第二十七話 山根源IN多摩川抗争
前回のあらすじィ!
西尾との勝負を通して目をつけられてしまった哀れな中学生、山根源!
そして勝負から1週間後、彼は多摩川の河川敷にいた。
そう、来る抗争の為に!
2018年 5月
前回から1週間後の、多摩川河川敷にて....
「よし!あらかた準備は終わったやろ!約束の時間までまだ30分はある!本番はさっきわしが伝えた通り動きぃ!!」
「あ、はい...」
あのエロ本事件から一週間。
俺は約束通り、多摩川の河川敷に来ていた。
現在18時半という事もあり、辺りは少し薄暗くなってきた頃だ。
河川敷に点々と設置されている街灯が明かりをつけ始め、夜の始まりを告げているように見えた。
しかし、俺にとっての本番はこれから始まることになる。
直前までバックレようか迷っていたが、逃げた後の報復を想像してしまい、俺は気づいたら多摩川に向かって自転車を走らせていた。
そして俺は今、西尾の指示の元『作戦』とやらの準備をしていた。.....愛暗無狂の一員として。
まぁ作戦自体は至極単純なので何とかなると思うが....
それにしても、何をしているんだ俺は。
去年の夏には人生初の彼女ができて、最高の友達グループもできて、これ以上ないフィーバータイムだったと言うのに。
....いや、きっとその反動だろう。
俺は生まれてこの方、こんなにも人生を楽しいと思った時期は無かった。
きっとその代償として、俺はこんな野蛮なイベントに巻き込まれてしまったのだ。
いや、そう思っていないとこの理不尽すぎる展開を咀嚼できないんだ.....!!!
俺は、多摩川の夕日を反射する水面を眺めながら、この不条理な現実を必死に飲み込もうとしていた。
そんな俺の耳に、聞きなれない振動音が聞こえてきた。
それは次第に、この静かな河川敷を揺るがすような轟音に変わり、徐々にこちらに近づいてくる。
そう、それはおびただしい数の単車の軍団。
つまり今日『愛暗無狂』と戦うことになる、『裂撃斬弩・悪威』の軍勢であった。
「あ、あれ?なんか、多くね....?」
俺はソレを見た瞬間、まず規模の大きさに驚いた。
愛暗無狂もかなりの数の族員は居るが、裂撃斬弩・悪威はこちらの倍近くの人数が居る。
俺はそのあまりの迫力に気圧されてしまうが、こちらの総大将、西尾は全く動じていない様子だ。
そして100mほどの距離を空けて単車軍団は止まり、続々と裂撃斬弩・悪威の族員が単車から降りてきた。
そんな彼らに向かい、西尾は口を大きく開けた。
「スゥゥゥウ___....ワシは『愛暗無狂』総長、西尾やァァ!!まだ約束の時間まで30分以上あるっちゅうのに、律儀な奴らやのォ!!!東京の族は遅刻厳禁かァァァーー!?ガッハッハァッ!!」
一呼吸おいて飛び出たその声は、最早大声というにはデカすぎる、多摩川の水面を揺らす程の声量であった。
西尾の真横に居た俺が、たまらず耳を塞いでしまう程だ。
そして彼の大声により、この場に一瞬の静寂が訪れる。
....しかしその静寂は数秒後、一人の男によって打ち破られた。
その男は服装こそ暴走族らしい服を着てはいるが、眼鏡をかけ随分と締まった体格をしていた。
髪型も決して派手ではなく、少し長い黒髪。
正直暴走族らしいとは言えない、凄くインテリな見た目をしている。
そんな男がメガホンを取り出し、この静寂を打ち破ったのだ。
「あーテステス。俺は『裂撃斬弩・悪威』総長、坂東。そっちの、今バカみたいな大声出したサルに言いたいことが三つある。....まず一つ。お前らの方が先にここ着いてたよな?関西のサルでも時間は守れるって分かって感動したよ。そして次に二つ。わざわざ田舎から出て来てもらって申し訳ないが、東京観光はできないと思っといたほうがいい。....まぁ東京の大きな病院は紹介してやる。そして最後に三つ__」
その男は三つ目の質問を出す前に、一呼吸を置いた。
きっとこの質問が彼の本当に聞きたかったことなのだろう。
「__なんで今、このタイミングで俺らとやり合いに来た?」
坂東と名乗るその男は至って冷静に、そのメガホンを通してこちらに挑発と質問を仕掛けてきた。
(このインテリな男が、関東最強の暴走族の長か。人は見た目で判断できないことが、たった今証明されたな。)
一方こちらのゴリゴリな西尾はメガホンなんか使う訳もなく、相変わらずの大声で応える。
「ガッハッハァ!!関東最強のトップが、まさかこないな瘦せこけたメガネ男だとは思わへんかったわぁ!!なァ!?」
西尾も最初はふざけた口調で挑発をし返したが、彼もまた、次の台詞を叫ぶまでに一呼吸を置いた。
なぜ一呼吸おいたか、それは俺でも直感できた。
今から叫ぶ台詞は、きっと坂東の三つ目の質問への、返答だからだ。
「そんで......、『なんでこのタイミング』だってぇー?....そないなこと分かりきっとるやろうが!!ワシらはもう16やァ!!」
西尾はそう叫んだ。
(16歳....)
俺は西尾の言葉の意味をすぐに理解することができた。
普通の人間がもつ16歳の意味は、『高校一年生の歳』くらいの意味しかないだろう。
しかし、掌光病罹患者の16歳は、『強制入隊が法的に適用される歳』という意味を持つ。
つまり、西尾も近いうちに戦争に行くことになるのだ。
俺には到底理解できないが、この抗争にはきっと西尾なりの思いがあるのだろう。
西尾の返答を聞いた坂東は、納得したようにメガホンを持ち直した。
「......始めるぞ。なんにしたって、勝つのは俺達だ。」
きっと坂東は、今の西尾の返答だけで今戦わなくてはいけない理由が分かったのだろう。....いや、この二人には、初めから分かりきっていたことだったが、坂東はそれを確認したかっただけなのかもしれない。
坂東は西尾の返事に触れることは無く、そのまま抗争の開始を宣言した。
それと同時に、向こうの多くの族員がこちらに向かってくる。
大勢の不良たちが一斉に向かってくる光景は圧巻で、壮大で、できれば死ぬまで見たくはない光景だった。
「あぁ、やっぱ滅茶苦茶怖いんですけど......」
その光景を前に、俺は小声で弱音を溢す。
しかし、この弱音くらい当然の事だろう。
たしかに、大将の二人にとってはこの一戦が大きな意味を持つという事が分かった。
だがしかし、それが何だって言うんだ。
正直なところ、俺からしたらこの戦いがどうだっていいという事実には変わりはない。
だから怖いもんは怖い。そりゃ弱音も出るさ。
....しかし、横に居た西尾はそんな俺を気にも留めず、口を大きく開けた。
その表情はまるで笑っているかのようにも見えた。
「よっしゃァァァ!!!!いくでェェェ!!!」
「「「しゃあッ!!!」」」
西尾の掛け声とともに、こちら側の族員たちも駆け出した。
こうして『愛暗無狂』対『裂撃斬弩・悪威』の、熾烈な大抗争の火蓋が切って落とされたのであった!!
続くッ!!
「あーもう、マジで帰りたい......」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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