名も無い物語5
絶望の闇は、とても深く、暗く、そして強い。
「…あ、…うっあ…うう」
涙が止まらない。
自分を否定されてから、どれだけの時間が経ったのだろう?
一日か
それとも、一ヶ月なのか
どれだけ、時計の針が時を刻んだのか、分からなかった…
時間が流れていくのが、怖かった。
みんなの見る目が、おかしい。
僕を見る目が、おかしい。
知ってる、この目。
人が、誰かの存在を認めさせない時の。
恐ろしいほど、冷たい、あの無機質な目。
「怖い…」
そんなに、僕が嫌いなのか。
認めてくれないのか…
『お前は人間じゃない』
お願いだ。
『ああ笠原ね、あいつゴミだよ、人間じゃない』
もう、やめて。
お願いだから…お願、い…
「違…う、違う!」
そう言われても僕は、人間だ。
人間なんだ。
だけど、自分で決め付けても、誰も信じてくれはしなかった。
自分だけがそう思っても、意味は無かった。
その言われた言葉に、何も変わりはしなかった。
心の受け皿は、苦しみと悲しみの濁った水で、溢れていた。
もう、壊れても、おかしくない。
誰も、僕に、生きて、とは言わない。
誰、一人。家族すらも。
「それなら、…お願いです」
誰もいない、ただの不気味な独り言。
それでもかまわないから。
「誰か、僕を殺して、ください」
いらないというのなら。
人間でないというのなら。
僕の全てを否定するというなら。
「―――――ッ!!」
耐え切れなくなって、大声で泣く。
誰も見ていない、一人だけの世界で。
こんなにも、自分で自分を傷つけて。
僕に残ったのは、十数年間の思い出だけだった。
この思い出だけが、僕の全てだ。
「…ちっぽけだな、あはは」
自分で苦笑して、馬鹿らしくなった。
残ったのは、誰もが見ても、笑い飛ばすような思い出だけだ。
名も無い、思い出だけだ。
だけど。
「それでもッ!僕は…生きていたいんだッ!!」
思いの限りを、ぶちまけた。
自分の思い全てで、訴えた。
だけど、どれだけ叫んでも、聞いてくれなった。
それが、人間なんだ、と思って。
また、ぼろぼろに泣いた。
生きていけるかな、と本当に考えてしまった。
生きたい。
絶望の底から見えるのは、遥か上にある一筋の光だけ。手を伸ばしても届くことは無い。
あたかも、光が幻のように見える世界。彼は生きて、いるのか?