アグネス文庫 「野菜工場の少女アグネス」 (出逢い編)
アグネス文庫 「野菜工場の少女アグネス」
人々が寝静まったころ、野菜畑の中に野菜工場が、姿を現します。
「みなさ~ん!
朝までに美味しい野菜を仕上げて下さ~い」
アグネスが大きな声で言いました。
少女アグネスは野菜工場のお姫様。
美味しい野菜作りが、王様から与えられたアグネスの仕事です。
「今日は天気が悪かったので、トマトには赤いシロップ
キュウリには緑のシロップを、たくさんお願いしますね」
アグネスは、カールおじいさんに言いました。
カールおじいさんは、野菜を甘く色を付けるのが仕事です。
「ヘィ!アグネス姫様」
ニッコリとうなずきながら、カールおじいさんが言いました。
その時、遠くからアグネスを呼ぶ声がしました。
「アグネス姫様!大変です!」
カールおじさんの孫の、ペーターが大声で走ってきました。
「ペーター?・・どうしましたか?」
アグネスが、聞きました。
「大変なんです! 真っ赤にする筈の青いトマトが見当たりません
それに野菜置き場が、メチャクチャになっています
おじいさんにしっかり管理するように言われていたのに・・・」
そう言うとペーターは泣き出してしまいました。
「そりゃあ~大変だ!
もしも美味しい味を知らない子どもたちが、青いトマトを食べたら
えらいことになるじゃろうなぁ!?・・・」
カールおじいさんが心配そうに言いました。
アグネスは暫く考え、
ネオールならきっと探し出してくれるに、違いないと思いました。
泣いているペーターの頭を撫でながら、
心配いらないわと、アグネスは優しく言いました。
そしてカールおじさんに、ネオールを呼んで来るように頼みました。
カールおじさんは、急いでネオールのもとへ向かったのでした。
「アグネス姫! カールおじさんから話は聞きました。
早速、探しに行きましょう」
ネオールとアグネスは夜の道案内が得意な、ホタルのテンに乗り探しに行きました。
ホタルのテンは2人を乗せ、大地を明るく照らしながら空に舞い上がりました。
「テン! この青いトマトの匂いを追ってくれ」
ネオールはそう言うと、青いトマトの匂いをテンに嗅がせました。
テンは空を一周すると、北に向かって飛び始めました。
北に向かい飛ぶテンに、ネオールは思い出しました。
「アグネス姫、北には恐ろしい魔女が住んでいます」
ネオールは魔女の事を、母に聞いたことがあったのでした。
「それに北の魔女は、野菜が大嫌いと聞いたこともあります、
もしかすると魔女は青いトマトを野菜好きな人々に食べさせ、
地球から野菜を無くす気かもしれません」
それを聞いたアグネスは、急いで王様に電話をしました。
「おお・・アグネスよ! なんたることじゃ・・・、
北の魔女に勝つには3つの愛が必要なのじゃが・・・」
そう言うと王様は黙ってしまいました。
「お父様! 教えて下さい」
王様は深く考え込みました。
今まで勇敢な騎士たちも3つの愛を手にした者は無く、魔物に殺されてしまったからです。
そしてアグネスに言いました。
「3つの愛を手にするには、知恵と勇気と愛が必要なのじゃ
アグネスよ! ネオールとともに、
この3つの困難を乗越えられるかのぅ?」
と王様が聞きました。
アグネスは知恵と優しさが自慢の王様の娘でした。
ネオールは王様が将来、後を継がせたいと思うほど目にかけている勇敢な少年です。
それでも王様は心配でなりませんでした。
「お父様・・・私はどんなに怖くても行きます!
