第三十四話 おまけ外伝『愛日の煩悶』
これは本編で語られなかった、有我愛日が裂撃斬弩・悪威の最終兵器となったワケを書き記したプチ外伝。
彼女は如何にして関東最強暴走族の最終兵器となったのだろうか。
その秘密が今、語られる...!!
時間は多摩川抗争の約5日前に遡る。
そんな一日の、とある少女の物語。
有我愛日は、家に向かって歩いていた。
学校が終わり帰路に着く午後四時ごろ、既に傾いた太陽は彼女の右頬をオレンジ色に染め、アスファルトの上に家々の影を落として縞模様を作り出している。
(はぁ~今日も学校終わった~。お疲れ様、私。....っていうか、最近源とデートみたいなの行ってないなぁ。今度映画でも誘ってみようかな~。.....って!こういうのって男子から誘うモンじゃないの!?あ~もう!なんかモヤモヤしちゃうんですけど~!!)
愛日は自分の気持ちに急かされるように足を速め、公園の角の道に差し掛かる。
彼女はいつも通り、その角を左折しようとする。
その時、曲がった先の道を見た彼女の眼に、見慣れない服装の青年たちが映った。
見慣れないと言っても、それは決していい意味ではなく、この閑静な住宅街に似つかわしくない、『特攻服』を身に纏った青年たちのことだ。
その青年たちはおよそ10人くらい。
何かを待ち構えるかのように道の真ん中に鎮座している。
愛日はその光景を見てしかめっ面をし、一瞬、足を止めた。
(うわ~、何アイツら。今時あんな『ザ・不良』!みたいな奴ら居るのね。でも道変えるのも面倒くさいし.....。ま、いざとなれば消滅でビビらせるし、無視して行っちゃお。)
普通の女子中学生なら決して通らないであろう、この修羅の道を、彼女は進むことにしたらしい。
それは彼女の、自分の掌光病への信用の表れだろう。
愛日は臆することなく、一歩、また一歩と特攻服の青年たちの方へと近づく。
そして遂に、彼女はその集団の真横へと並んだ。
その時だった。
「おい、待て。お前が有我愛日だな?」
想定外というべきか、案の定というべきか、一番先頭に居た男が愛日を呼び止めた。
愛日はピタッと足を止めると、より一層、警戒心を露わにした表情で声の主の方を振り返った。
愛日の振り返った先に居たのは、黒い角ばった眼鏡をかけた青年。
彼もまた、特攻服を着ているが、周りの不良たちとは何か違う雰囲気を発している。
一見冷徹な機械のようにも思える人間だが、それと同時に、その内側では沸々と凶暴性が渦巻いているようにも感じ取れた。
愛日は直感で、この男が不良達の頂点だと感づく。
「......なんで私の名前を知っているの?ただの喝上げじゃあなさそうね。」
愛日は男を見定め、いつでも体を動かせるように、腰をほんの少し落として重心を低くした。
一方、眼鏡の男は何も身構えず、一歩だけ愛日の方に近づいた。
「喝上げなんてシャバい真似、俺達がするわけないだろ?」
「アンタ達が何者かなんて知らないわよ。」
愛日が男の顔を睨みつける。
しかし、それでも男は表情一つ変えず淡々と口を開くだけだった。
「俺は坂東。関東で最高かつ最強の暴走族、裂撃斬弩・悪威の族長を務めている者だ。そして俺達は今日、お前に会うためにここまで来た。」
「あらそう、暴走族は暇そうでいいわね。けど、私の事調べてるんなら分かるでしょ?...あんまり私に変な事はしない方がいいわよ。」
愛日は腕を持ち上げ、手の平を男の方に向ける。
それでも眉一つ動かさない眼鏡の男に、愛日の方が追い詰められているかのように錯覚してしまいそうになる。
しかし、次の瞬間愛日の眼に映った景色は、全く予想外の物であった。
「頼む有我愛日。俺らの仲間に、なってくれ。」
そう。
眼鏡の男はさっきまでの高圧的な態度から一転、急に頭を下げたのであった。
愛日は彼のいきなりの豹変っぷりと、想定外の申し出にたじろぎ、「は、はひ!?」と素っ頓狂な声を上げてしまう。
すると、困惑を極める愛日の横で、さっきまで黙って立っているだけだった構成員達も一斉に愛日に頭を下げた。
彼らも坂東に続く様に口々に、「よろしくお願いしゃァっすッッ!!」と叫んでいる。
愛日はもはや恐怖に近いその混乱を何とか抑えこみ、未だ頭を下げ続けている坂東という男に指をさす。
「い、一体なんのつもりか知らないけど、なんで私が暴走族に巻き込まれなきゃなんないのよ!言っておくけど、私は絶対協力しないから!!」
その刺々しいアンサーを受け止めた坂東は、ゆっくりと顔を上げると、右手で前髪をかき上げた。
その黒髪の隙間から、より黒い眼鏡の縁が見え、その奥から更に黒い瞳が愛日を見つめている。
「それなら仕方がない。.......お前には確か、大切な『ボーイフレンド』が居たな?」
またもや現れた彼のその冷徹な視線に、愛日は再び身構える。
そして今度の愛日には、さっきの警戒心なんか優に超える、負の感情が渦巻いていた。
「そんなことまで調べてるの?言っておくけど、それで私を脅す気なら、本当に容赦しないわよ。」
愛日の眼には、誰が見ても分かるほどの怒りが、鮮やかに発色している。
その愛日の視線を受けた坂東は、ほんの僅か、機微にも満たない程少し、表情が曇った気がした。
しかし、それでも坂東は愛日に話続ける。
