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お前が言われたんだから責任持ってやれってくれ

作者: 井上さん
掲載日:2026/08/31

名前を借りました


元ネタ分かった人の名乗りをお待ちしてます



フィクションです

 普段は動かないのに、碧衣あおい支社のイケメン営業、操真陽翔そうまはるとが来た時だけ率先して挨拶に行く女がいる。

今年入社の笛木朝陽ふえきあさひちゃんだ。 


カフェ関連商品を扱っている面影堂おもかげどうという会社で、ここは日向ひなた支社の事務課。


操真さんは、近くに担当のカフェがあるので、営業帰りに挨拶に寄ってくれる。


「お疲れ様です」


 今日も、操真さんが挨拶に来た。


「お疲れ様です」


 私、大門凛だいもんりんが挨拶を返す。


「きゃあ!陽翔さん!お疲れ様です!」


 朝陽ちゃんは、挨拶している私を押し退けて前に出た。


「お疲れ様です」


 操真さんは、愛想が良い。


「あの!コーヒーどうぞ!」


 朝陽ちゃんが、操真さんに、トレーに乗せたコーヒーを出した。


「ありがとう」


 もう、これからこの子に任せよう。

朝陽ちゃんは、操真さんの恋人の座を狙ってるんだろう。まぁ、無理なんだけどね。






 ある日、足りない備品を碧依支社から持って来てもらう事になった。


「陽翔がサンプルを持ってきてくれるから、お礼にお茶出しといて」


 上司の奈良課長から頼まれたのは朝陽ちゃん。


「奈良課長から『操真さんがサンプルを持ってきてくれるから、お礼にお茶出しといて』って頼まれたんですよ〜」


 その時、私はいなかったから、後から朝陽ちゃんに言われた。


「そうなんだ」


 がんばれ。






「お疲れ様です」


 操真さんではなく、地味で眼鏡の営業さんが持ってきた。


「お疲れ様です。碧依支社からサンプル持ってきました」


 朝陽ちゃんは動かない。

私は挨拶を返して、サンプルを受け取った。


地味営業さんは、事務課にいた数人に、それぞれ挨拶していく。


朝陽ちゃんにも挨拶した。


「お疲れ様です」


 朝陽ちゃんはパソコンをいじっていた。


「お疲れ様です」


 朝陽ちゃんは、相手を見もしないで挨拶した。

 ドアを開けるまでは、操真さんに会えるからと、ソワソワしていたのに。

 入ってきたのが、操真さんじゃなかったからか。地味眼鏡の営業さんだったからか。


…っておい、お前が上司に頼まれたんだろ!?


