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変な人達との出会い

始めての投稿です。

お手柔らかにお願いします。

今日、サンタクロースを名乗る変な人に会った。


見ず知らずの中学生に対する自己紹介としてはよろしくない。多くの場合、当たり障りなく返事をしてその場を離れ、通報する。そんな一連の流れが発生するだろう。


季節外れのサンタクロースを名乗るだけでも充分に怪しいが、それだけならまだ酔っ払いのジョークとして流されるかもしれない。

しかし、話しかけてきた"自称"サンタクロースは、赤毛のアフロに赤い鼻、表情など読み取れないほどの白い肌地に落書きのような奇抜なメイクをした男だ。

サンタクロースというくらいなら、せめて白いヒゲに赤い服を着ているべきではないかと思った。

どう見てもサンタクロースには見えない。どちらかというとピエロだ。




「君には表情が足りない。せっかく若くて凛々しい顔をしているのに勿体無いと思うんだ。

だから、君に笑顔をプレゼントしよう!」



サンタクロースを名乗るピエロが言った。


余計なお世話だ。


夕暮れで辺りがだんだんと明るさを失っていく。灯りの少ない公園には僕とピエロしかいない。

面倒な不審者に捕まったなと思いながらも、ハウスに帰りたくない僕はその場から離れることもせず、ただ乗っているブランコを少しだけ揺した。



「君を見ていた。毎日ここに来ているよね?」



ピエロが喋る。

僕が反応もせずにブランコを漕いでいると、ピエロが肩をすくめながら、怪しいものじゃないんだ、と言った。


怪しいけどな。



「私はいつも隣町の緑地公園か、駅前で芸をしていてね。そのあとであそこのバーに寄るのが日課なんだ。」



ピエロは公園の柵ごしに見える小さな建物を指差した。

僕が座るブランコからよく見えるなら、逆も同様なのだろう。僕が毎日のように、この小さな公園にいることを知っていたらしい。



君いつも一人だし。

家でやればいいものを、たまに勉強もしているだろう?

