第七話「魔王幹部様、修行です。」
気まずさだけが空気を覆う。
セレネ、俺、ボルギジニアは見つめ合い黙り合っている。
気まずさで言うと、十五年会っていなかった叔父に急に話し掛けられてなんて言えば良いのか分からない時ぐらい気まずい。
でもここは話掛けなければ多分、進まないし、ただ気まずいだけ。
べ、別に元々俺は陰キャじゃねえし、別にコミュ障でもねえし、ただ会話が苦手で喋る前に、あっ、て癖で言っちゃうだけだし。
そんな事を心の中で言いつつ、話かける。
「えっと……こんにちはボルギジニアさん」
「あ、どうもご無沙汰しております」
あちらもなんとも丁寧な言葉だろう、昨日殺したとは思えない。
いや、実際は生きているから殺して無いんだろうけど。
まあ、聞けば分かるだろう。
「その、ボルギジニアさんはえっと……昨日我々が倒させて頂いたんですけれども、今とてもピンピンとしておりご健在のようで」
「あ、はい。その事ですね。私はあの時、間違いなく死んだと、思ったのですが、どうやら私の固有魔法が輪廻転生と言う魔法だったようで、別個体として生まれ変わらせて頂いたんですね」
「あ、あの、固有魔法と言うのは?」
「実力を持つものが自ら生み出した魔法で、基本的には自分しか使えない物です。私も魔王幹部として何かしらの固有魔法は持っているはずだったんですが、今の今まで分からず、昨日ようやく理解したという感じです」
「それはおめでとう御座います」
固有魔法か……セレネも持っているのだろうか。
輪廻転生。
この魔法を使っている限り、こいつは死なないんだろう。
「で、どうして人のいる町で商売してるんだ?」
「その事であなた方に感謝したかったのです!」
体を乗り出し顔を近付けてくる。
声も少し興奮気味で、嬉しそうな感じだ。
でも、なんで俺達がボルギジニアに感謝されなきゃいけないんだ?
生き返ったと言えど、一度殺してるんだぞ、殺された恨みで見た瞬間襲いかかって来ても可笑しくないと思うんだが。
「あなた方に倒して貰ったお陰で、魔力の核なくなり、ラファエル様はもう私が死んでいると思っているはずです。なのでこれを境に私は新しい人生を送れるようになったのです」
「魔力の核?」
「魔力の核をご存じないか?
魔力の核はあらゆる物体に存在している。
人間は勿論、動物、魔物、そこら中にある物、空気でさえも持っています」
何か凄い話を聞いている気がする。
いや、聞いている。
「四大魔王は、それぞれが保有する幹部達に自らの魔力の核を授け、幹部達の命を身の代に自らを守る魔力障壁で覆われています。
託した魔王の魔力の核が壊れたので、私はもう用済み。
というか、もう生きていないと思われているので、これからは自由に生きて行けるのです」
その話を聞いて、より一層魔王を倒す難易度が高くなった気がする。
魔王幹部を倒さなければ、魔王に攻撃する事すらも出来ないつまり、魔王幹部を倒さなければならない……道のりは長い。
それなのに、俺とセレネはあの木の魔物で1日を過ごし終わった……このままだと生きている内に討伐出来ないんじゃ無いのか?
まず、俺が戦える土俵にいない、弱すぎるし足手まとい、せめて魔王幹部と戦って瞬殺されない程度には強くならないとお話にもならない。
ギルドのお姉さんの言っていたように、技も魔法も何も取得していない。
教えてくれる人も居ない、そう思うと大分詰んでる。
「まあ、とにかく良かったですね」
「ああ、魔王幹部も悪くは無かったが、私が作った洗剤があると言うのに、日々人が作った洗剤を買ってこいとパシられたり、ラファエル様はすぐ失敗するので後始末が大変だったりと忙しかった。
でも今は、自由に洗剤を作り、自分の手で売上を伸ばし食っていく、素晴らしい生活にわくわくが止まらないよ」
「それは良かったな」
何だかんだ言って、俺達が倒したの怒ってないみたいで良かった。
なんなら感謝されてるしな。
そう思っていると、セレネが目の前で腕を組み大声で発する。
「ボルニアよ。この店で最も良い、石鹸をくれ、お風呂に入りたい」
「だから、その名前は辞めろ! 偽魔王よ」
この二人は相変わらず仲が悪いようだ。
ボルギジニア最初と最後を取って、ボルニア言いやすくていいと思うんだがな。
「は? 本物の魔王だと言ってるだろ! また焼かれ尽くしたいか?」
「私は滅びぬ! 何度でも蘇るさ!」
滅びの呪文で「目が!目が~!」おじさんみたいな事言ってるな、お前は天空の城か?