だから教えてください!」
アグネスは野菜嫌いを救うために、恐ろしい困難を乗越える決意をしたのでした。
「アグネスよ・・ならば聞くがよい」
そう言うと王様は、
1つ目に必要な龍の住む湖の愛の水のこと、2つ目に必要な大蛇の住む谷の愛の土のこと、そして・・・
3つ目に必要なのはと言おうとした王様は、電話をネオールに代わるようにアグネスに言いました。
今はまだ3つ目に必要なことを、アグネスには言えなかったのです。
「えっ!・・・」
王様の話しを聞いたネオールは驚き、
3つ目に必要な愛・・・に空を見上げました。
「王様・・・約束します」
そう言うとネオールは電話を切りました。
アグネスは不思議そうな顔でネオールを見つめました。
でもネオールは王様と約束したので、アグネスには何も話せませんでした。
「アグネス姫、急がねばなりません!」
そう言うとネオールは、テンの向きを変え、
北の魔女から青いトマトを取り返すために、
アグネスと危険な龍の住む湖に向かうのでした。
真っ暗な湖の真中に、岩石で作られた城があります。
その城は、オレンジ色の不気味な光を放っていました。
「アグネス姫、きっとあそこが龍の住みかです
降りますよ! シッカリつかまっていて下さい
テン! 灯りを消してあの岩陰に降りてくれ」
ネオールは龍に見つからないために、テンに岩陰を指さしました。
龍の城に着いたアグネスとネオールは岩の隙間から、そっと龍のようすをのぞきました。
愛の水を取りに来たことを知らない龍は、深い寝むりについていました。
「龍が寝ている間に、手に入れて帰りましょう
でもこの隙間からは入れそうにありません
私が探してまいります」
ネオールはアグネスを残して、城の中に入れそうな場所を探しに行きました。
城の上には龍の飛立つ扉がありました。
でも岩壁はけわしく、とても歩いては登れません。
しかもテンで舞い降りると、龍に見つかってしまいます。
「アグネス姫、城の中に入れそうな場所が見当たりません・・・」
ネオールは困ってしまいました。
「この岩・・・もしかすれば?・・・」
アグネスは何かいい方法を思いついたようです。
「確か?岩石は・・・砂岩、泥岩、れき岩という成分から出来ているはずなんです
テン! 急いでお願いしますね」
テンはアグネスから頼まれると、湖に向かい飛び立ちました。
そして大きな花びらを持って帰ってきました。
アグネスは岩をさわりながらテンに言いました。
「テン! ここにかけるのよ」
花びらの中に入った、たくさんの水をアグネスの指差す岩にかけました。
なんということでしょう?、岩がとけていくではありませんか。
岩は色々な成分から出来ていて、水によわい岩石があることをアグネスは知っていたのでした。
「凄い!凄い! さすがぁアグネス姫!」
ネオールは大喜び、テンと抱合い踊りました。
「ヤッタネ!」
褒められたアグネスも思わず、ガッツポーズをしました。
でも城の中からは寝ている龍の口から吐きでる炎の音が
不気味に響いていたのでした。
「姫!さぁ 行きましょう」
「はい! ネオール」
部屋の中にそっと入った2人は、音をたてないように探し始めました。
「ないなぁ・・・どこだろう?」
いくらさがしても見つかりません、
もしかすると龍は愛の水を遠くに隠して、ここには置いてないとネオールは思いました。
「ネオール? この鏡はなんでしょう?」
アグネスがネオールのそばに近づこうとしたその時です。
「キャ~! ガシャ~ン!!」
アグネスは持っていた鏡を、床に落としてしまいました。
「誰じゃ!? よくも我が城に!!
たとえ小僧とて、生きては2度と帰さんぞ!」
目をさました龍が口から炎をはきながらにらんでいます。
ネオールは剣を抜き、恐ろしい龍と戦う決意をました。
「ここで死ぬ訳にはいかないんだ!
お前になんかに、負けないぞー!」
「あははは・・バカな小僧よ! 我に勝てるものか!!」
大声で笑いとばした龍は、ネオールめがけて襲ってきます。
ネオールは岩から岩に飛び跳ねて、龍の背中に飛び乗りました。
「覚悟しろ!」
そう言いながら高く剣をふりあげ、龍の急所をめがけて振りかざしました。
「えっ!・・・」
ネオールは叫びました。
龍の甲羅の硬さに、剣が折れてしったのです。
「小僧! そんな物でこの俺は殺せんぞ!」
龍は誇らしげに言いました。
そして背中のネオールを振り落とそうと暴れ廻りました。
「アグネス姫! 龍の弱点は・・・!?」
必死に龍の背中にしがみつきながらネオールが叫びました。
「私にもわからないわ!」
優しいアグネスには龍の退治のしかたなど、わかるはずがありませんでした。
「ネット情報で検索すれば、わかるかもしれません!」
「あっ・・・そうね!」
アグネスは携帯を取り出して、急いで龍の弱点を検索しました。
「あったわ! ネオール! 目よ!!」
そう言いながらアグネスは、ハンカチをネオールに投げました。
ハンカチを受け取ったネオールは、不思議に思いながらもひたいの汗をふきました。
「ネオール! 何してるの?」
「汗を・・・?」
「ネオール違うでしょ! ハンカチで龍の目を隠すのよ!」
「あ! そっか!」
ネオールは恥ずかしくて、顔がまっ赤になりながらも急いで龍の目をハンカチでふさぎました。
龍は目が見えないと力も消えてしまいます。
「何も見えん! 小僧! ゆるさんぞ~」
目が見えない龍は岩石の壁にぶつかりながら、ネオールを振り落とそうと暴れました。
その激しさに天井の岩がくずれて、龍の頭に落ちました。
龍は気絶して地面に倒れました。
龍の足も傷ついて血が流ています、ネオールはロープを取り、龍の体を急いでしばろうとしました。
「やめて~ ネオール!!
