第十九話 消滅のヒーロー
前回のあらすじ
1人の少女を、「消滅」の力を使い守った愛日。
しかし、周囲の人々はその力への困惑と恐怖を隠すことができなかった。
そこに、1つの拍手が鳴り響いた...
2017年 7月 東京 台東区
パチパチパチ
父親が少女に抱き着いたとき、向こうの歩道に居た一人の老人が拍手をした。
それは紛れもない、愛日に向けられた賞賛の拍手であった。
その音が、静まり返った現場に響いている。
すると、それにつられるように、周りの人達も拍手をし始めた。
パチパチパチパチ........
パチパチパチパチパチパチパチパチ.......
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ.......!!!
次第にその拍手の輪は大きくなり、その交差点を取り囲む人たちの大きな喝采となった。
そしてその音は、車道で立ち尽くしていた愛日を明るく包んだ。
誘導員のおじさんも愛日に向かって賞賛の拍手を送っている。
「凄かったぜー!!お嬢ちゃん!!」「あんなの見せられたら痺れちまうよ!!」「タクシーを切ったの、凄いカッコよかった!!」「アナタはヒーローだよ!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!
四方八方から、愛日を絶賛する声や、指笛なんかの音が彼女に向かって飛び交う。
愛日は最初こそ困惑して立ち尽くしていたものの、次第に恥ずかしくなってしまったのか俯いたまま足早に俺たちの元へ戻ってきてしまった。
俺たちの周りに居た人たちが一斉に愛日に話しかけるが、愛日は顔を赤らめたまま前を向かない。
俺の横に来た愛日は隠れるように俺の背中へと回り、腰の下で俺の手を握ってきた。
俺はこの光景に思わず感極まり、目頭が熱くなってしまった。
彼女は自分の掌光病がここまで賞賛される日が来るなんて、とても思っていなかったのだろう。
褒められ慣れていない愛日もとてもかわいい。
「あ、あの!さっき助けてくれた方はどこですか!?」
車道からこちらに向かって声を張り上げていたのは、さっき助けた女の子の父親だ。
どうやら愛日を探しているらしい。
「ほら、愛日、呼んでるよ?」
俺は背後に小さく隠れた愛日に声をかけるが、愛日は首を横に振るだけだ。
しょうがないので俺は愛日の手を引いて父親の前に出る。
「あぁ!貴女!!本当にありがとうございました!!それと、本当にすみませんでした!!」
父親は愛日に深々と頭を下げる。
愛日はどうしたらいいのか分からないように、男性の前であたふたした。
「い、いや、頭を上げてください....。私も、街中で使うには危険な掌光病を使ってしまったので....」
愛日は周りの歓声に気圧されたのか、珍しく謙虚な態度を取っている。
父親はそれでも頭を上げなかった。
父親のすぐ隣にはさっきの少女が不思議そうに愛日を見ている。
「いえ!勿論、あのタクシーも自分が責任を取りますので。」
思い出したように俺と愛日はタクシーの方に目を向ける。
そこには、数メートルの距離を置いて横たわる二分割されたタクシーの車体と、それを取り囲んで交通整理をする誘導員の人達、そして状況を理解できず、真っ二つになったタクシーを呆然と眺める運転手が居た。
愛日が俺の横で「やっちゃたぁ....」なんて呟いていたが、父親は構わずに話を続ける。
「失礼ですが、電話番号などをお聞きしても?後日、またお礼にお伺いさせてください。」
愛日は彼の提案に、全力で首を横に振る。
「い、いえいえいえ!お礼なんて結構です!....それより、本当にタクシーの件は任せてしまって大丈夫なのですか....?」
「今回生じたすべての責任は、自分が負います。親の義務を果たせなかった自分の落ち度なので。改めて、本当にすみませんでした!そして、ありがとうございます!!」
父親は再び深々と頭を下げ、娘も父親を真似るようにお辞儀をした。
「おねぇちゃん、ありがとうございますっ」
愛日ははにかんで笑い、恥ずかしそうに俺の目を見てきた。
俺も愛日の目を見返し、笑いかけた。
「ほんと凄いよ。愛日は。」
歩道の方を見ると、優人と馬酔木さんが笑ってこちらを眺めていた。
愛日と俺達が帰るとき、辺りから再び強い拍手と歓声が沸き起こった。
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