今なら分かる。 人間は土から離れては生きていけない。
そんな冗談はさて置き、ここからどうするか。
「まあ、そこの魔抜け王は置いといて、困った事があればいつでも私を頼ってくれて良いぞ」
「本当か?」
「ああ」
後ろでセレネが「誰がまぬけだと」と怒っているが無視しよう。
そうか、ボルギジニアに頼るのもありだな。
この世界の事をよく知っていそうだ、店の奥に沢山の本があるのも見えるし敵の事を一番知っているだろう。
「じゃあ、取りあえず魔王幹部について教えてくれ」
「そう言えば、お前たちは魔王を倒すと言っていたな……まあ、ラファエル様が負けるとも思えんが良いだろう。教えてやる」
そう言い俺は魔王幹部について色々と教えられた。
魔王、ミカエルの率いる黙示録の四騎士、名前は不明でどこにいるかも分からないず、だだそれらの四騎士には役割のような物が付いている支配、戦争、飢餓、死、この四つだ。
魔王、ガブリエルの率いるは二大魔物獣、ブラックドラゴン、メデューサである。
ガブリエルは人や魔族ではなく、自らが使役する二匹の魔物を幹部としており、どちらともとてつもなく強い魔物だ。
魔王、ラファエルの率いるは側近に2人、ボルギジニア・アステルともう一人シェーマールスコーピオン・ララ、既にボルギジニアから魔力の核が無いので残りは、これまた凄く言いずらい名前の魔王幹部、ショーマールスコーピオンさんですね。
そして最後、魔王、ウリエルは誰一人として魔王幹部を付けず、1人で魔王を全うしており、唯一魔力障壁のない魔王だ。
大まかにそんな説明をしてもらった。
残りの魔王幹部の合計で言えば、魔王幹部は7人、正確に言えば人、五人と魔物が二匹だ。
「なるほど……大体理解できました。ありがとう」
「良いぞ、私を自由にしてくれたんだからな、他にもしてほしい事はないか?」
「じゃあ、俺に技や魔法、力をつけさして欲しい、簡単に言うなら俺を鍛えてくれ」
「ほう」
ボルギジニアはこちらを見て顎を触る、こいつはどれぐらい出来るのかなと、見定めているようにも見える。
「わかっーー」
「サイト! どういう事だ!」
ボルギジニアの返事を遮るようにセレネが大きな声で話す。
「こんなのより、私が教えてる方が強くなるに決まってるじゃないか」
「おい、聞こえてるぞ」
「やはり、私が教えた方がいい」
「無視するな。おい!」
「確かにこんなのよりお前の方が強いかも知れないけど、セレネの魔法は俺には使えないよ。
だってここは違う異世界だからその魔法はセレネ以外使えない」
「だから、無視すんなって。こんなの辞めろ、泣くぞ」
少し外野がうるさいがやはり、ボルギジニアに教えて貰うのが良いだろう。
もう、一回ほどセレネに魔法を教わったのだ『地の魔力に感謝し我に力を与えたまえ、サンダーボルト』この魔法はセレネの世界の魔物、黒狼がよく使う魔法で、早い速度で打てる上に扱いやすくオススメの魔法らしい。
だが、結局何も起こらなかった、多分この世界との詠唱の違いだろう、向こうの世界とこちらの世界では詠唱も違う、この世界の詠唱に関してはセレネの知識は0。
なので、ボルギジニアを頼る事にしたのだ。
本当なら、俺もセレネが良いんだよ。
「……分かった。仕方ない、良かろう。じゃあサイトが修行している間、魔力の回復、町の散策、お金集めでもしておく」
「ありがとうセレネ」
「いいよ、それでサイトが強くなるなら」
もうちょっと反対されると思ったが、彼女は意外と理解力があり、伊達に魔王をやっていないようだ、少し舐めていたな。
「分かった、ならば私もしっかりとそこの召使いに教えてやろう」
「召使いじゃないけどな」
そうして、俺の修行が始まった。
ーーー
修行して1ヶ月目、俺はとうとうボルギジニアを超えた。
「くっ、ここまで成長するとは……」
「ふ、これが俺の実力だ。これでトドメだ!」
フライパンから目玉焼き、焼きたてウインナーをさらに盛り付ける、そして仕上げに味付けを加える。
「ここまで料理が上手くなるとは……流石だな」
そんな会話をする。
俺が修行をすると言った時に、ボルギジニアが「それなら、私の店で寝泊まりすればいい、住み込みで鍛えてやる」と言ってくれた。
そのおかげで食物、住みかのお金が浮いた、それは嬉しいだが、ある一つの不満が浮き上がった。
それはボルギジニア、セレネの料理が酷い、もはや何なのか分からないくらいの炭飯を作る、この前はハンバーグと言って炭となった鶏肉が出てきた。
ハンバーグなのに、鳥を使ったとか、あり得るか?
