第五話「魔王様、仲直りです。」
………冒険者になったのは良いとして、ここからどうしようか……。
セレネを人混みに置いていくのを実行してもいいが、後で殺されそうだから、止めておくか。
後は、今日はもう暗くなって来るし、寝床が必要だが金が無いもんな。
「セレネ」
「どうした? サイト」
「今日はもう休むんだが、金とか持ってないよな?」
「うーん……金貨の形が、私の世界と違うから、使えんだろう。何か金になりそうな物があったかな?」
そう言うと、黒のマントの後ろを弄り、目の前に持ってくる。
それは、金塊だ……初めて見たが、とても高そうだ。
「……これは違うな」
そう言い、後ろに戻そうとする。
「おいおい、待て待て、金塊ならこの世界で売れると思うんだが」
「いや、これはなんと言うか……私の宝物と言うか……向こうの世界から持ってきた、一つだから、あまり使いたくないなって感じで……」
俺は素早く、その金塊を奪い取る。
すると、セレネは「あー」と、子供がおもちゃを取り上げられた時のような声を出す。
そして、取り返そうと、手を伸ばしてくるので、俺も上に手を伸ばし、セレネの頭を抑える。
幸い、セレネは俺より、全然背が低いので、届かない。
「馬鹿やろう、お前分かってんの、今日の寝床も無いんだぞ」
「うるさい! 私のお宝。世界が滅ぶぞ」
「物騒な事、言うなよ」
子供みたいに、涙目になり、返して欲しそうにする。
だいぶ心に来る。
でも、返して欲しいからって、世界が滅ぶって……もうちょっとマシなうそつけよな。
かなり必死に、取り返そうとしている。
本気を出せば、俺より強いから取り返せる筈だが、俺が傷つかないように力を出していないのだろう。
でも、そんなに大事な物なら返して上げようか?
いや、いや、甘やかしたらろくな大人にならないからね。
ライオンの子は崖から落とされる、なんて話も聞いたことあるし、かわいい子には旅をさせろだ。
仕方ない、仕方ない。
そう言い、俺は金塊を、金貨に変えた。
ーーー
セレネがほっぺをむくれさせ、そっぽを向いている。
本当に、魔王に見えない。
「なあ……セレネ、機嫌治せって」
「サイトなんて、知らない」
そう言いつつ、俺が歩いた道をついて来る。
ド○クエか?
まあ、パーティーを組んだから、あながち間違えじゃないな……このまま、家に不法侵入して、壺でも割ろうかな?
これからの付き合いとして、話を聞いて貰えないのは非常にまずい。
何か機嫌取りの物を、探すか。
当たりを見渡す、ここは市のような場所で、何か、良い物が売っていないか探す。
目の前に、洗剤が売っている。
洗剤か…あまり機嫌を取れなそうだが、一様見ておくか……。
何々、これを使えば、一家のお洋服は新品同様、さらに、体に優しく、環境にも良い。
この世界で、環境を気にする奴いないだろ…誰だよ、こんなCMで出てきそうな洗剤作ってる奴。
ボルギジニア工房、皆により良い未来を、と裏に書かれている。
お前かよ……なんか、本当にごめん。
ちょっとした罪悪感に襲われるが、今はこんな事をしている場合ではない、と思い、他のお店も確認する。
だが、そんなに良いものは、見つからず、未だ、セレネは付いて来ているが、一向に話を聞いてくれない。
「はぁ……これから、どうしよう、セレネは口聞いてくれねえし」
「………ふん!」
「はぁ…」
今日はもう諦めて、宿を探すか。
セレネとは、これから時間を掛けて仲直りしていこう。
ぐぅ~
聞いたことのあるような音が聞こえる。
これは、お腹が空いたときになる音だ。
誰か、お腹を空かせたのだろうか?
辺りを見渡す、俺の目には、顔を赤らめながら、お腹を抑えているセレネの姿が映った。
そう言えば、転移してから、一度も食べ物を口にしていなかったな。
それに、セレネは食事に行く時に、歪みを見つけたと喋っていた。
ずっとお腹が空いていたのかもしれない。
あ、そう言えば、ギルドに居る時に、あの騒がしいセレネが、ギルドの中で静かだったのも、そのせいなのかもしれない。
うーん…もう、暗く、屋台も閉じ始めているし、ここら辺に飯を売っている店は無い。
俺は手に持っている物を思い出す。
そして、後ろを向いてビニール袋をセレネに向ける。
「……」
セレネが怪しそうにこちらを見て、睨みつける。
だが、全く怖くない、なんなら可愛い。
「えっと……お腹空いてるんだろ? こん中に食べ物が有るから、それ食えよ」
「すんすん……本当だ……食べ物の香り」
「匂いで分かるとか、犬か、お前は」
いつものツッコミが出てしまう。
拗ねているのに、こういうのは良くなかったか?
