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作者の夢シリーズ

愛少女

作者: 月草明言

 暗室の一室に鎖で繋がれた少女があった。

 不格好な腰掛け椅子に両手を伸ばした状態で彼女は思った。

 ここはどこだろう。

 何故、このような場所にいるのか、そして自分は誰なのかすらわからない。

 ただ、白く見える膝元だけが自分だと解った。


 じゃら、じゃら。

 時折揺れる鎖の音が少女を眠りの海から引き上げる。

 しかし、わずかに指す電球の明かり以外は何もない。

 目の前に見える扉だけが彼女を見つめていた。


 じゃら、じゃら。

 不思議と空腹は感じなかった。

 ただ、ぼうとした時間が過ぎていく。

 誰もやってきやしない。いや、誰もいないのだろう。

 少女は不思議と納得した。


 かつん、かつん。

 それは何の音だろうか。

 自分が聞いたことのない音。

 少女は不安になった。

 両腕が軽くなったのも不安だった。

 恐る恐る、その音を確認する。

 ……自分の鎖が外れた音だった。


 暗室をぐるぐるとまわる少女がいた。

 別に何もない。

 少女はすぐに飽きた。

 けどまわる。

 左へ、右へ。

 すぐ飽きる。

 少し疲れたら立ち止まり、また歩き出す。

 何故だろう? 歩きたい。

 そんな風に少女は思っていた。


 ある時、目に付いた。

 扉である。

 少女はこれの開け方を知らない。

 ただ、他の壁と違う。

 それだけが、この壁の特徴だった。


 少女は毎日壁をいじっている間に開けてしまった。

 部屋の中はもう退屈だ。

 外に出ると、初めて見たものが大勢あった。

 あれはなんだろう。これはなんだろう。

 誰も教えてはくれなかった。


 少女の元に一人の青年がやってきた。

 なにしてるの、と聞かれて少女はなにもしていないと答えた。

 青年は笑った。

 そうして、みんなは働いてるよと言った。


 少女は働くことについて考えた。

 みんながやっていることだ。

 少女はそれを観察した。

 少女は追い払われた。


 青年は少女が怪我をしているのを見て、どうしたのかと尋ねた。

 見ていたときにやられたと言うと、青年はそんなに見たいのなら自分のを見ればいいといって少女を連れ出した。

 少女は青年を観察した。

 朝も昼も夜も青年と一緒だった。

 

 少女はある日、自分も働きたいと言った。

 青年は快く了解した。

 しかし、少女が青年の助けになることはなかった。

 少女と青年は決別した。


 少女は沢山たくさん働きに出た。

 なぜだか、そうしたくなった。

 でも、誰も少女を使わなかった。

 一度も使われなかった。


 次の日かそのまた次の日。

 少女は道ばたに倒れていた。

 みんなが少女を踏みつけていく。

 少女はただじっと地面を見つめていた。

 自分は必要とされていないんだと考えていた。


 少女は黒く汚れていた。

 誰も汚い少女を見なくなった。

 

 行きずりに青年を見た。

 美しい他の少女を横に連れて彼は微笑んでいた。

 少女は初めて汚い自分を呪った。


 少女は体を綺麗にして、自分を必要とする人を探した。

 朝から夜まで探した。

 雪が降って、夏がきても探した。

 でもいなかった。


 ずーっと、ずーっと探したけれどいなかったんだ……。

 少女はある時、ふっと糸が切れたように動かなくなった。

 心臓に石を詰め込まれたみたいに苦しくなった。

 誰もいない砂の上で、少女はずっと苦しんでいた。


 そうしていると、一人の美しい青年が通った。

 少女は必死に声にならない声で青年を呼んだ。

 青年はみるみる離れていくが、少女がこう呼んだ時だった。

「あなたが必要です」

 

 青年は悲しい顔で振り返った。

 ゆっくりとした動きで、少女を抱えると少女は思わず涙ぐんだ。

 掠れた声であなたが必要ですと何度も言った。

 青年は一度だけ小さく微笑むと、少女は死んだ。


 青年はまた悲しい顔で立ち上がる。

 その背中で小さく横になる少女の横顔は幸せに満ちていた。


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