてるんですけど!ていうか両手になんか台本っぽいの持ってるんですけど!』
『だから彼女は走った。この日のために数ヶ月前から厳しいトレーニングに耐え』
次に映しだされたのは、隊舎で必死に訓練する騎士団の絵。
そう、聖騎士団も頑張るサクヤ姫のために必死に頑張っていた。
「聖騎士団のは通常業務ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
『だが彼女と志を同じくする人達がいた。そう、彼女は決して孤独ではなかったのだ。』
ナレーションの声を合図に、場面が転換。次に出てきたのは、日菜と芹香。
なお、二人ともさっきと格好が同じ気がしなくもないけど・・・やっぱり気のせいだ。
『・・・・・・・・(龍君の力になれるなら、いくらでも走ってみせるよ。)』
『万里、去年はそっくりさんでした。でもあれだって、にじファンショックが過ぎていたからまだ笑えました。でも、新年早々からそんな事になったら、Leticia of fantasy にも差し支えます。それにつぐみや深紅、白姫だっています。みんな私の大事な友達。だから私、万里とつぐみ達のために走ります。』
日菜はやや涙目で取り出したのは、万里の使っているアイアンランス。
それを力いっぱい抱き締めバキバキとへし折る。
芹香はそれを見て嗚咽を漏らし、右手で顔を覆いながら背けた。
「おい、そのランスは俺の遺影か!遺影のつもりで抱いてんのか!そっちの閣下も泣くんじゃねぇよ!完全に悪乗りじゃねぇか!」
「芹香お姉様、さらっとシロの存在をスルーしてますの・・・」
『だから彼女達は走る――走って走って、家族と友の力になる。』
画面が切り替わり、右斜め上に『LIVE』と表示の出ている街頭映像へと切り替わった。
カメラは遠くから迫るワゴンと、それに並走している人影を映す。
そしてワゴンは法定速度を守った上で、車の流れに乗りながら一気にカメラ前を通り過ぎる。
最近のカメラは実に性能がいい。だから車内で談笑している、男のこ一人と女の子二人の顔もバッチリ写った。
一人は青髪の短髪で、二人目は銀髪ロングヘアー、最後は緑髪ショートカット――そんなとこまでバッチリだよ。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・!(待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!)』
車が通り過ぎてすぐ、濡れ羽色ポニテが凄まじい勢いで迫り、こちらもカメラ前を通り過ぎていく。
カメラはそのままワゴンとポニテの背中を映し、優しく見送った。
『大事な人達が一流として、自分達を迎えてくれる――そう信じて、全力で』
『ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
映像はそこで終わり、俺達は胸に熱いものを感じながら拍手。
スタッフ一同もしっかり声援を送っているのに、なぜか芸能人のみんなは不満そうな顔をした。
「みんな分かった?サクヤ姫達はな・・・力になれればと思って走ってるんだよ!なのになんだお前ら!そんな期待を裏切って、早々に三流になりやがって!恥を知れ!」
「ふざけんなや!なんやこれ!なんのヤラセや!?」
「嘘だよね!今走ってなかったよね!今明らかにサクヤ達、ワゴンに乗って談笑してたよね!」
「いや、走ってただろ。みんな、目が節穴だな。」
「走ってたのは芹だけじゃないか!なんだあれ!てーか新年早々危ないネタ掘り起こさんでいいから・・・・・・あれ、ちょっと待て」
そこで龍星君が軽く首を傾げ、まさかという顔をし始めた。
「三人とも、ここに来るんだよな。それも終わる頃に」
「おう。」
「じゃあ・・・なんで外、あんなに真っ暗なんだ?」
「・・・・・・・龍星、あんたも気づいたか。実はわっちも、最初から不思議やった。いくら冬と言えど、16時くらいであんなに真っ暗なはずが」
そこで全員がハッとして、俺達に視線をぶつけてくる。
俺は満面の笑みを返しながら、両手をパンと叩いた。
「よく気づきました。ならその話をする前に、こちらをどうぞ」
指し棒を2時方向へ指すと、再び空間モニター展開。そこにはジャージ姿で走る、あの三人の姿が映し出された。
でも違うのは服装だけじゃない。外の風景も真っ暗だったのに、まだ日は沈んでいない状態。
夕方の街を三人は、さっきと変わらない表情で必死に走っていた。
「え、なにこれ!さっきと服装違うやんか!」
「おいおい、これはどういう事なんだ!着替え直し・・・いや、そんな時間はなかったはずだ!」
「さっきまでのあれ、全部録画なのだ。それと、三人とも今はガチに走ってもらってるぞ。」
「じゃ、じゃあさっきの私へのあれはっ!?」
「イリアの受け答えを予想して、事前に収録した物だ。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
いやー、見事に騙されたから楽しかったなー。・・・さすがにあのズルをガチにはやらないっての。
でも、やらないのももったいないので、三人に協力して撮影だけさせてもらった。
そうだなぁ、まずは。
