第四話 消滅
前回のあらすじ
愛日との再会を果たした源。
しかし、そこで虐めの主犯と遭遇してしまう。
2014年 東京 世田谷区
公園にて...
「あれ?なんか騒いでる奴いると思ったら、久しぶりじゃ~ん!山根!へっへっへっへ!!!」
その自転車に乗っていた人物は不快な、聞き覚えのある笑い声をあげた。
胃がどんと重くなる感触がする。
「さ、斉藤...!」
とてつもなく重くなった頭を声のする方に向けると、案の定、想定していた声の主が居た。
それは学校に通っていた時に俺をいじめていた主犯、斉藤とその仲間たちであった。
「何呼び捨てしてんだよ。『斉藤君』だろ?」
斉藤は自転車にまたがりながら周りの仲間たちに目配りをし、それに気づいた金魚の糞たちも笑い声をあげる。
「いや~!たまたまいつも来ない公園に来たら、まさか不登校の山根がいるとはな~。いつもここに居んの?ってか、病気は治ったのか~!?へっへっへ!!」
コイツの笑い声に思わず耳を塞ぎたくなる。
学校でのあの毎日が蘇ってきてしまう。
あのゴミみたいな日々が。
斉藤はひとしきり笑い終えると、愛日の方に目をやった。
「おい~!山根君!もしかして彼女ってやつ~!?学校も行かず遊んでたんだ~!!そこの彼女のひと~!コイツ掌光病だから、近寄んない方がいいよ~!!」
俺は思わず拳を握る。
怒りで拳を握った、と言いたいところだが、俺の中に根を張っている感情は恐怖だ。
俺はせめて愛日は巻き込みたくないと彼女の方を振り向く。
愛日の視線は貫くように真っすぐ斉藤を捉えていた。
「源、あんたが学校に行ってない理由がなんとなく分かったわ。」
愛日はそう言うと立ち上がり、お尻を軽くはたいた。
俺は愛日を連れて向こうから公園を出ようと考えた。
しかし彼女の行動は真逆で、いまだに騒々しい笑い声をあげている奴らの方へ歩みを進めていた。
俺は慌てて彼女を止めようとする。
「あ、愛日...!あの真ん中のやつは柔道やってて喧嘩が強いんだ!ここは俺の掌光病で...!」
俺は羞恥心なんて忘れて愛日の腕を引こうと、手を伸ばした。
しかし彼女の細い腕はするりと俺の手をよけ、遠ざかっていく。
すると一瞬愛日が目を合わせた。
「アンタ、私の『力』が見たいんでしょ?」
その一言は、あまりにも心強く、俺の中の恐怖が揺らぐほどの希望に見えた。
愛日はその一言を言うと再び視線を斉藤達に戻し、歩き始める。
斉藤も近づく愛日に気づき、ニヤニヤしながら口を開く。
「ん?なに?山根のこと馬鹿にされて怒ってんの?ひひっ!あ~こわっ!このままチャリで逃げちゃおうかな~!!」
斉藤はそう言いつつ、自転車にまたがったまま動こうとしない。
やはり腕っぷしには自信があるのだ。
愛日はアイツらの数メートル手前で立ち止まり、手の平を斉藤の自転車に向け、撫でるように動かす。
「なんだコイツ?もしかしてコイツも掌光病?けどなんも......!!うわ!?」
ガッシャーン!!!
突然、斉藤の自転車が倒れる。
いや、正確には自転車の下の部分が無くなった。
理解が追い付かないのは斉藤達だけでなく、俺もだった。
次に愛日は、こけた斉藤を見下し、手の平を向ける。
「うぇ!?は!?ヤっバい!逃げろ逃げろ!速く!!」
斉藤の顔はものの数秒で真っ青になり、自転車の残骸を放り捨て急いで立ち上がった。
そして、我先にと自転車で逃げる他の取り巻き達を追いかけるように全速力で走り去っていった。
愛日はその背を3秒ほど見届けた後、くるりと翻って俺に近づく。
公園の奥では、何かトラブルがあったことに気づいたサッカー少年達が様子を伺っていた。
「愛日、今のって...」
俺は今、目の前で起こった現象が理解しきれないまま彼女に質問をした。
愛日は周りの混乱など意に介さないように淡々と答える。
「うん。あんま人が居る所で見せたくなかったけど、これが私の力。」
「症状名は、消滅」
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