私たちの勝手な理由で、やっぱり龍をイジメてはイケないわ!」
アグネスは龍の血の流れる足にハンカチを巻いて、自分の髪にしていた、バンドでとめてあげました。
そしてまだ気絶している龍の体をさすりながら、美味しい野菜が魔女に奪われこの世から消えてしまうことや、
何故この龍の湖にきたのか、理由を話して誤りました。
「帰りましょう・・ネオール」
「えっ!・・いいのですか?」
「えぇ・・・いかなる理由でも力で奪うことは許されない、
そんな当然なことさえ忘れて・・
そのうえケガもおわせてしまったわ・・・ごめんなさい」
確かにアグネスの言う通りだとネオールも思いました。
でも困ってしまいました、愛の水がないと魔女には勝つことができないのです。
その時です、突然!龍の顔が光りだしました。
気絶から目覚めた龍は、そのまま目を閉じて話を聞いていたのです。
そして流れでた涙が黄金に光輝いていたのでした。
「もって 行くがよい!
我の涙をアグネスにさずけよう
これこそが・・・皆が求める愛の水じゃ!」
龍はネオールに黄金に輝く愛の水を渡しました。
愛の水それは・・・正しき愛に龍の心が満ちあふれ流れ出た涙のことだったのです。
龍はハンカチのお礼に、友の証である水色に輝く指輪をアグネスに与えました。
アグネスとネオールは龍にお礼を言うと急いでテンに乗り、大蛇の住む谷に向かいました。
「アグネス姫 良かったですね」
「そうね ネオール」
2人の顔から笑みが、何度もこぼれました。
「テン急げ! 大蛇の住む谷にゴーだ!」
ネオールはアグネスに、カッコ良く見られるようにテンに言いました。
「大蛇の住む!?・・・何処か知りませんけど?・・・」
「ありゃ・・・」
頭をかきながら東の山をテンに指差しました。
ネオールは恥ずかしくて後ろを振り向けずにいます。
でもその姿が何故かアグネスには、たのもしくも見えたでした。
「ネオール!陽が明ける前に工場に戻らねばなりません、急いで下さいね」
「はい! おまかせ下さい」
こうして愛の水を龍の住む湖から手にいれた2人は、愛の土を求めて大蛇の住む谷に向かったのでした。
アグネスとネオールは龍から授かった愛の水を手に、
東の山深くに居ると言われる大蛇の谷に、愛の土を求めて向かったのでした。
ネオールはお爺さんに聞いた大蛇の話をアグネスに語りました。
「大蛇には人類はるか以前昔からの言い伝えがあります
地球が出来た時そこには焼け付くほどの大地しかありませんでした、
大地の土地から出た熱は蒸気となり雨を降らせ海を作り、そして植物を生みました。
大地はやがて土からさまざまな生物を作り、大地は大切な大地を大蛇に守らせていました。
そして地球上のすべての生命を守ることの出来る、知恵や言葉を持つ強い人間を土と動物の骨と肉から作りました。
けれど人々はその力で争いや奪いあう日々を、繰り返すようになりました。
見かねた大蛇は大地を揺らして争いや奪いあう人々を、海の中に沈めてしまったのです。
そして残った人々の心を導こうとしました。
けれど人々の邪悪な心はやがて大蛇をも、2度と出られぬ東の谷の洞窟に封印してしまいました。
それから2万年・・・今も大蛇は封印された谷にいると、お爺さんが言っていました
あっ!・・・あの谷・・・!!」
行く手に黒い霧に包まれたの谷が見えました。
近づくにつれその奥に大きな洞窟が不気味に口をあけています。
そっとアグネス達は洞窟の入口に舞降りました。
洞窟の中は奥深く続き暗くて何も見えません。
ネオールはテンに中を照らすように言うと、勇気を振り絞り、ひとり先に奥へと進みました。
「アグネス姫! 来てください!」
テンを連れ、アグネスは急いでネオールのもとに向かいました。
そこには大きな石の扉があり、その扉には何か書いてありました。
テンが扉を明るく照らすと、アグネスが言いました。
「この文字は・!?・・間違いないわ!!
古代メソポタミヤ時代の文字です。
最初の文字、これは呪文のしるしの呪いが刻まれてるわ!。
次は大地の大をあらわしているみたい。
その次の文字は・・・思いだせないわ?
前が大だから・・・その次はたぶん蛇だと思うのだけど・・・?」
アグネスは不安になりました、それは蛇ではない気がしたからです。
知らないネオールとテンはこれで扉が開くと思い、喜び無邪気にはしゃいでいます。
「ネオール! 喜ぶのはまだ早過ぎますよ!
