第十六話 夜空に咲く炎の華
前回のあらすじ
祭りを楽しんでいた愛日と源。
そしていよいよ源には覚悟の時が迫る...!
2017年 7月 隅田川
「あれ?愛日、泣いてる?」
俺が見上げた先で、愛日と目が合った。
その彼女の眼はなんだか潤んでいるように見えた。
花火の光でそう見えただけかもしれないが。
愛日は、俺に指摘されるとなんだか恥ずかしそうにプイっとそっぽを向いてしまう。
「な、泣いてないわよっ。そんなことより花火見なさいよね!!」
愛日は目を見られないように夜空を見上げて声を張った。
俺もハンカチをポケットに入れて夜空を見上げる。
周りにはぎゅうぎゅうに人が集まり、あらゆるところから「玉屋~!」「鍵屋~!」と叫ぶ声が聞こえる。
上空には俺達を照らす照明のように、絶え間なく花火が咲き誇っていて、とても幻想的な風景を作り出してくれていた。
俺は何度も花火を見ようと夜空を見上げるが、結局、花火を数発見たら別の場所に視線を向けてしまう。
そう、愛日の横顔に。
彼女の花火に照らされた横顔はとても繊細で、綺麗で、思わず見惚れてしまうのだ。
愛日の少し茶色がかった瞳に映る花火は、実際に見る花火よりよっぽど鮮やかに光を写している。
ふと、愛日が俺の視線に気づき、こちらを見る。
「.....なによ?私じゃなくて上見なさいよ。」
彼女は怪訝そうな顔で短く呟いた。
「だ、だよな」
俺はずっと愛日の方を見ていたのがバレたのかと思い、慌てて上を向きなおす。
けれど、やっぱり愛日のことが気になって、横目で彼女を追ってしまう。
彼女の白い頬が、うっすら赤みがかっているように見えたのは、きっと花火のせいだろう。
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「黒江君達、どこいっちゃたんだろうね。」
「優人一人じゃ心もとないけど、馬酔木さんがついてるから大丈夫だろ。」
俺たちは先ほどの、超混雑していた道から抜け出して、すこし花火から離れた道を歩いていた。
それでも、俺たちの背後では花火が顔を覗かせ続けている。
「一旦ここら辺で止まらない?変に動きすぎてもっと遠ざかってもアレだしさ。」
愛日が近くのガードレールに軽く腰かけて提案する。
俺も彼女の意見に賛成し、愛日のすぐ横に腰をかけた。
ドーーーンッ!!!
バァーーーーンッ!!!
ドーーーンッ!!!
打ち上げ場所からそこそこ離れたこの場所でも、充分五月蠅いほどに花火の音と光は届いている。
そのせいかこの道にも見物人は大勢いる。
カップルや、家族連れ、カップル、そして友達ときたっぽい人、カップル、カップル....
......カップルが多いな。
でも、俺と愛日も周りから見たらカップルなのでは.....!?
....いかんいかん。
変なこと考えんな俺。
しかし、優人は何をしているんだ。
Wデートとか言っておいて早々に離れ離れになってしまった。
そのせいで俺はほとんど愛日と二人っきりで行動することになってしまったんだぞ?
.....いや、それは良い事なのだが.....。
愛日の様子を横目でチラリと伺うと、彼女は奥の花火をぼーっと眺めていた。
愛日のその姿に俺が見惚れていると、心の中のリトル山根源が声を上げた。
(おい、山根源よ。今なのではないか?告白をするのなら、今なのではないか....!?こんな二人っきりな状況、そうないぞ!!)
ううむ....。
確かにその通りだ。
せっかく二人きりなのだし、チャレンジするのなら今なのでは....!?
なんて考えていると、もう一つの声が頭の中に響く。
(いや、山根源、落ち着け!こんな場所で告白なんかして振られたらどうする...!?俺はもう生きていけないぞ!!)
確かに、今告って振られでもしたら、帰り道が気まずい所の騒ぎではなくなる....!
俺は心の中の「オトコ山根」と「チキン山根」に両腕を引っ張られ、グルグルと目が回りそうだ。
(くぁ~!!どうすればいいんだ!!告白するにしても、一体なんて言えば...!何かロマンチックな台詞は無いのか....!?例えば、「月が綺麗ですね」....って花火大会で言うセリフじゃねぇだろ!考えろ考えろ~!!)
