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魔王様、やりすぎです。  作者: みたまおう
第1章 異世界転移編
2/7

第二話「魔王様、自爆です。」

 俺の目の前には、空に滞空する女の子がいる。

 さっきまで俺を襲っていた、見た目とは反して凶暴な性格のウサギ達は、この少女が現れた時に居なくなってしまった。


 いや、居なくなったというよりは跡形もなく消えた、と言うのが正解だろう。

 兎を倒した死骸すら残っていないのだ。


「ここは、どこだ?」


 少女はそんな事を言い辺りを見渡す、あまりこちらを気にしていないみたいだ、いや、俺の存在感ないのだろう自分で言って悲しくなる。

 謎の少女に恐怖を抱いているのだが、一応命の恩人なのだからウサギから助けてくれたお礼をとそのついでにこの世界の事を聞こう思う。


「あ、あの……」


 緊張で地声より少し高い声が出る。


 人と喋るのも久し振りだがらと言うのも確かだが、目の前の少女は人形のように美しく、サラサラな銀色の髪、透き通るような青の目、顔は整っており、女神と言われても良いほどの姿である、緊張しない方が難しい。


「ん、なんだ? ここ辺りの住民か?」


 少女はこちらに目を向ける、一瞬驚いた素振りを見せたが、平然と話す。


「違いますよ」

「そうか……ではなんだ?」

「えっと………」


 少女は困ったような顔をするが、こちらの話をしっかりと聞いてくれるみたいだ。


「あなたは誰なんですか?」


少女は今度は明らかに驚きを隠せていない。


「私を知らないのか? 私をだぞ?」


 そんなに有名な人なのだろうか、だが、俺はこの世界に来てからまだ僅かだから仕方ないだろう。

 サイトはぽかんとした顔で少女を見る。


「本当に知らないのか……仕方ない。教えてやろう」


 そう言うと、地面に降りて、羽織っていたマントで体を覆うと、バサッ!っと音を立てながらマントを開く。


「我は魔王、セレネ・ルシファルトだ!」

「魔、魔王?」


 魔王って、もしかしてあの魔王? いや確かに俺がさっきまで襲われていた数十体のウサギが消えたもんな、しかも今、体が浮いちゃってるんだよねこの子。


 いや、でもまだ来て数十分も経ってないのにいきなり魔王って、1Lvで魔王って、うん、これは負けイベって奴だ...いやいや、これゲームじゃないよね! 負けたら死ぬんですけど?


「クソゲーじゃねぇかよ! 何だよ転移、5分でいきなり死亡って、オワコン過ぎんだろ! 今すぐサ終しろよ!」

「え……???」


 急に大声で独り言を呟く一人の男に、魔王は少しの恐怖を覚える。

 思っていた、反応と全く違い、驚きもしている。

 そして心配そうな顔でこちらを見ている、魔王に可哀想な人みたいに見られている。


「取りあえず、君も名前を教えてくれないか?」

「あ、サイトって言います、どうも」

「どうも、えっとじゃあ、サイトはどうしてこんな所にいるんだ?」


 その質問になんて答えれば良いのか返答に悩む、この魔王と名乗る少女、セレネにここにいる経緯を話すべきなのだろうか。


「逆になんでセレネはここにいるんだ?」

「セレネって、私をそう言う人がこの世にいるなんて」

「じゃあ何だ? 魔王様とでも呼べばいいのか?」


 言葉に詰まる、だがセレネは少し嬉しそうにすると「仕方ないな我が特別にその名で呼ぶことを許そう」と勢い良く言う。


「そう言えば私がここにいる理由だったけ、私は魔王城に居たんだが、何やら不思議な光る歪みのような物が在ってなそれを触ったら、吸い込まれたんだ、で気付いたらここに居たってわけ」