「あの!上司から、お茶をお出しするように言われてまして」


 私は急いで声を掛けた。


「あぁ…気にしないで」


 営業さんが苦笑する。


「すぐに用意しますので!」


「大丈夫だから」


「お出ししてって言われてるので!」


 そう言うと、地味営業さんがフッと笑った。


「本人に言っとくから気にしないで」


「じゃあ…」


 ダッシュで自分の席に行き、カップを掴んで営業さんの前に戻る。


「これ、自分用に買ってまだ口付けてないので!」


 さっき買ってきたテイクアウトカップを営業さんに渡す。まだ温かい。


「…あぁ…ありがとう。それじゃあ」


 良かった〜受け取ってくれた。


「わざわざありがとうございました!」


 改めてお礼を言う。


「あぁ」


「お気をつけて」


「ありがとう」


 営業さんは、優しい笑顔を向けてくれた。良い人である。




 あの女、自分が頼まれたのに何も言わなかったんだが。

 課長にチクってやる。






※※※


「ふふっ…」


 俺、仁藤蒼にとうそうは、つい、思い出し笑いをしてしまった。


「どうした?」


 大学の同期で、入社も同期の奈良瞬ならしゅんと電話しながら、思い出し笑いをしてしまった。


「いや…めちゃくちゃ一生懸命でさ、可愛くて」


「あ?」


 分かっていない瞬に、嫌味を言う。


「お前、俺に茶を出せって頼んだんだろ?」


 彼女に余計な事を言わなければ、気を使わせずにすんだのに。


「あぁ」


「断ったら、必死に食いついてきてさ」


 一生懸命に言う彼女を思い浮かべる。ポニーテールが揺れて、見惚れていた。


「朝陽ちゃんが?」


「名前は知らない。髪を結んでる娘だよ」


「え?ショートカットの朝陽ちゃんに頼んだんだが?」


「ショートカット?挨拶に行ったけど『お疲れ様です』しか言われなかったし、ずっとパソコン見てたぞ」


「え…?陽翔にはいつもお茶出してるけど?」


「ほぼシカトだったよ」


 こちらを見もしなかったし。


「…お前、眼鏡かけてたか?」


 しばらく考えてから、瞬が言った。


「かけてた」


 女が寄ってきて面倒くさいから、外に出る時は眼鏡をかけて地味な振りをしているのだ。

眼鏡をかけるだけで、面白い程、女が寄って来ない。とても楽だ。


「なるほど」


「…顔か?」


「…顔だな」


 陽翔はイケメンだ。つまり、その女はイケメンしか興味が無い、と。

ちなみに、陽翔は俺達の大学の後輩である。


「あの子には可哀想な事しちゃったな。自分用に買ってきたコーヒーをくれてさ。『わざわざありがとうございました』『お気をつけて』って。良い子だなぁ」


 ほっこりしながら、運転しながらコーヒーを飲んだ。めっちゃ美味しかった。趣味が合うに違いない。


「朝陽ちゃんとお前を会わせようとしたんだけどな」


 瞬のお節介焼きめ。仕事が楽しいから、女はいらないのに。

自分が結婚した途端に、お節介を焼くようになった。


 陽翔が結婚した時は、何も言わなかったのに。


ってか、あの子がコーヒーくれたけど、違う女が頼まれてたって事?


「眼中に無い感じだったよ」


「それなら仕方ないな」


 さっさと諦めてくれ。


まぁ、あの子なら考えても良いけど。あの子なら良いかもな。一生懸命で可愛かったし。仕事できるって話だし。

…考えてみようかな?


「あれ美味かったな。どこで買ったのか聞いといてよ」


 俺が言うと。


「自分で聞けよ」


 瞬に、冷たくあしらわれた。


…また、あの子に会える?一生懸命で可愛かったあの子に?

『お気をつけて』って言ってくれた優しいあの子に?

眼鏡で地味な振りをしてたのに、対応してくれたあの子に?


…会いたい… 


「…そうだな…じゃあ、こっちには、資料を持ってきてもらおうかな」


「大門さんに持って行かせるのか?」


 瞬が驚いている。今まで、どんなに女を紹介されても、会いもしなかったから、当然か。


「大門さん?う〜ん、せっかくだから時間ギリギリにして、夕食でも奢ろうかな」


「そっか」


 瞬は協力してくれるらしい。ありがたい。数少ない友人だ。大切にしよう。

あの子に会えたのは、瞬のお陰だし。






※※※


「大門さん、悪いんだけど、碧依支社にこれ持って行ってくれる?」


 課長が封筒を持ち上げて言った。


「あっ!私が行きます!」


 私が返事する前に朝陽ちゃんが割り込んだ。


「「え?」」


 そうまでして操真さんに会いたいか?


「私が行きます!お任せください!」


 朝陽ちゃんが食い下がる。


「いや、大門さんにお願いしたいんだけど…」


「碧依支社なら私が!」


 しつこいな。どんなにがんばっても、操真さんの恋人にはなれないのに。


「陽翔は出張でいないけど」


 勢い込む朝陽ちゃんに、課長が笑顔で言った。目が笑ってない。怖い。


「…なら、私は遠慮しときます」


 手の平返し!!

下心見え見えなのよ。

ちなみに、操真さんには愛する妻がいる。大学時代に知り合って、熱烈求婚したらしい。朝陽ちゃんには教えないけど。


「「…」」


 私と課長は呆れ返った。


「じゃあ、頼むよ」


 気を取り直した課長が私に言った。


「はい」


「この部署に持って行って」


 課長がメモを渡してきた。


「…え?」


 何でメモ?誰にも言うなって事?

メモを見た。この部署って…


「直帰して良いから」


「え?…はい」


 課長には逆らえない。






「失礼します。お疲れ様です。日向支社より資料をお持ちしました」


 案内されてやってきたのは、支社長室だ。課長からのメモには、支社長室に行け、とあった。


「あぁ…ありがとう」


 地味営業さんがいた。


「…!?」


「やぁ、この間はありがとう。ここに置いて」


「はい…あの、こちらこそありがとうございました」


 言われた通りに応接セットのテーブルに置く。


地味営業さんは…営業じゃないの?何で支社長室に!?


「そこに座って。もらったコーヒーが美味しかったから、どこで買ったのか教えてほしくて」


 言われて、応接セットのソファに対面で座る。


「…え?」


 何て?