「有我愛日、お前を脅して痛い目に合うのはコチラだろう。俺が提示したいのは、『報酬』だ。」
坂東のその言葉で、愛日の眼に映っていた怒りの色は少しだけ薄くなった。
そして今度は、愛日が坂東に疑問をぶつける。
「報酬って....それでなんで源が__私のボーイフレンドが、出てくる訳?」
「そうだな、まず俺の掌光病の説明からしよう。」
愛日は彼のその台詞に、思わず驚愕する。
「!?......って事は、アンタも、掌光病罹患者...!?」
坂東は愛日の言葉に答えることは無く、おもむろに右手を自分の顔の前まで上げ、そのまま手の平を自分の右目にくっつけた。
そしてゆっくりと口を開ける。
「俺の症状は『千里眼』。俺の手の平が目に触れている間、俺の視点はどこでも好きなところに移動することができる。」
坂東は右目を隠しているが、左目は静かに愛日の方を捉えている。
そして彼はその状態のまま続けた。
「そしてこの症状は、俺以外の人間にも適用できる。」
坂東はそう言い切ったが、愛日は未だに彼の言いたいことを理解していない様子だ。
「アンタの掌光病の事は分かったけど、それがどうやって報酬に結びつくワケ?」
坂東はその愛日の言葉に一瞬黙り、暫くして一人の構成員を近くに呼び寄せた。
そしてさっきまで自分の目にかぶせていた右手を、今度はその構成員の左目に置いた。
おそらく、部下に自分の千里眼を使わせてやっているのだろう。
しかし、愛日はやはりその真意がつかめず、彼らの行動に首を傾げている。
その時、坂東に千里眼を見せてもらっていた構成員が、なにやら嬉しそうに声を上げた。
「うおっ!白色っすよ、坂東さん!」
坂東はその言葉に何も反応しない。
しかし、愛日は何かに気づいたのか、顔が次第に赤くなっていく。
そして愛日はスカートを左手で抑え、目の前の構成員に素早く手の平を向けた。
次の瞬間、空気が一直線上に揺れ、その揺れは構成員の頭上を通り過ぎた。
周りに居た構成員達はその見慣れない現象に目を奪われ、全員が小さく口を開けた。
その直後だった。
先程声を上げた構成員の頭頂部から、髪が消えさったのは。
そう。
愛日が消滅を構成員の頭上に向かって撃ったのだ。
その消滅の線は、構成員の頭皮すれすれを通過して、彼の頭髪だけを一直線に奪っていった。
構成員の無残にも露わになった頭頂部は、太陽の光を反射してテカテカと輝く。
そして、事態に気づき顔を青ざめる構成員とは正反対に、愛日は顔を真っ赤に紅潮させ、大きく口を開いた。
「し、死ねぇぇえええっ!!!!」
と、声と鼻息を荒げる愛日に向かい、坂東が制するように声をかける。
「つまり、俺が提示したい条件とはこれだ。....お前の見たいものを何でも一回、見せてやる。だから一回だけ、俺達に協力してくれないか。」
坂東のその冷静沈着な声に、愛日は少しだけ落ち着きを取り戻す。
しかし当然の如く、未だ彼女は憤慨している状態だ。
「別に私が見たいものなんてないわよ!!そんなことより、わ、私の、その.....ぱ、パンツを...!覗いたヤツに、協力するわけないでしょ!!」
「確かに、先程の部下の失礼は詫びる。不愉快な思いをさせてしまい、申し訳なかった。......しかし、本当に見たいものは無いのか?例えば、お前のボーイフレンドが今何をしているのか、気にならないか?」
顔を赤らめ憤怒している愛日の動きが、坂東の言葉により一瞬だけ止まった。
そしてそのまま、坂東が続ける。
「例えば、ボーイフレンドは部屋に一人で居る時に何をしているのか、ボーイフレンドは引き出しに何を入れているのか、もしくは、ボーイフレンドが風呂に入っている所だって、俺にかかれば___」
「す、すす、ストーーーップ!!!」
さっきまで怒りで頬を赤らめていた愛日が、今度は別の理由で赤面しているようだ。
彼女は坂東の提案を中断させ、自分の頭の中で考えをまとめる。
(お、落ち着くのよ私!!たとえなんでも覗けるからって、それだけで暴走族に協力するなんて割に合わないわ!!__け、けど、源のお風呂姿が見れるし、協力って言っても一回だけだし.......。って!駄目よダメ!これじゃ私がはしたない女みたいじゃない!でも源の普段見れない姿が......。う、ううん、やっぱりよくないわ!ここはきっぱりと断ってやるのよ、愛日!!)
愛日はグルグルと回転させていた思考回路を一回休ませ、一呼吸置いてから、ゆっくりと坂東の方に視線を上げた。
そして彼女は、きっぱりと口をひらく......!!!
「い、一回、だけよ.......!」
愛日は視線を斜め下に逸らしながら、確かにそう言った。
恥じらいながらモジモジと視線を泳がせる愛日を見つめ、坂東は不敵に笑みを浮かべる。
「ふっ。......あぁ、協力感謝するよ、有我愛日。」
こうして愛日は、裂撃斬弩・悪威の最終兵器として、多摩川抗争に参戦することとなったのであった。
ハンド・リベリオン
多摩川抗争編、おわり
愛日(あーっもう!!...こうなったら、とことん源のあんな姿やこんな姿を眼に焼き付けてやるんだから...!)
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