「それ! 俺も道に歪みの様なものがあって、気付いたらここにいたんだ。

 それでウサギの魔物に襲われていたところをセレネに助けてもらったんだよ」


 セレネが俺と同じように転移してきた事が分かり、次々と色んな事を話す、ここの世界とは全く違った所から来たことなど。


「とにかく、ウサギの魔物から助けてくれてありがとうな」

「気にしないでいいよ。よく登場するときに魔力の気? みたいのが勝手に出て行って低級魔物位だと簡単に倒れちゃうんだよね」


 魔王補正の奴か、最初に勇者と会ったときに異様な威圧感が出るあれだよな。


「私はこれをなんかすごい波動と呼んでいる」

「名前ダサすぎるだろ! なんかもうちょっとマシなのあっただろ」

「……魔、魔王ジョークって奴だよ。 ハッハッハッ……」


 ジョークじゃなくて、本当になんかすごい波動って呼んでたんだな、と思うかなり気にしてるみたいだ。


「まあとにかく、今の話をまとめると2人ともこの世界とは違う異世界から来たって事になるな」

「そうだな、どうすれば帰れるのかな? ミーニャに早く帰らないと心配されるからな」


 ミーニャ誰だ、まあ今は確かに帰る方法を……いや待てよ。

 俺、別に帰っても家に引きこもるだけだし、周りの人からはゴミを見るような視線を送られるし、帰ってもいいことなくね?


「よっしゃー! ここから夢も希望もない世界とはお別れして、この世界で楽しく過ごしてやるぞ!」

「ちょっと待て私は、帰らないとだな……いやミーニャの事だ、大丈夫だろうけど、私は帰りたいぞ」


 セレネがこちらに詰め寄ってくる。

 近くでみるとより顔の綺麗さが伝わり、ほのかにいい香りがする。


「サイトまさかお前、本当は帰り方知ってるんじゃないのか」


 サイトの顔が赤くなる。

 童貞男子の俺には刺激が強すぎるぞこれは、と満更でもなさそうに心の中で言う。


「分かった、分かった、俺のオタク知識を貸してやる」

「おたく?」

「こういった典型的な異世界転移はな魔王を倒すと元いた所に帰れるのが普通なんだ」


 得意気にそんな事を言ったが、セレネは理解できていない様子でこちらを見ている。


「つ、つまりはこの世界の魔王を倒せば元いた世界に帰れるんだよ」

「なるほど、じゃあどこに向かえばいいんだ?」

「分からない、そこは自分達で情報収集をして行くんだ」


 魔王が魔王討伐ってなんか違和感あるけど。


「よし、じゃあ早速行こう」

「ちょっと待て待て、俺はさっきも言ったように異世界で優雅な人生を送りたいの、魔王なんて倒す気無いから、じゃあ、バイバイ俺は行くから」


 俺は向こうに見える町に、セレネを置いて歩き始める。


「ま、待ってよ! 私本当に帰りたいんだってば!」


 セレネが巻き付いてくる、胸が少し当たり、顔を赤らめる。


「や、やめろ俺は、絶対魔王なんて絶対倒さないからな」

「魔王様が何だって?」


 突然話しかけられる。

 セレネとサイトが声の主の方を見る。


 そこにはさっきまで居なかった所に紫色のスーツ、黒いハットを被った、不健康そうな顔をした男が綺麗な姿勢で立っていた。


 その不気味な男に警戒をする。


「誰だ? お前は」

「私ですか? 私は魔王幹部、アステル・ボルギジニアと申します」

「魔王幹部!?」


 今度は魔王幹部来ちゃったよ、しかも今の魔王を倒すみたいな会話聞かれてたよね。

 ここは敵意が無いことを証明するために。


「い、いや~魔王様万歳みたいな」

「サイト、なにいってるんだ。私と魔王を倒すんじゃないのか」

「ちょ、おま、ふざけんな! 目の前にその魔王さんの幹部いるんですが」

「ほう、そういう事でしたか」


 ボルギジニアは納得するように首を振りながら静かにこっちに歩きながら喋り始める。


「魔王様に頼まれて、人間用の洗剤をわざわざ初心者冒険者の町、ラシルに来ていたら、なにやら不思議な魔力波動を感じ来てみれば、魔王様を倒すなどと言っている愚か者がいるとは」

「いや! 本当に俺は魔王様を倒そうなんて」


 次の瞬間、視界からボルギジニアが消える。

 どこだ? どこに行った?