空を見ているかと思えば、空より遠くを見ているようだったり。



ピエロは一人でペラペラと話し続けていた。


そんなにいつも見られていたのか。

ちょっと怖いな、この人。

僕は、ふーんとだけ返事をした。



「悪いようにはしないから、君も一緒にあのバーに行ってみないか? どうせ用も無いんだろう?」



悪いようにはしないから。

そういう言葉が一番不信感を呼ぶんだ。そう思っても面倒なので口には出さない。


ピエロが僕に背中を向けて、話していたバーへと歩き出した。僕に構うのは諦めたかと思ったが、途中で振り返り手招きしてくる。


まぁいいかと着いていくことにした。

どうせ、僕を心配する人はいない。両親はどこにいるかも知らないし、親戚にも会ったことはない。

ハウスの先生はたぶん僕を邪魔に思ってる。


だから、何があっても大丈夫。


それでも知らない人についていくことも、知らない店に入ることも初めての体験で、僕の心臓がどきどきとうるさくなり、のどが渇いた気がした。



立ち止まっていたピエロに追いつくと、彼は、よし行こうかと、また店に向かって歩みを進め始めた。

僕は半歩遅れてその横を歩き、公園前の細い道を横断すると、すぐに目的の店に着いた。


バーの看板には『Bar ta-bo』と書かれているが読めない。店の正面は手作り風の看板と深い茶色の木の扉があるだけのシンプルなものだった。

右隣の建物との間には細い路地があり、ずんぐりとした猫が堂々と横になって寝ているのが見えた。



「ターボと読むそうだよ。ここのオーナーはいい人でね、きっと君にとっても居心地の良い場所となるだろう。」



ピエロが説明しながら店のドアを開けた。

カランカランと音が鳴り、ピエロがそのまま入っていく。見たこともないたくさんの酒瓶が店に並んでいる。少し薄暗い店内に小さく音楽が流れているのが聴こえた。



「入るなら入れよ、餓鬼」



ふいに後ろから低い冷たい男の声が聴こえた。

その声に押されて、僕は慌てて店内へと入り、左端へずれる。



「優ちゃん、いつもの」



声の主は僕をちらりと見てからそのまま中へと進み、ピエロが座った席から1つ空けて腰かけた。長い黒髪が綺麗で目付きの悪い男だった。



「はぁい、バーボンのロックね」



カウンターごしに返事をしたのが恐らく「優ちゃん」という人だろう。

僕はドア近くに立ち止まったまま、「優ちゃん」さんを見た。


なんとも不思議な雰囲気の人である。

肩より少し長い髪、大きな目で女性の様な高くて優しい声なのに、身長が高く、お酒を用意する手は骨張っていて大人の男の人という感じだ。


男性か女性か決めかねていると、「優ちゃん」さんが僕に目線を合わせて笑いかけてきたので、咄嗟に目を逸らした。



「はじめまして、ピエロのお友達さん。遠慮しないで座っていいよ」



促されてピエロの隣に座る。

もちろん後から来た黒髪とは反対の隣だ。だって少し怖い。

ピエロのほうが断然怪しいのはわかっているけど。



「僕はここのオーナーで、優と言います。君は中学生かな?お名前は?」



てきぱきとグラスなどを用意しながら僕に話しかける。僕は小さな声で「ゆうき です」とだけ名乗った。



「いい名前だね」



ピエロが言う。



「どっちかっていうと、ゆきちゃんって顔だな」



黒髪の男が、ピエロを避けるようにカウンターに寄りかかりながらこっちを見て、ニヤニヤと笑った。


女の子みたいだとでも言いたいんだろう。

まだ160センチにも届かない身長とガリガリの体と、切るのが面倒で肩下まで伸びた髪。たまに本当に女の子に間違えられるし、馬鹿にされるのもいじられるのも慣れてる。

でも、ゆきちゃんなんて可愛い名前で呼ばれたことはない。

何と返事をしたら良いかわからない。



「無視すんなよぉ。俺は佐戸だ。宜しくな、ゆきちゃん。」



「ゆきちゃんが怖がってるでしょう、佐戸さんは黙っててね。」



優さんがお酒を黒髪もとい佐戸さんへと差し出しながら、たしなめるように言う。

佐戸さんは適当な返事をしながら、受け取ったグラスを揺らした。からんと氷が鳴った。


それより完全に僕の名前がゆきになっている。

まぁいいか。



「ピエロにはジンライム。ゆきちゃんにはオレンジジュースね」



そう言って優さんは僕の目の前にジュースを置いた。キョロっと周りを見ると、ピエロが飲んでいいと言ったので遠慮なくグラスに口をつけた。

口のなかにオレンジジュースの甘い味が広がった。美味しくて、のどが渇いていて、あっという間にグラスの中身は無くなった。



「優ちゃん、彼にお代わり」


「はあい」



ピエロがジュースのおかわりを頼んでくれる。

物欲しそうにしてしまっただろうか。そうだとしたら申し訳ない。



「それで、その子も仲間に入れるの?」



優さんが僕のグラスにオレンジジュースを注ぎながらピエロに訊ねる。



「いいじゃねえか。俺は気に入ったぜ、その顔の傷かっけぇしな」



僕の顔には大きな傷がある。

目尻から唇あたりまで、右頬を縦に割ったような傷は、小学校の卒業式直前にハウスの先生に付けられたものだ。

卒業式後の集まりに誘われて、クラスメイトと遊びに行きたいと言ったことで怒らせてしまったんだと思う。先生に服を掴まれて床に転がされて、果物ナイフで切られた。痛くて泣いて叫んだら口を押さえられて、あの時は少し殺されるかと思った。

