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魔王様、やりすぎです。  作者: みたまおう
第1章 異世界転移編
6/7

第六話「魔王様、初クエストです。」

 セレネが口を大きくあけ、それを片手で隠す。

 あくびだ。

 

 俺達は朝早くから、冒険者ギルドに来ていた。

 何故かというと、やはり、朝早くの方が、クエストが更新される為、やりたいクエスト選べる。


 そう言えば昨日は宿に行き、2つ部屋を取った。

 セレネは一つの部屋で一緒に寝よう、と言ってきたが、やはり、俺も年頃の男の子だし、それに女子と同じ部屋というのは、ハードルが高いと言うことで2部屋取った。

 勿論そのせいで、宿代が高くなった。

 

 だが、この世界の宿は一部屋、銀貨2枚目と、とてもお安く済んだ。

 その時、聞いたのだが、この世界の金銭の話である。

 銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚と聞いた。

 金塊を売った時に、金貨百枚近く貰ったので、ギョッとした。

 それはセレネも怒るだろう。


 でも、そのおかげで当面の間は、金には困らないだろう。

 なので、今日はセレネと話し合い、最初の内は簡単なクエストをやり、慣れて行く、ということになった。


「それでサイト、どれをやるんだ?」

「うーん……」


 簡単そうなクエストを探す。

 クエストは掲示板に紙が貼られ、その紙をギルドの受付に持って行くことで受けられる。

 文字は日本語ではなく、異世界語だが、何故か理解できる。

 これは転移パワーって奴だろうか。


 クエストの難易度はE、D、C、B、A、Sの順で難しくなり、Sを越えるとSS、SSSと増えていく。

 冒険者も同じ様に、E~Sでランクが付けられ、同じのクエストかその一つ上までのランクを受けられる。

 冒険者のランクは、クエスト達成率、称号の獲得、功績、決められる。

 俺達のランクはEだから、クエストEかDを受けられる。

 ふと俺の目にあるクエストが目に入る。


「これは、どうかな?」


 そのクエストを指差す。

 セレネがこちらに顔を向ける。


 そこに書いていたのは、木のような形をした魔物が書かれていた、その魔物の討伐というか、調査のようだ。

 難易度はD、最近この町の周辺に現れ始めた、謎の魔物、その魔物の調査、もしも出来るなら討伐し、数を減らせとのことだ。


「なるほど、謎の魔物か…強さが分からないけど見た感じ、余り強くなさそうだし、Dのクエストだから、ありかもな」

「じゃあ、決まりだな」


 俺達は、クエストを受けてみる事にした。

 初めてだが、セレネが居れば何とかなるだろう。



ーーー



 此処は、俺達が転移して最初にいた草原だ。

 周りには草村、大きな一本の木、そしてあの爆発で崩壊した地面が少し遠くにある。

 魔王幹部、ボルギジニアを葬った場所である。

 その周辺に木の形をした魔物が出るらしい。


「どこかな? 昨日はそれらしき魔物は居なかったよね」

「確かに……ウサギの魔物しか居なかったな」

「そう! それも私のなんかすごい魔王パワーでやっけた」


 可愛い見た目の癖に、糞ほど怖いんだよな、セレネが来なかったから食い殺されてたかもしれない……考えるだけで、ゾッとする。


 魔物ってのはどうやって湧くのかな?

 ゲームのように草村を歩き回れば突然、野生のモンスターが出てきたり?


「うーん……やはりスキル、魔力探知も使えないか」

「おぉ! セレネのいた異世界ってスキルがあるのか?」

「うん、他にもお前が言っていた、レベルもあったぞ」


 セレネのいた世界の方が、ゲームの世界の異世界っぽいな。

 レベルを上げれば色んなステータスが上がり、ある条件を満たすと、スキルが手に入る。

 いいな……俺もいつかその世界行ってみたい。

 この世界は楽して、強くなれないし、スキルじゃなくて技術や技を磨くしか無いしな。


「あぁ、これじゃあ討伐どころか、調査も出来ないよ」

「確かに。でも、今日は調査がメインだ。だから、まだ防具すら付けてない」

「いっそ、ここら全てを破壊するのでもあり」

「無しだわ!」


 武器や防具はまだ買っていない。

 今日は調査なので、護衛をセレネにしてもらってる形だ、それでもし倒せそうなら倒しておく。

 そういう風に、お金や経験を積み、徐々に魔王に近付いて行く。


「よし、まだ昼にもなっていない、時間は沢山ある。

 その内、魔物の方から人間を狙って襲いに来るだろう、その時に見つければ良い」

「確かにそれもそうか」


 セレネは俺に近付いてくる。

 そして、辺りを歩きながら一緒に魔物を探す。

 いつか必ず現れる筈だ。



ーーー



 三時間、結局何の魔物も現れなかった。

 もう、太陽は俺達の頭の上に来ていた、すっかりともう正午だ。

 

「もう、全然現れない!」


 セレネは少し怒り気味である。

 朝ご飯を食べて八時間経ち、お腹が空いてきている上に、そこそこの日差し、疲労が溜まっているからだろう。


 しかし、こんなにも魔物が出ないことなんてあるのか?