「それと、今からご飯食べに行こう」


「え?」


「直帰して良いって言われたろ?」


「え…!?はい…」


「何で知ってるのかって?俺が頼んだからだよ」


 平然と言い放つ地味営業さん…いや、支社長さん?


…俺が頼んだ…?


「せっかく買ったコーヒー、俺がもらっちゃったから。悪かったなって」


「いえ…」


 上司命令だし。私が頼まれたわけじゃないけど。


「自分が頼まれた訳でもないのに」


「え!?」


 心の声が聞こえた!?


「瞬とはね、大学からの同期なんだ」


「そうなんですか?」


「俺とショートカットの子を会わせるつもりだったらしくて」


 お見合い的な?


「それなのに、アレは何も言わないし、君がお茶を出そうとして」


 そうだったの?だから朝陽ちゃんに頼んだのか…シカトしてたけど。


「あの子に頼まれたの?」


 支社長さん?に聞かれた。


「いいえ。課長に言われたんです…ってあの子が言ってたのに、何も言わなかったので、心配になって…」


「一生懸命で可愛かった」


 支社長さん?は、フッと笑った。


え!?何て? 


「あと『お気をつけて』って。ちょっとキュンとしちゃった」


「…???」


 どこにキュンとする要素が!?


「彼氏とか夫とかいる?」


 突然話が変わったな。


「…いませんけど…?」


「じゃあ、俺とかどうかな?」


「え!?」


 俺とかどう?どうって何!?


「仁藤蒼、30歳、ここの支社長してる」


「???」


 突然自己紹介を始めたよ!?


「趣味はドライブかなぁ…最近忙しいから、なかなか行けてないけど」


 何やてく………脳の処理が追い付かないで。


「困らせてごめんね。逃がしたくないから」


 逃がしたくないとは!?


「まずは、友人から、ね?」


「えっ…と…?」


 戸惑っていると。


「名前、教えて」


「…課長から聞いたのでは?」


「君から直接聞きたい」


 ちょっと意味が分からない。

自分でも顔が赤くなってきているのが分かる。


「可愛いなぁ…抱きしめても良い?」


「え!?」


 身体がビクッとした。


…抱きしめても良い?

良いわけない。でも、断れない。


「男慣れしてない?男苦手?」


 驚いて固まってしまったからか、心配された。


「そんなに怯えないで。無理に近付かないから」


 男は、優しく言った。テーブルの向こうから動かずに


「この距離だったら平気?」


 と聞かれたので頷いておいた。


「じゃあ、しばらくはこの距離で話そう」


 距離を保ってくれるらしい。良かった。


…しばらく?いつかは近付いてくるつもり?何で???






※※※


 俺がそう言うと、ホッとした顔をする彼女。可愛い。

カップを受け取った時も、ホッとした顔をして。可愛かったな。


「俺の事を知ってほしいから」


 と言うと、彼女は頷いてくれた。


「ね、この前のコーヒーは、どこで買ったの?」


 彼女は、スマホを操作し、地図アプリを見せてきた。


会社近くの店らしい。昼休みに買ったのかな?


「今度一緒に買いに行こう?」


 目を丸くしている彼女。本当に可愛い。何をしても可愛い。


「そろそろ行かなきゃ…レストランの予約してるんだ」


 彼女は驚いて、目を瞬いている。本当に可愛いな。ずっと見ていたい。


「ついてきて」


 俺の後を、少し離れてついてきた。カルガモの子みたいで面白い。


駐車場に行き、車のロックを解除して助手席のドアを開ける。


「どうぞ」


 俺が彼女を見るたびに、ビクビクしている。可愛い。




 運転しながら話す。


「そろそろ名前を教えてほしいな」


「…大門凛です」


「凛さん」


 名前も可愛いなぁ…


「俺の事は蒼って呼んで」


「…蒼さん」


 彼女の声で呼ばれてキュンとした。


「…グッときた」


 我慢できるだろうか?我慢しないと。嫌われたくない。

こんなに惹かれる子は初めてだ。

逃がしたくない。


煩悩まみれになる前に、話を変えることにした。


「食べられない物ある?」


「無いです」


「良かった」




 カジュアルレストランで、向かい合わせで食事する。


「美味しい…」


「良かった」


 美味しそうに食べる凛に、優しく微笑む。

良かった。喜んでくれたかな?