今の俺に、花火なんかを見ている余裕がなかった。
しかし、そんな俺の横で花火を眺めていた愛日が、静かに口を開いた。
「ねぇ、源。楓の栞、覚えてるでしょ?」
その愛日の言葉で俺は思考の迷路から解放され、我に返る。
楓の栞.......
あれは愛日と出会ってすぐの時、愛日の家で遊んだ時に見つけた栞だ。
たしか楓の葉が押し花として入っていて、光に透かして見ると赤茶色に光っていて綺麗だったんだよな。
それと、この間愛日に小説を借りた時、一緒についてきたっけ。
「うん、覚えてるよ。今俺が貸してもらってるよね?返した方が....」
「ううん、そうじゃなくて。」
返してほしいのかと思ったが、どうやら愛日はそういうつもりで言ってきた訳では無いらしい。
俺の言葉を遮った愛日はそのまま続ける。
「楓の花言葉、知ってる?」
数年前、同じようなことを言われた気がする。
「知らないよ?っていうか、昔愛日が勿体ぶって教えてくれなかったんだろ?」
愛日は、「そうだったっけ」なんて言いながら、可愛らしくこちらを振り返った。
彼女の背後の夜空には、色とりどりの花火が咲いては散っている。
「じゃあ今回は教えてあげよっかな~。」
今回も愛日は勿体ぶっているが、なんだかんだ教えてくれるようだ。
その紅をさした口が、ゆっくりと開く。
「楓の花言葉はね、『大切な思い出』。」
....大切な思い出、か。
俺の頭の中に今まで愛日と過ごした日々が蘇る。
「今日もきっと、私にとっては一生忘れられない『大切な思い出』になるんだろうな。」
ふと、愛日は夜空を見上げて呟いた。
俺も今日は、
....いや、愛日といた日々は全部、一生忘れない『大切な思い出』だ。
けど、今日をこのまま終えてしまっていいのか?俺。
愛日に自分の気持ちを伝えなかったら、この先ずっと後悔する気がする。
(言うんだ。山根源.....!!ロマンチックな台詞は知らないけれど、この気持ちを、ありのままに.....!)
俺は花火を眺めている愛日の方に向き直る。
「愛日.....」
「ん、どうしたの?そんな改まって。」
愛日の背後を、一つの火の玉が駆け上がっていくのが見えた。
それはヒュ~っと音を立てて天へと突き進む。
涼し気な風が愛日の髪を靡かせ、俺の傍を通り過ぎた。
周りではたくさんの人間が顔を上げ、今か今かと夜空を染め上げる火花を待っている。
その一瞬の静寂が、俺と愛日を包み込んだ。
「好きです。」
火の玉は、上空で盛大な冠菊を作り、轟音を町中に響かせる。
....けれどその轟音は、ドラマみたいに俺の声をかき消したりしてくれなかった。
周囲の人間が一斉に「たまや!」「かぎや!」と叫んだ。
俺は花火に顔を照らされ、目を細める。
愛日の顔は、背後に上がった花火の逆光で見ることができなかった。
花火の光が徐々に夜空の暗闇に溶けだし、愛日の顔が見える。
愛日は、
今にも泣き出しそうであった。
俺にはその表情の真意が分からず、狼狽えかけてしまう。
そんな俺に、愛日が涙を流しながら笑いかけた。
「私も、好きです.....!!」
俺はきっと、この景色を一生忘れることができないのだろう。
愛日のその奇麗な涙は、夜空に咲く花火に照らされてキラキラと光っていた。
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とある物陰にて.....
「よし!やったな!源!!」
「愛日もよかった~!」
電柱の裏から源と愛日を見守る人影が二つ。
「いや~!成功してよかった!これも俺と真紀ちゃんのおかげじゃないか~!?」
「優人君、はしゃぎすぎ!見つかっちゃうって!」
「たしかに、あのムードの二人を邪魔しちゃいかんな。......じゃあ、俺たちは俺達で楽しもうよ、ま~きちゃん!ちゅ~~!」
「ちょっと優人君!こんな所でやめてよ~っ、も~」
花火はこの世界を照らすように咲き続けていた。
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