 すると着ていたジャージの首元を掴まれ、一瞬の内に後ろに投げ飛ばされる。

 そして、セレネが前に出てくる。


 カキンッ!


 そんな音が響き渡り、地面に少しひびが入る。

 不気味な男が剣で攻撃してきたのを、どこからか出した、黒い剣でセレネが受け止めていた。

 さっきの音は男の剣とセレネの剣がぶつかり合った音だったみたいだ。


「あなたの相方は攻撃が見えていませんでしたが、あなたは見えていましたか」


 ボルギジニアがそんな事をセレネに言う。

 俺を守ってくれたのか。

 とても親しみやすかったから、忘れていたが一応、セレネは魔王だったな。


「私はただ、帰りたいだけだし、サイトは私の使用人だ。傷つける事は魔王である私が許さない」

「セレネ! おい、ちょっと待ていつから使用人になった?」

「そうですか。魔王の殺害宣言だけでなく、魔王を語る不届き者でしたか。

 ならば、哀れで罪な人間に死を魔王幹部、アステル自ら、与えて差し上げますよ」


 剣を押す力が強くなり、剣がギシギシと音を立てながら、火花を散らしている。


「掛かってこい! 低級魔族」


 剣を強く押し返し、一方後ろに後ずさり、ボルギジニアとセレネは睨み合う。


「こ、これってまさか、魔王vs魔王幹部!!!」


 そんな事を一人で言って盛り上がっていると、二人は会話を始める。


「この私が低級魔族だと! このニセ魔王があまり調子に乗るなよ」

「そんなに怒るなよボルギジニア」

「やかましい! そっちの名で呼ぶな!」


 セレネが喋っている感じ勝っている。


「セレネ! ボルギジニアを倒しちまえ!」

「おう! 任せろ、ボルギジニアは私が倒そう」

「だからやかましいわ! 馴れ馴れしくボルギジニアと呼ぶな! ボルギジニア言いづらいだろ! 普通にアステルって呼べよ」


 サイト、セレネはそのツッコミに何も言わずにただただボルギジニアを見ている。


「黙んなよ! なんか言えや!」


 完全にキャラ崩壊である。

 俺はそんな2人の様子を目をまんまるにして見ている。

 この様子を見ると、魔王vs魔王幹部と言うより、ただの小学生の喧嘩にしか見えない。


「もういいわ!」


 ボルギジニアはセレネに勢いよく向かい、剣を振り下ろす。

 だが、振り下ろした瞬間にセレネの姿がなくなり、剣の攻撃が空振る。


 ボルギジニアは辺りを素早く見渡し、セレネの位置を確認しようとするが、見当たらない、外で見ている俺でさえどこに行ったか分からない、速度でどこかに消えたのだ。


「どこに行った?」


 パチン!


 そんな事を言った、瞬間、ボルギジニアの至る所から血しぶきが巻き散る。

 俺は見ていた、男の後ろにセレネが現れ、指を鳴らした瞬間、男が攻撃を受けたのだ。 


 魔王幹部にも見えない、スピードで移動し、無詠唱で魔法を使ったのか?