だが、セレネはそれのお陰で少し、気が楽になったのか、近付てビニールを手に取る。
「その……ごめんね。私の為に、頑張ってくれてるのに……いつ帰れるか分からないから、持って来たものを大事にしようと思って、意地になっていたんだ。
だから、私は、嫌われるんだな……」
少し、寂しそうな顔で、自分を卑下する。
「……いや、こっちこそごめん。無理やり奪い取って、あり得ないよな。俺もこんなんだから、他の人から、浮いて……引きこもりになって、親にも迷惑掛けて、情けないよな」
俺はセレネを嫌な気持ちにさせてしまった。
なら、俺もそれか、それ以上に反省しなければ行けない。
セレネはこっちを見て凄く驚いている。
「じゃあ、お互い様で…」
「そうだな」
俺とセレネは仲直りした。
やはり、自分達の弱いところを見せ合うと言うのは、相手をより理解し、前以上に仲良くなれる物だ。
「取りあえず、食えよ」
「分かった! ありがとう!」
俺達は、町の階段に腰を掛け、休憩する。
セレネは、ビニールから、俺がコンビニで買ったお菓子や飲み物を開ける。
そして、勢い良く食べ始める。
「うっま! なにこれ不思議な味なのに、食べていて飽きない、そして、丁度良い塩加減、この食べ物はミーニャの料理に負けない程の味だな」
「そうだろう、そうだろう、うまかろう、うまかろう、ポテトチップスは最高のおやつだ。
寝ながら食うと、罪悪感に苛まれる程、ポテチが最高にうまくなるんだ」
ガツガツと食っていく、すごい勢いでポテチが無くなっていく。
すると、喉を詰まらせ、胸をトントンしながら、飲み物を飲む。
「おお! これもまた、不思議な食感の飲み物だな。
アワアワが付いてる、このアワアワが爽快な飲み心地にしてくれる」
「そうじゃろう、それはコーラと言っての、世界最強の飲み物だ。
なんていったて、サンタさんも、コーラが大好きだからな。
そして、コーラとポテチを一緒に食べる事の幸福感と言ったら、もう凄まじい物だ」
「もぐもぐ……」
一生懸命食っている、俺は嬉しい、異世界でもこの味の良さが分かるとは……
やっぱり、ポテコーラは、偉大だな。
「ふぅ…食った食った。完全復活!」
良かった、すっかり機嫌を直してくれたみたいだ。
セレネは立ち上がり、さあさあ、宿へ向かおうではないかと、歩き始める。
「おい、待ってくれ」
セレネの背中を追い掛ける、だが、セレネの歩みが止まり。
クルリと美しく振り返る。
「ああ、そうだ。サイト」
「どうした?」
セレネはこちらに仁王立ちでこっちを向いている。
もう暗く、月の逆光でセレネが神々しく見える。
「私達はこれから魔王討伐を目標としてやっていく」
「そうだな」
「改めて、ありがとう」
セレネはにっこりとこちらに感謝を伝える、クソほど可愛い。
「そして、それに当たって、第一目標のギルド登録が済んだ」
そう言いながら、小さく、でも綺麗な手の人差し指を上げ、1を作っている。
この話の流れだと、これからについて話すのだろう。
「そして! やはりこれは決めておくべきだろう」
内容は分かる。
多分だが、さっきのように喧嘩にならないように、ルールを決めるのだろう、やはりそう言うのは、ちゃんとしておいた方が良いだろう。
「やはり、冒険者となったのだ。パーティー名ってのは大事だよな」
目を輝かせながら、そんな事を言う。
思っていた事と、見当違いで少し恥ずかしい気持ちになりながらも、セレネの言った事について考える。
パーティー名か……正直言って、何でも良いのだが。
セレネの目が眩しい。
セレネの異世界にも、冒険者ギルドは在ったけれど、今まで成ったことがなく、内心とてもワクワクしていたのだ。
うーん……しっかり考えた方がいいか。
「セレネはどんなのが良い?」
やはり、話題を出したからには何か案が有ったのだろう。
どんな名前だろか……。
「デュンデュン魔王!」
「却下で」
「なーんで? かっこいいじゃんデュンデュン魔王」
「ダサいわ! なにデュンデュンって、魔王が入ってるのはまだ分かる、でもデュンデュンはなに?」
ほっぺをむくれさせこちらを見ている。
無理なものは無理だ、デュンデュンは無理、小学生がパンチした時の口効果音のバシュクみたいな物なのか?
「じゃあ、サイトはあるのか?」
「そうだな………」
今度は俺が考える番か。
でもやはり、魔王は入れておきたいな。
攻撃に関してはセレネに頼る部分が多いと思うからな、それに、パーティーリーダーは俺だがやはり、魔王討伐をしようと言ったのはセレネだ、だから魔王に関連した名前を……魔王は英語だと、確か……
「デーモンロード?」
「デーモンロード……魔王か……」
そのまんま過ぎたか?
「良いじゃないか! そうか…英語にすると言う発想も有るわけだ」
気に入ってくれたらしい、ならもうそれで良いだろう。
デーモンロード、これから俺達のパーティー名は、デーモンロードだ。
良かった、デュンデュンじゃなくて。
俺はひとまず安心する。
「よし、明日からクエスト頑張るぞ」
「分かった。私も半分近くはまだ魔力が残っている、任せてくれ」
俺が無茶言って、広範囲にあれほどの規模の魔力を使ってまだ、半分も魔力が残っているのか……本当にコイツは化け物かもしれない。
今度からは、あまり怒らせないようにしよう。
本気で怒って、力の加減が出来ず、気付いたら、俺の体がぐちゃぐちゃになってたら、恐ろしいもんな。
セレネにはそれが出来る力を持っている、考えただけで鳥肌が立ちそうだ。
果汁ならぬ人汁100%のジュースが出来ても、笑い事じゃねえ。
「取りあえず、今日はもう寝ようか」
確かに、今日だけで転移、魔王幹部と戦い、冒険者になり、新しい環境で俺もかなり疲労している。
もう寝て明日のクエストに備えるとしよう。
「そうだな、じゃあ行こうか」
俺を先頭に歩き出す。
その後
おやつを食ったというのに、セレネは夕食を「別腹、別腹~」と言いながら、滅茶苦茶食った。