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ハンリベ  作者: 今木照
銃と悪、君と夏
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第十八話 一刀両断

前回のあらすじ


祭りの後、大混雑中の交差点。

赤信号になった歩道を、1人の少女が勢いよく飛び出してしまう。

そこに運悪く、1台のタクシーが向かってきた。

皆が最悪の未来を想像する中、1つの人影が視界を過ぎる。




2017年 東京 台東区




タクシーは、身長の小さい女の子に気が付いていないのか、真っすぐ突き進んでいる。


このまま進めば、間違いなくあの女の子と衝突してしまう...!


そこに居る大勢の人間がその一瞬の出来事に驚愕し、これから先起こるであろう最悪の事態を想像した。


勿論、それは俺もだった。



しかし、俺の視界にはもう一人、予想外の人間が映りこんだ。


俺の見ていた光景を横切った、一つの人影、




それは愛日だった。




一番車道側に居た愛日は、俺がタクシーに気づく前に危険を察知し、ガードレールを飛び越えて躊躇なく車道に飛び出していたのだ。



「愛日!!」



俺は無意識の内に叫んでいたと思う。



俺は無我夢中で叫び、何とか愛日達の元に向かおうとしたが、人の塊が車道への道を塞いで近寄ることができない。


愛日は女の子のすぐ近くまで駆け寄り、もう数メートル先まで接近したタクシーを睨む。


女の子は目の前まで迫りくるタクシーに気づいて腰を抜かしてしまったのか、車道の真ん中で立ち止まってしまった。


そのタイミングで愛日が女の子とタクシーの間に立ち塞がった。



「キャーーーー!!」



誰かが、愛日が女の子を助けるために身を挺すのかと思ったのか、悲鳴を上げた。


正直この状況、誰が見たって愛日達は無傷では済まないと思うだろう。


実際、俺でも愛日が助かるのか不安で車道に出ようと暴れている。



しかし、愛日は至って冷静に右手を動かした。


その右手は素早くタクシーの方へと向けられ、愛日は口を開いた。



「タクシー、ごめんねっ!!」



彼女はそう言うと、走っているタクシーの方へ向けた右手を、上から下に振り下ろした。



その瞬間、この場面を目撃した全員の目に同じものが映っていた。


愛日の右手から伸びる、陽炎のような空気の揺れが。



その直後、タクシーの動きが変わった。


タクシーが二つに分かれたのだ。


そう。


愛日はその右手で迫りくるタクシーを一刀両断していた。



その場に居合わせた大勢の人間が、目の前で何が起こったのか理解できていなかったと思う。


迫りくるタクシーは真っ二つに割れ、その割れた間に居た愛日と女の子は、タクシーと掠ることもなかった。


ただ愛日達の両脇を、タクシーがその断面を見せながら過ぎ去っていったのだ。



二つに分かれたその車体はそのまま交差点の十字のスペースまで滑り、勢いがなくなると、両側に倒れた。


タクシーの車体が倒れる音だけが周囲に響き、その光景を見ていた大衆の間に一瞬の静寂が訪れる。


皆が唖然として、ただその光景を眺めることしかできなかったのだ。



暫くの静寂の後、次第に辺りの人達がざわざわと声をあげだした。



「今の見た!?」「タクシー真っ二つになってるじゃん!!」「あの飛び出していった子、なにしたの...?」「あれ、絶対掌光病だよ!」「私あの子の手の平から変なもやってしてるの出てるの見た!」



ザワザワ......



交差点を囲んだ大勢の人たちが次第に状況を把握しだしたのか、皆の目線が愛日に向けられる。


愛日はその視線に気づき、気まずそうに唇をかんだ。


彼女の拳は悔しそうに硬く握られている。



「愛日.....。」



俺は知っていた。


愛日が人前で『消滅』を使わないようにしていたことを。


彼女はその掌光病のせいで多くの人から、恐れられ、敬遠され、避けられてきた。


そんな光景をもう見たくないから、愛日は自ら消滅を隠していたのだ。


けれど彼女は、目の前の女の子を助ける為に、迷うことなくその力を露わにした。


その結果が、今だ。


周りの人々は、理解が及ばないその力への好奇心と恐怖を、隠すこともなく愛日に向けている。


愛日はその視線を感じながら、強く拳を握っていた。


そして、彼女はその場から逃げ出すように、足早に俺たちの方へと引き返そうと動き出す。


俺は愛日に何か声を掛けようと、車道側に駆け寄った。



その時、俺達と逆方向の歩道から、一つの大声が聞こえた。



「りなっ!!!」



それはあの少女の父親だった。


父親は車道に飛び出し、愛日の後ろで座り込んでしまっていた少女に駆け寄った。


愛日は少し驚いたのか、一瞬足を止めて二人の方を振り返った。



父親が少女に抱きつく、


その時、何かの音が、静まり返った現場に響いた。




「パチパチパチ」




それは拍手の音。


向こうの歩道に居た一人の老人が、拍手をした音だった。


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