第三十話 熱殺蜂球
前回のあらすじ!
遂に動く、愛暗無狂の族長、西尾!!
関西の鉄人と呼ばれるこの男の実力は未だ計り知れない!!
しかし、裂撃斬弩・悪威も何かを準備をしているようで...?
2018年 5月
東京都 多摩川堤防にて....
「真紀ちゅぁーん!今日は超楽しかったよ~!!真紀ちゃんも楽しかった~!?」
多摩川の河川敷の傍、堤防上のサイクリングコースを自転車で走る人影が二つ。
黒江優人と馬酔木真紀だ。
「もー!優人君!自転車に乗ってる時は危ないからやめてよ~。でも今日はサイクリング楽しかったねー!なんだかんだこんな時間まで自転車こいじゃったよー、ふふふっ。」
二人は健全なカップルらしく、この休日にサイクリングに出かけていたらしい。
そんな彼らが自転車をこぎ進めていると、眼下に騒々しい集団が居ることに気づく。
辺りはすでに薄暗く、目を凝らさないと人の顔が辛うじて見えるかというくらいだが、その物騒な物音や雄たけびで、何となくどういった集団が暴れているのかは分かる。
二人は自転車を漕ぐ足を止めて、おそるおそる堤防の下の河川敷を覗き込んだ。
「なんだなんだこの騒ぎは~、今時珍しい暴走族の抗争ってやつか~...?」
黒江優人が苦虫を嚙み潰したような顔をして呟くと、興味津々に暴走族を眺めていた馬酔木真紀が面白がるように口を開いた。
「すごーい!本当に暴走族の人ってこうやって戦ったりするんだ~!もしかして知り合いが居たりして!」
「真紀ちゃ~ん、流石にああいう人達の中に俺達の知り合いは居ないって~。俺あの人たちに襲われたら真紀ちゃんのこと守り切れる自信無いし、そろそろ帰___」
「居た!」
「え居たの!?!?」
馬酔木真紀は何故か嬉しそうに声を上げ、その声に釣られるように黒江優人も目を見開く。
「居たって、俺達の知り合いがあの中に!?」
「うん!」
「え、誰!?ってかどこどこ!?」
「ほら、あそこー。」
堤防の上でニコニコ笑顔を作りながら見下ろす女が1人と、慌てふためきながら抗争に見入る男が1人。
黒江優人は彼女が指さした方を食い入るように見た。
彼女の指の先は抗争の端の端、数十台の単車が近くに置いてある、直接戦いには関与していない場所に向けられていた。
そこに居たのは....
「げ、源!?」
そう、二人の友である、山根源が居た。
「な、何でアイツが...!根性なしでチビの源が、こんなヤンキーたちの戦場に...!?」
「何かに巻き込まれちゃったのかな?大丈夫かな山根君。」
「い、一応警察に通報しておこう...」
「うん、そうだね!」
__________________________
一方、友人二人に見られているとも知らない山根源はその頃.......
(今の俺にできること...、最初に伝えられた、”作戦”をなんとしてでもやり遂げてみせる...!!)
俺は数十メートル先の騒々しい乱闘を前に、この抗争に参加させられて初めて、気合というモノを入れてみた。
そして今、この時も、我らが大将西尾は、ズンズンと前線に歩み寄っている。
自分達の方に接近する巨大な影に気づいたのか、裂撃斬弩・悪威の連中にあからさまな緊張が走った。
「お、おい...!遂に向こうの西尾が動いたぞ...!」
「慌てんじゃねぇ!!こっちも西尾対策は坂東さんがしてくれてるだろ!!だから今は坂東さんの指示が出るのを待つんだ!!」
「で、でも、いざ目の前で西尾を見ると、こんなの...」
西尾が近づくにつれ、裂撃斬弩・悪威陣営には動揺する者、後ずさりする者、額に汗を浮かべる者などが続出し、多くの族員達が士気を下げているのが目に見て分かった。
しかし、それとは正反対に、愛暗無狂側の族員達は戦意を復活させ、あちらこちらから歓声が沸き、押されていた場所も次第に息を吹き返してきている。
俺は思わず、大将というポジションの大きさに魅入られてしまった。
(や、やっぱすげぇ....!西尾が近づくだけで、敵はみるみる委縮し、味方は水を得たように力を取り戻す!ただ一人の戦力が増えただけじゃない、この場全体の流れを変える存在...それが族長!!)
