EP.19 殺すということ
前回のあらすじ
見事クレマの作戦が成功し、シオンを無力化した3人。
しかし、瀕死状態となったシオンが口を開く...。
悪王討伐遠征3日目 シオン爆破後
「はっ...はっ...はっ...、見事に........足元が........おろそかになっていた........」
シオンは笑うが、そのたびに口から血を吐き出している。
喋れば喋るほど、彼が弱々しくなっているように見える。
「シオン、あまり喋らない方がいいと思う...」
僕はそんな彼を見ているのがいたたまれなくなって、思わず声をかけてしまう。
シオンは弱弱しく、不思議そうな顔をした。
「何を心配している......?キミたちが...殺すんだぞ....?」
シオンはその体でもなお、まるで心を見透かしたような視線を向けてくる。
その目はまるで、心臓を鷲掴みにされているような、そんな緊張感を感じさせるものだ。
そのうち彼は納得したように目を伏せ、僕から視線を逸らした。
「そうか....キミたちは....人を殺したことがないのか....。」
そういうとシオンは再び空を見上げ、どこか遠くを見るような眼をした。
「キミたちは.....正常だ.....。殺すか殺されるかの場面が来れば....、人は迷いなく......相手を殺す...。その後に残るのは....、後悔と、懺悔と、もう戻れないという.....喪失感だけだ。しかし....人は慣れる....。いつしか....命を奪うことに.....何も感じなくなる....。キミ達は....どうなるかな....?」
シオンはそう言っている間にも大量の流血をしている。
放っておいても、五分後には死んでしまうのだろう。
「おいオーゴ、シオンは悪王の幹部だ。コイツの言葉に惑わされるなよ。」
「分かってる...。けど、クレマは何も思わないの?」
「思わねぇ。この旅はそういうもんだ。悪を殺すのがウチらの使命だ。」
クレマは本当に何も感じていないような表情をしていた。表面上は。
しかし彼女の視線はシオンから動かない。
「そうだね。悪は殺さなくちゃ駄目だ。」
シオンは僕たちの会話を聞いていたのか、口角を上げて笑った。
「...『悪』...ね...」
そしておもむろに、自分の上着をおぼつかない手つきで脱ごうとした。
シオンが下に着ていたシャツが見える。
そのシャツには見慣れない、小さい黒い箱のような物が幾つかくっついていた。
僕たちはその行動の意味が分からなかった。
「何をしている?」
シオンは僕の質問を受け、少し呆れたような表所をした。
「爆弾もわからないのかい.....?今から....ワタシは自爆する....。」
自爆。
一瞬、彼の言っていることが分からず、僕は立ち尽くした。
その時、クレマに右腕を強く引かれる。
クレマはシモの腕も引き、全速力で走った。
僕はクレマのおかげで我に返り、頭の中で状況を整理する。
「い、今、自爆って言ってたよね!?」
「ああ!!あの野郎、負けたからってウチらを巻き込んで死ぬつもりだ!」
珍しくクレマが慌てている。
「あの爆弾、シモの掌力より強いのかなぁ?」
「知るかよ!!いいから走れ!!」
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僕たち三人は森の入り口近くまで走った。
ここからならかなり距離があるし、強力な爆弾であっても死ぬことは無いだろう。
「どんくらいの爆発かな~?」
シモは呑気に森の奥を眺めている。
「一応耳は塞いでおけ。」
「う、うん」
鼓膜を守るためにもクレマの指示には従っておこう。
今のところ、森の奥からは鳥たちのさえずりが聞こえるだけで、異変は感じられない。
この風景があと数十秒後には焼け野原になっているなんて、とても考えられない。
「・・・・・・・・・・・」
一分ほど経っただろうか、未だに爆音は聞こえてこない。
「ねーねー。もしかしたら凄い小っちゃい爆弾だったのかもよ?戻って見てみない?」
シモが僕の服を引っ張って主張する。
しかし、もしもシオンが、僕たちが戻ってくるのを待っていたとしたら...
いや、その前に彼は死んでいるだろうけど...。
「.....一応もう一分待ってみよう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さらに一分ほどが経過した。
依然この森は焼け野原になることもなく平和そのものだ。
「これは.....」
僕の頭の中に一つの可能性がよぎる。
(はったり....!)
「チッ!やられたな!」
クレマはそう言うと走りだした。
シオンの居た所まで戻ろうと駆け出したのだ。
そのすぐ後ろをシモが追い、シモの後ろを僕が追った。
(自爆の宣言は嘘だったのか....?けれど、どっちにしろ今頃シオンは死体になっているんじゃ....。)
先に現場に到着したクレマが足を止めていた。
後から追いついたシモと僕も現場を見て唖然とする。
「き、消えてる.....」
そこには爆発した痕跡どころか、シオンの死体すら残されていなかった。
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