「というわけで・・・改めて、フェリオー!」
『はーいっ! 正真正銘生中継なフェリオ・キサラギです!』
フェリオに呼びかけてみる。
ちなみにフェリオの服装は晴れ着ではなく、三人と同じジャージ。
当然だろ?万が一の時に動きやすい服装じゃないとさ。ここも引っかけだったんだけど、あの二人以外は気づかなかったかー。
『あと・・・まさかあっちが使われるなんて、思わなかったよ。』
「しかも2パターン収録してたのっ!」
『僕のとこだけ切り分けて、合成でね。・・・どうするの?サクヤ姫達、かなり本気で走ってるのに。さすがに数ヶ月かけて調整は嘘だけど、それでもエレノアさんと姉さんの力になれればーって。』
そこでみんなはまさかという顔で、走る三人をマジマジと見る。・・・それで血の気が引いたのはしょうがない。
俺達も三人の申し出を受けて、本番だけはガチにやってるもの。その保険としてのフェリオだし。
そう、これは三人なりの支援――そこはさっきナレーターが言った通りで、決してヤラセじゃない。
だからもし到着した時、結果が悪ければ・・・そのプレッシャーがいかほどのものかは、お察しの通り。
「ち、ちなみに結果は」
『当然みんなには教えてないよ。これ以上落ちたら、きっと大変だね。あ、それとレフェルプロの二人ー。』
「「な、なに?」」
『あのね、響達やぷにっこ達もこの間のチェックで二人が一流になったの、本当に大喜びしてたんだ。今回また出る事が決まった時、自分達もなにか支援できればって事で』
フェリオが少し脇にずれると、カメラが移動して・・・三人の後ろを映し出す。
そこには響、智美、朋、ぷにっこなみんなが、水筒などの荷物を持った上で三人の後ろを走っていた。
『みんなには三人の並走ランナーとして、サポートを手伝ってもらってるから。』
「「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」
「鬼や・・・コイツら、ウチら全員を殺しにかかっとる!なんや、これ!」
あぁ、つぐみと深紅までガタガタ震えて・・・そんなに喜んでもらえると、俺達としても仕組んだ甲斐があるよ。
『とにかく現状で問題は特になし。もしなにかあったら、躊躇いなく中止もありますけど・・・大丈夫ですか?』
「大丈夫。そのためにおのれを呼んでるんだから、そこは判断厳しめでいい。最優先するべきは、走っている三人の体調と安全管理だからな。スタッフがゴネるようなら、俺と喧嘩するつもりかって脅しとけ。」
『あ、それなら安心ですね。それじゃあフェリオ・キサラギでしたー!随時様子はお伝えしていきますのでー!』
「お願いなー。」
モノホン通信は終了し、俺達は改めて拍手。
みんな、俺達のサービスを楽しんでくれたようでなにより。
既に三流確定している四人はガクブルだけど、問題はない。これ以上落ちなければいいんだし。
「本当に心温まるハートフルエピソードだったな。みな、本当に愛されている。まさか既に四人が三流確定しているとは知らず、あんなに懸命に走ってるんだからな。」
「ねぇ、お願いだからヤラセって言って!ガチでは走ってないって言って!」
「嘘よね!さっきのフェリオ君やサクヤ姫も録画よね!そういう脅しよね、これ!」
「てーかお前ら、まだこれをハートフルエピソードって言い切るつもりか!なんだよこれ、前回より悪質になってるじゃねぇか!」
「まぁまぁ万里様、あなたは一流芸能人なんですから、ちょっと落ち着きましょう。」
そこで混乱していた万里様や千夜様、深紅様が揃って拍手を打つ。
「あ、そっか。俺は一流芸能人だもんな。そっくりさんさえ回避できれば」
「問題はないな。ていうか万里、あなたは後二問間違えてもあれよ?三流芸能人。あなたはまず一歩進んでるから。本人ではあるから。」
「そうだよなー!なんだなんだ、俺もう既に勝ち組じゃね!?だったらもう余裕だわ!」
万里様は言葉通りに余裕を持って、椅子に体重をかけながら大笑い。
足を組んだりする辺り、一流の余裕が伺える。
「油断はできんが、そっくりさんにならずに済むの・・・よし、平常心や。落ち着いていかんと、チェックもミスが続くやろう・」
「納得してくれて嬉しいです。・・・ね? だから言った通りだろ。みんな一流なら、問題ない編成だって。」
「ありすぎだ!じゃあ俺達はどうなる!? 俺、本当に里穂をアイドル廃業させるのか!」
「公約は守ってください。・・・というわけで、ここで一旦CM!」
「やっぱり次回へ続くとも言うな。」
と、いうわけで、二チームが三流に落ちました。
綾人「龍星に関しては一流でのリベンジに失敗したしな。これってまた三流で終わる可能性も出てきたな。」
黒姫「一麻にいたっては里穂を孕ませ宣言したからな。これは荒れるな。」
綾人「荒れるね~。お互いの家族間や里穂のファンからの嫉妬とかで荒れに荒れまくるだろうな。ま、自業自得だけど。」
つぐみ(混沌)「ホントだね。里穂ちゃん可愛そう。自分の夢をいきなり奪われるんだから。しかも大事な初めてとかも全て。」
秀久(混沌)「そう言いながらなんでお前らは笑いをこらえている!?」
芹香(混沌)「・・・・・・・・(いや、見るがわからしたら面白い展開だし。)」