 異世界だぞ?

 セレネにビビっているのだろうか、やはり魔王だし魔力も凄いんだろう。


「じゃあ、少し休憩するか」

「そうだな」


 辺りには、木が一本しかないが、あれの下は日陰で丁度休めそうなので俺達はそこで休憩をする事した。

 そして、その木の近くで腰を下ろし座る。

 予め買って置いた、お弁当を開き、セレネにそれを渡す。


「ふぅ、ようやく飯か」

「こうやって、木の下で弁当一緒に食うと遠足みたいだな」

「うん、そうだね。私は遠足なんて行った事なかったから嬉しいよ。

 こうやって、友達とご飯食べれて、私友達なんて居なかったから……別に悲しくなんて、な、なかったぞ」


 少し早い口調だったから、本当は悲しかったのだろう。

 こうやって、友達とご飯が食いたかったのだろう。

 俺はセレネの形を叩く、そして少しの涙を流す。


「辛かったな」

「その、可哀想な子を見る目を止めろ。お前もインフェルノで屠ろうか」

「ごめんなさい」


 インフェルノは、あの魔王幹部、ボルギジキアさんをも倒した魔法だ。

 あれを食らったら、間違いなく灰も残らない。

 そんな他愛ない話をしながら、後ろの木に寄りかかる。

 背もたれがあった方がやはり楽だな。


「この後も、木の魔物を探すけど、良いよな?」

「魔王、セレネ・ルシファルト復活! 飯を食い、完全に回復したぞ」

「つまり、OKだな」


 さっきまでのイライラも薄れ、いつもの明るいセレネだ。

 ここから、後どれぐらい保つかは知らないが……。


「じゃあ、後少ししたら再開だ」

「ほい」


 そう言い、セレネも木に寄りかかる。

 この木、本当にちょうどいい大きさだ、大き過ぎず、小さすぎず。

 しかも、影になっていて、背を付けると、柔らかくて、背もたれに丁度良い。

 ………柔らかい?


 あれ?

 木って硬くて、もうちょっと凹凸があるよな……。

 その時、俺の脳裏では、あるその一つの答えが導き出される。

 そう、俺達が探していた、ある魔物。


「セレネ、こいつは、例の木の形をした魔物だ! 一旦離れるぞ!」

「サイトよ、ようやく気付いたか。私は背を掛けた瞬間に気付いていたぞ」

「なら、先に言えよ……あれ?」


 さっき、俺の横に腰を掛けていた、セレネの姿が見当たらない。

 確かに、横で木に背を掛けて座って居たはずなのに。


「まあ、そんな事は今は良い、助けてくれ」

「はぁ!?」


 声が上から聞こえて来たと思い、上を見上げると目を疑った。

 触手のように木が伸び、セレネの手足を掴み持ち上げていた。

 セレネは捕まっていると言うのに、妙に冷静で此方に助けを求めてきている。


「背を掛けた瞬間に木が伸び、私を捕まえたんだ。

 だから、私はサイトより、早く気付いていたのだよ……で、早く助けてくれ」

「早くそこから逃げ出せよ! お前の力なら行けるだろ!」

「確かにいつもの私ならいける、だが、この魔物に触れられていると力が出せず、体も動かないんだ」

「つまり、ピンチじゃねえか!」


 これが木の魔物の能力か?

 セレネを拘束しているのに、害を与えていないという事はもしかしたら、殺傷能力が無いのかもしれない、だが、今この状況で動けるのが俺だけとなると、セレネを助けられない。


「うーん……確かにこれは、ピンチかもな」


 セレネが腕を組みながら、魔物に体をぶんぶんと振られている。

 早く、セレネを助けなければ、木の触手であんな事やこんな事をされてしまう……いや、ちょっと見てみたい…いや、かなり見てみたいが。


「おい、サイト、変な事考えてないよな」

「……」


 やっべ、顔にでてたかもしれない。

 いやいや、そんな事してる場合じゃない!


 そう思っていると、セレネの胸辺りに、触手が巻き付き始める。

 まさか……。

 俺は目を見開く。


「何だコイツ、がっしり掴み始めて……おい、サイト早くしてくれ!」


 セレネの胸と腰あたりにガシッと掴んだ。

 ………。


「おい! サイトお前! ぼーっと見てないで早くーーー」


 突然、木が素早く動き始める。

 俺はワクワクしていた気持ちが、一瞬にして絶望に変わる。

 それはセレネが逆さになった姿であった。


「え?」


 セレネも何が起こったか、分からず、顔をキョトンとしている。

 そして、次の瞬間、ドン!っと音が上がり、セレネが地面に突き刺さり、腰から上の体が地面に埋まった。

 木の魔物はセレネを埋めた後、何もなかったかのようにさっきの木の姿へと戻る。


「……」

「……」


 無言が続く、なにこれ。

 いやいや、あそこはあんな事やこんな事をする場面だろ、空気読めよ!