読んだだけでは中には入れないでしょう!?」
「えっ!?・・・普通は読めば扉が・・・?」
「もぅ バカ!ネオールったら!!」
最初に喜んだのはテンだよと言いながら、ネオールはテンの後ろに隠れました。
それを聞いて慌てたのはテンです!
羽をパタパタさせて、違うとアグネスにアピールしたのでした。
そして簡単に呪文を解くことが出来ないと知った2人は、手分けして探すことにしました。
文字の読めないネオールは、ネット検索で呪文の言葉を探すことにしました。
アグネスとテンは洞窟内に刻まれた文字を解読して、扉を開ける呪文の手がかりを探しました。
洞窟の壁には逃げ惑う人々様子が鮮明に描かれ、石板には、「やがて、姿を変え人々に天罰を下すであろう」と書かれています。
けれど洞窟に刻まれた文字や壁画からは、呪文の手がかりらしき物は見つかりませんでした。
「ネオール? どぅ? 開きそうな呪文が見つかりましたか?」
「はい! 2つほどヒットしました!」
「よかったわ ネオール! それなら早く唱えてみましょうよ!」
ネオールは扉に向い自信タップリに、高く指を差しながら大きな声で叫びました。
「ひらけーゴマ!?・・・シ~ン
もしや コマ?? ヘビかなぁ??・・・シ~ン
ならば! チチン~プィプィ!?・・・シ~ン。
フィフィ? ポィポィ?? おかしいなぁ?・・・
アグネス姫、なぜかダメみたいなのですが??」
そんな誰もが知っているおとぎ話の呪文で、簡単にこの扉が開くはずはありませんでした。
その時、突然テンが扉に向かって体当たりを始めました。
2人には聞こえない声が、まるで扉の中からテンを呼んでいるかのようでした。
しかし大きな石の扉は、テンが体当たりしたぐらいではビクともしませんでした。
「そうだ! 湖の龍ならこの大きな石の扉を動かせるかもしれません!?」
「そうね・・・」
そう言いながらアグネスは電話で聞いた、お父さんの話を思い出したのでした。
「でも確か龍は!?・・・
龍が湖を離れた時、その不老の命も消えさり、
やがて息絶えるであろうと聞きました。
やっぱり、そんなことを頼んだら・・・龍が死んでしまうわ・・・」
「アグナス姫! でもこの扉を開けるには龍の力が必要なんですよ!」
アグネスは悩みました。
人々を野菜嫌いにさせて、地球から野菜を消滅させようとしている魔女のたくらみは、なんとしても防がねばなりません。
それでもアグネスは龍の住む湖を旅立つ時に、2人の姿が消えるまで手を振っていた、龍の優しい姿を思い出すと、かわいそうで涙が出てくるのでした。
沸き上がる涙をぬぐおうと指が頬にふれたとたん、龍から授けられた指輪が水色に光始めました。
龍の指輪は優しい愛の涙にふれた時、龍の力を与える指輪だったのです。
指輪から水色の光が大きな渦になって、洞窟の石の扉に向って飛んでいきす。
光の渦は石の扉に吸込まれるように流れていきました。
「アグネス姫! 見て下さい!!
光の渦の輪が扉の向こうまで繋がっています。
急いでこの中を通って行きましょう」
アグネスは指輪をテンに持たせ、ネオールと水色の渦の中へと入って行きました。
渦の中はまるで、水に包まれた道のようでした。
龍の光は、硬い石も水に変える不思議な力を持っていたのです。
扉の中は広く回りは天高くまで石で囲まれています。
空には星が輝き、石の上に横たわる人影を、月明かりがぼんやりと照らしていました。
「石の上に、誰かいるようです!?」
「えぇ私にも見えるわ・・・行ってみましょう」
2人は用心しながら、そっと石に近づいて行きました。
近づくにつれ苦しそうな咳き込む声が聞こえてきます。
ネオールは石に登り気づかれないように覗きました。
そこには今にも息が絶えそうな、白髪の痩せたお爺さんが横たわっていました。
ネオールは石を降り、小さな声でアグネスに言いました。
「アグネス姫! もしやお爺さんは大蛇に捕まったのではありませんか?」
「ひどいわ!・・大蛇が来る前に助けてあげないと! ネオール急いで!!」
「解りました!」
ネオールは石に登り、お爺さんを背負い降りてきました。
アグネスは美味しい野菜から煎じた元気のでる秘薬を、少しずつ咳き込むお爺さんに飲ませました。
やがてお爺さんの咳はおさまり、青ざめた顔に赤みがさしてきました。
意識を取り戻したお爺さんは2人を見て驚きました。
「お2人は何処からきたのじゃな・・・? それにしても、ありがたい」
そう言うとお爺さんは2人の手を握り締めたのでした。
アグネスは工場から、まだ美味しくない野菜が無くなった理由や、
龍の住む湖に行ったこと、この地に探しにきた愛の土の話をしました。
そして愛の土が見つかったら、洞窟から一緒に逃げましょうと言いました。
お爺さんは暫く目を閉じていましたが、ゆっくり目を開けると2人に言いました。
「この洞窟に住みて、あの日から2万年・・・
我が身も明日には天にのぼらねばならぬ運命なのじゃ
だが明日、我が待ちわびた一瞬がやってくる!
