EP.4 まさか私が首席に!?
前回のあらすじ
お互いの掌力を見せることとなったオーゴとクレマ。
オーゴは自身の「入替」を見せ、次はクレマの番。
と、ここで店のグラスを割るという奇行に走りやがったクレマ。
この店の恐るべき店長を思い出し慌てふためくオーゴ。
次回!オーゴ死す!デュエルスタンバイ!
国歴248年 春
城下町のとある喫茶店にて。
「は...?...ちょっ!おいィ!なにやってんのよクレマァ!」
顔面蒼白を超えて顔面緑黄色野菜の僕の脳裏には、謎の筋肉保有者であるこの店の店長の二の腕がチラついている。
「騒ぐなよぉ。大丈夫だから。」
(「騒ぐなよ」?)
クレマにはこの店の店長が見えていないのだろうか?
否、見えていないのだろう。
あの店長の胸筋が見えた上でこのような態度がとれるわけがない。
クレマは割れたグラスと零れたジュースに手を置いてじっとしている。
「チィッ...!」
店長の舌打ちが聞こえてきてしまった。
僕は恐る恐る店長の方を覗く。
「ひぃ...!!」
塵取りと箒を持った店長が鬼神のような面持ちでこちらに歩みを進めているではないか。
一見あの塵取りと箒は清掃用にも見えるが、あの店長の表情を見ると、僕らを掃除するための剣と盾の可能性も否定はできない。
...僕は悪王討伐の前に、悪王より強大な敵との戦闘に巻き込まれるかもしれない。
「ク、クレマ!奴が箒を振りかざしたら僕がスプーンを盾に入れ替えるからその隙に........ありょ?」
決心を固めた僕の目に映ったクレマは、緑の髪をかき上げ、優雅にオレンジジュースを飲んでいる最中だった。
呆気に取られている僕の横を、塵取りと箒を持った筋肉店長が怪訝を超え、懐疑心を持った顔で通り過ぎて行く。
「あれ、クレマ?そのジュースはお代わりしたのかな?量も増えてるみたいだし?けどさっきの破片は?あれ?」
何も理解してない僕のquestionに、緑髪の鷹のような目つきをした彼女はanswerを出してくれた。
「いや掌力。ってかその話をしてたよなぁ?何ボケてんだよ。」
「あ、そっか。ん、じゃあ、クレマの掌力はお代わりし放題ってこと?」
「...はぁ。」
クレマは自身の額に手を置き、わざとらしく大きく溜息を吐く。彼女の指と指の間から垂れた緑の前髪が艶々輝いている。
「ウチの掌力は『巻戻』。簡単に言うと、触れた物の時間を巻き戻すことができる。今回はオレンジジュースを割れる前に戻しただけ。」
「え?強くね?」
なんか急に神様みたいな力が目の前に出てきた。
「まぁ、この力のおかげもあってウチはアカデミー主席だし?主席のおかげで今回の遠征にも同行できることになったからな。」
そう言うとクレマはテーブルの上に『アカデミー成績表』とでかでか書かれた紙を差し出してきた。
僕はやっと処理が追い付いてきた脳みそで成績表の中身を認識しようとする。
アカデミー成績表 氏名 クレマ
座学部門 全245人中 1位
運動部門 全245人中 1位
模擬戦闘部門 全245人中 2位
総合 全245人中 1位
ほほう。
この素行不良のような彼女が主席とな。
本来ならば僕は一国の王子としてこの国の未来を憂うべきなのかもしれないが、先ほどの力を見せられては何も言い返せない。
僕がクレマを見ていることに彼女が気づき、やらしくニイと笑う。
「まぁウチだってそれなりに勉強して努力してアカデミーのトップに上り詰めたんだ。安心して背中を預けなよ!はは!」
まぁ数字は噓をつかないので、一旦は彼女を信用するとしよう。
安心して背中を預けるかは保留にしておくが。
...ところで気になる項目が一つある。
「なぁクレマ。成績優秀なのは理解したけど、この『模擬戦闘部門』はクレマでも1位取れなかったの?」
笑っていたクレマの口が一瞬固まった。
そして、彼女は何かを思い出すような表情で窓の外を眺めた。
「...大抵の相手ならウチが一回触るだけで決着がついた。...けどコイツは無理だったな。あいつの掌力は避けようがない。」
クレマは言い終わると、もうほとんど入っていないオレンジジュースを一気に飲み干した。
「えぇ~なんか怖いわぁ。」
「怖くねーよ。悪王討伐遠征に出ればアカデミーの連中ともお別れだ。」
お別れか。
クレマはお別れと言っても悲しそうではなかった。
アカデミーの卒業なんてそんなものなのか...?
しばらくするとクレマは席を立った。
「じゃ、今日はこんなとこで!ここの代金は任せたぜ、お・う・じ・さ・ま!ははっ、じゃあなぁ~。」
クレマが手をゆらゆら振りながらドアベルをチリンチリンと鳴らして外に出ていく。
「え、ええぇ!待ってくださいよぉ!」
僕は窓越しにクレマを呼び止めようとする。
(ふざけんな!置いていくなよ~!)
僕がここまで嫌がっているのは代金を支払うことに対してではない。
別に今回の代金を払うことなんて、王族の僕にとってははした金もいい所だが、問題はそこではない。
僕が恐る恐るカウンターを振り返る。
案の定、そこにはコーヒー豆の焙煎をしている広背筋がいた。
ということで、僕は必然的に例の筋肉で空を飛べそうな店長と顔を合わせお会計を済ませることになったのであった。
(はぁ。今日は早く寝よ...。)
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