魔法使いの領域
とある日について書きました。
第1話:執拗な影と、教室の沈黙
直接的な暴力は消えた。だが、陰湿な「小突き」は続いていた。 廊下ですれ違いざまに肩を強くぶつけられる。休み時間、わざとらしく机にぶつかって筆箱を床にぶちまけられる。
「あ、わりぃ。そこに机があるのが悪いんだぜ?」
ニヤつく主犯格のダイキ。ハルトは黙って鉛筆を拾い上げた。その時だった。 「トントン、トトントン」 窓を叩く、硬質な音。
教室中の視線が窓際に集まった。そこには、数羽のカラスが窓枠に降り立っていた。 奇妙なのはその配置だ。窓全体に散らばるのではなく、ダイキの席のすぐ真横、その一枚のガラスの向こう側にだけ、黒い塊がひしめき合っていたのだ。
カラスたちは鳴かなかった。ただ、首をかしげ、ガラス越しにダイキをじっと見つめている。数十の鋭い金色の瞳が、一人の少年に向けられた。 「な、なんだよ……あいつら、こっち見てるぞ!」 ダイキが顔を青くして席を離れると、カラスたちは一斉に翼を広げ、窓を強く叩いた。まるで「逃がさない」と告げるかのように。
第2話:帰宅路の護衛
放課後、校門を出たハルトの頭上には、すでに「彼ら」がいた。 歩道を進めば、電線の上のカラスがパタパタと移動し、常にハルトの数メートル先で待機する。横断歩道で止まれば、街路樹に止まって周囲を監視する。
すれ違う通行人が、異様な光景に足を止めてハルトを見る。 「見て、あの男の子……カラスがずっとついて行ってる」 その視線はもはや「哀れみ」ではなく、得体の知れない力を持つ者への**「畏怖」**に変わっていた。ハルトは確信した。自分は今、この街で最強の私設軍隊に守られているのだと。
第3話:黒い雨と、終わりの始まり
数日後、いじめっ子たちのグループに異変が起きた。 ダイキをはじめ、ハルトをからかっていた連中の家の前が、連日、無残な状況になったのだ。
門扉から玄関、彼らの自転車に至るまで、執拗なまでの「ふん尿」がぶちまけられた。掃除しても、翌朝にはさらにひどい状態で塗り潰されている。それだけではない。彼らが登下校する際、常に数羽のカラスが低空飛行で付きまとい、頭上を掠めていく。
「もう勘弁してくれよ……!」 ついにダイキが泣きそうな顔でハルトに詰め寄ってきた。だが、ハルトが何も言わず、ただ静かにダイキの背後の空を見上げると、ダイキは悲鳴を上げて逃げ出した。ハルトの視線の先には、電柱で嘴を研ぐ巨大なカラスの姿があった。
第4話:魔法使いの孤独と万能感
今や、ハルトに嫌がらせをする者はこの街に一人もいない。 廊下を歩けば、モーゼの十戒のように道が開く。ハルトが中庭のベンチに座れば、そこは誰にも侵されない聖域となる。
たとえ敵がいなくなっても、カラスたちはハルトのそばを離れなかった。 パンの耳一つで手に入れた、圧倒的な忠誠心。 ハルトは、窓の外で羽を休める彼らに向かって、小さく微笑んだ。
カラスがハルトの家族にも恩返しをおすそ分けするのはまた別のお話.....。




