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運命のバイオレーター  作者: タクモ蕣
デッパリア城編
8/14

(8)反攻.1

 トモエさんは軽い足取りで部屋の扉を押す。そして鍵に阻まれる。

「あれ?鍵もう直ってる?」

「はい」

「えぇー、昨日壊したばっかりのに」

トモエさんは面倒臭そうにポケットからコインを一枚取り出した。


 現在の僕の視覚状況を説明しよう。昨夜と全く同じである、以上。僕らは連敗を喫して物悲しそうな金具を横目に、難なく部屋から脱出した。


 更に僕らは昨日と同じように螺旋階段を登る。

「ねぇリオ、さっき部屋に来た人はだぁれ?」

先を行くトモエさんは、遅れる僕にそう聞いてきた。

「あ…あの……、それ、今じゃなきゃ駄目ですか……?」

僕は精一杯だった。筋肉痛で足が言うことを聞かないのだ。一歩一歩、一段一段が重い。だが、トモエさんはお構いなしだった。

「だって、リオ遅くて暇なんだもん」

「それなら……、登る事に専念させてくださいよ……!」

「そのあいだ、私の暇はどうすんの?」

「……知りませんよ」

この人、なんて自己中心的なんだ。

「――それで?さっきの人は何者なの?」

「人の話……、聞いてましたか……?」

「だから暇なんだって。減るもんじゃないんだから」

「僕の体力は減ります……」

「じゃあ、トレーニングだと思って」

「はぁ……?もう、分かりましたよ……」

仕方ない。これ以上この人のワガママに付き合う方が体力を消費しそうだ。

「あの人は……、国軍の総帥ですよ……」

「ソウスイ……?」

「――最高指揮官です」

「全然強そうじゃなかったのに?」

「元々参謀だった人みたいですからね……」

「サンボウ……?――もう分かんないから、いいや。それで?そいつがリオを閉じ込めてる奴なの?」

「……はい」

「ふーん……。で、リオとそいつは、どういう関係なの?」

「……あの人は、僕を親元から連れ去った人です……」

「そっか。なら、一発ぶん殴ってやんないとね」

「一発……?」

意外な言葉に僕は思わず足を止めて、トモエさんの姿を見上げた。トモエさんは階段の先、手も届かない場所で、至って真面目で、至って当然という表情をしていた。

「国軍の総帥ですよ……?」

「知らないし。それに関係ないよ。同じ世界を生きている隣人なんだから、酷いことされたんなら一発分からせてやんないと。まぁ別に、実際に殴る以外にも、もっとイヤらしいヤツも私は好きだけどね?」

実に嫌らしく楽しげに微笑むトモエさんは、今まで見てきた何よりも頼もしく見えた。その事実に僕は思わず少し噴き出してしまう。

「トモエさんって性格悪いですよね?」

「まぁね~。でも、大概こんなもんでしょ?」

「そうかもしれないですね」

トモエさんの言葉に僕はどこからか力が湧いてきて、重い足が少しマシになった気がした。


 最上階・宝物庫前広間――。

 そこは蛻の殻だった。

「昨日の今日だって言うのに、誰も居ないんだね」

「本当ですね……」

僕はずんずん進むトモエさんの陰から部屋を見渡す。マルゲの姿は疎か、伏兵がいる訳でも何か細工がある訳でもない。未来視に依れば僕らは何の障害もなく宝物庫に辿り着ける。現に広間は不気味なくらい静かだ。では何故、マルゲは最上階に行くなどという無意味な嘘を吐いたのか?僕の未来視のことを知っているマルゲが、こんな見え透いた嘘をわざわざ吐く理由が未だに分からない。何かを試している?それとも僕の動揺を誘う為か?考えれば考えるほどに掴み所がなく、自分の認識の外から操られているような不気味な感覚が、不安が増していく。

「な~んか拍子抜けだけど、まぁ楽だし、いっか~」

一方のトモエさんは警戒心が全く見て取れない。それどころか、何処となく残念がっている気すらする……。

 扉の前まで進む。相変わらず大きな錠だけは生真面目に宝物を守っている。ただ、それはトモエさんの術によって呆気なく外されてしまう。錠もまさか、自分がガッチリ腕組みをしている状態で突破されるとは思ってもみなかったことだろう。