しかも、それを食った後、数時間倒れた。
そんなのを食ってられないと俺が、料理する事になったのだが才能があったみたいで色んな食べ物を作れるようになった。
今ではセレネも、ボルギジニアも俺の飯の虜だ。
まあでも、そんな事は置いといて、俺の修行の話だ。
料理と違い、戦闘に置いて俺は才能がなかったみたいだ。
ニートだし、筋肉もない、魔力も他の人より少ない、知ってたけれどちゃんと言われると結構心にきた。
なので、取りあえず体作りからと言うことで、毎日ボルギジニアが作ったメニューに取り組んでいる、腕立て、腹筋、スクワット、走り込み、簡単に言えば、ひたすらに筋トレ、今まで運動していなかったニートからすると辛いが、徐々に筋肉がついてきている。
筋トレが終わると、時間が余るのでボルギジニアに本を借りて、この世界の歴史、常識、情報を集めている。
最近読んだ面白い本は、人魔十四大のお話だ。
人魔十四大とは、世界で最も強い十四人の集まりである。
今では変わってしまっているが、当初七つの大罪と呼ばれる、魔族七人。
一位 『憤怒』サタン
二位 『傲慢』ルシファー
三位 『強欲』マモン
四位 『怠惰』ベェルフェゴール
五位 『暴食』ベルゼブブ
六位 『嫉妬』レヴィアタン
七位 『色欲』アスモデウス
と十二勇者の内、上位七名。
一位 『剣』ナカジマ・トウヤ
二位 『槍』ゴトウ・アキト
三位 『銃』カラキ・アキナ
四位 『弓』タナカ・シュンスケ
五位 『杖』スズキ・ユウナ
六位 『拳』ナイトウ・ナツキ
七位 『本』ヤマダ・ライト
計十四名を最初の人魔十四大と呼ぶ。
今の四大魔王ですらも凌駕する力を持つと呼ばれている。
十二勇者の銃やら、本やらおかしいのが混じっているが、名前を聞く限り全員日本人のようだ。
俺のように転移してしまった者がいる、と言うことを知ってから今では十二勇者を調べている。
三百年前、一人の魔王が世界を支配していた時代。
創造神、アリスの手により異世界から召還された十二人の勇者で様々な伝説の魔物を倒したとされている。
その中でも『本』ヤマダ・ライト、別名『アンラッキー勇者』、『杖』スズキ・ユウナ、別名『魔法無し勇者』、そしてその仲間達により魔王が倒された。
そして、十二勇者の内、三人が死亡、一人が行方不明、残りの勇者は子孫を残したり、新しく湧く魔王を倒したり数多くの伝説を残している。
今、十二勇者で生きているのは『杖の勇者』だけだ。
魔王を倒す前に、七つの大罪、『怠惰』ベェルフェゴールと戦った際に一度死に、『本の勇者』が永劫の輪という伝説の道具で永遠の命を与え蘇り、今もまだ老いる事なく生き続けているという嘘か本当か分からない伝説が残っている。
まあ、多分生きていると言うことは、本当にあった事なのだろう。
唯一生きている、『杖』スズキ・ユウナに話が聞きたかったんだが、ボルギジニア曰わく、魔王討伐後ヤマダ・ライトとの子供を三人見籠もり、ヤマダ・ライト死後、適当に世界をうろついていて今はどこにいるのか分からないらしい。
三人の子供は、永劫の輪の影響か分からないが、百数年以上生きていて未だ衰えず生きているそうだ。
長男、ヤマダ・カイトは『盾の勇者』と呼ばれ、今はイグス王国の聖騎士団長として、色んな軍の育成をしている。
イグス王国と聞くと、この町の門番がイグス王国から、聖騎士軍が派遣されるとか言っていた、セレネとボルギジニアの戦いの際にドンパチやりすぎて目を付けられた。