我を封印した呪いは、空を駆け天に登る間はとけるのじゃ!
2万年待ち続けた邪悪な人間どもへの復讐を、
明日こそ果たさねばならん!!」
「えっ!!・・・まさか!
お爺さんが 大蛇なんですか!?」
ビックリしたネオールが叫びました。
お爺さんは うなづくと大蛇に変身して見せました。
その昔、大地は土から大地を守る大蛇を一番先に作りました。
そして人間を作る時、大地は人々を正しく導くために大蛇に人の姿を与えたのです。
大蛇は人の姿に身を変えて、人々を導き人々と共に暮らしていましたが、
邪悪な心が取り付いた人間達は、大蛇が邪魔になり人の姿の時に毒をもり、この洞窟に連れ去り封印したのでした。
それから2万年、邪悪な人間どもに復讐をする日が来るのを、大蛇は待っていたのでした。
「お爺さん お願いです・・・私の話を聞いてください!
お爺さんの言う通り人間は過ちを犯しました、
欲望のために戦争をし領土を奪いあい、そして大勢の純粋な人々の命までも犠牲にしました、
でも今は違います・・・気づいたのです! 人間とは何か!
そして平和がいかに大切なことなのかも! だから復讐なんて、もう必要ないんです!!」
涙をあふれさせながら、アグネスは必死にお爺さんに頼みました。
お爺さんは眉を細め2人に言いました。
「今日となっては、もはやどうすることもできんのじゃ
されど・・・お前達の話が正しければ、世界は大地の望む姿になったのであろう。
ならば聞くがよい! この先お前達が我の代わりに邪悪な人々を消し去る決意があるならば、
我の力をみずから封印し、お前達2人にたくすであろう。
ただし、お前達のどちらか一人でも邪悪な心に染まるならば、
お前達の肉体を奪い、大蛇となりて地上のすべての物を消し去るであろう!
確か?アグネスとネオールと申したな? どうじゃ よいか!?」
「はい!! お爺さん誓います」
大蛇の復讐を止めることができたアグネスとネオールは、ホッとして顔を見合わせました。
この誓いが、やがて数々の試練を乗越えるさせることになるとは、若いアグネスとネオールには知るよしもありませんでした。
「我の身こそが・・・大地から授かりし愛の土!
アグネスよ! お前には大地から預かりし、白い生命の土を授けよう
ネオールよ! お前には大地から預かりし、赤い大蛇の土を授けよう
今! 時計の針が12時の音を鳴らす時、
我の霊が二つに別れ、お前達の力となるであろう
2人よ! まかせたぞ!!」
アグネスとネオールを信じた大蛇は、天に昇ることをやめ、残された力を2人に託したのでした。
そして12時の鐘の音と共に、激しい砂嵐が巻き起こり、砂嵐は大蛇の体を巻き込んで空高く舞い上がりました。
夜空の色が一瞬 白と赤に輝くと、砂嵐と大蛇は消え去りました。
そして消えた大蛇の代わりに、白と赤に輝くペンダントが残っていたのでした。
白いペンダントには白鳥と4つの星が刻まれています、赤いペンダントには2匹の魚と2つの星が刻まれていました。
白鳥と4つの星には生命をつかさどる力がやどり、
そして、2匹の魚と2つの星には大地と愛をつかさどる力があるのでした。
「テン! カッコイイだろう? ホレ!ホレ!見たいか!? 特別だぞ~♪」
ネオールは赤いペンダントを胸に付け、テンに見せびらかして喜んです。
アグネスは白いペンダントと水色の指輪を見つめながら、使命の重さを感じて、それどころではありませんでした。
そんなアグネスもネオールの笑顔を見ているうちに、気持が少し楽になりました。
洞窟を出た2人はテンに乗り、いよいよ魔女の住む北に向かって飛び立ちました。
「ネオール? 私には大蛇や龍の気持ちが解かる気がするわ」
「そうですね、僕も今 考えていたところです。
人々は大蛇や龍を恐れていましたが、
ほんとうは、人々が地球に恐れられていたのじゃないかと・・・」
「ネオール・・・私なんだか怖いわ」
ネオールはアグネスの手をそっと握りしめました。
そして大蛇や龍の思いを強く心に刻むのでした。
愛の水と土を手にしたアグネスとネオールは、北に向かいながら王様に報告の電話をしました。
「良くぞやってくれた! 礼を申すぞ!!