 俺は地面を思いっきり、叩きつける。


「クソー!!!」

「おい! サイト早くここから出してくれ! 暗いよ、怖いよ」


 小さいお尻が喋っている。

 体をくねくねさせ、必死に出ようとしている。

 魔王でも生き埋めにされたら怖いんだな……魔王じゃなくても怖いか。


 俺はセレネの方へと向かって歩く。



ーギルドのお姉さんー



 ここは、冒険者ギルド。

 朝から、晩まで栄えてる。

 私はここで、働いてもう五年となる。

 今日も朝から、働いている。


 そう言えば今日の朝、新人冒険者が初めてクエストを受けに行ったきり、帰って来ていない。

 1人は不思議な格好をした男、平均よりステータスが大分低く、一人だとすぐに死んでしまうと思う。

 もう一人の少女は、知識の魔法石を割った自らを魔王と言う変わった女で、私は知識の魔法石を割った事がある、人物を未だ見たことが無く、とても印象に残っていた。


 と、そんな事を思っていると、カランっと音が中に響き渡る。

 そして、若い男女2人組が中へと入ってくる。

 女性の方は、なぜか上半身が土だらけ、地面に埋まっていたんではないかと思う程。

 男性の方は、少し脱力してやる気の無さそうな感じ、何か見たかった物を見れずに残念がっているようにも見える。


 噂をすれば、あれは朝早くからクエストを受けに行った、新人冒険者の2人、確かパーティー名、デーモンロード。

 男は確か、サイト。

 女はセレネと言っていた。


 その2人は静かに此方へと近付いてくる。

 朝より、暗く、静かで、雰囲気が悪いので少し、話しずらい。

 すると、男の方が口を開く。


「調査クエスト完了しました」

「は、はい……調査結果をお願いします」


 確か、ここら周辺に突如として現れた木の魔物の調査だった筈だ。

 男は話始める。


 その魔物は、近付き触れなければ暴れることはなく、基本的に安全、だが、もしも振れてしまうと木から伸びる体に捕まり、体を拘束され最後には、地面に埋められるとのことだ。


 ふと女の子の方を見る、そして、多分この子がそう言う目に会ったのだろう。

 とても、頑張っているみたいだ。

 ここは少し多めに報酬を渡そう……。



ーサイトー



「思ったより、報酬が多かったな」

「うぅ……私は早くお風呂に入りたいよ」


 まあ、あの後引っこ抜くの大変だったし、セレネも疲れただろう。

 このまま今日は風呂に入って、ご飯食って、寝る事にするか。

 でも、これからは毎日これだもんな……。

 本当に魔王討伐なんて出来るのか?


「取りあえず風呂に入るか。確かギルドでお金を払うと入れてもらえるらしい、銭湯みたいなもんだな」

「銭湯? ってのはわからないけど、早く行こう!」


 セレネに背中を押されるようにお風呂へと向かう。

 だが、一つあることを思い出す。


「そう言えば服と体を洗う石鹸がないな……確か持参だから用意していかないと」

「そうなのか? なら、石鹸を買いに行こう。服は適当に部屋着を買えばいい」


 その方が楽そうだし、確かに良いな。

 よし、そうと決まれば善は急げだ。



ーーー



 部屋着を適当に買った。

 セレネは猫のような耳の付いた部屋着で、俺のいた世界の可愛い女子が着ていそうな感じの奴。

 正直に言わなくてもかわいい。


 今は石鹸を買うために商店街のような場所を散策している。

 この町は初心者冒険者の町と言われるほど安全な所なので、こうして皆穏やかに過ごせているのだ。


 そんな平和な町一番の洗剤、石鹸屋に向かっている。

 安く、安全、しかも品質も良いとの事、ショッピングテレビの宣伝のようだ。

 だが、それほどこの町では有名なお店らしい。

 

「ふぅ、早く入りたいな」


 セレネは早くお風呂に入りたくてうずうずしている。


「この角を曲がればすぐだよ」


 そう言いながら、曲がるとそこには少し不気味な感じのお店があった。

 こんな店が目当ての店か? と最初は目を疑ったが、でかでかとお店の看板に『魔王をも殺す石鹸』と書かれている。

 このお店の目玉商品の名前だろうか。


 セレネの方を見るとセレネも目をまん丸くしている。

 そりゃそうや、ほんもんの魔王様やぞ、なんちゅうもん見せてくれとんねん。

 でもまあ、来たもんはしゃあない、流石に本当に魔王を殺す石鹸がある筈がない、一応買っていくか。


 ドアを開くと、店員らしき人が会計の後ろの棚を綺麗にしていた。

 姿は紫色のスーツ、黒いハットを被った、不健康そうな顔をした男……あれ、みたことあるような。

 いや、そんなはずは無い。

 あいつは昨日セレネのインフェルノによって死んだ筈だ。


「はい、いらっしゃいませ。ボルギジニア・アステルのお店へ……」


 こちらに振り返り、こちらの姿を目にした途端に無言になる。

 やはり、彼だった。

 特徴的な名前、不気味な雰囲気の彼だ。


 俺達は無言のまま顔を見合わせる。

 ただ時間が過ぎていく。

 俺とセレネはこの男が何故生きているのかと言う混乱と昨日倒したはずなのに1日ぶりに会ったので少し気まずい気持ちで彼を見続けるのであった。

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