高級レストランだったら、凛の事だから、ビックリして逃げちゃったかもしれないな。


 この店を選んで良かった。




食後。

車に乗る。


「もう少し話しても良い?」


 ちょっと不安そうな顔をする凛に安心させるように


「君が良いと言うまで決して触らないから」


 と言うと、凛は頷いた。




しばらく車を走らせ、景色の良い所に駐車場を見付けて停まる。


「電話番号教えて」


 ゆっくり近付いて、しっかり外堀も埋めよう。


それから、お互いの趣味などを話した。






 凛とは、週末に何度か会った。


「忙しいのでは?」


 心配そうに聞いてくる凛。優しいな。嬉しいな。


「君に会う時間を作ろうと思ったら、仕事が捗って捗って」


 と言いながら、思い出し笑いをしてしまう。


「秘書が感謝してますって伝えてくれって」


「ふふっ…」


 凛が笑った。可愛い。ずっと見ていたい。




今日もレストランで食事して。

景色の良い所まで車を走らせて駐車場に停めた。


ゆっくり話す為に、公園のベンチに移動する。


「隣に座って良い?」


 凛が頷いた。嬉しい。


ベンチに座っている凛の、それでも、1人分あけて隣に座る。


「よく考えたら、これ車の距離だ」


 いつもの、運転席と助手席の距離。


「…もうちょっと…近くても良い?」


 凛が頷いた。


肩が触れそうで触れない距離。


もどかしい。


でも、怖がらせたくないから触らない。


綺麗な夜景を見ながら、騒ぎ出す煩悩を見ない振りをして、凛と色々な話をした。




 何度目かのデートで、保っていたその距離を、もっと近付けようと思った。


「隣にピッタリくっついて良い?」


 驚いていたが頷いてくれた凛に、ピッタリくっついて座るが、そのまま星空を見ながら普通に話をする。


 肩と腕が触れている。俺は嬉しい。でも、身体を固くしている凛が、触れても平気になるまで、それ以上は待つつもりだ。




 何度かデートを繰り返し、ジワジワと心の距離を詰める。

凛は、男といると緊張するみたいだ。

 身体に力が入っている。

可愛くて抱きしめたいけど、まだダメだ。






「手を繋いで良い?」


 何度かピッタリくっついて座って、でも触らずにいたからか、信頼されたのか、凛は頷いてくれた。


 ゆっくり手を伸ばし、凛の手に触れる。そっと、恋人繋ぎをする。

凛は抵抗しなかった。


「幸せ…」


 つい、言ってしまった。


「好きだよ。恋人になって」


 凛は驚いたのか、肩がピクリと跳ねた。


「…私で良いんですか?」


「凛が良いんだ。ね?恋人になって」


 凛が頷いた。


「良いの!?」


 驚いて聞くと、凛は、また頷いた。


「嬉しい…抱きしめても良い?」


 嬉しくてつい、言ってしまって後悔したが、凛は頷いてくれた。


そっと…大切なものを扱うように、ゆっくり抱きしめた。


「嬉しい…好き…」


 俺の腕の中に、可愛い凛がいる。幸せ。






※※※


 どうしてだろう?


後輩の代わりに、上司の指示を実行しただけなのに、恋人ができたんだが?


何故か気に入られてしまった。


 会うのは2度目なのに、突然「恋人になって」と言われて、驚き過ぎて固まっていたら「無理に近付かないから」と言ってくれた。


 その言葉通り、何度か会っても、無理に触ったりしなかった。


運転席と助手席の距離を、しばらく保っていた。




 私は、小さい頃、近所の男の子から意地悪されていたので、男が苦手なのだ。

だから、学生時代も恋人はいなかった。


 と、言ったら「じゃあ、俺が初めての恋人だね!」と喜んでいた。変わった人だ。

 その時はまだ、恋人じゃなかったけど。喜んでいたので黙っていた。可愛い人だ。


 私が蒼さんに慣れるまで、ずっと待っててくれた。出会ってから、半年は経っているのに。


 私が緊張して、身体がガチガチに固まっているのを見て「可愛い…」と呟いていた。


 隣にピッタリくっついて座っても、それ以上は触ってこなかった。

知らん顔して星空を見上げ、関係ない話をした。


 とても大切にしてくれた。


だから、恋人になっても良いと思ったのに。


「可愛い凛を他の男に取られたくないから、今すぐ結婚しよ」




 さらなる爆弾発言をされたのだった。

読んでいただきありがとうございます



あの子が上司に頼まれたのに、やらなかったから私がやる羽目に…


の、くだりは、実際の話です。

勿論、上司に、チクリました。


もう辞めたけど。


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