生物はすべて古代から大地より生まれ、神さえも大地が母であったと言われておる、
それに大蛇が神に姿を変えたと言う説もあるのじゃ、
しかし言い伝えでは人間の手により処刑されてしまったのじゃが・・・。
人間の力を誇示する為に、嘘を伝えたのかもしれぬなぁ?
ところでアグネスよ、お前に言わねばならぬことがあるのじゃ・・・」
「お父様どうか、なされましたか?」
「実はな、妖精の森で・・・いや!やはりやめておこう」
王様は言いかけた話をやめました。
アグネスのお母さんは昔、人間達が生きていくために大切な、
動物や植物そして森や水を育てる役目の妖精の国に暮らしていました。
王様の国は、人間達が狩り以外でも生きていけるように
美味しい野菜や穀物そして果物を育てることが仕事でした。
そんなある日、アグネスのお母さんと王様は湖のほとりで出逢いました。
やがて2人は愛し合い結婚しました。
そして王様と結婚したお母さんは王妃様になったのでした。
その頃の人間達は農地を耕し狩りをして、自然を大切にして暮らしていました。
しかし知恵のある人間達はやがて工場を作り、色々な物を開発しました。
そして緑を伐採し動物たちを山奥に追いやりながら、
どんどん工場を増やして、水や空気を汚し、地球を温暖化へと変えてしまいました。
王妃と妖精の国の人達は、動物や植物そして森や水を守るために、一所懸命頑張りましたが、
人間の作り出した機械に傷つき、倒れてしまいました。
王様は急いで森に行き倒れていた王妃様を見つけ、お城に連れてきましたが、
王妃様の傷は深く、どうすることも出来ませんでした。
王様はアグネスに知らせようとしましたが、王妃様はアグネスに心配させぬよう、
野菜を取り戻すまでは黙っていて下さいと、王様にお願いしたのでした。
王様は迷いましたが、やはり王妃様の気持ちを思うと、胸にとどめることにしたのでした。
「お父様? ・・・??」
「アグネスよ 聞くがよい!
今一番大切なことは野菜を取り戻すことじゃ・・・、
そして一刻も早く戻ってくるのじゃぞ! よいか アグネス?」
「はい! お父様!! 必ず取り返して戻ります」
「ネオールや アグネスをたのんだぞ
さぁ 急ぐのじゃ!」
王様はそう言うと電話を切りました。
「ネオール?・・・森に何かあったのかしら?」
「私にも解かりません・・・でも急いで野菜を取り戻し帰りましょう」
アグネスとネオールは王妃様の命が危険だとは知らずに、野菜を取り戻しに魔女の家に向かいました。
魔女の家の中では2人のけらいが、野菜を束ねては運んでいました。
「お前達! 朝の市場に間に合うように、早く野菜を束ねるんだよ!!」
魔女は人間達の市場にマズイ野菜や米や果物をしのばせ、食物を嫌いにするつもりです。
そして王様の仕事を奪い、魔女の国にしようとしているのでした。
「魔女さま、トマトはいかがいたしましょう? 青いままだと、バレてしまいますぜ!?」
「この赤とうがらしのスプレーをぬるんだよ
キュウリには、青とうがらしのスプレー! 間違えるんじゃないよ!
わかったら サッさとおやり!!」
「ヘイ! 魔女さま」
「これで、この国は私の思うがままよ!」
そう言いながら魔女は、大声で笑いだしました。
「そうはさせないぞー!!」
「野菜を返しなさい!!」
「誰だい!! そこに隠れているのは・・・」
魔女が怒鳴りました、
ネオールとアグネスは勇気をだして魔女の前に姿をあらわしました。
「誰だと思えば、
坊やと小娘が野菜を返せと言うのかい?
オッホホホ・・・
生意気な!」
「魔女よ、こちらにいるのは王女のアグネス様だ!
おとなしく野菜を返さないと、痛い目にあわすぞ!」
「オッホホホ! 王女だか? お嬢さんだか知らないけどねぇ、
痛い目を見るのは! お前達だよ!」
そう言うと魔女は杖を振り上げ何やら呪文を呟きました。
そして杖を振り下ろすと大きなネズミが現れネオールに襲いかかりました。
ネオールは赤い大蛇の力を使いネズミを退治しました。
魔女は慌てて毒矢を放ちました。
毒矢はネオールの胸に刺さりネオールは倒れてしまいました。
そして魔女は杖を振り下ろし、
今度はたくさんの狼コウモリをアグネスに襲いさせました。
アグネスは龍の力を使い、
水のカーテンを作り防ぎました。
そのまま苦しむネオールのもとに走り寄りました。
「ネオール! シッカリして・・・」
「アグネス姫・・・このままだと2人ともやられてしまいます、
私にかまわず早くお逃げ下さい」
「あなたを置き去りにしてなど行けないわ!」
「何を言うのです・・・
姫は将来この国の、王妃様にならなければならないのです!