結局、すぐに僕は病院に連れていかれ、殺されることはなかったが、僕は自傷したことになったし、傷が治るまで外出禁止になったせいで卒業式すら参加できなかった。



そんなことがあり、中学校では遠巻きにされている。

同級生には、きっと狂ったヤバいヤツだと思われているんだろう。


けれど別に気にしていない。皆が僕を嫌いでも、僕は興味なんて無いから傷つかない。

本当は卒業式後の集まりだって、行きたかったわけじゃない。



それにしても、かっこいいと言われたのは初めてだ。



「私はこの子に笑顔をあげたいんだ。いつまで一緒にいてくれるかは分からないがね。私達の場所を居場所に出来たらと。」



ピエロの言葉はどうにも偽善者のようにしか聴こえない。



「偽善者め」


「これが私さ。」



佐戸さんとは意見が合うらしい。ピエロはその言葉に否定も肯定もしなかった。



「恭ちゃーん!」



優さんが奥の部屋に向かって叫んだ。誰かを呼んだようだ。暫くして出てきたのは、スーツを着た若い男の人だった。



「事務所に蟲ケラいる?呼んできて。」



優さんがスーツの男に言う。蟲ケラとは酷いあだ名だと僕は思ったが黙っている。

また少しして、今度は二人の男が出てくる。先程のスーツの男と、くたびれた服を着たシワの深い中年男性だった。

二人に合わせて優さんもカウンターから客席側に出てくる。



「新しい仲間になりそうな子だよー、みんなご挨拶!」



優さんが手をパンパンと叩きながら明るく言う。

すると佐戸さんやピエロも立って、全員で僕を囲う形になったので、僕も慌てて立ち上がる。

圧迫感で心拍数も上がる。はたから見たらリンチが始まりそうだ。



「さっき名乗ったが、佐戸だ。会社員やってる。お前みたいな何考えてるか分かんない餓鬼は大好きだぜ、よろしくな。」



佐戸さんがニヤニヤと笑う。笑い方と口は悪いが特に悪人というわけでも無いのかなと思った。



「私はピエロだ。仕事は大道芸人で隣町の緑地公園か駅前が私の主な職場さ。」



ピエロの自己紹介が終わり、次はくたびれた服の中年だ。



「ぼ、僕は蟲ケラと呼ばれている。昔は、しゃ、写真をし、仕事に、し…してたんだが…い、今は特に何も…」



僕も蟲ケラと呼べば良いのだろうか。流石に躊躇う。



「僕は優。何でも屋をやってる幼馴染みのせいで苦労してばかりしている、この中で唯一の常識人ね。」



「最後に、俺は恭。何でも屋をやってる。庭の草むしり代行、買い物代行、浮気調査、結婚式の友人役エトセトラ、依頼内容と報酬が見合えば何でもやる。それと優は男だからな、惚れるなよ。」




スーツの男、恭さんは優さんの肩を抱き、すぐにふりほどかれていた。



「恭ちゃんの何でも屋には、それ以外にも時々表に出せなさそうな仕事も舞い込んできてね。僕らはそんな仕事を請け負うグループなの。

ギリギリ合法な手段と案件に、刺激と潤いを求めて集まった変人たちと、それに巻き込まれた僕さ。」



優さんは可愛くウィンクをしながら言う。僕はときめきを隠せなかった。もちろん優さんにでは無い。

今までの窮屈で、惨めで、灰色な僕の14年と数ヵ月が変化するのだろうか?



「ゆき、ここにいればきっと君に笑顔をあげられるよ」



ピエロが握手を求める仕草をした。僕はピエロに向かって、なぜ?とだけ呟いた。



「言っただろう?サンタクロースだからさ。」



サンタクロースを名乗るピエロの言うことはやはり怪しく聞こえる。何でも屋なんて仕事も怪しげだ。何よりこの人達の素性もほとんど分からない。

それでも、公園で一人ただ時間をつぶすより、いくらか楽しくなりそうだと思う。


僕はピエロの右手を握り返した。


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