 オタクなりにどうやってしたのかを考える。


「どうだ? これが魔王の力だ」

「知っているか? 魔物は魔法、打撃に強いんだぞ」


 あんな攻撃を食らっていたのに、何もなかったかのように素早く動き、もう一度剣を振り下ろす。

 今度は持っている、黒い剣で攻撃を受ける。

 ぶつかった衝撃がこちらにも伝わってくる。


「すげぇ」


 2人の空間になっている、俺がもしも2人の間に入ろうもんなら粉砕されるな。

 剣をぶつけ合うが、どっちかと言うとセレネは攻撃を防いでいるだけでさっきの魔法攻撃から全く攻撃しに行かない。

 そんな事を考えていると、動きが止まり、ボルギジニアの方が膝を地面につけている。


「さっき、魔法や打撃に強いなどと言っていたが、しっかりと食らっているよな」

「クッ、こんな筈が、普通なら魔法など」

「私は魔王だからな」


 全然理由になってねぇ、でもこれが魔王の力なのか。

 異世界に来たからには俺も一度は魔法を打ってみたいな、そんな事を思っているとそろそろ決着が尽きそうだ。


「これ以上の力の差が…」


 魔王幹部は両膝を地面に尽き、動きを止め、セレネの方を見ている。

 セレネはと言うと、そんな男の前に、これが魔王の力だ、と云わんばかりに仁王立ちで立っている。


「悔しいが私ではあなた達には勝てません、ですが、私はこれでも魔王様に使える身。

 これほどまでの脅威を残して、先に死ぬ訳には行けませんのでね、このアステル我が身を捧げよう」


 手を天に伸ばし始める。

 なんだ、また何かするのか、これ以上危険な目に会いたくないのだが...


「天の理よ、我が身を糧にかの者らを滅ぼす力を授けたまえ、エンドプロヴィデンス」


 その言葉を唱えた瞬間、辺りが暗くなる。

 夜になったのか、と一瞬思ったがその予想は大きく外される。

 夜になったのでは無い、そう、太陽の光を遮る程の魔力の固まりが、男の空中に現れたのだ。


 そしてボルギジニアの中にその、膨大な程の魔力が入っていき、辺りは元の明るさを取り戻す。

 何をしたんだ、さっきのは魔法なのか、つまりあの言葉は、詠唱という事だろう、どういった魔法なのだろうか。

 ただ一つ分かることがある、絶対に良いことでは無いと言うことだろう。


「これで終わりですね」

「どういう事だ?」

「自らを生け贄とした、自爆か」


 セレネがポツリとそんな事を言う。


「正解だ、ここら一帯をお前らと一緒に吹き飛ばす、これが最善の策です」

「な、セレネ早く逃げよう」

「私1人なら、どうにかなるが、サイトや、向こうにいる町の人やここ辺りの村を助ける時間は残ってない」

「そう、つまり詰みです」

「ま、またかよ、一度助かったと思ったら、今度は自爆かよ! 展開早すぎだろ!」


 はあ、自爆、自爆かよ。

 一体どうすれば今度は助かれるんだよ。

 こういう時、アニメや漫画だと、どうしていた考えろ。

 瞬間移動で、海王星に、いやこれはどっかの戦闘民族じゃないと出来ないな。


 考えろ、爆発から生き残る為には、爆発の威力を下げるしかないか、いや下げた所でこんな近くで、生身の俺が生きれない、つまり爆発を消さないといけない。

 そして向こうにある町を守らなければいけない、高い壁で囲まれているから少しの衝撃なら耐えれるかもしれない…囲まれているか。


 あとこちらにあるのはとんでも魔王の魔力でどうにかしないとな。

 力と力をぶつけさせる……囲む……そうかこれならワンチャンあるかもしれない。


 でもこれだと完全に爆発を消せる訳じゃない、俺が助からない可能性がある……

 一か八かの大勝負だ。


「よし、セレネ、俺に考えがある」

「本当なのか?」

「ああ、俺を信じてくれるか」

「……あぁ、良いだろう。使用人の言うことを聞いてやるのも魔王である私の務めだ」


 そう言うとセレネは頷く。

 使用人になった覚えはないが今はそんな事関係ない、ここで俺の異世界生活を終わらせるわけには行かないんだよ、そう心の中で言う。

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