さぁ 急いで立ち去るのです!!」
「嫌よ ネオール! もしも私が王妃になるのなら、
あなたは、王子様になって下さい!!
あなたを愛しているの、だから私のために生きて下さい!!!」
アグネスとネオールは幼馴染でした。
2人はとても仲が良く、アグネスは大きくなったらネオールのお嫁さんになるんだって、いつもネオールに言っていました。
ネオールも優しいアグネスが好きでした。
けれど時が過ぎ、身分の違いは2人を遠ざけてしまったのです。
ネオールの命の危険は、2人に真実の声を伝えました。
アグネスは白いペンダントに秘められた生命の力を使い、ネオールの毒と傷を治しました。
こうしてネオールは王様との約束を果たし、2人は愛の力を手にしたのでした。
ネオールは水のカーテンで魔女を囲むようにアグネスに言うと、その中に飛び込みました。
愛する者を救おうとする強さは、どんなに大変な苦労も惜しまない愛の力に変わるのです。
そして水のカーテンを愛でいっぱいにして、魔女をつつみ込みました。
愛に満ち足りた魔女の恐ろしい顔は、優しい顔に変わり、魔女は気絶しています。
ネオールは急いで、愛の水を魔女にかけました。
魔女に取りついていた悪魔が龍の涙と伴に消え去りました。
呪いがとけた魔女や手下達は、何故ここに居るのか解からずキョトンとしています。
「ネオール! ついにヤッタわね!!」
「はい! 愛の力のおかげです」
「?・・・ え! もしかして・・
3つ目の愛って、愛する心の力だったのね。
何故お父様は私に言わずに、ネオールに言ったの?」
「王様はアグネス姫に愛を言うのが、恥ずかしかったようです。
それに・・・先に嫌いと言われたら、魔女に勝てなくて困まります。
もっと困るのは、僕が死ぬほど落ち込むでしょうからね! あはは・・・」
「もぅネオールったら!」
2人は照れ笑いしながらも、野菜を取り戻すことが出来て良かったと、ホッと胸を撫で下ろしたのでした。
「アグネス姫様 大変で御座います!
私と一緒にお城へお戻り下さい!!」
野菜を無事に取り戻したことを知った王様は、急いでアグネスを迎えに行かせたのでした。
「そんなに急いで、いったいどうしたのですか?」
「王妃様が大変なんです!
詳しいことは、戻りながら御説明いたします、
さぁ 姫様! 早くお乗り下さい!」
魔女から野菜を取り戻したアグネスは、野菜工場で待っているカール叔父さんの元へ、
一刻も早く野菜を届けるように、ネオールとテンにたのむと、急いで王妃様の待つお城に戻りました。
道中で王妃様の話を聞いたアグネスは
お城に着くと急いで大蛇から受け継いだ力を使い、王妃様の傷を治しました。
そして王様と王妃様に龍と大蛇から受け継いだ、指輪とペンダントの不思議な力のことを話しました。
妖精の国から来た王妃様は、アグネスの話に忘れかけていた秘密の伝承の書に刻まれていた、一行の言葉を思い出しました。
その伝承の書には、(やがて四精霊の力を持つ者が現れ、妖精の泉を浴びて人となり地球を救うであろう)と刻まれていたのです。
もしかするとアグネスとネオールが、地球を救う選ばれし者かも知れません、
そうであれば四精霊の話を、アグネスに話さなければならないと、王妃様は思いました。
「これから言う母の話を聞いて下さい」
そう言うと王妃様は不思議な力にまつわる、妖精の国に伝わる四精霊の話をアグネスにしました。
「私の生まれた妖精の国の伝承の書に、四精霊となれし者の記述があります。
大地の神は生命を作る前に、火を使い山を築き、
水を降らせ湖や海を作り、大地に植物を作りました。
そして風を使い植物の種を、地球の隅々まで運んだのです。
大地の神は、その、水、火、風、地を守るために、
龍、光鳥、天馬、大蛇、を作り、その者達に地球を守らせました。
そして大地は人間を作る時、その守護者達を人の姿に変え、人間を導く者としたのです。
しかしやがて人間達の手によって、葬られてしまったと伝えられています、
その者達の魂は、水、火、風、地の精霊の姿となり、今も生き続けているのです。
しかし精霊となりし者は2度と精霊の姿では、その地を離れ生きて戻ることが出来ない定めなのです、
やがて精霊達は、精霊と物質世界をつなぐ物質に姿を変え、
洪水を起こし、山を噴火させ、嵐を起こし、大地を切り裂いては、今も人間達を懲らしめ戒めているのです」
「お母様!? もしかして、湖の龍が水の精霊・・・そして大蛇が地の精霊だったのですか?」
「そうですよ、アグネス!