俺が不本意にも西尾という男の大きさを実感してしまった頃、敵本陣にも動きがあった。
向こうの族長、坂東が再びメガホンを構え、前方の仲間たちに先程同様に指示を送ったのだ。
「お前ら、コード『N』、開始だ。」
坂東はたったその一言だけ言い終えると、再びメガホンを下げ、腕を組んで悠々と前線を眺めた。
西尾が出陣し、恐れ戦いていた自分の部下達とは正反対に、坂東は未だ飄々とした姿勢を崩さない。
そして、彼から発せられたその一言で、前線には目まぐるしい変化が起きた。
それは誰が見ても拍子抜けするような光景で、そして同時に、誰が見ても最も効果的だと思ってしまうような、そんな光景であった。
「な、何なんだよ...これ...!!」
その戦場では、一斉に裂撃斬弩・悪威の構成員が走り出していたのだ。
さっきまで目の前で殴り合っていた相手も置いたまま、彼らは走り出した。
途中自分に殴りかかってくるコチラの構成員も無視し、ただひたすらに一か所に向かい走っている。
そう、敵全員が、西尾の元へ。
混乱の中、置いてきぼりにされた愛暗無狂の構成員たちも、次第に事態の深刻さに気付き、次々と彼らを追いかけるように走り始めた。
しかし、既にその動き出しは遅く、約半数の敵が西尾を囲んでいる。
流石の西尾もこの作戦には少し動揺し、初めこそ向かってくる敵構成員を殴り飛ばしていたものの、次第に数の力で抑え込まれ、身動きを取るのが難しくなっていくようだった。
「熱殺蜂球。」
目の前で起こっているこの異常な事態を前に、俺がどうするべきかと戸惑っていると、坂東の声が再び前線に響いた。
反射的に坂東の方に目を向けると、彼は相変わらずの冷めきった表情のまま、メガホンを構えていた。
坂東はメガホン越しに続ける。
「二ホンミツバチは、外敵のオオスズメバチが侵略しに来た時、ソレを数百匹もの数で包み込んで殺す。最初に立ち向かう十数匹はオオスズメバチに嚙み殺されて死ぬが、結局オオスズメバチは為すすべなく蒸し殺される。」
坂東の話はまだ続いているが、俺はヤツの話を聞く所でなく、我らが大将西尾の方をハラハラしながら眺めていた。
事前に西尾と決めた”作戦”では、西尾が俺に人差し指を立てるのが開始の合図なのだが....
肝心の西尾は未だに人差し指を立てる気配がしない。
今の彼が合図どころではないのかと案じたが、西尾は俺の方をチラリと見ると、歯茎が見える程に口角を上げ、ニヤリと笑って見せた。
恐らく、彼は意図的に合図を出していないのだ。
しかし、彼は見る見るうちに敵構成員たちの渦に飲み込まれていき、正直そこから抜け出せるとは思えない。
一方、俺の懸念なんて露知らず、坂東による余裕のお話は続く。
「西尾、お前は俺らの関東を侵略しに来た、オオスズメバチだ。俺達、裂撃斬弩・悪威には、お前ほどの強烈な個を持った頭抜けた奴は居ねぇ。けどな、俺達はチームで関東の頂点取ったんだ。俺達一人一人は、お前からしたらか弱いミツバチに見えるかもしんねぇけどな、ミツバチだって固まればスズメバチも殺せんだよ。」
坂東の話しが終わる頃、既に西尾の姿は敵の渦の中に消え、こちらから中がどうなっているのかは見えなかった。
この時、俺は敗北を覚悟していた。
強制的にこの抗争に巻き込まれた俺も、敗北したら愛暗無狂の構成員として何かしら仕打ちを受けなければいけないのだろうか。事情を説明したら俺だけでも見逃してもらえないだろうか。
など、先ほど気合を入れたにもかかわらず、俺は負けた後のことをグルグルと考え始めた。
しかし、そんな不純な考えを吹っ飛ばすモノが、俺の視界の中に映った。
「西尾......!!」
そう、俺の目に映ったソレは、敵の渦の中心から伸びた、一本の腕。
その筋骨隆々のぶっとい腕は間違いなく、西尾の物だった。
腕はしかと天に向けられ、その手の先には約束通り、作戦開始の合図である人差し指が立てられていた。
つまり...
「作戦、開始だ!!」
続く!!
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