「よーし、それじゃあ早速、レッツ・オープン!」

トモエさんは妙な掛け声で両開きの扉を勢いよく開け放った。そこは、宝物庫というより、やはり物置だった。宝物庫前広間の開放的で日の光がふんだんに差し込む構造とは対照的に、宝物庫内部は窓からの日差しを板状の何かで遮られ、板の縁から四角の光が漏れるのみだった。扉を開けた時の空気の流れで埃が舞い、漏れる光を反射する。

 肝心の宝物はというとその姿は見えず、所狭しと設置された棚に大小様々な素材の箱が隙間無く並べられている。宝物庫という響きと、目の前に広がるあまりに事務的で、あまりに合理的な風景との落差に、トモエさんは開いた口が閉まらない様子である。

「なにこれ……?この中から探すの!?」

「そうみたいですね」

僕はトモエさんと部屋を出た時点でこの光景が視えていたので、別に驚きはしない。

「だって、虛空の欠片って、聞いた話だと、こーんなにも小さい宝玉だって――!」

トモエさんは人差し指と親指の間の空間がコインの直径くらいになるように丸めて、その穴から僕を覗く。

「なら早く探しましょう。この中にはある筈なんですから。早くしないと警備兵が来ちゃいますよ」

「嘘だぁ……。こんなことって……」

トモエさんが項垂れている。無理もないか。僕だってこの光景が見えた時は少しウッとなった。

「四の五の言っていても始まりません。壁沿いの棚は後にして、中央に並ぶ棚から始めましょう。僕は左の手前から見ますので、トモエさんは右奥の棚から探して下さい」

僕は何処に虛空の欠片が仕舞われているか既に知っている。右の棚の奥から六番目の小箱の中だ。だが、僕がそれを一発で当てたらトモエさんに怪しまれるだろうし、未来が面倒な方向に変わる可能性もあるので、僕はそれとなくトモエさんを虛空の欠片の場所に誘導した。

「何かリオ、落ち着きすぎじゃない?」

まずい……。全身が力む。

「もしかして、ここがこんなんだって知ってたの?」

「ま…まぁ……」

……嘘は、嘘は吐いてない。

「それなら先に言っといてよ。宝物庫って言うから私、金銀財宝がコンモリ積み重なっているものだと……」

「それはそれで、探すの大変そうですけどね」

「そうだけどさぁ……、そういうことじゃなくてぇ……。はぁ、やるかぁ……」

何とか怪しまれずに済んだようだ。――まぁトモエさん、その位置から順番に探せばすぐに見付かる筈ですから、まぁ頑張ってください。


 大体二分後――。

 怪しまれない程度に箱を開けていると、棚の向こうから声が聞こえてきた。

「あったー!!」

明るい声色、トモエさんはちゃんと見付けられたようだ。僕は待ってましたと言わんばかりに開封の手を止め、トモエさんのもとに駆け付ける。

「見付けましたか?」

「うん!ほら見て!」

トモエさんは真っ黒な宝玉を嬉しそうに僕に見せてくれた。それは言葉通りに、この世の何よりも黒い球で、まるで視界に穴が開いたか、空間に穴が開いたとしか思えない不思議な感覚を引き起こす代物だった。