あなたは今、水と地の精霊の力を手にしたのです、
もしも予言の通りなら・・・そしてあなたが選ばれし者なら、
あなたはこの先、火と風の精霊の力を受継がなければなりません、
そして地球を救うのです!
そのためには妖精の都に行って、妖精の都のはるか西にあると言われる、
光鳥と天馬の住む精霊の手がかりを探すのです
もう時間がありません
人間達の自然破壊や貧困に苦しむ人々の数は、私達の想像以上に進んでいるのです、
支度が出来次第、妖精の都に出向かなくてはなりません、
龍と大蛇の力を得ることが出来きたあなた達なら、
必ずやり遂げられると、お母さんもお父様も信じています」
話終えた王妃様は、アグネスを見つめニッコリ微笑みました。
王様の人間を守る心と王妃様の自然を守る心の、両方の妖精の血う受け継いだアグネスは、
四精霊の力を借り、地球に住む人々と自然を救いたいと心に強く誓うのでした。
それから1ヶ月が過ぎ、妖精の都に旅立つ日が近づいて来ました。
王様は国の政治をつかさどる全ての者たちをお城に集めました。
「我が娘のアグネスとネオールが力を合わせ、北の魔女から悪魔を追い払い、
この国の危機と未来を救ったことは、皆も承知であろう!、
よって余はネオールの功績に報いるよう、国の平和をつかさどる、
オルトの称号を与えようと思う、皆の者!? どうじゃな?・・」
「王様! それはなりませぬ!
国の祭りごとや人事は全て、我々が取り扱う決まりで御座います」
「だからこうして頼んでおるのじゃ?・・・」
「いくら手柄を立てたと申されても、
オルトの称号は代々国に仕える者のみが、受け継がれる称号と決まっております、
しかもまだ、若輩者で御座います」
「何を申す!
この国を救った恩人を決まり事で消し去れなどとは、この国の何処の書物にも書いてなどないぞ!
それとも若者には、任されぬと言うのか!?」
「王様! 決してそのような事は御座いません、
・・・王様!! なにとぞお考え直しください!」
「何を考えろと申すのじゃ!!
・・・ならばその上の! 王宮一族にあたいし、夢と未来をつかさどる、
テレサの称号を、王の王族に属する権限として、即刻ネオールに与えるとする、
よいか、早速! 国中の者たちに申し伝えるのじゃ!!」
「王様!・・・ それはなりませぬ!!
ネオールは武術が得意とは言え、民の息子の妖精で御座います、
そのような前例はありません、まして称号を与えるなど許されることではありません、
王様!? どうぞお考え直しください!!」
「お前達は何故に、前例にこだわるのじゃ!、
時代は流れておるのだぞ!!、
秩序は確かに大切だが、差別による秩序など、この夢の国ではあってはならんのだ!
前例が無いと言うことだけで、この国を変えずしてどうするのじゃ!!
・・・皆の者、ならば良く聞くがよい、
皆も知っての通り明日、我が娘アグネスとネオールは、
王妃の意思を受け継いで、自然と生物を守る妖精の国に、旅立つこととなった、
もし2人が試練を乗り越え、戻る日が来たその時こそは、
ネオールのさらなる偉業を認め、そして、我に従うか!?・・・」
「王様! もしもそれほどの者であるならば、
我ら一同も、王様のご意向に従います」
王様は皆の返事に、ホッと胸を撫で下ろしました。
やがて夢の国と妖精の国が、テレサの称号を与えたネオールの働きにより、
一つになる日がこようとは、今はまだ王様さえもわかりませんでした。
翌日、王様と王妃様に見送られ、アグネスとネオールは西の国に向かい出発しました。
「ネオール? 私!絶対に精霊の力を手に入れてみせるわ!!、
そして精霊達の意思を継いで、人間達に自然の大切さと、平和や優しさの大切さを伝えるわ!、
だからネオールも、私の力になって下さいね!」
「はい!・・・辛く険しい試練が待っていると思いますが、
アグネス姫なら、きっと全てを成し遂げられると思います、
・・・それに! 姫が大好きな僕がついていますからね! たぶん間違いないでしょう!?」
「もぅネオールったら!!」
「あははは・・・」
恥ずかしくなったネオールは、顔を見られないように、サッさと歩き始めます。
アグネスも離れないように、慌てて後ろからついて行きました。
朝の陽射しが露草に光り、広い草原がまるで虹色のカーテンのように光、輝いています。
2人はまた新たな試練を乗り越えるため、見知らぬ国へと虹色のカーテンの中を西へ向かって歩いて行きました。
「野菜工場のアグネス」出逢い編・・完
次回
「野菜工場のアグネス」旅立ち編
お楽しみに
agnes