セレネの存在がバレると討伐されかねないので、関わるのはやめておこう。
次男、ヤマダ・アツトは『魔法の勇者』として四大魔王から民を守っているそうだ。
こいつも世界をうろついていてどこか分からないので、取りあえず置いておこう。
長男、ヤマダ・アヤノは『御札の勇者』と呼ばれている。
彼女はそれ以外の情報もなく、謎に包まれている。
三人とも、三百年前に倒した魔王以降に出てくる数々の魔王を打ち倒し平和な時代を作ってきた伝説の勇者達だ。
四大魔王が出て来た時も討伐へと向かおうとしたが、魔力の核のせいで攻撃すら届かず、魔王幹部を倒そうとするがどこにいるかも分からず、今はお手上げ状態、なのでせめて民を守ろうと世界各国で活躍しているそうだ。
三人にも話を聞こうとしたが、都合や場所がわからないなので諦めた、いつか会ったときに話せば良いだろう。
俺達の目的は魔王討伐だ、その途中に会うかもしれない、だって目指すものは一緒なのだから。
本を閉じる。
外はもう紅くなり、日が落ち始めているようだ。
「サイト! 飯!」
「分かったよ。何が良い?」
「美味しい奴」
「何だよ、美味しい奴って」
セレネはこの一ヶ月何もしていない、否、一様はしている。
魔力回復に全力投球してもらっている。
だが、回復は遅いし、待つだけと言うことでほぼ何もしていない。
俺が早く鍛え終わったら、頑張って貰うとしよう。
「らっしゃい、らっしゃい、魔王をも浄化する洗剤有りますよ」
ボルギジニアの洗剤、石鹸はとても人気だ。
昔からここで売っているらしく、人には人気らしい。
でも、魔王幹部だったのに、魔王をも浄化する洗剤って……。
本当に昔、魔王ラファエルが使ったらしいのだが、危うく浄化する所だったとか。
セレネも浄化しそうになり、なんか体が透けて見えた。
最近、本当にこいつが魔王幹部だったのか、怪しくなってきた。
でも、実力は確かだし、三百年前の魔王一強の時代を生きた魔族で物知り何か聞けば殆どの事は教えてくれるし、とても頼もしい。
今は三人の暮らしに慣れて来ていて、セレネとボルギジニアが時々、偽物の魔王だの、本物の魔王だのと喧嘩している程度で仲は良いと思う。
人との関わりが苦手な俺が、居心地悪くならないのは二人とも気のいい奴らだからだ。
「おーい! 飯できたぞ」
「ふほぃ、めしめし」
「変な声をあげんな」
「本当だぞ。魔抜け王」
「んだと、こら、ここでインフェルノぶちかましたろか」
苦笑する。
辞めてくれ、俺諸共お店が吹っ飛ぶ。
俺はご飯をお皿に盛り付け、テーブルに出す。
「あむ、うっま!!」
「まだ頂きますしてないぞ。つまみ食いするな」
目をキラキラさせ、頬に手を当てて美味そうにつまみ食いする魔王に軽めのチョップを食らわせる。
「痛て」
頭を触って痛そうにしている。
だが、つまみ食いをするのは止めたようで目をキラキラさせて、食べ物を見ている。
セレネ、こいつも本当に魔王なのだろうか。
まあ、いいや。
「それでは、今日も美味しく頂きましょう」
「うむ」
「はい!」
ご飯をテーブルに移し、席に着き、いつものようにみんなで手と手を合わせる。
「いただきます」
そう言い飯を食べ始める。
俺は今の生活がとても楽しい、前の世界では到底出来なかったであろう事が出来ているのだから。
俺はこの異世界で生きていく、そう心に刻んで。
第1章 異世界転移編 終了
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