「多分これが虛空の欠片でしょ?明らかに変な感じするもんね?」

「そうですね……」

まぁ、既に僕は知っていたが……。それよりも、トモエさんの全身に纏わり付いている黄金の装飾品の数々の方が圧倒的に目を引く。

「……なに?その目は?」

「いや、別に……」

当然、その光景も事前に知ってはいたが、実際に目の前にその滑稽な姿が現れると、何というか、うん……。

「こんなに沢山あるんだから、ちょっとくらい戴いても分からないでしょ?」

「典型的な泥棒の台詞ですね」

「ガキのくせに生意気な……」

綺麗な物ほど醜いとはよく言うが、それはまさにこの事だと思った。

「そんなことより、とっとと逃げちゃおうね~。ねぇ、リオ~?」

トモエさんは子供をあやすような口調で話を逸らした。僕は若干、この人に付いていく事が不安になる。

「――はい」

まぁ、仕方あるまい。渋々返事をすると、トモエさんは手を差し出してきた。僕はその手を掴む。これで城外のどこかに置換してもらえれば、僕は遂にこの塔から抜け出せる。


 ――運命はまだ終わらない。


 だが、トモエさんは一向に置換を起こさない。僕は痺れを切らしてトモエさんの様子を見上げると、トモエさんは表情を強張らせ、眉を吊り上げていた。

「どうかしましたか?」

「置換が使えない。なんで?この石コロのせい?」

トモエさんは虛空の欠片を暫く見詰めてから、それを僕に差し出した。

「ちょっとこれ、持ってて――」

トモエさんは虛空の欠片を僕に渡すと、一瞬で消え、再び現れた。

「やっぱり、この石コロのせいだ」

どうやら、この虛空の欠片という代物は異能を封じ込めてしまう力があるようである。それは僕も触れた瞬間に感じた。触れた途端に未来が全く視えなくなったのである。

「――リオ?」

「はい」

「置換が使えなくなっちゃった。どうしよう?」

「どうと言われましても……」

どうと言われても、僕が視えていた未来は一つしかないのだが、僕は一応抗ってみる。

「宝玉は一度諦めて、熱りが冷めた頃に再挑戦するのは――?」

「えぇー、イヤだよ。せっかくここまで来たんだよ?」

「では、どうするんですか?その宝玉に触れている限り、置換は使えないんですよ?」

「うーん……、――あっ!それなら、――ちょっと貸して!」

トモエさんは虛空の欠片を抓むと服の裾で包んで、直接触れない形にした。だが、だとしても置換は発動しない。

「ダメかぁ……。触れてなきゃいけると思ったんだけどなぁ」

「どうやら、その宝玉は置換を無効化するみたいですね」

「マジ~……。――あのクソ猫野郎、こんな重要なこと黙ってやがったな……!」

「クソ猫、野郎……?」

この人は何を言っているんだろう?猫が喋る訳ないだろうに。

「――よしっ!こうなったら、正面突破しよう!」

やっぱりというか案の定、トモエさんはそう言い出した。

「正面突破ですか……?」

「そう!リオがこの石コロを持って、フリーの私が邪魔者を蹴散らしてリオを城の外まで送り届ける。これでリオとお宝、どっちも盗み出せるでしょ?」

「……まぁ、いいんじゃないですか?」

それはつまり、僕は兵士の只中を駆け抜けなければいけないと言うことだ。だが、四の五の言っても仕方がない。だが、憂鬱だ。

「じゃあ決まりね。はい、ではリオを石コロ担当大臣に任命します!」

「は、はい……」

僕はトモエさんから虛空の欠片を受け取った。再び未来が視えなくなる。

 その時である。トモエさんが地上の騒がしさに気付く。僕とトモエさんは宝物庫から出て、階段脇の窓から地上の様子を覗いた。地上には、ついさっきまで視えていた未来と同じく、武装した兵士が多く集い、整列をしている。

「あれ~?これ、もしかして、私がここにいるのバレてる?」

トモエさんは、それにしては暢気な口調で僕に問い掛ける。

「みたいですね」

「何で?何でバレた?」

「恐らくマルゲの差し金かと――」

「マルゲ?誰それ?」

「さっき部屋に来た男です」

「じゃあ、バレてたってこと?」

「……そういう事になりますね」

今思えば、そもそも隠せていたと思っていたことが甘いと言わざるを得ない。そりゃ、布団の下に人がいたら分かるだろう。だが、だとすると、マルゲの目的は何なんだ?何故あの瞬間にそれを指摘しなかった?そして何故嘘を吐いて、何故兵士を今更寄越したんだ?はっきり言って、トモエさんにとって並の兵士など束になっても敵わない筈、マルゲもそれは分かっている筈なのに、いったい何故なんだ?よく見ると、昨日トモエさんを破った若い男の姿もない。どういうつもりなんだ?ただの時間稼ぎ?でも、時間を稼ぐことに何の意味がある?

 するとトモエさんは、身に着けている豪奢な装飾品を置換させ、ピストルと大量の弾丸を呼び出した。

「何がともあれ、全員蹴散らせばいいだけのこと」

トモエさんはピストルを拾い、床に散らばった弾丸を全六発分装填すると、余った弾丸もポケットに詰めていく。

「よしっ、準備完了!行くよ、リオ!」

こんな状況でも、トモエさんの声色は何処か弾んでいた。

「……はい。お供します……」

こうなったら、ひたすら祈ってついて行くしかない。塔から逃げ出す為、そしてトモエさんと共にいる為、僕は腹を括った。

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